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M&Aのプロセスは、買収の種類と事業戦略によって、「水平統合」と「垂直統合」に分類することができます。水平統合は、企業規模の拡大、製品ラインナップの多様化、競争の緩和、新市場への進出を目的としたM&Aです。一方で、垂直統合は、利益を高め、消費者へのアクセスをより迅速にすることを目的としたM&Aであると言えます。この記事では、M&Aのプロセスを垂直統合と水平統合に分け、その効果について説明していきます。
水平統合と垂直統合は、企業が自らの地位を固め、競合他社との差別化を図るために用いる競争戦略です。どちらも、他の事業の買収を伴う、つまりM&Aを活用した企業の成長戦略であると考えることができます。
垂直統合は、同じサプライチェーンに沿って複数の企業が結合することであるのに対し、水平統合は、企業が同じ業界で顧客基盤、市場規模、または製品の多様性を高めるために類似した他の企業(多くの場合競合)をM&Aによって取得することを意味します。
さらに、水平統合は、製品の差別化を図ったり、市場支配力を拡大したりするために行われる場合もあります。水平統合は、多くの場合同じ業界内で行われますが、異業種や関連業界で行われるケースもある行為です。したがって、その意図は、必ずしも自社のサプライチェーンをより多くコントロールすることによるコスト削減ではないものの、水平統合を行う企業は、消費者基盤、資産や資源の増加、または収益の増加を期待して行うことが多いと考えることができます。
水平統合と垂直統合という2つの戦略は、企業の拡大を助けるものではあるものの重要な違いがあります。
水平統合は、企業が関連する企業、つまり競合他社を買収することによって成長することを目指す戦略です。一方、垂直統合は、企業が生産や流通の1つまたは複数の段階を支配することで、産業プロセスのすべての部分を所有することを目指す成長戦略です。
水平統合は、規模の経済、競争力、市場シェアの拡大、事業の拡大をもたらす競争戦略です。より多くの資源、市場、能力、効率性を目標に水平統合を行います。水平統合とは、言い換えれば、似たような2つのビジネスが1つの会社になることである。たとえば、ナイキとアディダスの合併は、水平統合の一例です。
両社は、スポーツウェアの製造・販売を営んでいます。M&Aを行って水平統合を実施した2つの事業体は、独立して事業を行う場合よりも、より多くの収益を実現できるような体制になるはずです。水平統合は活動の最適化、または会社のプロセスおよび活動の範囲内の戦略的なビジネス活動の統合を促進する可能性があります。
垂直統合は、サプライチェーン上で同じ段階にある限り、水平統合は産業間でも起こりうることに注意しましょう。たとえば、サウジアラビアの石油・ガス採掘業者が、ブラジルのコーヒー豆栽培業者を買収することがあります。両社は原材料の供給業者であり、サプライチェーン上で同じ段階にあるにもかかわらず、業種が異なっていますが、サプライチェーン上の同じ段階の事業者同士によるM&Aの実行は当然あり得るものです。
具体的な例として、ディズニーがピクサー(映画製作)と、エクソンがモービル(石油生産、精製、流通)と、あるいは悪名高いですがダイムラー・ベンツとクライスラーの合併(自動車の開発、製造、小売)が水平統合の有名な事例です。
もし、同じ業界に属していて、同じ事業を営む企業同士が水平統合した場合どうなるでしょうか。たとえば、ボーイング社とエアバス社は共に飛行機を製造しており、合計で99%の市場シェアを誇っています。もし、この2社が水平統合をすれば、独占が可能になるのです。
こうした水平統合は、特定の産業において独占的な力を生み出し、消費者にとって不利益となる場合があることに注意が必要です。競争の低下により、談合行為が誘発され、製品価格の上昇につながる可能性があります。
垂直統合とは、企業が自社製品のサプライチェーンを所有する戦略的構造であり、通常、異なる生産段階に関与する1社または2社の企業で構成されます。
サプライチェーンには、原材料の調達から製品化、販売までのすべての段階が含まれます。その意味で、垂直統合型の企業は、サプライチェーンの複数(またはすべて)の部分を所有する戦略です。
たとえば、ある企業が綿花の生産者とTシャツの製造会社を買収し、その製品を自社で販売することがあります。つまり、元の会社(現在は、同じ垂直方向に沿った複数の会社のコングロマリット、または同じ種類の製品)が、商品、製造、流通、小売というサプライチェーンの4つの部分を支配することになるのです。
垂直統合を行うと、サプライチェーンをよりコントロールできるようになり、より低い価格で製品を提供できるようになります。市場における市場支配力が高まるなど、企業にとって多くの利点があります。
垂直統合の方法は、企業の種類によって、後方統合と前方統合の2つに分かれます。
企業がサプライチェーンの前方に進出する場合(例えば、メーカーが小売業を買収した場合)、前方統合を行うことになります。これは通常、鉱業会社がさらに「下流」の工場を支配するような、サプライチェーンの始点に近い会社が行うものです。この場合、メーカーは流通経路をコントロールすることで、中間業者を通さずに直接消費者に製品を提供することができるようになります。
逆に、企業が後方(または「上流」)に拡大し、サプライチェーンのさらに後方の生産部分を支配する場合(たとえば、小売企業が商品のメーカーや生産者を買収した場合)、それは後方統合を行ったことになります。企業が原材料の供給者と合併する場合、プロセスの一部を外部調達するのではなく、必要なものをすべて自社で調達するため、多くのコストが削減されるのが一般的です。この意味で、大手小売企業や流通企業は、輸送費を節約し、供給者を抑えるために、自社商品の生産者やメーカーの買収を行います。
