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レーマン方式とは?~M&Aにおける報酬はどのように決まる?~
NEW レーマン方式とは?~M&Aにおける報酬はどのように決まる?~

はじめに

中小企業経営者の高齢化に伴ってM&Aを利用した事業承継が活発に行われています。中小企業にはM&A取引を行うだけのリソースが限られているため、M&A仲介業者にM&A取引を委託するのが一般的となっています。

一方で、M&A仲介業者に支払う報酬(手数料)の不透明さや不公正さが問題となっています。M&A仲介業者ごとに、中小企業側が支払うべき手数料が異なっていて、“中小企業側がその報酬額が妥当であるかどうかが判断できない”ことが大きな問題となっているのです。M&A仲介業者が利益を得る方法は様々です。取引ごとに定額で手数料を徴収する方法、取引額に応じて手数料を得る方法、あるいはその両方を組み合わせた方法などがあります。

結果として、M&Aにおける手数料の算定方式の標準化を目指して、近年では手数料の算定方式が一定程度整備されました。M&Aにおける手数料の算定方式としては「レーマン方式」と呼ばれる方式が広く実務に浸透しています。

今回は、M&Aにおける手数料の算定方式である「レーマン方式」について詳しく解説していきます。

レーマン方式の由来 〜M&Aにおける報酬を計算する〜

レーマン方式によるM&A仲介業者の報酬計算式はもともとリーマン・ブラザーズが顧客のために事業資金を調達する際に使用するために1960年代後半に開発されたものです。英語圏はLehmann Formulaと呼ばれており、英語圏の発音に則ればリーマン方式と呼ぶほうが妥当でしょう。

それでは、なぜ日本ではレーマン方式という呼び方となっているのでしょうか。

その理由は、日本においては、レーマン方式は「ドイツの経営学者であるレーマンの学説を応用した成果配分方式」として説明されているからです。

しかし、日本でレーマン方式について説明したもののなかに、レーマンの学説を説明したものは一切ありません。そもそも、レーマンは企業の業績である売上高・付加価値・営業利益・経常利益等を労働者の貢献度合いによって付加価値を計算する計算式を提示したに過ぎません。

英語圏の資料を紐解けば容易にわかるように、レーマンの学説を応用した成果配分方式であると説明しているものはなく、レーマン方式はレーマンの学説に由来するというのは根拠のない説明であることがわかります。英語圏では、リーマン方式の由来はリーマン・ブラザーズが開発したものであるという説明が有力です。

もともと、グローバルな投資銀行サービスを提供するリーマン・ブラザーズはサービスに対する手数料を顧客に明確に伝える方法を必要としていました。レーマン方式の利点は、誰にでも理解しやすく、顧客が取引でどれだけの手数料がかかるかすぐに概算を知ることができる点にあります。その後、レーマン方式による報酬の計算は、ビジネス・ブローカー、M&Aアドバイザー、投資銀行家、その他あらゆる規模の事業売却の仲介を行う専門家に支払われる手数料を計算するために広く適用されるようになりました。

リーマン・ブラザーズがレーマン方式による計算式を開発する以前は、金融機関によって手数料が大きく異なり、なかには手数料が総額の15%以上に達するケースもありました。

この報酬方法は、バラツキのある手数料を標準化する方法として1990年代まで広く利用されています。レーマン方式による計算式は、もともと100万ドル以上の取引に適用され、次のように計算されていました。

  • 最初の100万ドルの5%
  • 2回目の100万ドルに対して4%
  • 3回目の100万ドルの3%
  • 4番目の100万ドルの2%

このように計算していき、400万ドル以上の取引については1%の手数料となります。レーマン方式では、投資銀行手数料は取引額に対するパーセンテージで構成され、段階的な手数料が設定されるのが普通です。

レーマン方式による報酬計算の実情

レーマン方式を利用した報酬計算は、2020年3月に中小企業庁が公表した『中小M&Aガイドライン』でも説明されています。そこでは、「レーマン方式は、「基準となる価額」に応じて変動する各階層の「乗じる割合」を、各階層の「基準となる価額」に該当する各部分にそれぞれ乗じた金額を合算して、報酬を算定する手法」とされています(中小企業庁『中小M&Aガイドライン』p.46)。

中小M&Aガイドラインに掲載されているレーマン方式の例

出所:中小企業庁(2020)『中小M&Aガイドライン』p.46

M&A仲介業者は、M&A当事者である譲渡側・譲受側双方と契約締結の上、譲渡側・譲受側双方に対して手数料を請求するのが普通です。レーマン方式による報酬計算は、標準化された計算方式ではあるものの、「基準となる価額」について決まった額があるわけではありません。「乗じる割合」についても同様です。

したがって、各M&A仲介業者によって基準となる価額、乗じる割合は異なることになります。レーマン方式による報酬計算は、こうした体系表をM&A取引の当事者に事前に提示することができるため、透明な手数料設定が可能となり、M&A取引の当事者である中小行経営者も納得しやすいというメリットがあります。

一方、M&A仲介業者にとっては、売り手側の提示額が小規模である場合、「基準となる価額」が小さくなることから、十分な成功報酬を確保できないケースがあるというデメリットがあります。通常、M&A仲介業者は、こうしたリスクを未然に防ぐために、別途最低手数料を設けているケースが多いです。

報酬の計算には、レーマン方式以外にもいくつかの計算方法があります。たとえば、会社を売却する価格の目標値を設定して、この評価額に対する基本的な報酬を売り手との間で合意しておくものの、それ以上の価格で売却することができれば、M&A仲介業者は順次高い報酬を得ることができる、という「スケールドパーセント方式」です。

たとえば、800万ドルで売却した場合、3%の手数料を得ることができるものの、900万ドル以上で売却した場合、手数料は3.5%に跳ね上がり、1000万ドル以上で売却した場合は、最高で4%となるようなケースです。この報酬体系はM&A仲介業者が最高価格を付けてくれるような買い手となる企業を見つけるインセンティブを与えるものです。ただし、日本の中小企業に対してM&A仲介業者は買い手・売り手の両方から報酬を得ているため、スケールドパーセント方式はあまり用いられていません。

おわりに

レーマン方式によるM&A仲介業者の報酬計算は、報酬の透明性と公正性を担保するための一つの方法に過ぎません。レーマン方式は、日本では、ドイツ経営学由来の計算方式であると説明されることが多いものの、英語圏では米国由来の計算方式であると説明されています。結局のところ、M&A仲介業者の報酬を透明あるいは公正にするというのは非常に難しい課題です。「〜%以上の報酬を受けてはいけない」というルールを作っても、それはM&A仲介業者の競争を阻害する可能性があり、M&A業界の健全な発展を妨げる可能性があります。したがって、現在は、中小企業庁が『中小M&Aガイドライン』を公表して、M&A仲介業者の報酬に一定の制限をかけています。M&A仲介業者もガイドラインを積極的に守ることでM&A仲介業者を利用する中小企業が安心して取引を依頼できる環境作りが行われており、M&A業界の健全な発展が期待されています。

 

M&Aの基礎知識
2022/05/18
社長が「会社売却」を真剣に考える理由は?よくある売却理由5選
NEW 社長が「会社売却」を真剣に考える理由は?よくある売却理由5選

