M&Aコラム

M&A COLUMNLISTM&Aコラム一覧

21-26件を表示(26件)

21-26件を表示(26件)

事業承継円滑化法とは?概要や施行されるに至った経緯
事業承継円滑化法とは?概要や施行されるに至った経緯

はじめに

 日本では中小企業の経営者の高齢化が問題となっており、会社の事業承継がスムーズに進んでないことが課題となっています。中小企業の事業承継をスムーズに進めるべく、日本政府は法律の整備を進めてきており、2008年に経営承継円滑化法が施行され、その後改正が進められたことで、会社の事業承継を行うための環境が整いつつあります。

 この記事では、事業承継円滑化法について詳しく説明するとともに、中心的な制度である事業承継税制についてわかりやすく解説していきます。

経営承継円滑化法(事業承継を円滑にするための法律)の概要

ここでは事業承継円滑化法が施行されるに至った経緯について、詳しく説明していきます。

問題の所在

中小企業の事業の承継はなかなか進まない理由としては以下があげられます。

  1. 贈与税及び相続税の負担
  2. 事業承継時の資金調達難
  3. 民法上の遺留分による制約(民法上の遺留分とは、被相続人が有していた財産の一定割合について、最低限の取り分として、一定の法定相続人に保障する制度のこと)

これらの課題から、事業を承継できなかった会社は事業を廃業するしか道が残されていなかったのです。事業を承継できなければ、そこで働く従業員の雇用が失われ、会社に蓄積されていたノウハウも失われてしまいます。日本社会において、中小企業の廃業がもたらす悪影響は甚大なのです。

経営承継円滑化法の内容

 そこで、中小企業における経営の承継の円滑化を図り、中小企業の事業活動の継続に資することを目的として、2008年10月1日に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(中小企業経営承継円滑化法)」が施行され、上記の課題に対応するかたちで、①事業承継税制、②金融支援、③遺留分に関する民法特例という3つの制度が設けられました。

3制度

 これら3つの制度が生まれたことで、①事業承継時の贈与税及び相続税の負担が軽減され(事業承継税制)、②経営者の死亡及び退任に伴い必要となる資金や他の事業者から経営を引き継ぐための買収資金の調達支援を受けることができるようになり(金融支援)、③後継者を含めた先代経営者の推定相続人全員の合意の上で、先代経営者から後継者に贈与等された自社株式・事業用資産の価額について、(1)遺留分を算定するための財産の価額から除外(除外合意)、又は(2)遺留分を算定するための財産の価額に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)をすることができるようになりました(民法上の遺留分に関する特例措置)。

端的に言えば、事業の承継がしやすくなったのです。

経営承継円滑化法の改正

 2017年には、この制度の一部変更され、経済産業大臣が行っていた認定((1)中小企業者の事業承継税制及び金融支援に係る認定、(2)経営の承継に関する指導及び助言)は、中小企業者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事が行うこととなっています。さらに、2018年の税制改正において、事業承継時の贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制が大きく改正され、10年間限定の特例措置が設けられるなど、事業を承継しやすい環境整備が大幅に進められています。

事業承継税制の概要

 経営承継円滑化法は、①事業承継税制、②金融支援、③遺留分に関する民法特例という3つの制度によって構成されていますが、その中でも最も重要な制度が「事業承継税制」です。事業承継税制は、経営承継円滑化法の骨子であり、金融支援、遺留分に関する民法特例はそれに付随した制度になります。そのため本コラムでは、事業承継税制について解説していきます。

事業承継税制の内容

 事業承継税制は、経営承継円滑化法に基づく認定のもと、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度のことを言います。この事業承継税制には、会社の株式等を対象とする「法人版事業承継税制」と、個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版事業承継税制」があり、どちらかを選択して適用の申請を行う必要があります。事業承継税制の具体的な内容は次のとおりです。

(1)法人版事業承継税制: ⾮上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度

 中⼩企業の事業の継続を通じた雇⽤の確保や地域経済の活⼒維持を図る観点から、後継者が、都道府県知事の認定を受けた⾮上場中⼩企業の株式等を先代経営者から相続等⼜は贈与により取得した場合において、⼀定の要件を満たすときは、相続税・贈与税の納税が猶予及び免除されます。