水平統合と垂直統合は、ある企業が他の企業を統合する2つの成長の方向性を示すものです。水平方向の合併は、互いに競合する2つのビジネスに関するものです。一方、垂直合併は、同じサプライチェーン内で動作する2つのビジネスに関するものです。水平方向のM&Aは、競合する2つの会社が一緒になって1つの会社を作るときに起こり、垂直方向のM&Aは、異なる生産段階にある2つの会社が一緒になって1つの会社を作るときに起こります。
収益を上げたい、または製品の幅を広げたい場合は、M&Aを活用した水平統合の機会を探すとよいでしょう。この場合、M&Aの候補となる企業は、自社と同様の製品・サービスを持ちながら、自社が希望する製品・サービスを追加していたり、現在自社が参入していない地域で事業を展開しているところが良いでしょう。
コスト削減によって競争力を高めたい場合、あるいは重要な供給源へのアクセスを確保する必要がある場合は、垂直統合を検討する必要があります。この場合、M&Aの候補となる企業は、自社の製品を製造するのに必要となる原材料を作っていたり、自社の製品の販売をするのに必要となる販売先であることになります。
どちらの水平統合にせよ、垂直統合にせよ、一長一短の戦略です。その効果をきちんと理解して活用することが大切です。
経営資源には大きくヒト・モノ・カネ3つに分かれます。
人的承継とは、事業承継の際に従業員や顧客、経営のノウハウなどの「ヒト」資産を、後継者に引き継ぐことです。 一方で、不動産や株式などの「モノ」「カネ」資産を引き継ぐことを物的承継と呼びます。
会社の事業を承継することを考えるとき、誰に承継するかは非常に重要です。自分の血縁関係の中で事業を承継するケースもあれば、会社の従業員に事業を承継するケースもありますし、全くの会社の外部の人あるいは会社に事業を承継するケースもあります。
このうち、3つ目の会社の外部に人あるいは会社に事業を承継するケースでは、一般に、事業承継を行う譲渡側と、事業承継を受け入れる譲受側があり、両者のニーズが一致するように調整しなければなりません。その調整をマッチングと言います。会社の外部の人あるいは会社に、事業を承継するケースでは、この両者の合意がない限り、事業承継が成立しません。昨今の事業承継ニーズの高まりから、より効率的に、より納得感が得られるように両者を結びつけることを目的として、多くの事業承継マッチング業者、あるいは、マッチングプラットフォームが誕生しています。
そこでこの記事では、会社の外部の人あるいは会社に事業を承継する際に、近年盛んに利用されるようになっている事業承継マッチング業者、マッチングプラットフォームについて解説します。
会社や事業を売りたい(承継したい)と考えている会社が、会社や事業を買いたいと考えている会社に出会うためには、両者を引き合わせなければはじまりません。このように売りたい側と買いたい側が出会い、条件等双方の合意が得られた状態がマッチング成功となります。
一般に、会社を売りたい人と買いたい人のマッチングを自ら行うことは難しいことから、M&A。事業承継の専門家に相談することになります。近年、事業を売りたいという事業者と、事業を買いたいという事業者をマッチングさせる事業承継マッチング業者やM&Aマッチングプラットフォームと呼ばれるサービスを提供する企業が増えてきています。
事業承継マッチング業者は、中小企業の事業承継(M&A)を支援する機関であり、民間のM&A専門仲介機関や、金融機関、士業の専門家などが存在しています。マッチング業者の担う業務は、相手先企業のマッチングから行う場合もあれば、デユーデリジェンスや契約締結等の特定の業務に特化している場合もあり、その関わり方は様々です。事業承継マッチング業者に支払わなければならない仲介等の手数料についても、仲介者かアドバイザーかといった契約関係だけでなく、案件の規模や報酬体系(着手金・中間金・成功報酬等)によって異なります。
また、事業承継のマッチング業務は、案件の規模にかかわらず同程度の業務が発生するため、最低手数料を設けている専門仲介機関も多くなっています。そのため、近年では、インターネット上でのマッチングも行われるようになってきており、低コストでマッチングを図ることで小規模事業者でも事業承継を実施できる環境も整いつつあります。
いずれにせよ、事業承継を推進していくためには、金融機関、専門仲介機関、士業専門家といった、当事者以外の支援が重要です。こうした支援機関の事業承継への理解を深めるとともに、支援機関同士が連携し専門性の補完やマッチングを図ることで、様々なニーズに対応していくことが期待されています。
ここでは、まず事業承継マッチング支援をする代表的な相談先(専門家)について説明していきます。
① 公認会計士
公認会計士は、監査及び会計の専門家として、財務書類の監査証明業務のほか、財務に関する調査や相談に応じており、事業承継の様々な場面で、広い見識に基づく支援が期待できます。特に、経営状況・課題の把握(見える化)や経営改善(磨き上げ)をはじめ、非上場株式の評価・M&Aにおける売却価格試算等の複雑な状況での公正な評価、経営者の個人保証の解除、適正な会計の導入支援といった、将来の事業展開も踏まえた幅広い助言が期待できます。
② 司法書士
司法書士は、商業登記、不動産登記等の実務家として、事業承継における株式及び事業用不動産の承継、M&A、種類株式及び民事信託の活用、担保権の処遇等についてサポートしています。また、日本司法書士会連合会においては、商業登記・企業法務対策部、民事信託等財産管理業務対策部等を設置して事業承継に関する支援事業を行っています。
③ 税理士
税理士は、顧問契約を通じて日常的に中小企業経営者との関わりが深く、決算支援等を通じ経営にも深く関与しています。経営者向けアンケートにおいても、事業承継の相談先として選ばれやすい存在です。また、日本税理士会連合会にて構築した顧問税理士同士によるマッチングサイト「担い手探しナビ」の利用等を通じて、 多くの税理士が、後継者不在の中小企業に対するM&A支援に着手するなど積極的な事業承継支援を行っており、主体的な関与が期待できます。経営者に最も近い存在として、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、相続税に関する助言や株価の評価、生前贈与のやり方や種類株式の発行に関する助言、中小企業会 計要領・中小企業会計指針の活用支援等、事業承継に関係する幅広い領域にわたる支援をしてくれます。
