M&Aコラム

M&A COLUMNLISTM&Aコラム一覧

1-9件を表示(9件)

1-9件を表示(9件)

M&Aにおける優先交渉権とは メリット・デメリットも解説
NEW M&Aにおける優先交渉権とは メリット・デメリットも解説

はじめに

M&A取引は、買い手と売り手の交渉によって成立します。売り手にとっては、できるだけ高い取引価格をつけてくれる買い手に会社や事業を売却することを検討するでしょう。反対にで、買い手にとっては、できるだけ安い取引価格で会社や事業を取得することを検討します。このように、M&A取引は買い手と売り手の交渉によって成立するため、この交渉を行うタイミングが非常に重要な意味を持ちます。

一般に、M&Aにおいて、売り手側が会社や事業を売却しようとすると、複数の買い手が見つかることになります。しかし、それぞれの買い手と交渉に臨んでも、多くの時間がかかり、会社や事業の売却が難しくなるケースがあります。そこで、売り手側は、会社や事業の売却をM&A市場に委ねる前に、あらかじめ特定の買い手に対して優先的にM&A取引に関する情報を提供し、優先的にM&A交渉を行う権利を行うケースがあります。その際に利用されるのが、優先交渉権を付与した契約です。あらかじめ特定の買い手候補となる企業に優先交渉権を付与することで、効率的にM&Aの取引交渉に臨めるようになります。

優先交渉権とは

優先交渉権(Right of First Refusal)とは、第一拒否権、有線拒否権とも呼ばれ、誰よりも早く個人または企業と交渉を行うことができる契約上の権利のことです。M&Aにおいては、売り手と優先的に交渉できる権利のことを意味します。この権利を持つ当事者が取引の締結を辞退した場合、売り手側は、他の買い手候補から自由にオファーを受けることができます。売り手側が買い手側に優先交渉権を与えることで、売り手が売却を考えたときに、買い手に会社や事業について取引の機会があるという確証を与えることができるのです。

M&A取引において、買い手が関心のある会社や事業があっても、現在、売却に出されていないケースでは、売り手が買い手候補に優先交渉権を付与することで、売り手がその会社や事業を売りに出すことを決定した場合、その会社や事業を購入する最初の権利を持つことができるようになります。この契約では、売り手は買い手候補に連絡し、その会社や事業に対する別の申し出を受け入れる前に、M&A取引を行う機会を与えなければなりません。

優先交渉権のメリットとデメリット

M&Aにおける優先交渉権は、買い手側に以下のようなメリットをもたらします。

(1)競争相手がいなくなる

売り手が会社や事業をM&A市場に出したとしても、最初の契約条件に基づき、その会社や事業の取引に関して、優先交渉権を有する買い手が許可するよりも前に、他のオファーを受け入れることはできません。そのため、入札合戦の不安を抱えることなく、本当に価値のある会社・事業を手に入れることができる可能性があります。

(2)価格は事前に交渉されることが多い

契約書に価格条件が含まれていることが多いため、M&A市場に出た場合の価格よりも安い価格で物件を手に入れることができる可能性があります。これは、M&Aの取引価格が市場において着実に上昇している場合に特に有効に機能します。

(3)買収対象を選定する時間を節約できる

買い手にとっては、優先交渉権を契約で締結することで、取引価格を固定しつつ、売り手側との信用力を高めながら、購入に必要な資金を貯める時間ができるため、売り手が売却する準備ができたときに、すぐに購入できるようになります。

他方で、M&Aにおける優先交渉権は、買い手側に以下のようなデメリットをもたらします。

(1)限られた取引期間

一般に、優先交渉権には期限が設定されています。したがって、売り手が会社や事業を売りに出すことを決めたら、買い手候補は迅速に決断し、取引を行うかどうかを選択しなければなりません。基本的には、数日以内に売買契約を締結できるよう準備する必要があります。

(2)取引価格の硬直化

これは買い手と売り手の双方にとって長所でもあり、短所でもあります。本来、M&A取引の対象となる会社や事業の価格が下がっている場合、当初の契約条件に基づいて取引を行うことは、過払いになる可能性があります。しかし、だからといって、会社や事業をM&A市場に出してしまえば、手に入らない可能性があるというリスクを負うことになります。

売り手には、優先交渉権に関して特有のメリットとデメリットがあり、それを考慮しながらM&A取引に臨まなければなりません。ここからは、売り手のメリットとデメリットを説明していきましょう。

(1)リスティングが不要になる

優先交渉権を契約で締結すれば、会社や事業の詳細を仲介企業などに掲載することなく売却できる可能性があり、コストを大幅に抑えることができます。

(2)市場における取引価格以上の売却益を得られる可能性がある

買い手が競争の可能性なしにM&A取引を望んでいる場合、市場における取引価格以上の価値で会社や事業を売却できるかもしれません。

買い手にとっての欠点があるように、売り手にとっても欠点があります。

(1)市場を限定してしまう

一般的に、より多くの買い手が参加すればするほど、売り手はより高い価格を得ることができる。最初の選択肢を特定の買い手に与えることによって、あなたは意図せずに取引価格を下げている可能性があります。

(2)固定された契約価格は損かもしれない

契約時に特定の取引価格を設定し、それがその会社や事業の現在の市場価値よりも低くなってしまう場合、損失を被る可能性があります。

(3)融資の問題を引き起こす可能性がある

現在、会社や事業の売却を考えていなくても、一部の事業の継続を考えている場合、優先交渉権が問題となる可能性があります。会社や事業が融資の担保となるため、銀行や投資家は、一般的に優先交渉権を付与する場合、融資を受けることを禁止しています。

おわりに

優先交渉権は、売り手側が買い手側に優先的に交渉できる権利を与えるものです。M&A市場に会社や事業の情報を出せば、買い手は複数見つかるかもしれません。しかし、買い手候補が多くなりすぎれば、誰に売るのが良いかわからなくなってしまうでしょう。したがって、M&A市場に会社や事業の情報を出す前に、買い手候補にあらかじめ優先交渉権を付与することで、効率的に取引を成立させることを望むのです。しかし、優先交渉権を与えてしまえば、本来M&A市場においてもっと高値で取引されることがあった場合でも、優先交渉権を付与した買い手に買い叩かれてしまう可能性があることも理解しておく必要があります。優先交渉権を買い手候補に与えることは、諸刃の剣であることをきちんと理解しておきましょう。

M&A専門家をさがす

M&Aの基礎知識
2022/06/29
不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介
NEW 不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介