 はじめに

経営者(社長)が会社売却や事業売却を考える理由としてどのようなものがあるでしょうか。

自分のビジネスを持つことは、非常にやりがいがあり充実したものですが、いつかは出口戦略を検討しなければならないときがきます。会社や事業を売却するという決断は、会社にとって重要な選択のひとつです。会社や事業を売却するタイミングは事業価値がピークに達したときや事業を良いタイミングで引き継げるときに合わせるのが理想的ですが、それを予測するのは困難です。この記事では経営者が会社売却や事業売却を考える理由を5つ紹介していきます。

社長が会社売却を考える理由

経営者が自分の会社や事業の売却を考える理由は様々です。経営者の個人的な事情である場合もあれば、会社が置かれた事業環境の影響の場合もあるでしょう。以下では、経営者が会社・事業の売却理由として挙げることの多い順に説明していきます。

売却理由①:後継者不在による事業承継

経営者が会社売却を考える理由として最も多いのは後継者が不在であるためです。個人事業主である場合もそうですが、特に、従業員を抱えているケースでは簡単に会社をたたむこともできないので、事業を承継しなければなりません。この場合、後継者を探して事業を承継しなければなりませんが、そのときに用いられるのが、「経営者が保有する株式を売却して事業を承継する」という方法です。つまり、経営権を企業外部あるいは内部に譲渡して会社を存続させます。そして、自身は会社経営から退く、またはアドバイザーとなります。近年では、特に中小企業において、経営者の高齢化とともにどのように事業を継続させるかが問題となっており、その際、後継者がいないことが大きな問題となっています。

売却理由②: 創業者利益の獲得

創業者が保有する株式を売却して利益を得る目的で会社売却を行うケースもあります。一般に、これは創業者利益の獲得目的の会社売却と呼ばれます。創業者利益とは、会社の設立に際して株式を引き受けた創業者が、自身が保有する株式を株式市場に売りに出した際に獲得できる、株式の時価と払込額面価額(取得原価)との差額を言います。

創業者は会社が利益を獲得するために事業を展開し、事業が獲得した利益から従業員・サプライヤー・負債・税金などあらゆる支払いを行っています。そのためには、多くの労働時間と知力を捧げなければなりません。創業者は、事業を展開し始めた頃、積極的にリスクをとって事業を成長させようとするでしょう。なぜなら、失うべき会社の価値がまだあまりないからです。創業者がビジネスを成長させたいのであれば、リスクを取ることは重要なことです。しかし、会社が大きくなるにつれて、会社の価値も大きくなります。会社の価値が大きくなると、それを毀損する恐れから経営者が大きなリスクを忌避し、より保守的になる場合もあります。

多くの人が自分のビジネスを持つことを夢見ますが、ひとたびそれが現実となると、その仕事量に圧倒されることになるでしょう。その結果として、燃え尽きてしまうということも少なくありません。多くの経営者は、事業の繁栄のために人生を捧げてきたのですから、その成果を享受するのが当然です。また、ビジネスを売却しても、パートタイムのコンサルタントとして残ることで、趣味を楽しみながら、ビジネスをより身近なところで支援する経営者もいます。年齢を重ねた創業者は誤った戦略の修正に何年も費やしてダメージコントロールするような余裕はもはやないため、会社を失いかねない危険な状況を避けるようになるでしょう。こうした場合、創業者は、常に投資からの撤退(事業からの撤退)を考えているはずです。

それは、会社が悪い状況にあるからではなく、それが個人的に賢明なビジネス上の決断だからです。こうした理由から、創業者利益を獲得するために、会社を売却する場合があります。

売却理由③:「先行き不安」と「業績不振」

会社の将来性に不安を抱えていたり、会社の業績が不振だったりするケースでも、経営者は会社売却・事業売却を検討するでしょう。経営者が会社や事業の売却を考えていないときでも、個人・グループ・他社から魅力的なオファーがある場合もあるかもしれません。

会社の将来性に不安があり、経営者自身の能力や熱意ではどうしようもないケースや、業績不振が続いていて、経営者としての資質が疑わしいときに、経営者は会社から身を引くことを考えた方が良いケースもあります。

不透明な事業環境におかれた会社であればあるほど、経営者は、将来にわたって独力で会社を運営していくことに不安を感じ、資金力がある大手企業の傘下に入ったほうがいいと考えることになります。その方が、会社のためにも会社で働く従業員のためにも良いとの判断のもとで、会社や事業の売却を検討することになるでしょう。

売却理由④:戦略的撤退〜「選択と集中」〜

ある事業の業績不振が続いているケースでは、戦略的にその事業からの撤退を考え、事業売却を検討する経営者もいます。ただし、戦略的撤退は、決して後ろ向きの決断ではなく、業績不振の事業以外の事業に集中し、会社を守るための前向きの決断であると考えるべきです。

この場合、経営者は、選択と集中という戦略のもとで、事業の売却を考えることになります。選択と集中とは、不採算事業を売却して、成長事業に集中して経営資源を投入する戦略のことです。より大きな競争力を持つ新しい経済プレーヤーの出現は、自社のビジネスを脅かす可能性があります。このような場合、競合他社に顧客と市場を奪われるのを待つよりも、その会社が存在し続ける間に売却する方が賢明な選択となる可能性があります。そのため、経営者は選択と集中戦略のもとで戦略的撤退を行うために、会社売却を検討することになるでしょう。

売却理由⑤:「会社の発展」と「社員の将来」を考えて

複数の競合他社が存在する市場において、中小企業や個人事業主の規模は小さく、市場シェアや売上を大きく伸ばすことができないため、事業の将来性が見込めないということがよくあります。

このような場合、現実的に考えて、経営者は成長するための競争力を得るために、事業提携や合併などのかたちで会社に競争力をもたらす必要があります。つまり、今後競争力を高めることが難しいということです。もし、大企業の顧客基盤が利用できるようになれば、より大きな仕事ができるようになりますし、資金提供を受ければ、より事業を成長させることができるかもしれません。この場合、経営者は経営権を譲渡して会社を成長させようとするのです。もし、経営者が今後自身で会社を成長させるための戦略上の決断を下すだけの能力、活力が自分にはないと考える場合、最善の方法は、良い買い手を探し、会社を売却することです。つまり、会社の発展や社員の将来を考えて会社を売却することも、経営者は決断しなければならないケースがあるのです。

幸せな社員・会社

まとめ:社長が「会社売却」を真剣に考える理由

経営者であれば、普段の会社経営と同じくらい真剣に会社売却の戦略を立てておかなければなりません。ネガティブなイメージで捉えられがちな会社売却ですが、会社のために会社売却を決断しなければならないケースも多くあります。会社を存続させるために自ら身を引かなければならないケースもあるでしょう。会社売却をネガティブに捉えるのではなく、会社を存続させるための有効な手段として捉えておかなければなりません。

会社を売る場合の相場はどれくらい?企業価値評価算出の方法の解説はこちら

M&Aの基礎知識
2022/05/18
【M&A成約事例】根本製作所様×キヨシゲ様インタビュー
【M&A成約事例】根本製作所様×キヨシゲ様インタビュー

Profile

譲渡企業:株式会社 根本製作所
代表取締役 根本豊太郎 様

群馬県太田市にて建設機械、産業機械、原動機、重工・重電等の部品製造を行う。(溶接加工、機械加工、ショットブラスト、塗装他)

譲受企業:株式会社キヨシゲ
代表取締役社長 小林光徳 様

鋼板・鋼材流通に関する豊富な経験・ノウハウと最新情報に高度の加工技術をミックスさせ、 お客様のニーズに対して鐵の「販売」から「加工」「スクラップ回収」までの理想的なワンストップ・ソリューションを実現。鐵にはめっぽう強い会社。