④ 中小企業診断士
中小企業診断士は、「中小企業支援法」に基づき、中小企業のホームドクター として、様々な経営課題への対応や経営診断等に取り組んでいる事業者です。事業承継に関しては、事業承継診断やプレ承継支援(事業承継計画の策定支援、 後継者教育支援、磨き上げ支援等)、ポスト承継支援のほか、M&A等に関わる支援も期待されています。
⑤ 弁護士
弁護士は、中小企業や経営者の代理人として、事業承継を進めるにあたり、経営者と共に金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・説得を行い、円滑な事業承継を進める役割を担います。特に、株主関係が複雑な場合や、会社債務・経営者保証等に関する金融機関との調整・交渉が必要な場合、M&Aを活用する場合等においては、法律面全般の検討と課題の洗い出し、それらを踏まえたスキーム全体の設計、契約書をはじめとする各種書面の作成といった支援が期待される。また、日本弁護士連合会は、事業承継に関するプロジェクトチームを設置し、中小企業の事業承継に関する課題分析と改善策の検討、有用なスキーム・事例の周知活動、具体的な相談体制の整備等に取り組んでいます。
⑥ 金融機関
金融機関は、中小企業に日常的に接して経営状況を把握しており、中小企業に対してきめ細やかな経営支援等を実施し得る立場にあります。また、金融機関が取引先企業の事業実態を理解し、そのニーズや課題を把握し、経営課題に対する支援を組織的・継続的に実施することは、取引先企業の価値向上、ひいては我が国経済の持続的成長につながるとともに、金融機関自身の経営の安定にも寄与するものです。このような観点から、金融機関は取引先中小企業の事業承継問題に対しても積極的な支援を実施することが期待されています。
⑦商工会議所・商工会
商工会議所・商工会は、経営指導員の日々の巡回指導等を通じて中小企業経営者との間に信頼関係を構築している身近な存在です。このため、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、事業承継セミナーの開催や事業承継施策に関する情報提供、専門家の紹介、事業承継・引継ぎ支援センターとの連携等が期待されています。
近年では、IT技術を活用しインターネット上で事業承継マッチングを行う業者も誕生しており、低コストでマッチングが実現できる環境も整いつつあります。
事業承継マッチングプラットフォームは、事業や会社の譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステム(プラットフォーム)に情報を登録することによって、マッチングをはじめとする事業承継の手続きを低コストで行える支援システムです。従来、事業承継においては、事業者自身が譲り渡しや譲り受けの情報にアクセスすることが困難でした。その橋渡しを事業承継支援業者(金融機関、M&A仲介業者など)が担っていたのです。結果として、情報量の少なさからマッチングの可能性が低くなってしまったり、マッチングにかかるコストが大きく、業者に支払うべき高額の報酬につながってしまったり、といった課題がありました。こういった従来のM&Aの問題点を解決するために誕生したサービスが、マッチングプラットフォームです。
それでは、現在の日本でマッチングプラットフォームを提供している代表的な事業者を2つ紹介します。
①BATONZ(バトンズ)
BATONZは、無料で利用できる成約数No.1のM&A・事業承継支援サービス提供事業者です。企業と第三者のマッチングを支援し、M&Aによる事業継承をサポートします。バトンズでは小規模・零細企業の案件だけでなく、中小企業も含めた幅広い規模の案件も掲載しており、個人・個人事業主・法人といった、あらゆる属性の人が利用している事業者となっています。業界の標準価格よりもかなり安い金額で成約までたどり着くことができるうえに、充実したサポート体制が魅力となっています。
②TRANBI(トランビ)
TRANBIは、挑戦したい個人・中小企業のためのM&Aや事業開発を中心とするイノベーションプラットフォームです。インターネットを通じて、事業を買いたい人と売りたい人がマッチングする事で、 これまで多額の資金を必要としたM&Aの費用を大幅に削減することに成功しました。会員数も2022年7月時点において、106,246名と業界最大級を誇っています。
昨今、M&Aのマッチングプラットフォームは乱立しており、上記以外にもたくさんのプラットフォームがあります。
事業承継において、会社や事業の譲り渡し先を決めるのは容易ではありません。会社のことを理解していないところに事業を承継してしまえば、会社に残った従業員が不幸になることはもちろん、これまで会社に培われてきたものが台無しになってしまいます。だからこそ、マッチングを支援してくれる事業者の存在は、事業承継において欠かせないのです。
事業承継においてマッチングサービスを提供している事業者は数多く存在します。従来は、専門業者に依頼するケースも多かったものの、自分たちで直接プラットフォームサービスを利用するケースも多くなっています。会社の将来を左右する事業承継ですので相手探しは重要です。
EBITDA(金利・税金・減価償却費控除前利益)とは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの略で、企業の営業成績を評価するために用いられる指標です。
EBITDAは、企業の所有者である株主が、キャッシュフローを生み出す能力を理解し、企業の営業成績を判断するのに役立ちます。EBITDAは、企業の財務の健全性とキャッシュフローを生み出す能力を測定する指標です。