不動産業とは、大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分類され、不動産の売買、交換、賃貸、管理または不動産の売買、賃借、交換の代理もしくは仲介を行う事業を営むことを言います。近年、不動産業界では業界の再編が進んでおり、その手段としてM&A(Mergers & Acquisitions)が盛んに利用されています。今回は、そんな不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。

不動産業を営む企業のM&A動向

不動産業は、全産業の売上高の 3.3%、法人数の 12.4%(令和2年度)を占める重要な産業の1つです。不動産業に関わる業務内容は幅広く、事業者の規模も大手総合不動産会社から個人経営の中小事業者まで多岐にわたることが特徴となっています。

近年では、不動産専業の事業者だけでなく、異業種でも一部不動産業を営む事業者や新興企業の参入も多くM&Aの買収ニーズもある業界です。不動産業は、不動産という高額な商品を取り扱うという業界特性を持つことから、景気動向に左右される業界となります。景気が良ければ、戸建てやマンションの売れ行きも好調となり、各社の業績も良くなりますが、景気が悪くなれば、不動産が売れずに不調に陥る場合もあります。

今後の日本は、高齢化社会を迎えるということもあり、人口減少も予想されるなかで、不動産業はその対応を迫られることになるでしょう。その結果、多くの中小企業者同士のM&Aが進んだり、他業界からの新規参入も相次いでいます。商用施設の建設については、新型コロナウイルスの世界的な流行がおさまってきたこともあって、今後、一定の需要が見込まれるものの、戸建てやマンションといった居住施設については、人口減少によって需要が減少することが予想されるため、現在から業界の再編が進んでいます。

不動産業を営む企業のM&A事例

ここからは、最近の不動産業に関するM&A事例を紹介していきましょう。

(1)日本リビング保証による三春情報センターへのM&A事例

2022年6月、住宅のトータルメンテナンス事業、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を手掛けている日本リビング保証は、完全子会社であった横浜ハウス(売上高1億1900万円、営業利益△555万円、純資産△909万円)の全株式を、不動産売買や賃貸の仲介などを手がける三春情報センター(横浜市)に譲渡しました。横浜ハウスは、戸建住宅・マンション・店舗等の全リフォーム工事の請負などを行っている企業です。

もともと、日本リビング保証は2020年7月に横浜ハウスを子会社化していたものの、シナジー効果を十分に得られないと判断し、譲渡に至っています。

(2)ビーロットによる東観不動産のM&A事例

2022年5月、国内外の富裕層・投資家を顧客とした資産運用サービスを手掛ける総合不動産会社であるビーロットは、不動産賃貸業を営む東観不動産(東京都千代田区。売上高1億3100万円、営業利益500万円、純資産8億300万円)の全株式を取得して子会社化しました。

ビーロットは、不動産を保有する企業のM&Aに積極的に取り組んでおり、今回の東観不動産の買収を通じて、不動産管理のノウハウを取得するとともに、保有する不動産のさらなるバリューアップを図るとしています。

(3)キムラタンによる和泉商事のM&A事例

2022年4月、1925 年の創業以来、ベビー・子供アパレル事業を主な事業内容とし、一貫して自社オリジナル企画・デザインによる製品を提供してきたキムラタンは、不動産賃貸業を営む和泉商事(売上高11億3000万円、営業利益2億4900万円、純資産9億4800万円)の全株式を取得し子会社化しました。

キムラタンは、「2021年2月に事業を開始した不動産事業を第2の柱事業として拡大を図ることを目指し、全国に約70の収益物件を所有し、安定収益を計上している和泉商事の全株式を取得することを決定した」と公表しています。

このM&Aによって、キムラタンは、赤字となっているベビー・子供アパレル事業を大幅に縮小し、不動産賃貸業を主事業へと切り替えていくとしています。

(4)日本エスコンによるピカソと優木産業のM&A事例

2021年8月、関西、首都圏を中心に全国で不動産の総合開発事業を展開する日本エスコンは、関西で不動産賃貸事業を展開するピカソ(大阪市。売上高60億7000万円、営業利益18億7000万円、純資産43億9000万円)、優木産業(大阪市。売上高31億円、営業利益7億1300万円、純資産15億9000万円)の2社の全株式を取得し子会社化しました。

ピカソと優木産業の子会社化は、「賃貸事業を強化するとともに安定収益を確保し、収益構造の転換を一気に推進するものである」と公表しています。

このM&Aによって、日本エスコンは、関西圏における不動産賃貸事業の安定収益を確保していくとしています。

(5)三越伊勢丹ホールディングスによるThe Blackstone Group Inc.へのM&A事例

2020年11月、三越伊勢丹ホールディングスの完全子会社である三越伊勢丹が保有する連結子会社の三越伊勢丹不動産の全株式をThe Blackstone Group Inc.とその関連会社が運用または投資アドバイザーを務める特定のファンドが設立した法人であるエチゴ合同会社に譲渡しました。

三越伊勢丹不動産は、自社で所有する物件の賃貸営業やマンションの分譲を中心に事業を展開する一方で、不動産オーナーが所有する物件のサブリース事業・賃貸管理事業、管理組合事業にも取り組んできた企業です。

このM&Aによって、三越伊勢丹ホールディングスは株式の売却益を得ることとなった。三越伊勢丹ホールディングスの主事業である百貨店事業が不況にあえぐなか、今回の株式売却を通じて赤字を補填して、今後は主事業の強化に取り組むとしています。

おわりに

景気動向に左右されやすい不動産業界は、安定収益をもたらす物件を取得するために、盛んにM&Aが行われている業界です。不動産管理には、不動産管理特有のノウハウが必要となるということもあり、異業種からの参入のために、不動産業を営む企業の買収も盛んに行われています。

M&Aの基礎知識
2022/06/28
ネットショップ(EC)業界の動向とM&A・資本提携の事例
NEW ネットショップ(EC)業界の動向とM&A・資本提携の事例

ネットショップ(electronic commerce: EC)業界では、近年、M&Aが盛んに行われています。EC市場は世界的に拡大傾向にあるものの、多くの企業が参入したことから競争が激化しており、業界の再編が進んでいる業界です。この記事では、ネットショップ(EC)業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。

ネットショップ(ECサイト)業を営む企業のM&A動向

ネットショップ(ECサイト)市場は世界的に拡大成長を続ける業界です。従来、日本国内においては大手モールでの販売が中心であったものの、近年では、SNS等を活用して自社販路を拡大する企業が多数出現するなど、販売経路も複雑化し、業界の構図は刻々と変化しています。

こうした事情を背景として、D2CブランドやECサイトのM&A事例が国内外ともに多く見られるようになりました。新型コロナウイルスの世界的な流行も重なったことで、オンラインショッピングへの対応の必要性が認識されたことも、この傾向にさらに拍車を掛けました。