長年、同地域への進出を目指していた株式会社キヨシゲの小林社長と、過去のM&A提案は断っていた根本製作所の根本社長。今回のお話は、二人の経営者同士が直接出会うことにより、歯車が噛み合い動きはじめました。

譲り受けた株式会社キヨシゲ、譲り渡しをされた株式会社根本製作所の両社の社長にお話を伺いました。


今回のM&Aご成約までの流れについて教えてください。

小林:根本社長と初めてお会いしたのが2021年9月半ば、12月28日に登記を済ませクロージングしました。

2022年1月から正式に根本製作所がキヨシゲグループに参画いただき新体制がスタートしました。 通常のM&Aの流れは、秘密保持契約から始まり、譲渡契約書締結、それに基づいて登記、と進んでいくじゃないですか。

ところが、今回9月よりお話が始まってからすぐの段階で、「ぜひ、一緒にやりたい」とお互いの気持ちが確認できていたので、年内中に全部手続きをしてしまおうと思い、M&A実行を前提に早い段階で、譲渡契約まで一気に結びました。ただ、念のために、進行する上で見直しの選択肢を残すために、譲渡契約書には解除条件を盛り込んだ上で結びました。お互いに難しいところが出てきたら、都度見直しやペンディングをしましょう、と。

買い手様(キヨシゲ)の事業内容を簡単に教えていただけますでしょうか。

小林:私たちは、鉄板を主体にした鋼材販売・加工、そして、加工する中で出てくるスクラップの売買や産廃物の収集運搬という、大きく分けると3分野で事業展開しています。鋼材、鋼板にはさまざま種類がありますが、弊社では種類豊富に幅広い商材を取り扱っています。特に、中板・薄板といわれる鉄板が多いことが特徴のひとつです。

加工については、一般的にプレス屋さん・板金屋さんというような言われ方もしますが、弊社はその両方の機能を有して、顧客の幅広い要望に応えています。具体的には、鉄板を切る・穴を開ける・曲げる・溶接するなどを行います。アングル、チャンネルと呼ばれる構造用材なども加工します。

また、「鉄」は99%以上リサイクルされる資源ですので、リサイクル循環としてのスクラップ売買も行っています。私たちがスクラップの発生する企業から仕入れて、電炉メーカー・高炉メーカーに販売し、メーカー側で鉄を再生して再び世に送り出してもらうという循環です。そしてこの営みの中では、リサイクルができない産業廃棄物も出てきます。私たちは許認可を受け、これら産業廃棄物の収集運搬業も行っています。

何かものづくりをするときには必ず、素材の仕入れという川上から、処理という川下まで一連のフローがあり、そのフェーズごとに専業的に事業を行う企業が多いですが、弊社の場合はこれをワンストップで行っています。ワンストップで行うからこそ、前工程・後工程を俯瞰してどうしたら品質や効率があがるかなど、フェーズごとに事業を行っている中では見えづらい総合的なノウハウが蓄積されます。総合的にさまざまな提案ができるので、お客様には便利に使ってもらいたいと思っています。絶えず弊社がサポートに入ってお手伝いしていくっていうのが、ひとつのコンセプトですね。

手前味噌にはなりますが、他社でなかなかこういったモデルで事業展開しているところはなく、弊社のオリジナリティーとして評価をいただいております。

川上から川下まで全部やってくれるから便利だよね、というのは「言うは易し、行うは難し」ではないかと思いますが、事業を行う難しさはどのような点が挙げられますか。

小林:私たちはお客様の要望に応じて、自分たちのできるサービス領域を増やしていくスタイルなので、絶えずお客様に耳を傾け、いただく要望をどうやって実現していくのかというところに難しさとやりがいを感じています。

もともと弊社は、現会長が個人で創業し、最初はスクラップの回収業から始めました。 スクラップをお客様のところに買いに行くと、「スクラップは出すけど、実は材料が足りないから、安い材料があればもってきて欲しい」という新たな要望をいただく。そのニーズに応えるために、私たちは、スクラップを売ってもらうために材料を一生懸命探して、買って持っていきます。こうして、材料屋の仕事にも領域を拡大していきました。

そして、材料屋をやっていると、今度は「材料そのままではなく、使いやすいように切ってもってきてほしい」とご要望をいただく。そして機械をもち、加工業も始める、と。そうすると「プレスの仕事を手伝ってくれないか」という話がでてくる。

また、大量生産時代から少量多品種時代へと移行してきたときには、板金の仕事も舞い込んできました。その中で、例えば、「切るだけじゃなくて溶接もやってほしい」「鉄板だけじゃなくて形鋼もやってほしい」という声もでてきたため、設備投資して、どんどん業務領域を増やしてきました。

私たちがこうしたい、というよりは、お客様のお考えやご要望ありきで自分たちを変化させています。変化に対応していくうえで、機械や人への投資をどう回収するかなど、常に考え頭を悩ましますが、そこに難しさとやりがいを感じますね。

キヨシゲ小林さん

これまでにもM&Aのご経験があると伺いましたが、どんな経緯だったのでしょうか。

小林:当初、形鋼加工については、自前で賄うのではなく、他社にお願いして買っていました。ただ、その形鋼加工会社の東鋼商事株式会社が後継者不在で「社員や設備を引き継いでくれないか」という話をいただいて、私たちが引き継ぐことになりました。たまたま、私たちの隣の会社だったのですよ。

これが実は、弊社初のM&Aになります。引き継いだときはM&Aをしている意識はなかったですが、後から振り返れば、「え?これがM&Aなの?」という話になって(笑)約20年前になりますが、最初のM&Aは形鋼加工の会社を引き継ぐ、という形で行いました。

なるほど。御社初のM&Aは能動的に仕掛けてM&Aをするというよりは、仕事を引き受けていく中でつながった取引先との事業承継だったのですね。

小林:はい、最初は全く意識していませんでした。「M&A」っていうのは何千億円単位で、世界的大会社が行うイメージしかなかったので。

2回目のM&Aは、プレス事業を行う会社でした。もう4、50年くらいお付き合いをしている取引先の株式会社田中鉄工所でした。本件も後継者不在ということで、引継ぎのお話をいただきました。弊社が行っているプレスは板厚が薄いものでしたが、田中鉄工所では厚いものを取り扱っていました。また、プレス後の「削る」、「溶接する」の工程を行える設備とノウハウを有している会社でもありました。私たちは、当時プレス後の工程を社内で行っていなかったのですが、田中鉄工所のグループインによって新たに請け負えるようになります。板厚の薄いものから厚いものまで取り扱えるようになり、加工の後工程も一貫して行うことができる体制が整い受注の間口も広がるだろうと。

田中鉄工所としても、プレスの設備やノウハウなどの消滅を防げ、従業員雇用や取引先との関係が継続できるという資産が守られ安心できる。ということで、お互いにメリットのあるいいお話だなと思い、引継ぎを決断しました。

キヨシゲ様としては顧客ニーズへ幅広く応えるために事業領域を拡大されてきたということですが、今回のM&Aに至った背景や、課題感などを教えていただけますか?