この記事では、EBITDAがなぜM&Aで利用されるのかを含め、EBITDAの基礎について解説していきます。
EBITDAは、もともとケーブル・メディア大手テレコム社の元社長兼CEOであるジョン・C・マローン氏が1970年代に開発した経営分析指標です。企業の長期的な収益性を予測し、将来の資金調達に対する返済能力を評価するために開発されました。
EBITDAは、異なる企業間や業界間の貴重な比較材料にもなります。事業を売却したり、新たな投資家を募る場合、EBITDAを計算することで、会社の財務の健全性を確認したり、評価額を決定することが可能です。
数ある利益項目のなかでも、EBITDAがなぜ利用されるのかというと、EBITDAが税金、支払利息、減価償却費などを除外するからです。税金、支払利息、減価償却費などの営業外費用は、事業や業界、地域によって大きく異なるため、ある事業と別の事業を比較することは困難です。これらの項目を除外することで、自社の事業における生の収益を長期にわたって比較したり、同業他社と比較したりすることが簡単にできるようになります。
EBITDAは、投資家を探している長期的な成長が見込まれる企業にとって有用な指標で、あるビジネスと他のビジネスを比較するための有用な方法でもあります。
通常、国によって金利水準、税率、減価償却方法などが違うため、国際的企業の収益力は一概に比較することはできません。その点、EBITDAは、その違いを最小限に抑えて利益の額を表すことを目的としているため、国際的な企業、あるいは設備投資が多く減価償却負担の高い企業などの実態的な収益力を比較・分析できるのです。
EBITDAの計算式について説明する前に、EBITDAの計算要素を一つずつ確認していきましょう。EBITDAの主な計算要素とは、金利、税金、減価償却費です。
銀行や第三者からの借入金に対する利息など、金利によって発生する事業費用を含みます。税金と同様、支払利息も企業間、業種間で差があります。資本集約的な産業ほど、そうでない産業の企業よりも、損益計算書上の支払利息が多くなる傾向があります。この費用は、営業外費用のセクションにも記載されています。
政府などによって課される税金で、代表的なものとして法人税や消費税などがこれにあたります。国や地域によって異なりますし、年ごと、事業ごとに変化します。これは、多くの場合、業界、場所、会社のサイズに依存するものです。この数値は通常、損益計算書の営業外費用のセクションに記載されています。
会社の固定資産の価値の減少を示す費用です。資産価値の減少を意味する非現金支出費用のため、実際のキャッシュアウトが伴わない費用となります。
支払利息の利率、減価償却の割合などの指標は国や地域の影響をうけるため、企業が主体的にその割合をコントロールしづらい益に影響を与える可能性のある要素を除外するため、営業利益や経常利益などより実体的な収益性を示す指標ともなりえます。
たとえば、A社の財務情報が次の通りだったとしましょう。
当期純利益+税金+減価償却費+支払利息=EBITDA
つまり、180万円+13万円+18万円+26万円=237万円となり、EBITDAは237万円となります。
EBITDAは、所有者、投資家、利害関係者が、他社と比較可能な事業の営業収益性を明確に反映した数値が得られる指標です。そのため、EBITDAはM&A戦略の一環として、どの事業がより魅力的であるかを決定する際に、他の指標よりも優先されることが多い指標となっています。
投資家は、企業の基本的な財務の健全性と価値を測る際、しばしば純利益、売上高、キャッシュフローに注目します。しかし、近年では、四半期報告書や決算書において、これらとは別の尺度が重要視されるようになってきました。それがEBITDAです。
EBITDAを使って企業の財務の健全性を分析は、レバレッジド・バイアウト時代の最盛期であった1980年代に広まりました。
この時代、投資家は経営難に陥った企業を財務的に再建することが一般的で、EBITDAは主に、企業が再建に伴う利息を返済する余裕があるかどうかを判断する基準として利用されていたのです。
たとえば、2つの会社を比較する際には、次のようにEBITDAマージンを計算します。EBITDAマージンの計算式は、以下の通りです。
EBITDAマージン=EBITDA÷総収益
企業全体の収益に対するEBITDAの割合を決めることで、このマージンは、ビジネスが単年度でどれだけの営業キャッシュを上げているかを示す指標となります。もし、あなたのビジネスのマージンが他よりも大きければ、プロのバイヤーはあなたのビジネスの成長性をより高く評価する可能性があります。
たとえば、A社のEBITDAが60万円で、総収益が600万円だとします。この結果、EBITDAマージンは10%(60万円÷600万円=0.1)となります。これを、EBITDAが75万円で、総収益が900万円であるB社と比較します。B社のEBITDAマージンは約8%(75万円÷900万円≒0.083…)です。
このように考えると、B社の方がEBITDAの絶対額は大きいものの、マージンはA社より小さい(10%に対して8%)ということを意味します。このため、両社を比較検討する買い手は、B社よりもA社の方が有望と考えるかもしれません。
つまり、投資家、オーナー、アナリストは、EBITDAマージンを使うことで、総収益に対してどれだけの営業キャッシュが生み出されているかを確認でき、これをベンチマークとして、どちらが財務的に効率的かを判断することができるのです。
EBITDAは、金利・税金・減価償却費など、国による政策や税率の違い、経営者の方針の違いなどによって生じる違いを最小限に抑えられる指標です。そのため、事業の正確な収益性を判断することができます。国による違いや経営者の方針による違いをできるだけ排除した収益性を図るものとして重宝されています。M&Aにおいては、国の違いなどを除外するというEBITDAのこの特性を活かしてEBITDAマージンといった指標を計算し、その事業価値を理解するために使われています。M&AではEBITDAについて正しい知識を身に着けることが大切になるでしょう。まずは専門家に相談してみましょう。