ネットショップ業界では、サイトの運営に限界を感じる事業者やさらなる効率化による事業の発展・展開を目指す事業者を買収し、自社が持つ広告戦略ノウハウ、物流の効率化ノウハウ等を活かして事業の急拡大を続ける事業者が生まれるなど、競争も激化しています。

特に、ネットショップ市場においては、ECサイトの構築にとどまらず、ECサイトの運用フェーズにおけるマーケティング支援までを一気通貫で行う、垂直統合型のサービスへのニーズが高まっており、ECサイトの構築からマーケティングまでを総合したソリューションを提供する企業も増えてきています。こうしたソリューションを1から構築することは大変難しいことから、M&Aによってこれを実現しようとしています。

ネットショップ(ECサイト)業を営む企業のM&A事例

以下では、ネットショップ業を営む企業のM&A事例を紹介していきましょう。

(1)Cottaと不二製油の資本業務提携

2022年5月、日本最大の製菓製パンのプラットフォームECサイトである「cotta」を運営する株式会社cottaは、不二製油株式会社との間で資本業務提携契約を締結しました。

cottaは、会員数170万人、月間アクセス数約3,500万PV、SNS総フォロワー100万人を抱える日本最大級の製菓製パン材料のECポータルサイトを運営している企業です。一方、不二製油は創業以来、植物性素材を主原料として植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の事業を展開している企業です。

cottaは今回の資本業務提携によって、次の時代に必要な「健康に配慮した食の提案」「環境に配慮した食の提案」を推進することで、両社の中長期的企業価値の向上を実現するとともに、持続可能な社会の発展に貢献するとしています。具体的には、今後益々加速するデジタル社会において消費者との接点を強め、製品開発に活かし、食の多様な価値観に幅広い選択肢を提供し、新たな需要の創造に挑戦すると公表しています。

(2)イルグルムによるボグブロックのM&A事例

2022年4月、広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」や、EC(電子商取引)オープンプラットフォーム「EC-CUBE」など、マーケティングDX支援サービスを提供する株式会社イルグルムは、ボクブロック株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。

ボグブロックは、EC-CUBEをベースとしたECサイト制作や、ECサイトをメディア化しファンマーケティングを推進するためのクラウドサービス「Media EC FANTAS(ファンタス)」の提供しており、EC-CUBEインテグレートパートナー最上位のプラチナパートナーとして、独自性の高いECサイトの構築から運用支援に至るまで幅広く事業を展開している企業です。

イングルムは、ECサイトの構築から運用支援に至るまで幅広く展開するボクブロックを子会社化することで、ECサイト構築からマーケティング支援までを垂直統合型で提供する新たなソリューションを展開し、事業領域の更なる拡大を目指しています。

(3)ファーストトレードとパラダイムシフトの業務提携

2022年3月、2011年の創業以来、EC事業者向けのシステム・サービスを開発・提供しているファーストトレード株式会社は、IT領域に特化したM&Aアドバイザリー事業ならびに事業開発を手がけてきた株式会社パラダイムシフトと業務提携契約を締結しました。

ファーストトレードは、仕入れ・ロジ・販促まで一貫して支援を受けられるEC事業サポートシステム「CiLEL」を自社開発し、これまでに5,000社以上のEC事業者支援を手がけ、企業間取引のDX支援を進めており、今回の業務提携を通じて、ファーストトレードが支援中のEC事業者に対して、M&Aによるさらなる事業成長の機会と、事業の売却という選択肢を提供するとしています。

(4)ケイティケイによるイコリスのM&A事例

2022年3月、2020年に創業したスタートアップ企業で、アルゴリズム解析・データ分析・デザイン・広告運用等、デジタルマーケティングを活用したEC事業を展開しているケイティケイ株式会社は、サプリメントの開発・販売を行う株式会社イコリスの全株式を取得して子会社化しました。

今回の子会社化を通じて、イコリスが現在展開しているEC事業については、ケイティケイの調達力と信用力を活かして、現状のサプリメントから商品ラインナップを拡充し、さらなる成長を加速していくとしています。また、また、資本提携を機に、ケイティケイ内に専門部署「デジタルマーケティング本部」を設立しました。

(5)メディアドゥによるSupadü LimitedのM&A事例

2022年1月、デジタルコンテンツの流通・配信を手掛ける株式会社メディアドゥは、連結子会社であったNet Galley, LLCの英国現地法人であるNetGalley UK Ltd.を通じて、欧州・北米を中心に出版に係るEコマースソリューションなどを提供するSupadü Limitedの全株式を取得し、子会社化しました。

Supadüは、欧米大手出版社の殆どを含む約250社の顧客を抱え、27の異なる言語と20の国をカバーし、あらゆる規模の出版社へサービスを提供している企業です。Supadüのメタデータ管理プラットフォーム「Supafolio」を利用することで、書誌情報と連携した自社書籍(紙と電子)の直売が可能なwebサイトを容易に安価で構築し、物流機能を利用できます。Supadüは、高度な検索機能やレコメンド機能によるリッチなユーザー体験、流通パートナーとの連携機能など統合的なEコマースソリューションを出版社に提供しています。

メディアドゥは、今回のM&Aを通じて、海外ビジネスの強化並びに国内と欧米の出版業界のDX推進支援を加速させる等、グローバルに出版業界を支援するPublishing Service Platformの構築を目指すとしています。

ネットショップ

EC業界のM&Aの動向と事例

ネットショップ(EC)業界は、業界再編が激化している業界です。これまで、ECサイトを構築する事業者が買収したり、買収されたりしていました。しかし、近年は、ECサイトの構築だけではなく、ECサイトの構築からマーケティングソリューションの提供まで一貫したサービスの提供を目指してM&Aが盛んに行われるようになっています。こうしたソリューションを提供できる事業者が、資本力のある事業者によって買収されているのが最近の業界のトレンドとなっています。単にECサイトを構築できるだけでは生き残れなくなっているのが、ネットショップ業界の現状であると理解しておきましょう。

 

M&A専門家をさがす

M&Aの基礎知識
2022/06/29
タームシート(term sheet)
NEW タームシート(term sheet)

M&A交渉にあたり、期間や金額、各条件を記し簡潔にまとめた条件提示書。売り手・買い手企業双方が、タームシートで契約内容の骨子を合意することにより、契約交渉を効果的に進められるとされています。一般的に契約書の締結前に作成されます。

M&A・事業承継用語
2022/06/22
類似会社比較分析の実践~マルチプルによる企業評価の一種~
NEW 類似会社比較分析の実践~マルチプルによる企業評価の一種~