小林:大きく3つあります。
ひとつめは、取引先が北関東地域に増えてきたことです。

ここ10年ほどで、群馬県・栃木県などの北関東のお客様が増えてきたため、まずは、営業機能のみを持つ北関東営業所を作りました。しかし、お客様と安定した関係構築をして、本質的に喜んでもらえるような状況には一歩及びませんでした。それで、私たちがこの地域に根を張って仕事をしていくという姿勢をより積極的に示さねばならないと感じ、北関東にしっかりした拠点が欲しいと考えるようになりました。

そこで、工場を探し始めました。ただし、工場という設備だけがあっても、すぐに営業ができるわけではなく、働いてくれる従業員がいないと運営もままなりません。北関東の地域でその両者どちらも満たす会社があるのなら、M&Aという形で一緒に事業を行うという判断もあり得る選択肢だと思いました。

そして、2つめは自然災害などで起こりうるリスクの分散です。BCP(事業継続計画)という観点ですね。もともと、弊社は本社のある千葉県浦安市で事業展開し、近隣から領域を増やしてきました。拠点は浦安に4か所ありますが、近年は浦安でも自然災害が目立ってきています。2019年に浦安に大きな台風がきて、弊社設備も被災してしまいました。設備の屋根に穴が開いて、約600トンの鋼材がびしょ濡れで錆びてしまい、品質ダウンとなってしまいました。このような災害で、もし、設備機械が壊れてしまいでもしたら、それこそお客様に大きな迷惑がかかってしまう。

だから、(千葉と)同時に同じ自然災害が起きない場所へ機能を分散する必要があります。リスク分散できるもうひとつの拠点をもつことは、取引先のお客様に安心してもらえるひとつの方法じゃないかと考えました。このような背景で、北関東という場所を検討していました。

最後に3つめは、自分たちの仕事の領域を広げていけるようなノウハウをもつ会社が望ましいと考えていました。1社目のM&Aの際、新たに形鋼のノウハウが弊社に入ってきたときに、既存事業と相乗効果を発揮して効率化が図れました。例えば、溶接加工の効率化と、その前のブランク加工の仕方は密接に関係しており、双方の機能を有することで見えてくる業務効率化のノウハウがあります。それは、「溶接」という過程を自分たちでやらなければ見えてこないことでした。カバーできる業務が増えるにつれて、新しい視座が増え、そこから発想の転換が生まれます。

すると、ますます改善活動がはかどるので、お客様にその分有意義な提案ができ、よりお客様と同じ方向を向いて事業を行えるのです。非常に良い形でM&Aの効果を出していくことができた過去の経験も踏まえて、今回のM&Aの検討では、「相乗効果を生むノウハウ」と「ある程度広い工場」という観点から、どこかにいい出会いがないかなと「北関東地域」を見ていました。

―― 何年くらい探されていたのですか?

小林:3、4年くらいですかね。もっと、かもしれないです。コロナ禍では、時間がぱっと過ぎてしまった感覚なのでうろ覚えですが…。コロナ前の段階から、この地域の事業者さんを羨ましいなと思って見ていました。とはいえ、なかなかどうしていいかわからない状態ではありました。

そのような課題から、弊社のソーシング(お相手様探し)の支援サービス「アクティブオリジネーション」をご利用いただいたということですね。他社のM&A支援会社からもお声がかかっていたと伺いましたが、弊社のサービスを選んでいただいた理由は何でしょうか。

小林:今まで、2社M&Aをしたというお話しをしましたが、1社はお隣だし、もう1社も先代(現会長)が、駆け出しの頃から通ってお取引をしていただいていて、私も大学生の頃にアルバイトで毎日のように伺っていた4、50年のお取引のある会社と、どちらも親戚のような会社でした。

こういうご縁があったからこそ、丁寧な事業の引継ぎが成立したと考えています。

ところが、外からくるM&A支援会社の営業は、自分の会社に対し愛情を注いで育てている経営者に対して、少し乱暴じゃないかと思うコミュニケーションが散見されることもあり、正直あまり良いイメージがありませんでした。会社を商品のように扱うといいますか…。これは、頼めないなと。

だから、現在取引している銀行からM&Aや事業承継の案件紹介の話があれば話を聞こうという、受け身の体制だったのですよね。しかしながら、受け身でいてもいいお話はなかなかない。そんな中、ティールバンクの桃井さんとお会いしてお話を聞いたら、このような悩みを丁寧にサポートしてくれそうな気がして、まずは相談させてもらいました。

ティールバンクの「アクティブオリジネーション」というサービスを伺う中で、「攻めのM&A」という言葉がありました。私自身がそれまで受け身でいたからこそ、この言葉を重く受け止めましたが、確かに、待っているだけで、希望するような良い出会いはないですよね。手を広げているだけで、自分の希望するものが落ちてくるなんてことはないだろうな、と。こちらからアクションを起こして一生懸命、誰かいないかなと探しに行かなきゃいけないな、と気持ちを「攻め」に切り替えました。

ただ、だからといって自分たちでM&Aの専任社員を採用して、従事してもらうのは、パワーがかかるので非常に大変です。それであれば、すでにノウハウを有しているティールバンクさんにお願いしようと思いました。アクティブオリジネーションのように、成功報酬ではなく着手金がかかったとしても、社員採用するコストと比較すれば、リーズナブルだと判断しました。

―通常M&A仲介会社だと、相手探しと呼ばれるソーシングの部分と、マッチング、その後の交渉や手続きを行うエグゼキューションというプロセスまで、ひとくくりのサービスが多いですが、私たちはソーシング特化型のサービスをご案内させていただきました。クロージングのサポートがない不安はなかったでしょうか。

小林:不安はなかったですね。過去2回M&Aを行った際には、取引銀行に全部サポートしてもらっていたし、弊社監査役の公認会計士もM&Aには慣れていて、ノウハウがあったので、全く不安はありませんでした。むしろ、「本当にいい出会い」に特化してプロデュースしてもらえるというのはありがたく、魅力を感じました。

― ありがとうございます。アプローチを届けることに価値を置くサービスを利用して良かった点を教えていただけますでしょうか。

小林:私やうちの社員が、直接会社に出向いて、いきなり「会社を売ってくれませんか?」なんてことは言いずらいし、相手からしても当然驚くと思うのですよ(笑)

そういった意味では、ティールバンクの桃井さんみたいな誠実な方が、相手の失礼にならないように、傷つけないように、私たちに代わって意向を伝えてもらったということには大変感謝しています。

また、桃井さんにはエリア・業種などをキーワード的にお伝えして、企業の候補を出してもらったのですが、これもやはり我々が自分たちで調べたところで、調べきれないと思います。私たちの希望に沿いマッチングするよう、調査いただけたというのは、プロにお願いして良かった点です。

今回、短期間での成約でしたが、桃井さんにオープンネームの方が良いというアドバイスをいただいたことがとてもよかったと思います。
どこの誰なのかを隠して、覆面(ノンネーム)で話を進めていくのではなく、ある程度早い段階で「キヨシゲ」という名前を出して、具体的に素性をはっきりさせてお話をした方がいいと。こういうお作法みたいなものは僕らも分からない部分ですから、どうしたらいいかわからずビクビクしていました。そこをきめ細やかにサポートをしてくださり、背中を押してくれたことは非常に感謝しています。

そして何より、根本社長がお考えになっていることをストレートに話をしてくれたため、すごく打ち合わせしやすかったです。

今回M&Aについて全体的なご感想をお聞かせいただけますか。

小林:はい、やはりM&Aというものは打算的に取り組んでも、なかなかうまくいかないと思うのですよ。本当に何て言うのかな…運命的な出会いのようなものだと思っています。リストアップされた1社1社ホームページを見ていたら、根本製作所さんは立地も素晴らしく敷地も広くて、事業内容も私たちの事業の延長線上でした。まさに、商品に仕上げていくためのフローでいうと、私たちの次のプロセスの仕事をしていらっしゃる。