M&Aグロースとは、事業を成長させるための経営戦略の一つ。M&Aグロースは自社にない技術やノウハウなどの経営資源を外部調達し、効率的に成長させようとする手法です。これに対し、企業が内部資源を活用して、自助努力(育成等)を行い成長することをオーガニックグロースと呼びます。
中小企業においては経営者の高齢化が問題となっています。経営者が高齢化している結果として、事業の休廃業・解散件数は増加傾向にあり、中小企業・小規模事業者の数は年々減少しているのです。そのような状況のなかで、日本の経済が持続的に成長するためには、企業がこれまで培ってきた、未来に残すべき価値を見極め、事業や経営資源を次世代に引き継ぐことが重要です。その結果として、どのように事業や経営資源を引き継ぐか、すなわち、事業承継が問題となっています。この記事では、事業承継問題のなかでも現経営者を悩ませる難しい問題の1つである事業承継のタイミングについてわかりやすく解説していきます。
事業承継のタイミングを考えるうえでは、以下で説明するポイントを考えるのが大切です。このポイントをきちんとおさえておかないと、事業承継のタイミングを見誤る可能性があるので注意しましょう。
事業を後継者に円滑に承継するためのプロセスは、経営状況や経営課題、経営資源等を見える化し、現状を正確に把握することから始まる。なぜなら、今どのような経営資源などを保有しているかがわからないと、後継者に何を承継していいかわからないからです。したがって、まずは経営の見える化を実施して、承継すべき経営資源等を明確にしておく必要があります。これができていないうちは、事業承継をするタイミングではないと言えるでしょう。
後継者として会社を任せられる人材がいるかどうかも、事業承継のタイミングを考えるうえでは重要になります。会社内に後継者として任せられる人材がすでにいて、すでに能力も資質も備わっているのであれば、すぐにでも事業を承継する準備ができるでしょう。
しかし、一般にそうした状況は少なく、後継者がいないというケースは少なくありません。この場合、どうしても会社内で後継者を探す場合には後継者を育成するための時間が必要となります。後継者の育成にはどうしても時間がかかりますし、その人が本当に後継者となってくれるのかどうかもわからないので、後継者育成は不確実性が多いと言えるでしょう。
したがって、多くの場合、会社内に後継者がいないケースでは、会社外部の人材を後継者として登用したり、M&Aを通じて会社や事業を他社に売却するというケースも考えられます。その場合、後継者の育成は必要ないため、事業承継タイミングまでに必要な期間は短くて済むでしょう。
このように、会社内の人材に事業を承継するのか、あるいは、会社の外の人材に事業を承継するかに応じて、事業承継のタイミングは異なるので注意しましょう。
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000273.pdf
上の図は、事業承継のタイミングを考える上で検討すべき具体的な要素について、承継方法別にまとめたものです。まず、親族内事業承継のケースでは、特になしを除いて、後継者を補佐する人材の確保、取引先との関係維持、後継者に経営状況を詳細に伝えること、が事業を引き継ぐ上で苦労した点として挙げられています。親族内事業承継のケースでは、後継者がどれだけ育っているかに応じて、事業を承継すべきタイミングも異なると言えるでしょう。後継者が十分に育っていて、その自覚があるのであれば、すぐにでも事業を引き継ぐことができると言えます。早めに事業を承継しても、その後、現経営者が会長としてとどまり、指導役として事業承継と同時に補佐役に回るということも考えられます。
他方で、役員・従業員に事業を承継するケースでも、特になしを除いて、後継者を補佐する人材の確保、取引先との関係維持、後継者に経営状況を詳細に伝えること、が事業を引き継ぐ上で苦労した点として挙げられています。役員・従業員に事業を承継するタイミングでは、親族内承継と同様に、後継者がどれだけ育っているかが重要です。後継者が育つまでには時間がかかりますし、役員・従業員に承継するケースでは、本人にきちんと後継者候補であることを伝えて、事業承継をするタイミングまできちんと会社に居てもらう必要があります。親族内承継とは異なり、血の繋がりがないので、途中で会社を辞めてしまう可能性もありますから注意しましょう。
社外への承継を考えるケースで検討すべき要素は、後継者探しにどれくらいの時間がかかるかということです。社外に後継者を探すケースでは、後継者候補を探すことそのものは難しくありません。しかし、自身の会社に合った後継者を探すのは大変難しいですし、それを見極めるのは困難を極めるでしょう。
2012年に中小企業庁が野村総合研究所に委託して実施されたアンケート調査によれば、事業を後継者に承継するのに「ちょうど良い時期だった」と回答する割合が最も高い年齢層は、40~49歳であるとされています。つまり、後継者が40代のときに事業を承継するのが最も良いという結果が出ています。
この調査は2012年に実施されたものなので、もう少し最新の資料をみてみましょう。2022年に改定された中小企業庁が公表している事業承継ガイドラインでは、以下のように、経営者が概ね60歳のタイミングを目安として事業承継を検討すべきとされています。
後継者教育等の準備に要する期間を考慮し、経営者が概ね60歳に達した頃には事業承継の準備に取りかかることが望ましく、またそのような社会的な認識を醸成することが大切である。他方で、60歳を超えてなお経営に携わっている経営者も多数存在するが、そのような場合は、すぐにでも身近な支援機関に相談し、事業承継に向けた準備に着手すべきです。
このように、事業承継のタイミングとしては、現経営者が60歳、後継者が40代というタイミングが最も事業承継のタイミングとしては適していると考えることができます。