(2)個人版事業承継税制: 個⼈の事業⽤資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度

 個⼈事業者の円滑な世代交代を通じた事業の持続的な発展の確保や地域経済の活⼒維持を図る観点から、後継者が都道府県知事の認定を受け、先代事業者から相続等⼜は贈与により事業⽤資産を取得した場合において、⼀定の要件を満たすときは、相続税・贈与税の納税が猶予及び免除されます。

事業承継税制の改正

 事業承継税制は2018年に大幅に変更され、より使いやすい制度へと生まれ変わっています。改正点は大きく分けると2つあります。

 まず1つ目は自社株を承継する際に「贈与税と相続税が一切かからない」仕組みに改正されたということです。改正前の事業承継税制では、納税猶予の対象となる株式(発行済議決権株式総数)の上限が全体の3分の2で、しかも、相続の場合の猶予割合は80%でした。そのため、発行済議決権株式総数の3分の2×80%=53%の自社株については猶予を受けることができるものの、残りの47%については贈与税と相続税の納税が必要だったのです。今回の改正によって、上限と猶予割合の制限が全廃されて、自社株承継時の納税割合がゼロとなりました。

 2つの改正点は雇用確保要件の実質撤廃です。従来の制度では、生前贈与以降の5年間平均で当初の80%の雇用者数の維持が義務づけられています。この制限を守らなければ、贈与税と相続税について全額納付しなければなりません。(事業承継税制の適用を受けられません)。しかし、今回の改正によって、この雇用確保要件は実質撤廃されました。

 ここで、実質と言っているのは、雇用者確保の割合である80%を下回った場合でも、その理由を記載した書類を都道府県に提出すれば、猶予税額を支払わなくても良いとされています。この書類には、事業承継税制の認定支援機関である「認定経営革新等支援機関」の意見が記載されなければなりません。認定経営革新等支援機関による意見があれば、雇用者確保の割合である80%を下回った場合でも事業承継税制の適用を受けられます。

事業承継税制についてのメリット・デメリットはこちらで詳しく解説しています。

おわりに

 長年課題であった中小企業の事業承継問題は、解決のための環境が整えられつつあります。近年の法改正によって、経営承継円滑化法にもとづく3つの制度はより活用しやすいものとなりました。これらの制度を活用すれば、贈与税や相続税の猶予・免除を受けられるようになったり、補助金を受けとれるようになったりします。事業の承継を考えている中小企業の経営者は経営承継円滑化法に基づくこれらの制度を上手に活用して事業承継に役立てましょう。

M&Aの基礎知識
2022/07/30
「合併(Mergers) 」・「買収(Acquisitions)」の違い【M&A解説】
「合併(Mergers) 」・「買収(Acquisitions)」の違い【M&A解説】

企業は成長を目指して様々な経済活動を行います。成長のための一つの方法としてM&A(Mergers and Acquisitions)があります。企業はM&Aを通じて事業の拡大を目指します。一口にM&Aと言っても、M&Aには様々な手法が存在しています。その手法の代表的なものが「合併」と「買収」です。この記事では、「合併」・「買収」の区別について詳しく解説していきます。

M&Aの定義

 M&Aとは、企業の合併・買収や資本提携、事業の譲渡などを総称する言葉です。M&Aは、経営権の移動が伴う (または影響を与える) 経済取引のことを意味するので、商品を販売するなどの経済取引とは異なります。昨今M&Aという言葉は、様々な文脈で用いられる言葉となっています。今回は合併と買収について区別して説明しますが、どちらもM&Aと呼ばれます。

M&A

「合併(Mergers)」とは

 合併とは、法律的に言うと、2つの会社を統合して、新しい所有権と経営体制を持つ新しい会社を作る取引のことを言います。一般的に、合併は経営コストの削減、新市場への進出、収入と利益の増加を目的として行われるものです。企業合併は、買収する企業に市場シェアを拡大する機会を与える可能性があります。また、事業の多様化は、企業が他の事業を買収・合併する際に有利に働くこともあります。事業が多角化することにより、企業の収益性に対する特定業界の影響を軽減できる可能性があるからです。