今まで私たちがお客様の要望に応えられなかったことを、根本製作所さんと一緒にやればきっと実現できると思いました。前工程である私たちのパーツを安価に根本製作所さんに提供することで、根本製作所さんの収益にも貢献できる。これはすごい、と思いました。

ということで、ティールバンクさんから根本社長にラブコールをちゃんと届けていただいて。
こうして一緒に事業展開することが決まり嬉しく思っています。運命的だったと思っています。

直接やりとりをし、早い段階で相互理解ができたということが、ポイントだったのですね。

小林:はい、そうですね。本当に早い段階から自社の考えることをすり合わせることができたため、短期間ながらも有意義な時間の使い方で早期成約につながったと思います。 また、やはりどんな業種で、どんな事業をやっているかなど、会社の表面的な情報というのはもちろんありますが、最終的には「人」だと思います。

例えば、M&Aの話がまとまったとしても、従業員が退職したり、非協力的であれば事業を進めていけません。根本社長とお話しする中で、私たちのグループの一員となったあとでも、積極的な協力体制・信頼関係が構築できると感じましたし、最後の決め手は「人」ですね。

根本社長が「資本がキヨシゲになったとしても引き続き頑張る」といってくださったことと、根本製作所さんの従業員の方がたにも、本件についての丁寧な説明をしていただいたことが一番ありがたかったですね。

大筋の方向性の合意ができている中で、月日が過ぎ、3月となってしまったら決算もありますし、後手に回るよりは、1日でも早いほうがいいですね!と、お話しを進めていきました。 根本社長には、引き継ぎに必要な手続きを急ぎで行っていただいたので、株式の譲渡手続きなどの事務周りでご迷惑おかけした部分もありますが…。おかげで、お客様に対してグループインや、グループでの新しい取り組みを遅滞なくご案内することができました。

その結果、もうすでに両社で協調しながら製作・出荷を済ませている商品などもでてきています。(2022年1月末日現在)

M&Aの実行直後にすでに現場レベルでの成果がでているのは、素晴らしいですね。

小林:
はい、本当に社員のみなさんに積極的にやっていただいたからだと思っています。一緒にやったら効果があがるだろうと当初から思ってはいましたが、本当に期待していた以上ですね。

―では、ここから売り手様、根本社長にお伺いします。まず、会社の事業内容を教えていただけますでしょうか。

根本:主に、厚板の溶接及び機械加工を行っています。業界でいうと、6ミリから上になると厚板というのですが、うちの場合ですと12・16・19ミリというような板厚がメインで、もっと厚いと90ミリとか100ミリもあります。建設機械メーカーさんの部品が取り扱いの比率としては大きいです。

キヨシゲさんとの関わりの点でいうと、キヨシゲさんが切ったり、曲げたりして作った小さなパーツを、私たちが大きな厚い板にアセンブリー(組み立て)し、溶接して作り込んでいく作業をしています。祖父が創業し、父からバトンを受け引き継いで事業運営してきました。

譲渡を考えられたきっかけは何でしょうか。

根本:はい、正直に言ってしまえば、私個人の力だけで、この事業を継続するのは厳しいのではないかと思っていたためです。

譲渡をご検討しはじめたのはいつごろだったのでしょうか。また、検討の中で他のM&A支援事業者からのお話も伺っていたとのことでしたが、お相手探しや引き継ぎへの取り組みをどのように進められようとしていらっしゃったのでしょうか。

根本:検討をし始めたのは、実はお声がけいただいた頃の9月です。だから、本当に運命的なのですよ。

まさに小林社長がおっしゃったように、弊社にもM&A支援事業者から営業はきましたが、やっぱり少し乱暴に感じるのですよね。モノの売買のような…。もちろん大きい会社の戦略的な売買の中で、企業をモノとして見るのはある意味正しいのかもしれないですけれども、私たちのような創業一族がやっている会社は、そんな風に見られるとやっぱり違和感があるのです。

そして、引継ぎの取り組みに関してですが、私がM&Aでお願いしたい希望としては、たった2つだけでした。とにかく、大事なのは「従業員の雇用を維持する」こと。そして、「私たちの設備を有効活用してほしい」ということです。

ところが、私が聞いたM&A事業者さんは「企業価値をいかに高くアピールして、経営者さんにどれだけのお金を渡せるか」ということを、メインに紹介するのがほとんどでした。この設備を活用して、従業員を生き生きとさせてくれるための提案をしてくれるところはなかったのです。

失礼ながらティールバンクさんが、文字通り従業員と設備をフル活用させますよと言ってくれたわけではないのだけれども、早いうちに企業名を教えてくれた上でお話をしてくれて、私なりにキヨシゲさんを調べたら、その2つの希望が十分満たせるだろうと思ったので、お話を前に進めようと思いました。

― はじめに、買い手の小林社長には、ぜひオープンネームで進めたほうが良いとお話しさせていただきました。弊社としても、覆面でお声がけすると業界や地域など一定のセグメント情報でしかお声がけができず、会社が持つ独自の魅力が伝わらないことが多分にあり、共に具体的な未来を描こうにも描けない、というようなもどかしさがありました。お互いより近い距離で温度感が伝わるように話していただければ、きっとうまくいくと思っていたので、まさにオープンネームを評価して頂けて嬉しく思います。

根本:本当にそれが、今回役に立ちました。

キヨシゲさんに決められたポイントは、どのようなところだったのでしょう。

根本:小林社長とお話しをさせていただいて、小林社長が持たれている会社のビジョンを聞いて、そのビジョンの中に入れば、根本製作所は息を吹き返すのかな、と思いました。息を吹き返すだけでなくて、キヨシゲさんとしても成長する過程で、弊社従業員の技術や設備がフルに活用されるのだろうと強く感じられました。

どうしても仲介の方が挟まると、直接話をせず、仲介業者を介してのお話になることが多いと思いますが、早めに小林社長とのご面談をセッティングいしてただいて“直接”ビジョンや思いを聞けたというのは、本当に良かったと思っています。

早めに相手の顔が見えて実際にお話ができるという安心感があったということですね。

根本:はい、結局会って直接話をしてみないとわからないですよね。話をして、考えが違うのであれば止めればいいですし、ベクトルが同じだと思ったら、迷うことなく進めばいいと思いますし。

仲介のスタイルですと、買い手様・売り手様双方から手数料をいただくことが一般的ですが、「アクティブオリジネーション」の特徴として、売り手様からは一切手数料はいただいておりません。費用面に関してはいかがでしたでしょうか。

根本:費用を払う・払わないとか、安い・高いはもちろんあるのですけれども…。

結局、M&A支援事業者が成功報酬型で、成約金額に連動する形でM&A支援事業者の手数料が決まるという考え方だと、「なるべく高く売る」とか「なるべく安くして買ってもらう」ということに執着してしまうものだと思います。売り手と買い手の双方に、M&A支援事業者の取り分が増えるという思惑が透けて見えてしまうやり方は、売り手や買い手が望んでいるのと違う方向に行く可能性が高いと思っています。こういうことはよく男女関係に例えると思いますが、例えば仲人さんが、「あそこの御両家のお嬢さんなんとか縁談取り付けましたので、心付けよろしく」とか「ちょっと町娘だからしょうがない…」なんてことは、ちょっと失礼な話ですよね。そんな雰囲気を感じてしまっていたのですよ。