企業の価値はどのように算定したら良いでしょうか。これはたいへん難しい問題です。企業価値評価には様々な手法がありますが、最もよく利用されているのが類似会社比較分析(法)です。類似会社比較分析は、事業内容や事業規模などが類似している(上場)会社群をベンチマーク会社として選定し、選定された会社群の倍率の平均を求め、その平均値を基礎として評価対象とする会社の価値を推定します。公開情報だけで価値を計算できることから、最も広く実務で利用されているのが、この類似会社比較分析です。この記事では、類似会社比較分析の計算式を紹介するのではなく、その基本的な考え方について詳しく解説していきます。

類似会社比較分析(CCA: Comparable company analysis)

類似企業比較分析(CCA: Comparable company analysis)とは、同業種の同規模の他の企業の評価指標を用いて、企業の価値を評価するプロセスです。企業の価値を評価する際にマルチプル(倍率)を利用するので、類似会社比較分析はマルチプルによる企業評価の一種ということになります。

類似企業比較分析は、類似企業がEV/EBITDAのような類似の評価倍率を持つという前提のもとに行われます。たとえば、EV/EBITDA倍率は、EV(Enterprise Value:事業価値)がEBITDAの何倍とされているかを表わす指標です。

類似企業比較分析は、類似する上場企業等の比率を調べ、それをもとに別の事業の価値を導き出す評価手法です。類似企業比較法は、本質的な評価であるDCF(Discounted Cash Flow)分析とは異なり、相対的な評価形式です。基本的な考え方は、「同じような特性を持つ企業は、他のすべてのものが同じである、同様の倍率で取引されるべき」ということです。

類似会社比較分析は、比較的簡単に実行でき、比較対象企業が株式公開されている場合は、データは通常比較的広く入手可能です。また、DCF法のような他の評価方法は、様々な前提条件に左右されるのに対して、類似会社比較分析は、市場が他社の有価証券に効率的に価格を付けていると仮定すれば、合理的な評価範囲を提供するはずです。

こうした要因から、類似会社比較法は、企業価値表における実務上、最も広く使用されている評価手法の一つとなっています。

比較評価としての類似企業比較分析

類似企業比較分析は、相対評価または倍率を用いた評価とも呼ばれます。最もポピュラーな評価手法で、企業を同業他社と比較し、適切な相対取引倍率に基づいてその価値を示すものです。これは、同業他社が主要な事業および財務上の特性、業績要因、リスクを共有しているという前提に基づいています。したがって、類似会社比較法を利用するアナリストや投資家は、主に市場の状態から現在の価値に基づいて、同業他社の中での企業の相対的な位置を判断し、評価額を決定することになります。

たとえば、不動産市場における不動産の評価について考えてみましょう。そもそも、不動産はそれ自体がキャッシュを生み出す資産なので、本質的な価値を持つことを意味します。しかし、多くの場合、不動産の本当の価格を知るためには、最近売りに出された近隣の類似の不動産とその価格を比較する必要があります。たとえば、最近、向かいの同じような大きさの家が1,000万円で売れたとしたら、今、同じ家が半額(500万円)で買えるとは考えにくいでしょう。

これと同じように、上場企業も多かれ少なかれ推定できる本質的な価値を持っており、そのほとんどは同業他社に十分に類似していると考えます。したがって、相対評価の考え方は、企業にも適用することができるのです。

相対評価は、類似資産の価値に基づいているため、同業他社、たとえば、同じ業界/セクター内の企業や類似のビジネスモデルを持つ企業との相対的な評価が必要となります。一般的に、同業他社とは、同一または密接に関連する産業/セクターで事業を行う企業、同じサイズ、品質、さらには成長属性を持つ企業など、直接の競合相手とみなされる企業のことをいいます。最終的には、特定の企業やその業界/セクターに関する知識に基づいて、適切な同業他社を選択しなければなりません。相対評価の概念を理解したところで、相対評価による類似会社比較分析をするための一般的なステップを見てみましょう。

類似会社比較分析を実践する

以下では、実践のための簡単なステップを紹介していきます。

(1) 適切な比較対象企業を探す

これは、上場企業の比率分析を行う上で、最初の、そしておそらく最も難しいステップです。 アナリストが最初にすべきことは、評価しようとする企業を調べ、その事業の詳細な説明や産業分類を得ることです。

次に、データベースを使って、同じ業界で事業を展開し、類似した特性を持つ企業を検索します。  一致度が高ければ高いほど、正確に分析することができます。アナリストは、一般に、以下のような基準に基づいてスクリーニングを実行します。

  • 業種分類
  • 地域
  • 規模(売上、資産、従業員)
  • 成長率
  • マージンおよび収益性

(2)財務情報の収集

評価対象企業に最も関連性があると思われる企業のリストが見つかったら、次はその企業の財務情報を収集する番です。必要な情報は、業界や企業のライフサイクルのステージによって大きく異なります。 成熟した企業であれば、代表的な収益性の指標を見ることになるでしょう。創業間もない段階の企業であれば、売上総利益や収益を見ることもあるでしょう。高価な財務分析ツールを利用できない場合は、年次報告書や四半期報告書から手動でこれらの情報を収集することもできますが、より多くの時間を要することになります。

(3)類似比較分析表の作成

分析する企業に関する関連情報をリストアップします。比較対象企業分析における主な情報は以下の通りです。

  • 会社名
  • 株価
  • 時価総額
  • 純有利子負債
  • 企業価値
  • 売上高
  • EBITDA
  • アナリスト予想

類似企業比較分析の注意点

類似企業比較分析を行う場合には以下の点について注意しましょう。

  • 関連する同業他社を確認する。
  • 主要な基本的指標を確認する。
  • 評価のための適切な倍率を選択する。

類似企業比較分析では、関連する同業他社を適切に選択することが重要です。なぜなら、ターゲット企業の評価において重要な役割を果たすからです。たとえば、ある企業は、事業の性質上、2つの異なる業界で比較される場合があります(例:インターネット小売企業)。同様に、いくつかの異なる産業グループにまたがる事業を所有しているため、比較対象企業を除外または調整する必要がある場合もあります。従って、同業他社の選定は、やや主観的なものとなりがちです。

類似企業比較分析を行う際、アナリストは、過去のパフォーマンス指標、または将来(予測)のパフォーマンス指標のいずれかを選択することができます。一般的には、未来の指標の方が好ましいものの、これには注意が必要です。たとえば、予測されたEBITDAおよび予測されたEarnings/EPSは予測に関連付けられるあらゆる種類の潜在的な落とし穴によって大きく歪んでいる可能性があります。そのため、企業価値評価の予測数値が大きく外れてしまう可能性があります。