事業承継のタイミングは、どのような承継方法で誰に事業を承継するのかによって大きく異なります。後継者が育っていないケースでは、後継者に事業を承継したくともできませんから、3年~5年程度の育成期間を設けなければならないと言えるでしょう。他方で、外部に後継者候補を探す場合には、1年~3年程度で後継者候補を見つけることができるでしょう。ただし、会社に適した後継者候補を探し出すのはたいへん困難であると認識しておかなければなりません。事業を承継する前に、経営の見える化もきちんと進めておく必要があります。これをしないで後継者に事業を承継してしまうと、保有していた経営資源がうまく引き継がれず、最悪失われてしまうケースもあるでしょう。経営の見える化と後継者の育成は事業承継の成否を左右する重要な要素です。これらを十分員行うためには十分に余裕を持って事業承継のタイミングを考えなければなりません。
事業承継の準備については、以下をご覧ください。
EBITDAとは財務分析上の概念の一つで、Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの頭文字をとった略称。「イービットディーエー」「イービッタ」と読まれます。EBITDAは、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて計算される利益を指します。
国によって会計上の利益である純利益に関係する税率や、借入金利、減価償却費の扱いは異なり、EBITDAはその違いを最小限に抑えて利益の額を表し、の収益力を比較・分析する際の指標として用いられます。
統一された計算式はありませんが、以下が代表的なEBITDAの計算式となります。
EBITDA= 営業利益+減価償却費
EBITDA= 経常利益+支払利息+減価償却費
EBITDA= 税引前当期純利益+特別損益+支払利息+減価償却費
EBITDA= 当期純利益+法人税等+特別損益+支払利息+減価償却費
M&Aでは、売り手と買い手が契約の際に「アーンアウト条項(earn out clause)」を締結することがあります。それでは、アーンアウト条項とは一体どういうもので、なぜそのような契約を結ぶのでしょうか。アーンアウト条項の締結はまだまだ日本のM&Aの世界では一般的なものではありませんが、アーンアウト条項を売り手と買い手が締結することによって、M&Aが成立する可能性を高めることができるかもしれません。アーンアウト条項について詳しく解説していきます。
アーンアウト条項とは、M&A取引において、買収金額の一部を対象企業の将来の業績に依存する形で合意する条項です。これは、買収完了後一定期間経過後に、対象会社(売り手会社)が合意した財務目標などを達成した場合に、買い手側が買収金額の一部(アーンアウト部分)を支払うという契約です。
アーンアウト条項は、売り手が買い手の支払い意思額よりも高い金額を要求している場合、売り手と買い手の間の価格期待の差を克服し、オーバープライスや過小評価を回避する役割を果たす場合があります。さらに、売り手や経営陣が取引完了後も事業に関与する場合、アーンアウト条項により、売り手やキーパーソンがターゲット事業の業績に将来にわたって積極的に貢献できるようにすることもできます。
M&Aにおいて、特に外部環境等の不確実性が高い状況下では、企業価値算定はたいへん困難を極めます。たとえば、事業のファンダメンタルズは健全であっても、突然発生したコロナパンデミックのような不確実性は、M&Aの契約価格の下落の圧力につながるものです。このような状況では、アーンアウトが評価のギャップを埋めるのに役立ち、その利用が増加する可能性があります。つまり、不確実な状況下において、M&A契約に寄与するのがアーンアウト条項の本質なのです。
市場が不透明な時期には、買い手は買収価格の一部を繰り延べ、業績を条件とすることを求める傾向があります。不確実性が高いため、売り手に選択肢がある場合(ない場合もある)、アーンアウトの仕組みを受け入れようとしない可能性があるので注意が必要です。
アーンアウト条項には主に2つの種類があります。
1つ目は、企業の経済指標に基づき、キャッシュフロー、収益、EBIT(金利税引前利益)またはEBITDA(金利税引前減価償却前利益)といった基準を用いるものです。2つ目は、「パフォーマンス・アーンアウト」条項で、IPOを達成するなど、与えられた商業的・事業的目標の達成を条件とするものです。また、アーンアウト条項の中には、買い手に有利なリバース・アーンアウトという特殊なものもあり、契約締結時に合理的に予測できた場合に、会社が合意した目標に到達しない場合に価格を引き下げるというものです。
なぜM&Aにおいては、アーンアウト条項付きで契約が結ばれるのでしょうか。以下では、アーンアウト条項付きで契約が結ばれる理由を詳しく説明していきます。
M&A取引の核となるのは、対象企業の評価と、そこから導かれる対象企業に支払うべき買収価格の決定です。当然のことながら、売り手と買い手は、対象会社の評価と買収価格の決定について異なる考えを持っていることがほとんどです。そんなM&Aの世界において、その調整の役割を担うのがアーンアウト条項なのです。
通常、企業価値評価は、割引キャッシュフロー法、すなわち、将来予想される不確実なキャッシュフローを割り引くことに基づいて行われます。これらは、将来の収益やキャッシュフローの予測であるため、売り手と買い手で異なる見積もりとなる可能性があります。
さらに、(i)対象会社が経済的躍進の途上にあるケース、(ii)対象会社が特定の人物に依存しているケース、(iii)対象会社の経済的成功が特定の構造的要因に依存しているケース、(iv) 対象会社の経済的成功が買手のグループ会社とのシナジーに基づいてのみ発生するケースなど、不確実性をもたらす要因は様々なので、対象企業の企業価値評価は簡単なものではありません。