小林:そうですね。毎度それは感じますよね。

根本:そういう意味だと、ティールバンクさんは弊社からは料金をいただかないと言っていただきましたが、私としてはそれよりも、高く売ろう、安く買おうという匂いが全然しなかったので、警戒心が湧かなかったというのはありますね。

小林:やっぱりそうですね。今のお話の通りだと思う。(成功報酬型だと)本当にこのマッチングがいいことだと思って、進めてくれているのかなと疑ってみてしまうことはありますよね。

今回のご譲渡でご親族や・従業員など周囲の方のご反応はいかがでしたでしょうか。

根本:小林社長とお話をして、急な環境変化は精神的にも物理的にも大変なので、事業の融合には時間をかけてアレルギーがでないように進めましょう、としました。

最初、私の方から会社全体に発表してから、個別に詳細説明をするような形で進めました。従業員の反発はなかったですね。「どんな風に変わるのですか」という質問を受けたくらいです。今のやり方を続けていても、会社の急速な成長は見込みづらいから、前向きに変化を捉えよう、というような趣旨の話はしました。それに対しては、従業員には納得してもらえたと思います。退職者はひとりもいないですよ。

親族にも特に反対されることはありませんでした。「もう譲ったのだから好きなようにやればいいんじゃない?」という反応でした。

根本社長にとって人生で初めてのことかと思いますが、今回の事業譲渡については振り返ってみていかがでしょうか。

根本:私としては、業界の動向等も鑑みると、独立独歩での事業の継続には不安を感じていて、どこかのタイミングで、誰かに力を借りる必要があると考えていました。もともと、いわゆる高く売ろうとか、ビジネスとしての売買みたいな駆け引きをするつもりは全くなかったです。小林社長と何度かお話しをする中で、私としてはマイナスと感じることがなく、これはプラスしかないと思いました。

敢えていえば、祖父から続く事業を譲渡することに対しては、個人的には若干罪悪感はありましたけど、従業員や設備、事業運営などいろいろなことを、すこし俯瞰して見れば、譲渡のメリットが非常に大きく、話を進める上で何ら障害はなかったです。

振り返れば、金銭的な何かを揉めることもなく、未来のビジョンに違いを感じることもなく。今回の4カ月弱という期間がスピード成約だと言われれば、そうなのかもしれませんけども、お互い合意して進んでいることなので、当事者の感覚としては事務的にいつ終わるかだけでした。違和感やなにか揉めた覚えは私にはないですが…小林社長はいかがでしょう。

小林:まったくその通りですね。根本社長もそこまでおっしゃっていただいているの?と驚くほど受け入れていただいて。

私たちは厚板という大きな物の溶接、機械加工のノウハウはありません。このM&A後も変わらず、根本社長には音頭とっていただかないと成功しないわけです。その部分で、まず信頼関係ができるかが私にとっては一番重要でした。根本社長は、信頼できる人だなと思って。そのまま残っていただく前提で進めていましたし、不安は感じなかったですよ。

私が根本製作所の工場のみなさんと会って語りかけたのは新年が明けた仕事始めの日でした。そこで混乱なく移行できたのは、根本社長が丁寧に社員さんの立場で説明してくださったおかげです。大変感謝をしています。

M&A後の根本製作所の経営体制について教えてください。

小林:私が社長で、キヨシゲの会長と専務も取締役で登記されています。根本社長には常務執行役員として実質の根本製作所のトップとして、今までと変わらず仕事をしていただいています。いろんな重要な経営判断がある場合には、私が決裁を行い責任を負う体制となっています。

今回は一般的な全部のプロセスを同じ会社が担当せずに、弊社は初回面談まで、その後、銀行さんにサポートいただいたと思いますが、なにかやりにくさなどはありませんでしたか。

小林:困難はなかったです。今回は弊社の取引銀行で議論を進めることにしましたが、もしこの進め方に対して根本社長が不安を感じるのであれば、根本社長の方でもFAなどの支援業者を依頼されることは全く問題ありませんでした。一方の立場に寄って、都合のいいようにすすめてしまうこともありますからね。でも、結果的には我々を信頼していただいて、弊社取引銀行で進めることにしました。

もちろん銀行へは、キヨシゲ側に立って動くということはしないで、双方の間に立って一番いい方法を考えコンサルティングして欲しいと伝えました。実際にそのように動いてくれたので、よかったと思っています。

― 引継ぎを終えられて、今後キヨシゲグループとしての展望について改めて教えていただけますでしょうか。

小林:現状は根本製作所さんの中で設備やノウハウ、素晴らしい職人さんたちの技術が埋もれてしまっているので、フル活用できる状態をまずは目指したいと思います。

今申し上げているのは5Sを徹底することや、敷地の有効利用に向けて、利用方法の再検討にも着手しています。私からも積極的に意見を出させてもらっているのですが、本当に従業員の方々はみんなとても協力的ですよ。訪問するたびに敷地内がどんどんきれいになっていきます。

また、これからは現状受注している建機の仕事で終わらずに、建築や土木の領域までも広げていきたいです。いまはうまくアクセスできてないだけで、まだまだ、世の中のお客様が求めるものに対して、私たちが提供できることがたくさんあると思っています。今まで以上に、キヨシゲと根本製作所のお客様とも結び付きを強くしていきたいと思います。

今、根本製作所というブランドを残して子会社にしていますが、対お客様との関係においてこのブランドを残すことが大切だと考えているからです。でも、私の頭の中ではキヨシゲも根本製作所も全部1つのOneキヨシゲです。

そして、これからますます後継者の問題や、様々な理由で残念ながら事業をたたまざるを得ない会社がたくさん出てくるはずです。技術もある、社員もいる、ノウハウもいいものを持っているが、なんらかの原因で閉めざるを得ない…と。私たちは今回3社目のM&Aとなったわけですが、これで打ち止めというわけではなく、出会いがあればどんどんキヨシゲに参画いただいて、同じOneキヨシゲとなって双方に良い相乗効果のある事業展開を図りたいと考えています。日本のモノづくりのノウハウ消失を防ぐ一助になればと考えています。

私たちの業界ですと、鋼材ひとつとっても、薄いものも使うけど厚いものも使うし、様々なパーツを使ってひとつのものを作ります。仕入れもするし、スクラップや産廃物も出る。全体を見ればまだまだ領域は広がります。

― 根本社長はいかがでしょうか。

根本:ちょっと、青臭い言い方になっちゃいますが。小林社長とは、何回か事業ビジョンの話や取引先の増やし方、その規模などのお話をしたとき、私の考えと同じだなと共感する部分がたくさんありました。目指している会社像や事業の将来など、ほぼ、自分が思っていた理想の会社像だったのです。

現状で言うと、ビジョンを実現し続けて、さらに伸ばしているのが小林社長。同じビジョンを夢として語っているのが自分。だから、小林社長と一緒にやれば、「実現だ!」と。キヨシゲグループとなることで、自分も夢の実現ができると思いました。

小林:そう言っていただけると、私も嬉しいですね。

― 今後M&Aをご検討されている、経営者様に向けてメッセージをお願します。

小林:あまり偉そうなことは言えませんが、会社というのは、従業員という仲間がいますから、その仲間の雇用が維持できるような方法というものを考えるのは重要なことで、M&Aは有効な手段だと思っています。

会社をたたんでしまうと、結局従業員はみな路頭に迷ってしまいますからね。その意味でも、経営者はM&Aを利用して、次にバトンを託すことを考える必要があります。もちろん、ずっと愛情をもって経営してきた会社を譲渡するという後ろめたさを感じるというのもあると思いますが、きちんと次にバトンを渡すのは、私は経営者として立派な決断と考えています。