さらに、類似企業比較分析を行う場合、様々な一時的費用や非経常的項目(資産の売却、一時的な訴訟費用、リストラ費用など)に対してパフォーマンスを調整したいと思うかもしれません。分析に使用するすべての企業についてクリーンな数字を使用し、リンゴとリンゴを比較するように努めることが重要です。これは、将来の業績指標を用いる場合、非経常的な項目が未知である可能性があるため、特に困難となるでしょう。

おわりに

類似会社比較分析は、上場していない会社の企業価値を推定するときにも利用できるため、広く実務でも活用されている企業価値評価法です。類似会社比較分析を行う際に特に注意したいことは、同業他社の選定です。比較対象として選択する企業をどこにするかによって、企業価値が大きく変化することになります。類似していない企業を選定してしまうと、間違った企業価値評価が行われてしまいます。したがって、同業他社の選定、基本的指標の選定、適切な倍率の選定を慎重に行わなければなりません。計算方法は簡単でも、注意事項を守らないと間違えやすいので注意しましょう。

参考:その他の企業価値評価法については以下でも解説しています。
企業価値評価(Valuation)とは?~評価方法インカム・コスト・マーケットアプローチについて~

M&Aの基礎知識
2022/06/10
M&Aと繰越欠損金~繰越欠損金による節税効果は期待できない?~
NEW M&Aと繰越欠損金~繰越欠損金による節税効果は期待できない?~

はじめに

M&Aの対象会社が繰越欠損金を抱えている場合、繰越欠損金により損失を費用として利益を圧縮できるため、節税効果が期待できると考えるかもしれません。しかしながら繰越欠損金のある会社のM&Aを行う場合、租税回避行為を防止する措置があり、租税回避を意図していなくても制限措置が適用され繰越欠損金等に使用制限がかかるケースがあります。

繰越欠損金ありきのM&Aを防ぐために、会社や事業を引き継ぐことができるかどうかについては明確なルールが定められているのです。原則として、M&Aにより赤字会社が消滅した場合、その会社が持っていた繰越欠損金も消滅したと考えるので、節税効果は期待できません。

買収後の組織再編も含めて、繰越欠損金等に制限がかからないか検討しておく必要があります。この記事では、M&Aと繰越欠損金について説明していきます。

繰越欠損金とは

企業経営をしていても、経営が上手くいかず赤字となるケースは少なくありません。多くの中小企業が赤字経営であると言われており、また、赤字経営でなくとも、経営環境の変化で容易に赤字となってしまう状況に置かれていると言われています。

単年度において赤字となるケースで、課税所得もマイナスとなる場合、この赤字は税務上の欠損金と呼ばれます。税務上の欠損金がある場合、その発生年度の翌期以降で繰越期限切れとなるまでの期間に課税所得が生じた場合には、欠損金の分だけ課税所得を減額することができます。つまり、100万円の欠損金がある場合、翌年度の課税所得を100万円減額することができるのです。翌年度以降に引き継がれる欠損金は繰越欠損金と呼ばれます。繰越欠損金が存在する場合、翌年度以降、その分だけ課税所得を圧縮することができるため、支払わなければならない税額も少なくなります。これが繰越欠損金による節税効果です。

繰越欠損金の節税効果を狙って、あえて赤字企業をM&Aによって買収するということも考えられます。赤字企業を買収すれば繰越欠損金があるため、翌年度以降の節税効果を狙って買収しているのです。しかし、繰越欠損金による節税を期待してM&Aを実施しても、現在では、節税効果は認められなくなっています。法制度の改正が進み、繰越欠損金による節税目的のM&Aが禁止されるようになったからです。

M&Aと繰越欠損金

 従来は、繰越欠損金を利用することで、M&Aを通じて節税が実現しました。しかし、現在では、M&Aを通じて繰越欠損金を利用した節税を行うためには、厳しい要件が課されています。そのため、M&Aを通じて繰越欠損金を利用して節税できると短絡的に考えることはできません。繰越欠損金を有する法人や含み損のある資産を有する法人を買収し、収益性のある事業をその法人に移転したり、収益性のある他の法人と合併したりすることにより、課税所得を圧縮する行為、すなわち繰越欠損金等を利用する目的で他の企業を買収した場合で、一定の事由に該当するときは、繰越欠損金の引継ぎ・使用や資産の譲渡等損失の損金算入を制限する措置が設けられています(法人税法57条の2)

この規定は、一定の事由に該当する場合は、繰越欠損金を損金算入できない(費用とすることができない)という規定です。したがって、単純にM&Aを通じた繰越欠損金を利用した節税はできないと考えておいた方が良いでしょう。

繰越欠損金を節税に利用できるケースについて、以下では説明していきます。

繰越欠損金を利用できるケース

 繰越欠損金による租税回避が目的ではなく、グループ最適化のための組み換えである「適格合併」であれば繰越欠損金を引き継ぐことができます。「合併当事会社の関係」が「法人税法の定める要件」に対して、適格であるようなM&Aを適格合併と呼ぶのです。適格合併に該当するための要件とは、原則としては次のようなものです。

  1.  金銭等の不交付:合併対価は株のみで金銭等が交付されない
  2. 支配関係の継続:合併前からの支配関係が合併後も継続
  3. 従業者の引継:消滅会社の従業員の概ね8割以上を引き継ぎ
  4. 事業の継続性:消滅会社の主要事業が合併後も継続見込み
  5. 事業の関連性:両社の主要事業が相互に関連
  6. 事業規模:両社の売上、従業員数、資本金のいずれかの差が5倍以内
  7. 経営参画:両社の役員のそれぞれ1名以上が合併後も役員

このような要件を満たす場合には、適格合併であると見做されて、繰越欠損金をそのまま引き継ぐことができます。多くの要件を満たさなければならないことからわかるとおり、M&Aを通じて繰越欠損金で節税をするのはかなりハードルが高いといえます。

そして、適格合併であればすべての繰越欠損金を使えるわけではありません。適格合併に該当するとしても、一部、繰越欠損金の利用が制限される場合があります。

おわりに

繰越欠損金は、M&Aにおいて節税目的では利用できないというのが原則です。この制限は、欠損金を有する法人を買収した上でその法人に事業を移し、当該法人が買収前から有していた繰越欠損金を利用して課税所得の圧縮を図るといった租税回避行為を防止する目的で講じられています。赤字企業は、通常、買収額が低く設定されます。そのため、M&Aを利用して赤字企業の買収を繰り返せば節税できたのです。