たとえば、ベンチャー企業の将来性について考えてみましょう。一般に、ベンチャー企業の将来は未知数です。成功すれば大きく成長するかもしれない一方、もし事業に失敗すれば大きな損失を抱える可能性もあります。たとえ魅力的な事業を行っていても、将来の不確実性が要因となって、なかなかM&Aの成立に結びつかないケースもあるでしょう。このようなときに、アーンアウト条項を用いて契約を結ぶことで、お互いに納得のいく内容で契約しやすくなるのです。現時点における利益ではなく、将来的な成長可能性を考慮してもらえる点は、売り手にとっても大きなメリットになります。
一方、買い手はアーンアウト条項によりリスクを分散できるという効果もあります。アーンアウト条項を用いることで、少なくとも定められた移行期間中、買い手のサポートを確保し、継続と統合の成功に貢献する動機付けとすることができます。しかし、達成すべき基準が現実的であることに注意しなければなりません。そうでなければ、アーンアウトのポジティブな「ニンジン効果」は得られず、達成不可能な目標はやる気を失わせる結果になりかねません。
アーンアウト条項には、買い手と売り手の双方にメリットとデメリットがあります。アーンアウト条項のメリットとデメリットを簡単にまとめておきましょう。
事業の対価を全額前払いするのではなく、より長い期間をかけて支払うことができる点です。また、収益が期待ほど高くない場合、買い手はそれほど支払う必要がありません。
税金を数年にわたり分散させることができるため、売却に伴う税金の影響を軽減するのに役立つことです。
売り手が長く事業に携わり、収益を上げるための支援を提供したい、あるいはこれまでの経験を活かして自分の思うように事業を運営したいと思う可能性があることです。
将来の収益が高くないため、売却してもそれほど儲からないことにあります。
アーンアウト条項とは、対象企業が契約上合意された目標を一定期間内に達成した場合にのみ、買い手が売り手に購入価格以上の金額を追加で支払うことを約束するものです。アーンアウト条項の本質は、売り手と買い手の価格交渉に柔軟性をもたせることにあります。アーンアウト条項を利用することで、買い手は不確実性を低減しながらM&Aに臨むことができるようになり、売り手は、業績に連動して追加的に報酬を受けることができるのです。このように、M&Aにおけるアーンアウト条項を知っていれば、柔軟性を持ったM&A契約を結ぶことが可能となります。
高齢者人口が増加している介護業界は、現在、苛烈な市場環境に置かれています。そうした状況のなかで、生き残るための手段としてM&Aが盛んに行われています。このコラムでは、介護業界が置かれている市場環境について説明したのち、実際に行われたM&A事例を紹介していきます。
高齢者人口増加にともなって、要介護認定者数は増加の一途を辿っています。高齢者人口が減少に転じるのは、2040年頃とされており、今後も要介護認定者数は増加していくと考えられます。
こうした状況のなかで、介護サービスに対する需要もさらに高まることが予想されます。介護サービスの需要を見込んで多くの会社が介護業界に参入して久しい昨今では、介護サービス業界では苛烈な競争が起こっており、中小事業者にとって厳しい市場環境となっています。
介護業界において、介護事業者の主な収益は介護報酬です。介護報酬とは、事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に対して支払われる報酬のことを言います。
この介護報酬はサービス毎に設定されており、各サービスの基本的なサービス提供に係る費用に加えて、各事業所のサービス提供体制や利用者の状況等に応じて加算・減算される仕組みとなっています。つまり、介護報酬は介護事業者が自由に設定できるものではないため、介護報酬を増やす(売上を増やす)ために、値上げなどを行うことはできません。そのため、介護業界においては、いかにコストを削減するか、あるいは効率的な経営を行うかが重要な意味を持っています。
介護報酬は3年毎に見直されるため、改訂されることで介護報酬が増える可能性ももちろんあります。しかし、こうした事業環境にある以上、大幅な介護報酬の増加は見込めないと言えるでしょう。したがって、介護事業者にはコストの削減が求められます。介護事業者の主なコストは、施設の減価償却費や賃料等の設備関連コストと人件費です。
昨今において、建築費は、資材単価や労務単価の上昇を背景として上昇傾向にあります。さらに、介護サービス従事者の給与については、足元目立った変動は見られないものの、有効求人倍率が上昇していることから、今後賃上げが必要となることも想定され、人材派遣費の増加も懸念されています。
今後、介護報酬が増えれば、事業所様の収入が増加すると考えることもできますが、介護スタッフの給与等も引き上げられる可能性も高まっていることから、必ずしも市場環境が改善されるわけではありません。
市場環境の厳しさに加え、深刻な人手不足や新型コロナウイルス感染症の影響で、介護業界の中小事業者の経営は厳しい状況に置かれています。一方で、高齢者人口の増加によって、今後も市場規模の拡大が見込まれています。
高まる介護需要に対して、介護人材を確保し、規模のメリットを生かすために、大手事業者によるM&Aによって、介護事業の拡大を図る動きが活発化しており、業界の再編が進んでいます。
介護業界において、M&Aによる事業者買収が増加している要因は、そもそも経営者自身が高齢化して、事業承継問題を抱えていることに加え、経営環境の悪化が挙げられます。慢性的かつ深刻な人手不足は、入居者の受け入れ制限や人件費の上昇につながっています。また、コロナ禍において、入居者の感染防止に取り組む必要があることから、コスト増の傾向が強まっており、中小企業が単体では経営を続けるのが難しくなりつつあります。
2022年からは、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となることから、今後も、介護サービスについては中長期の需要が見込まれており、介護業界は今後も規模が大きくなっていく見通しです。こうした状況下において、成長を加速させるためにM&Aを積極的に行う介護サービス事業者が増えています。