根本:そうですね。少し手前味噌になりますが、今回は大成功のM&Aだと思っています。もちろんまだまだここからスタートなので、ちょっと早いですけど。こんないいパターンって、そうそうないような気がしています。ご譲渡を考えている方に、今回の事例をあたかも普通かのように語ってしまうと、譲渡に対する期待値を上げてしまい、話が違うじゃないかと言われてしまうだろうなと(笑)

そのくらい、満足度の高いM&Aだったと感じています。

―今回、お二人ともに大成功だと思われるM&Aとなりましたが、その最大の要因はどういった点でしょうか。

根本:ビジョンが一致したことが大きかったと思います。再び、男女の話になりますが(笑)、知らない人とお見合いで結婚するか、お互いに話をして熱愛のうちに結婚するかの違いに近いかと思います。月並みな説明にはなりますが、私はそう思いましたね。

今後の売却を検討される方に1つお伝えとするとしたら、「会ってお話をしてみた方がいいですよ」ということです。好条件で一緒になるよりも、想いが重なる方と一緒になったほうがいいのではないかとは思います。ただ、好条件を望んでいる方もいらっしゃるとは思いますから、そこはバランスをとっていくことが必要ですね。

小林:また男女の話になりそうですね(笑)

根本:高学歴・高収入に目を向けすぎずに、価値観が同じ人と…ということですね。

小林:変な駆け引きじゃなくて、何をしていきたいのか、それはなぜなのか、ということを膝詰めして話したことが良かったと私も思っています。例えば、譲渡金額のことばかりを争点で話していて、話がまとまったとしても、蓋を開けてみたら異なる事業展開の方向性を考えていたとなったら、新体制でスタートしても「こんなはずじゃなかった…」となってしまいますよね。それは不幸ですからね。本心で話す機会を早い段階でつくることをオススメしますね。


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インタビュー・事例
2022/04/19
多角化経営の実現のために 〜事業多角化をする理由とM&Aの活用〜
NEW 多角化経営の実現のために 〜事業多角化をする理由とM&Aの活用〜

はじめに

企業の収益性を高め、事業リスクを軽減するために、経営の多角化を考える経営者のみなさまは少なくありません。経営の多角化を迅速に実現するためにはM&A(Mergers(合併)and Acquisitions(買収))の活用は欠かせません。この記事では、多角化経営の意義について説明したあと、多角化経営を迅速に実現するための手段としてのM&Aについて詳しく解説していきます。

多角化経営実現の意義

多角化経営とは、企業が提供する製品またはサービスを変更または拡大することによって成長を図る企業戦略のことを言います。一般に、企業は、競合他社に差をつけるために多角化戦略をとる場合があり、これは「攻めの多角化」と呼ばれています。一方、企業は、市場環境の大きなプレッシャーに直面した際に、「守りの多角化」に着手するケースもあります。

ビジネスが誕生してから時間経過する、または参入障壁の低いビジネスモデルなどが原因となり、市場シェアや利益を拡大することが難しくなる場合があります。新しい事業分野への多角化は、収入を大幅に増やす機会を与えるだけでなく、本業が一時的または長期的に急降下した場合に備えて、会社を守ることにつながります。

多角化とは、既存のビジネスを拡大することではありません。多角化の本質は、新たなビジネスチャンスを広げることにあります。たとえば、ある町でダイニング・レストランを経営している場合、隣町に2号店をオープンすることは、「経営の多角化」ではなく「事業の拡大」に過ぎません。企業向けにケータリングを始めたる、料理を提供していない時間帯に料理教室を開くといったことが多角化となります。

経営の多角化を検討する際には、関連する事業にとどまるのか、それとも全く別の市場に進出するのかを決めなければなりません。たとえば、ペットシッターがグルーミングサービスを提供するように、市場内にとどまることで、これまでの人脈やブランド、顧客基盤を活用することができるでしょう。

一方で、ペットシッターが造園業を始めるように、新しい市場に進出すれば、特定の業界の景気後退に対して、他の事業でカバーできるようになり経営としての安定性は高まるでしょう。関連する事業に進出する場合には、既存のリソースを活かすことで軌道に乗せやすくなる反面新しい取り組みが失敗した場合、ブランドが損なわれる可能性があります。他方、全く新しい分野でビジネスを始めると、ゼロからのスタートとなるため、既存事業への影響は少ないかもしれませんが、軌道に乗せるにはより多くの時間と資金が必要となる場合が多くなることに留意しなければなりません。

多角化経営を行う6つの理由

多角化経営を行う理由には、以下のようなものがあります。

(1)競争に打ち勝つ

市場における競争優位に立つための最良の方法は多角化です。たとえば、関連する事業へと製品・サービスのポートフォリオを拡大することによって、競合他社が提供できないものを提供できるようになります。

(2)利益を安定させる

経営の多角化が成功すれば、事業の成長、ひいては収益も大きく向上します。一般に、一つの事業が成長し続けられる保証はありません。様々な事業へと多角化し、一つの事業が他の事業を補完するという関係をつくることで会社の収益性を向上させることができます。

(3)事業リスクを回避する

企業経営において、限られた経営資源を有効活用するために、全体を俯瞰した上で、どこに経営資源を配分すればよいかを考えなければなりません。事業多角化は、景気後退などのリスクを回避するための積極的な手段となり得る戦略です。1つの事業に注力する場合、事業の根幹を揺るがす変化が起きると、会社もろとも倒れてしまう可能性があります。事業ごとに異なる製品やサービスを提供することで、業界の不況のダメージを軽減できます。経営の多角化によって事業領域を複数もつことで市場の変化にも対応できるようになるということです。事業を複数とすればするほど、経営者の視点から「事業ポートフォリオの最適化(事業の選択と集中による経営資源の最適配分)」を図らなければなりません。事業ポートフォリオの構築は、事業リスクを回避するための重要な手段です。

(4)ブランドイメージの向上

経営の多角化は、ブランドイメージを向上させる方法となり得えます。新たに買収したブランドとの結びつきを強めることで、ブランドイメージを向上させられるかもしれません。知名度のあるブランドを買収すれば、そのブランドイメージを自社に取り込める可能性があります。

(5)経営資源の最適化

事業の成長が鈍化し、環境変化によって将来性が見込まれなくなってしまった場合、経営者はその事業へ投資ができず、会社に余剰資金が発生することになるでしょう。そんなときに、事業を多角化していれば、ある事業の余剰資金を他の事業へ振り向けることができます。余剰キャッシュフローの活用、既存インフラの有効活用、企業レベルの意思決定の改善など、多角化は企業の資源を最適化する方法となり得るのです。

多角的

多角化経営とM&A

多角化経営を行う企業は、2以上の事業の経営資源を組み合わせることで会社の収益性を高めリスクを分散することもできます。中小企業が陥りがちな収益性に関する成長の鈍化と事業リスクへの直面を解決できるのが多角化経営なのです。

多角化経営の実現を目指す場合、既存事業がうまくいっていて、会社に余剰資金がある場合、その余剰資金を使って事業を多角化することもできるかもしれません。しかし、通常、新しい事業を軌道にのせるためには時間がかかります。