しかし、現在では、租税回避行為ができないように制度が設計されています。一定の要件を満たさない限り、繰越欠損金を利用することはできません。租税回避の意図がなくても結果として該当してしまうケースがあるので注意が必要です。中小企業にとっては、経営環境が大きく変わり、繰越欠損金が発生しているケースや合併等の組織再編で最適化を図ることを考えているケースもあるでしょう。そのため、繰越欠損金の取扱いについては十分に確認しておくことが大切です。

TOPに戻る

 

M&Aの基礎知識
2022/06/08
M&Aとストックオプション ~売り手・買い手ケースによって取り扱いが異なるので注意~
NEW M&Aとストックオプション ~売り手・買い手ケースによって取り扱いが異なるので注意~

1997年の商法改正によって、ストックオプション制度の活用が日本でも始まりました。労働の対価として、経営者、役員、従業員に対してストックオプションを付与すれば、将来割安な価格で会社の株式を購入する権利を得ることができます。しかし、M&Aによって組織再編が行われれば、ストックオプションの取り扱いも変化します。ストックオプションの権利を付与した企業がM&Aによって消滅してしまうようなケースでは、ストックオプションをどのように取り扱ったら良いのでしょうか。この記事では、そんなM&Aとストックオプションの関係について、基本的な考え方を説明していきます。

ストックオプションとは

ストックオプションとは、株式を購入する権利のことを言います。日本では1997年の商法改正にともなって活用されるようになり、急速に普及しました。ストックオプションは、企業が役員や従業員への労働の対価として、金銭の代わりに将来一定の価格(その時点での株価より割安な価格)で、自社の株式を購入する権利を付与するものです。労働の対価として、将来株式を割安で購入できる権利を与えるのがストックオプションです。ストックオプションには、権利行使期間が定められており、その期間にオプションを行使するとあらかじめ定められた価格で一定数の株式を購入することができます。ただし、払込金額が存在する場合については、払込期日までに払込金額全額の払い込みがなされない場合には、権利行使することができません(会社法第245条、第246条)。

株価が上昇したときに、ストックオプションを行使すると割安で株式を購入でき、それをすぐに売却すれば売却益を得られます。株価が上昇すれば、権利行使価格との差は大きくなり、売却益も大きくなるため、経営者・従業員は懸命に株価が上がるように事業活動に勤しむはずです。こうした狙いから、ストックオプションは、経営者、役員、従業員へのインセンティブとして付与されるケースが多いです。

M&Aとストックオプション(売り手側のケース)

ストックオプションを行使する権利を付与する権利主体は会社です。そのため、組織再編行為が行われた場合、ストックオプションの取り扱い方も変化することになります。

会社法には、株式交換及び株式移転のみならず合併及び会社分割に伴うストックオプションの取扱いについて規定が設けられています。一般に、組織再編時の取扱規定を会社が設ける場合、合併及び会社分割に伴うストックオプションの取扱いについても規定を設けておきます。

譲渡側(売り手側)企業が、ストックオプションを付与している場合、当然ストックオプションの権利を付与する権利主体は譲渡側企業です。しかし、譲渡側企業がM&Aによって消滅する場合、ストックオプションを行使する権利は会社消滅に伴って消滅することになります。つまり、M&Aによって消滅する企業が付与したストックオプションは原則として消滅するのです。

M&Aにおいてストックオプションの取り扱いが問題となるのは、譲渡側(売り手側)企業が株式譲渡・株式移転・株式交換によって完全子会社となる場合です。この場合、会社は消滅するわけではないものの、譲受側(買い手側)企業の一部となるので、ストックオプションを行使する権利を付与する権利主体も譲受側(買い手側)企業に移ります。

こうしたケースでは、一般に、ストックオプションを行使されると株式数に変動が起きて、株式比率も変わってしまうことから、権利主体である会社がストックオプションを買い取るケースがほとんどです。ストックオプションを消滅させようとした場合、ストックオプションの権利保有者は新株予約権買取請求権を行使できます。これは、ストックオプションを公正な価格で買い取ることを企業に請求する権利です。この権利を行使することで、会社が公正な価格でストックオプションを買い取ってくれます。

M&Aによる譲渡が完了するまで、ストックオプションがどうなるかはわかりません。上場企業に勤めている場合、買収を知ったときから、株主や規制当局の承認を得て、最終的に買収が完了するまでには、かなりのタイムラグが生じます。合併や買収の条件が最終決定されるまで、従業員は、自分の株式報酬がどうなるかという長引く疑問に対する答えを得ることができません。

また、合併によって、会社の法人格が消滅するケースでは、ストックオプションの権利も基本的には消滅することになります。ただし、存続会社や新設会社のストックオプションを交付するのが一般的です。このとき、ストックオプションの権利を付与される者の側から、先のケースと同様に、会社が公正な価格でストックオプションを買い取るよう求めることが可能です。

M&Aとストックオプション(買い手側のケース)

売り手側の企業が権利付与したストックオプションを特別な場合を除き、原則として消滅することになります。では、買い手側の企業が権利付与したストックオプションの取り扱いはどうなるのでしょうか。ここからは、買い手側の企業におけるストックオプションの基本的な取り扱いについて説明していきます。

合併によって、買い手側企業が存続会社、売り手側企業が消滅会社となるようなケースでは、会社が消滅することに伴って、ストックオプションも消滅することになります。ただし、合併以外の組織再編行為については、再編相手となる会社のストックオプションを代替交付しない場合、ストックオプションは消滅することなく残存します。この場合、買い手側の企業は、経営者、役員、従業員がストックオプションを行使する権利も基本的に引き継がなければなりません。

したがって、買い手企業は、売り手企業のストックオプションを買い取るか、売り手企業のストックオプションをいったん消滅させて、別のインセンティブを付与しなければなりません。

売り手側の企業が発行したストックオプションを消滅させた際、代替のインセンティブとして、買い手側の企業がストックオプションを発行することも可能です。譲渡側(売手側)企業の発行するストックオプションに権利内容が明記されていなくても、譲受側(買い手側)企業の判断でストックオプションを発行できます。

おわりに

ストックオプションの付与は、労働の対価としての側面があるため、その会社で働く経営者・役員・従業員にとって非常に重要な問題です。M&Aによって、ストックオプションの取り扱い方法は変化するので慎重に取り扱う必要があります。ストックオプションは付与された者の権利ですから、その権利の取り扱いは重要となります。M&Aを行うと、権利主体である組織が再編されることになります。M&A後にストックオプションが存続するのか、それとも消滅するのかどうかを把握してきちんと説明できるようにしなければなりません。