M&Aによって会社の売上規模を大きくすることによって、スケールメリットを享受することができるだけはなく、介護サービスに必要不可欠な人材も確保できます。施設の収入になる介護報酬は、国が地域やサービスごとに単価を定めているため、大幅に売上高を増加させることは難しい状況です。そのなかで収益を出すためには、規模を拡大し、コストを削減していくことが重要となります。こうした状況であるからこそ、介護業界においては、大手介護サービス事業者によるM&Aが盛んに行われているのです。
ここからは、介護業界におけるM&A事例を紹介していきます。
2022年6月、ALSOKは、関西電力傘下で有料老人ホーム運営など介護事業を手がける、「かんでんジョイライフ」と「かんでんライフサポート」の2社を子会社化することに成功しました。ALSOKは、この子会社化を通じて、主業である警備事業の周辺分野として育成中の介護事業を強化する狙いがあります。
ALSOKは、国や地方公共団体、各種金融機関、一般事業者向けに、多種多様な警備サービスを提供するほか、個人の顧客にもホームセキュリティをはじめ、安全安心と便利を提供する取組みを進めており、さらに、警備事業を起点として周辺分野への事業領域拡大に取組んでいます。
個人、特に高齢者に対する安全安心を提供するため、2012年にALSOKケア株式会社を設立して介護事業に参入したあと、2014年には株式会社HCM、2015年にはALSOKあんしんケアサポート株式会社、2016年には株式会社ウイズネット、2018年に訪問マッサージの株式会社ケアプラス、2020年に㈱らいふホールディングスを子会社化し、更には同年、三菱商事株式会社と資本業務提携のうえ高齢者生活支援サービス等を行う株式会社日本ケアサプライを持分法適用関連会社化し、介護およびその関連事業を強化しています。
今回のM&Aによって、主に特定施設を中心に高齢者施設・住宅事業を1,200室超規模で展開し、関西4府県(京都、大阪、兵庫、奈良)においてトップクラスを誇る、強固なブランド力を確立するとしています。
「かんでんジョイライフ」と「かんでんライフサポート」が展開する介護事業は、利用者が自分らしい生活を継続できることを重視した、自立者向けを含む高品質な介護サービスを提供し続けてきた特徴があるとしており、今回のM&Aを通じてALSOKに参画することで、介護事業を拡大・強化するのみならず、新たなラインナップ拡充による総合力強化に資するとしています。
2022年4月、SOMPOホールディングス(HD)傘下で介護事業を手掛けている「SOMPOケア」は21日、全国で16の介護施設を運営する「ネクサスケア」を完全子会社化することに成功しました。
SOMPOケアは、M&Aを行った2022年4月時点において、約450の介護施設を運営しており、今後も自社施設の新設やM&Aなどによって規模の拡大を狙っています。提供している介護サービスの価格帯がSOMPOケアの施設の水準に近いことから、M&Aを行うことによって、運営面でシナジーを生みやすいと考え、今回のM&Aに至りました。
もともと、ネクサスケアは、東京や仙台、札幌などの主要都市で、9カ所の介護付き有料老人ホームと、7カ所の住宅型有料老人ホームを運営している企業です。従業員はそのままSOMPOケアが引き継ぎ、施設名なども当面は変えずに運営するとしています。SOMPOケアは、自社でも今後5年間で33棟の介護施設を新設する方針を掲げており、規模拡大に積極的だ。また、こうした動きの中でも安定的に人材を確保するため、賃金改定の実施や研修制度の強化にも取り組んでいくとしています。
2021年6月、ニチイ学館は、LeTechの介護事業を承継する西日本ヘルスケアを子会社化することに成功しました。
もともと、ニチイ学館は、医療関連事業、介護事業、保育事業、ヘルスケア事業、教育(語学)事業、セラピー事業、グローバル事業を展開している企業でした。一方で、LeTechは、2015年11月に住宅型有料老人ホーム「サンライフ栗東」(滋賀県栗東市)を開設して以来、順調に拡大を続け、滋賀県、京都府及び大阪府に、合計7施設の住宅型有料老人ホーム、グループホーム・小規模多機能型居宅介護及びサービス付き高齢者向け住宅を運営していた企業です。今回のM&Aを通じて、施設利用者や展開地域へのサービス供給を安定化し、グループの中長期的な企業価値向上を図るとしています。
介護業界は厳しい市場環境に置かれています。それでもM&Aによって再編が起こっている理由は、市場規模の拡大が今後も見込まれているからです。こうした市場環境においては、介護事業者が、さらに効率化やコスト削減を推し進めるべく、M&Aが盛んに行われるようになっていくはずです。特に中小事業者は、厳しい状況に置かれており、大手事業者とのM&Aによってその傘下に入ることが多くなっていくことでしょう。
その他の業種・業界別の事業承継/M&A(事業買収・売却・提携)の特徴・動向や事例はこちら
株式譲渡とは、M&Aにおける手法のひとつで、売り手企業の既存株主が既存の発行済株式を買い手企業または個人に譲渡し、経営権を移行する方法です。買い手企業はその対価として現金を支払います。
会社が持っている債権債務、契約関係等はまるごと全て引き継がれます。既存顧客や従業員が理解して、事業継続ができる状態であれば、対外的には株主が変更の他に大きな変更はありません。
株式譲渡は、続きが比較的簡単なことから中小企業のM&Aにおいても多く利用されます。
株式の過半数もしくは(特別決議が可能となる)3分の2以上を売却し、経営権を譲渡する方法としても用いられます。
関連ページ:M&A(エムアンドエー)とは? M&A実行の流れと利害関係者・手法別のメリット・デメリットを徹底解説
https://ma-guide.jp/column/ma_stakeholder_scheme/