 合併は、当事会社の合併契約書に基づいて行われるものです。そのため、経営者同士でまず話し合いが行われ、お互いの経済的利益に基づいてなされるのが普通です。合併には、当事者である一つの会社が存続し、他の解散する会社を吸収する「吸収合併」と、当事会社の全部が解散し、それと同時に新たな会社を設立してそのなかに入り込む「新設合併」とがあります。

 新設合併は、全ての合併当事会社が消滅会社として清算手続きを経ずして解散し、新会社を設立し、合併当事会社の権利義務等の法律関係を包括的に新設会社に承継させる合併形態をいいます。実際には、吸収合併が圧倒的に多く新設合併が行われる例は極めて稀です。新設合併では既得の許認可等が白紙に戻り営業に必要な許認可等は新たに取得する必要があり、また上場会社の場合には新たな上場手続きが必要になるなど、手続きが煩雑になるからであると考えられています。

また、合併は、市場の独占という経済目的をもってされることがあるので、独占禁止法によって合併制限が設けられています。なお、合併手続きが終了した際には存続会社は変更登記を、消滅会社は消滅登記を、新設会社は設立登記をすることが必要です。

「買収(Acquisitions)」とは

 買収とは、一方の会社が他方の会社を取得することを言います。テイクオーバー(takeover)と呼ばれることもあり、一般に合併よりもネガティブな意味合いを持つ場合があります。

 買収には、敵対的買収と友好的買収の2種類があります。敵対的買収とは、一方の会社が他方の会社の承諾なしに買い取ることで、通常、買収する側の会社は買収される側の会社を支配するため、その株式の過半数を購入します。買収する側の会社と買収される側の会社の双方が買収条件に合意している場合は、友好的買収と呼ばれます。

 買収は、ある企業が他の企業を支配する目的で議決権の概ね過半数以上を確保できるだけの株式を買い取ることで成立します。したがって、被買収企業との買収企業との直接の契約は必要ありません。他の企業の発行済議決権付株式の過半数を取得すれば、他の企業の意思に関わらず、会社の最高意思決定機関である株主総会で議決権を行使できるようになり、それによって会社経営に影響を与えられるようになるのです。買収には多額の現金が必要となりますが、買収側は株主総会で自分の意見を通すことができるようになりますので影響力は少なからぬものがあります。

 買収によって、たとえば、取引先を買収することで規模の経済を向上させる(生産量が増えるほど単位当たりのコストが下がる)ことができます。また、市場シェアを拡大や、コストを削減、新たな製品ラインを拡大などの目的で、他の企業を買収するケースもあります。企業が買収を行うのは、対象企業の技術を手に入れるためであり、買収によって何年もかかる設備投資コストや研究開発コストを削減することが可能です。

M&Aにおける合併・買収の違い

 M&Aには様々な手法が存在しており、その代表的な手法が合併と買収です。合併とは、ある企業とある企業が共同して一つの会社を成立させる行為です。合併には合併契約を結ぶことが必要となるので、当該企業同士の同意が必要となります。一方で、買収とはある企業の経営権を株式取得することで取得する行為です。買収は株式を取得すれば成立するので、当該企業同士の契約も合意も必要ありません。こうしたことから、合併は主にポジティブな行為として考えられ、買収はネガティブな行為と考えられがちです。しかし、どちらもM&Aの手法として企業の成長を目的として行われる行為であることに違いはありません。

M&Aの基礎知識
2022/07/30
後継ぎとM&Aとの親和性は 踏み切る際のメリットやリスクを解説 | ツギノジダイ
後継ぎとM&Aとの親和性は 踏み切る際のメリットやリスクを解説

 事業承継にめどをつけた後継ぎ経営者の中には、M&Aによる事業ドメイン拡大を考える方もいるでしょう。M&Aのコンサルティングを手がける専門家が、中小企業のM&Aの基礎知識や市場の傾向、後継ぎ経営者とM&Aとの親和性、踏み切る際のメリットや…

M&Aニュース
2022/03/01
民泊のM&A動向~住宅宿泊事業法成立からコロナ禍へ~
民泊のM&A動向~住宅宿泊事業法成立からコロナ禍へ~

はじめに

 国内の民泊事業者は好調なインバウンド需要に支えられ、増加傾向にありました。一時、2万件を超えた民泊事業を営む事業者の届出住宅数は、コロナ禍で大幅な減少に転じています。コロナ禍以前は、観光客の増加に伴う宿泊需要の高まりを受け、空き家や空き物件の有効活用を目的にした、中小の不動産事業者による新規参入が相次いでいたものの、近年では、逆に、民泊事業から撤退するような状況となっているのです。