TOPに戻る

M&Aの基礎知識
2022/06/08
出口戦略(イグジット・ストラテジー)を策定しよう~M&A・IPOなどを活用した出口戦略について解説!~
NEW 出口戦略(イグジット・ストラテジー)を策定しよう~M&A・IPOなどを活用した出口戦略について解説!~

創業者は、相応のリスクを背負って株式会社を設立します。企業経営にリスクはつきものなので、当然、企業経営が上手くいかなくなるというケースもあるでしょう。創業者は様々な理由から事業を撤退しなければならなくなる可能性があります。したがって、撤退によるリスクを最小限にする必要があります。そこでこの記事では、出口戦略(イグジット)についてわかりやすく解説していきます。

出口戦略とは

 出口戦略(exit strategy)とは、事業が大幅な利益を満たした場合、あるいは利益が出なくなった場合に、その事業から撤退するための不測の事態を想定した計画のことを言います。

特に、M&Aという文脈においては、創業者による投資回収戦略です。出口戦略という言葉は、もともとは軍事用語で、困難な戦局から被害最小限で脱出する戦略を意味しています。

創業者は自らの私財を利用して企業を設立します。つまり、創業者による投資によって企業活動は成り立っているのです。その投資を回収しようと思っても、会社経営が上手くいかず、撤退を余儀なくされるケースも少なくありません。あなたの会社がいつ撤退しなければならなくなるかはわからないのです。創業間もない企業は、優れた組織を構築することに集中すべきですが、経営者としては投資を回収する(引き上げる)決断をしなければならないときもあるでしょう。したがって、事前に出口戦略を練っておくことが重要なのです。

以下では、出口戦略として「株式公開」、「M&A」、「ライセンシング」という3つの出口戦略について紹介していきます。

出口戦略としての株式公開(IPO)

 IPO(Initial Public Offering)とは、非上場企業が株式を公開することを意味する言葉です。

上場させたあとに株式を売却し、利益を得る出口戦略です。その言葉が示すように、会社の一部を株式として公開し、公開証券取引所で取引することで、誰もが会社の一部を購入できるようにすることをIPOと呼びます。新興企業が事業拡大を目指す際の出口戦略として採用するケースが多いです。IPO後、経営者(創業者)は事業を売却するか、そのまま会社に残るかを選択することができます。

 経営者は目指すものの1つに株式公開があります。一般に、個人が株式会社を設立するケースでは、創業者が会社の株式を保有しています。会社の経営が上手くいくようになると、その会社の株式が欲しいという投資家も増えるようになるでしょう。投資をしてもらうことで、会社の規模をより大きくすることができます。そのように、より多くの投資家からの投資を受けるためには、株式を公開して誰でも投資できるようにします。この時点で、創業者が株式を売却することで莫大な利益を得られます。この利益は創業者利益とも呼ばれます。

 企業が株式公開をする場合、通常は会社の所有権を手放し、その代わりに成長・拡大するための資金を得ることになります。株式公開の主なメリットは以下のとおりです。

  • 従業員はそのままなので、会社はIPO前とほぼ同じように運営されます。
  • 成長過程にある中小企業にとって、株式公開は、創業者が当初の投資の一部を取り戻すのに役立つことがあります。また、IPOを出口戦略として採用することにはデメリットもあります。
  • IPO後、一定期間は株式を売却できない。
  • 株主からのプレッシャーを受けるようになり短期的に利益を重視する傾向に陥る。

出口戦略としてのM&A(合併と買収)

M&A(合併と買収)を利用して、他の企業によって買収されることは、経営者にとって有益な出口戦略です。事業の評価額を高く設定しておけば、良い買い手を引きつけ、価格交渉をコントロールすることができます。売り手候補先について考えることは、ビジネスのパートナーを見極めることにつながります。ビジネスを拡大し、パートナー企業にとって戦略的な存在になれば、買収のオファーを出してくれるかもしれません。

M&Aの出口戦略の主な利点は、会社が高く評価される可能性が高いということです。

  • 買い手があなたの製品やサービスをすぐに必要としている。
  • 複数の買い手が競り合う可能性があり、事業の価値を高めることができる。
  • 競合他社に売却する場合、第三者に売却する場合よりも高い価格で交渉できる可能性が高い。

外部企業が企業買収を目指す一般的な理由は、その行為によって競合他社よりも優位に立てることです。その優位性は、市場での足がかりを得るのに役立ち、あるいは戦略的に競合を排除することもできるでしょう。

出口戦略としてのライセンシング

企業経営が成功しない場合、予想よりも低い価格で会社を売却せざるを得ないことがあります。この場合、技術の一部をライセンスしたり、知的財産を売却したりして、できるだけ多くの投下資金を回収することが考えられます。

出口戦略

出口戦略の重要性

経営者が出口戦略を策定することは、直感に反しているように思われるかもしれません。たとえば、あなたがEコマースビジネスの経営者で、収益が増加している場合、なぜ会社から撤退したいと思うのでしょうか?

 すぐに会社を売却するつもりがなくても、出口計画を検討することは重要です。例えば、以下のようなリスクに備えなければならないからです。

個人的な健康問題や家族の危機

個人的な健康問題や家族の危機に見舞われることがあるかもしれません。これらの問題は、会社を効果的に運営するための集中力を奪ってしまう可能性があります。出口戦略があれば、会社を円滑に運営することができます。

経済不況

景気後退は会社に大きな影響を与える可能性があり、あなたは会社が不況の影響を受けることを避けたいと思うかもしれません。

予期せぬオファー

大企業があなたの会社の買収を検討することがあります。すぐに会社を売却するつもりがなくても、出口プランを考えておけば、対等な立場で対話ができるはずです。

明確な目標

エグジットプランを明確にすることで、明確な目標を持つことができます。エグジットプランは、経営者の戦略的な意思決定に大きな影響を与えるのです。

おわりに

 多くの起業家や経営者にとって、「エグジット」は一部ネガティブな意味合いも持つ言葉です。しかし、出口戦略とは「準備すること」なのです。出口戦略を立てるということは、将来を見据えることであり、物事がうまくいかなくなったときに、後手に回るのではなく、先手を打つということです。ビジネスが不調に陥るのを待ってから、出口戦略を考えるのではありません。むしろ、事業からスムーズに撤退するために、前もって出口戦略を立てておきましょう。

TOPに戻る

M&Aの基礎知識
2022/06/08
M&Aをする相手はどうやって探す? M&A案件の探し方を紹介
NEW M&Aをする相手はどうやって探す? M&A案件の探し方を紹介