 このコラムでは、民泊事業を展開する事業者がなぜM&A進めているのか、その理由を解説するとともに、最近のM&Aの動向について解説をしていきます。

民泊事業者がM&Aを希望する背景

 2017年6月9日、「民泊」という営業形態の宿泊提供に関する法律「住宅宿泊事業法」が成立しました。従来、宿泊営業の実施に当たっては、原則、旅館業法に基づく許可が必要であったものの、「住宅宿泊事業法」が成立したことで、住宅宿泊事業法第3条第1項の届出をしていれば、旅館業法第3条第1項の規定にかかわらず、住宅宿泊事業を営むことができるようになりました。その結果、民泊事業を展開する事業者は増加しています(下図)

住宅宿泊事業届出住宅数等推移

出所:観光庁

 しかしながら、民泊の届出住宅数は2020年4月10日の2万1385件をピークに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大と緊急事態宣言の影響で減少に転じています。

実例として、2021年2月5日までに民泊事業を営んでいた株式会社TAKE(札幌市)が事業を停止し、自己破産申請を行いました。株式会社TAKEは、2011年の設立で、主に不動産オーナーの物件を対象として民泊の運用・運営・管理サービスや宿泊コンサルティング業務、内装工事などを手掛けていました。

 このように、インバウンド需要などを見込んだ、「住宅宿泊事業法」の成立を機に、民泊事業へと多くの企業が参入してきたものの、COVID-19によって事業環境が激変し、事業者が、民泊関連事業から撤退を余儀なくされるほどのダメージを受けています。民泊事業を展開する企業はまだまだ資本力も弱く、事業規模も大きいとは言えないところも少なくありません。収益が見込めなくなり、財政的に厳しくなった民泊事業者が、事業を売りに出しています。

 信用調査会社の東京商工リサーチによると、2020年5月時点のCOVID-19に関連した全国の経営破綻139社のうち、宿泊業は30社と業種別で最多となっています。厳しい状況に置かれていることがわかるでしょう。その結果、ホテル・旅館業界に直接関わりを持たなかった大手企業や不動産企業などが、COVID-19収束後の需要回復をにらみ、買収を活発化させる動きも出始めています。自社の持つ資産の新たな活用の一つとして新たに参入するケースが増えており、もともとの事業者が資本力のある企業との資本関係を結ぶなど、業界再編の動きが加速しています。

民泊事業者のM&A

業界再編の動きに対応して、民泊事業者のM&Aの件数も増加傾向にあります。近年では、特に、事業承継支援を行うプラットフォームを活用したM&Aが行われています。事業承継支援を行うプラットフォームでは、事業を売りたい会社と事業を買いたい会社のマッチングサービスが行われています。プラットフォームには、全国各地の民泊事業や施設の買い手を募る情報が掲載されています。

「住宅宿泊事業許可済」「JR〇〇駅7分」「特価販売」「365日可能」といったキーワードで売却希望案件が多数出されており、一つの物件当たりの売却希望価格は0〜250万円程度と立地やそのほかの条件などによって大きく揺れがあるものの、オンライン上で日本全国の民泊ホテル事業の情報交換が行われています。

 民泊のM&Aは、基本的に、経営権の譲り受けとなるので、一から開業するよりも民泊事業を安価でスタートすることが可能です。宿泊事業全体が低調となる中で、民泊事業をすぐに軌道に乗せることは難しいものの、しばらく耐え忍ぶことができるだけの資本力があれば、経営権を平常時より安く入手できるので、コロナ終息後に大きな収益を獲得できる可能性があります。

おわりに

 従来から民泊・ゲストハウス事業を営んできた事業者は現在厳しい状況に置かれています。観光客の激減などで事業撤退が進んでおり、民泊施設の賃貸住宅への切り替えも始まっています。その一方で、COVID-19収束後を見込んで、値下がりした民泊物件を買い上げる動きも出始めています。

業種別M&A動向・事例
2022/07/30