はじめに

M&Aを考えている経営者でも、どうやって相手を探したら良いのかよくわからないケースは多いです。実際に、事業や会社を買いたいと思っていても、M&A案件がみつからなければ、どんな選択肢があるか経営者は判断できないでしょう。M&A案件の探し方は、時代とともに変化してきました。従来は、仲介会社を介してしか紹介してもらえませんでしたが、現在では、M&Aプラットフォームなどの登場によって自分でもM&A案件を探すことができるようになりました。ただし、仲介会社もプラットフォームも世の中にあるすべての案件情報を有しているわけではありません。そのため、売却ニーズがでてくる(案件化される)のを待つだけではなく、自分たちから声をかけるタッピングなどの方法もあります。このように、M&A案件の探し方は様々です。そこでこの記事では、M&A案件の探し方について詳しく解説していきます。

M&Aの案件の探し方はさまざま

M&A案件を探す方法は様々です。方法によって注意点が異なります。それぞれの方法についてメリット・デメリットを十分に理解しておきましょう。ここでは、近年、中小企業M&Aで一般に採用されている仲介会社で探す方法とプラットフォームを利用して探す方法に分けて解説していきます。

仲介会社で探す

 従来、M&Aの案件を探す際には仲介会社を経由するのが一般的でした。譲り渡し側・譲り受け側のマッチングまで行ってくれるだけではなく、マッチング後の交渉のやり取りも伴奏してくれます。交渉の進め方について専門家のアドバイスを受けながら、M&Aを進めていきたいという会社向きです。

その分、仲介会社に支払わなければならない手数料が高くなる傾向にあります。仲介会社は、案件の発掘からクロージングまで伴走を行いますが、その分手数料が高いことを理解しておきましょう。加えて、仲介会社の手数料には一律の基準がなく、原則として仲介会社の判断に委ねられていることから、仮に同じ M&A が実現したとしても、仲介会社によって手数料は異なりますので注意が必要です。

に依頼すると、M&A仲介会社を紹介してもらうことができる場合もあります。地域で活動する有力なM&A仲介会社が金融機関と密に連携しているケースもあります。金融機関がM&A仲介会社を紹介してくれるため、仲介会社を自分で選定する必要がなくなります。

近年では、中小企業のM&A案件が増えている事情もあって、政府や自治体からM&A成立のために補助金などを利用できる環境が整備されています。上手く利用して手数料が安くなるようにしましょう。

プラットフォームで探す

 中小 M&A においても、オンラインの M&A プラットフォームが急速に普及しています。M&Aプラットフォームは、譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステムに登

録することで、主にマッチングをはじめとする中小 M&Aの手続を低コストで行うことができるサービスです。M&A 専門業者しか接触できなかった中小 M&A の案件情報に直接接触することができるようになるため、よりスピーディなM&A案件の交渉が可能となりました。

 仲介会社と異なり、プラットフォームで探す場合、手数料が安く済む傾向にあります。M&A プラットフォームはあくまで譲り渡し側・譲り受け側のマッチングまでに留まることが一般的であり、マッチング後の基本合意・最終契約締結や、これに関する条件交渉等の具体的な手続きは、原則として、譲り渡し側・譲り受け側の当事者が行うことになります。したがって、実際にM&A取引を進めていく際には、当事者同士で話を進めるか、専門の業者に依頼しなければなりません。M&Aプラットフォームの利用手数料は安くても、実際のM&A案件を進めて行く際に別途専門家費用が必要になります。買い手企業としては、様々な案件を幅広く探したいというときに、M&Aプラットフォームを利用することも検討しましょう。

 M&A プラットフォームにはそれぞれ特徴があるため、どの M&A プラットフォームを使うべきかについても検討が必要です。近年急速にM&Aプラットフォームが普及したため、玉石混交の状態となっています。悪徳な業者も存在しているので、本当に信頼できるかどうか、慎重に判断する必要があります。M&Aプラットフォームは、その特性からインターネットを通じて幅広く買い手を募るため、1つの案件に対して多くの売り手候補や買い手候補が出てくることもあり、M&Aプラットフォームの利用は競争が激しくなるのが一般的です。

大事なポイント: 自分から探しに行くこと!

買い手側にとって、M&Aを成立させるためには、まずは売り手となる企業を探さなければなりません。多くの選択肢のなかから、適切なものを自分で選べるのであれば、M&Aプラットフォームを利用すると良いでしょう。M&Aプラットフォームは、基本的にマッチングのみを対象としているケースが多いため、M&Aのプロセスを進める前に、実際に売り手側の企業担当者と交渉することになるでしょう。この交渉には、ある程度専門的な知識が必要となります。

そうすることができない場合には、M&A仲介会社を利用しましょう。M&A仲介会社であれば、事前にM&A戦略を伝えておくことによって、適切な売り手企業を紹介してくれるでしょう。ただし、仲介会社によって、得意な業界・地域があるので、定評のあるM&A仲介会社を選ぶ必要があることを忘れてはなりません。

M&Aプラットフォームを利用するにせよ、M&A仲介会社を利用するにせよ、事前に自社のM&A戦略を明確にしておく必要があります。M&A案件を紹介して欲しいという旨を伝えただけでは、良い企業とマッチングするのは難しいです。M&A案件はあくまでもマッチングであるので、売り手と買い手双方の条件のすり合わせが必要となります。したがって、買い手側としては、どのような条件のもとで案件を探しているのかを明確にしておかなければなりません。

おわりに

近年の中小企業のM&Aを促進しているのはM&Aプラットフォームの存在です。オンライン上で様々なM&A案件を閲覧できるため、多くの選択肢のなかから最適な売り手を探すことができます。しかし、M&Aプラットフォームはあくまでもマッチングがメインであり、その後の手続きは自社で進めることを前提に考えて置く必要があります。たしかに、M&Aプラットフォームを利用すれば利用手数料は安いものの、その後のM&Aプロセスで手数料がかかるケースも少なくありません。こうしたケースがあることをきちんと認識することが重要です。一方で、M&A仲介会社に依頼すれば、確かに手数料は高いものの、意向に沿ったM&A案件を紹介してくれますし、その後のM&Aプロセスも安心して任せられます。どちらの方法を選ぶにせよ、自社のM&A戦略を事前に明確にしなければなりません。これができていない企業がどんなにM&Aを進めようとしても、なかなかうまくいかないでしょう。この点をきちんと認識してM&A案件を探すことが大切です。

ティールバンクは成約報酬なしの案件発掘サービス「M&Aファインダー」を提供しています。お気軽にお問い合わせください。

M&Aの基礎知識
2022/06/05
  1. 1