しかし、多角化経営を迅速に実現する手段が一つだけあります。それがM&Aの活用です。

たとえば、特定の地域に店舗・工場を建設しようとすれば、土地・建物の購入または賃借、改装等工事、従業員の雇用、取引先開拓など多くの時間とコストを投じなければなりません。しかし、M&Aを行うことで、自社で一から経営資源を投入して、事業を立ち上げずに済みます。買収対象の企業がすでに事業を展開しているため、その経営資源を利用すれば良いからです。さらに、買収を通じて、優秀な人材やノウハウなどを獲得できます。自社で人材育成を行ったり、ノウハウを積み上げたりする時間を短縮できるなど、多角化を迅速に実現するためには、M&Aが不可欠です。

事業を多角化する場合、既存事業と関連する事業に参入するケースと既存事業と関連しない事業へ参入するケースが考えられます。特に、既存事業と関連しない事業へ参入するケースでは、必要となる経営資源を準備するために時間もコストも必要となるケースが多いため、M&Aを活用してすでに事業を展開している会社を買収してくることで、買収企業の経営資源を有効に活用しながら、自社の経営資源と組み合わせることでシナジー効果を得られます。

おわりに

多角化経営を行えば、ビジネスを成長させ、リスクを軽減することができます。M&Aは多角化経営を迅速に実現するための有効な手段です。ただし、経営の多角化は、経営資源を各事業へと分散させることになるため、短期的にはコストの上昇が避けられません。こうした事実をきちんと理解したうえで、多角化経営の意義を考えることが重要です。

M&Aの基礎知識
2022/05/15
M&Aにおける機密保持契約の意義 〜機密情報保持契約書の作成ポイントを解説 〜
NEW M&Aにおける機密保持契約の意義 〜機密情報保持契約書の作成ポイントを解説 〜

はじめに

M&A(合併・買収)では、しばしば機密情報や財務情報等、重要な契約書などについて相手企業と情報のやり取りをしなければならない場面が出てきます。M&Aでは実際にM&Aを行う前に機密保持契約を結んでから実際にM&Aの交渉を進めていくのが一般的です。なぜなら、機密情報や財務情報、重要な契約の漏えいは、M&A取引そのものはもちろん、お互いの企業に多大な影響を与える可能性があるからです。

情報が漏えいすることは、従業員の減少から取引相手からの信用の喪失に至るまで、企業の運営に大きな影響を与える可能性があります。M&Aにおいては、正式な契約締結後のリリースで一般に公表するまでは、全ての交渉過程が非公開で行われることが多いため、機密保持契約の締結は非常に重要な意味を持っているのです。この記事では、M&A取引を進めるにあたって必要不可欠な機密保持契約とその作成ポイントについてわかりやすく解説していきます。

機密情報保持契約の意義

M&Aの検討を開始する際に、売り手企業は会社の情報を買い手企業候補に開示して、買い手企業候補は売り手企業から対象会社の情報を入手することになります。開示される情報には売り手企業及び対象会社における機密情報が含まれているため、情報の開示・入手に先立って売り手企業・買い手企業の間において機密保持契約を締結しなければなりません。なぜなら、M&Aのプロセスで開示した自社の重要な製品情報やノウハウ、顧客情報など秘匿性の高い情報が漏えいする可能性があるからです。

他社に提供した機密情報の機密性を保護する一般的な方法として活用されているのが、「機密保持契約」です。機密情報保持契約は「NDA: Non-Disclosure Agreement」もしくは、「CA: Confidentiality Agreement」と呼ばれたります。

通常、機密保持契約は、M&Aの基本合意書の締結後、またはデューデリジェンスの開始前に締結されるものです。基本合意書の締結が終わると、譲受側(買い手)による譲渡側(売り手)のデューデリジェンス(買収査定)が行われるため、その前に行われるケースが多いのです。

機密保持契約書には、一般に、企業間取引を行う上で開示されうる機密情報の扱い方に関する取り決めや、万が一漏洩した場合の当事者の責任の内容が記入されます。NDAは、特に、どの情報を買い手候補に引き渡すか、また、その情報をどのように扱うかについて規定しています。さらに、買い手候補やそのアドバイザーが機密情報保持契約に違反した場合の法的影響についても規定されるのが普通です。

機密情報保持契約書の形式は、買い手候補が誰であるか(投資家、戦略的パートナー候補、競合他社など)によっても異なります。さらに、買い手候補が、企業買収に関する状況や交渉状況などの機密情報を含むため、機密保持契約の締結に関心を持つ場合もあります。このような場合、相互の機密保持が必要となります。

[caption id="attachment_3081" align="alignnone" width="640"]NDA NDA[/caption]

機密保持契約書作成のポイント

機密保持契約書を作成する場合には、以下のポイントに注意しましょう。

(1)機密保持契約は一方的なものか、相互的なものか

M&A取引において、機密保持契約を作成する際にまず考慮すべきポイントは、契約によって一方の当事者にのみ情報保護の権利を与えるのか、それとも相互に権利を与えるのか、ということです。たとえば、小規模の企業が大手の上場企業に資産を売却して現金を得ようとするような、一方の当事者のみが相手方に機密情報を開示する取引では、売り手の情報のみを保護する機密保持契約(「一方的」機密保持契約と呼ばれることがあります)を締結するのが一般的です。その他の取引では、例えば、各当事者がそれぞれの事業や資産に関して相手方に開示する場合、相互の機密保持契約が必要な場合があります。

(2)機密保持契約の重要な要素を明記する

機密保持契約の核となるのは守秘義務であり、売り手の事前の同意なく機密情報を第三者に開示してはならないことが明記されるのが普通です。情報の受領者に対して、機密情報を機密にすることと、機密情報そのものをM&A取引の評価・交渉以外の目的に使用しないことの2つの義務を課すことが必要です。提供された情報は機密として扱われ、限られたグループのみに伝えられ、デューデリジェンスと取引の更なる実行の目的のみに使用されます。

守秘義務は通常、受領者が他者にアクセスさせないための合理的な措置を講じなければならないことを課すものです。たとえば、合理的な措置とは、受領者の社内の数人のみがその情報にアクセスでき、その全員が機密保持の制限の内容を知らされることなどが考えられます。

機密保持契約書面は長くて複雑である必要はありません。機密保持契約の重要な要素は以下のとおりです。

  • 当事者の特定
  • 何が機密とみなされるかの定義
  • 受領側当事者の守秘義務の範囲
  • 機密扱いの除外
  • 開示側からの要求があった場合の機密情報の返却・破棄義務
  • 契約の期間
  • 契約の当事者

(3)機密情報の範囲を十分に検討する

通常、機密保持契約では何が機密情報に該当するのかを定義しなければなりません。定義されていない内容が漏えいしても、相手方に責任をとるように要求することはできません。

それでは、機密保持契約書面において機密と定義された情報のうち、書面の情報のみが機密として扱われるでしょうか。口頭で伝えられた情報は機密とみなされるのでしょうか。

情報を開示する側は、相手側が抜け道を見つけて貴重な機密を使い始めることがないように、この機密情報の定義をできるだけ広くしたいと考えるでしょう。

一方、情報を受ける側は、機密にしておくべき情報を明確に識別できるようにし、何が使えて何が使えないかを知っておきたいという欲求を持っているのが普通です。情報の受ける側によっては、書面で伝達された情報のみを機密にしておく必要があると主張する人もいます。もちろん、情報を提供する側は、そのような定義では狭すぎるというのが普通です。妥協案として、口頭の情報も機密情報とみなすことができるが、情報を提供する当事者は、開示後すぐに相手側に書面で確認し、どのような口頭の発言が機密とみなされるかについて、情報を受け取る当事者に対して通知しなければならない、とする場合などがあります。

さらに、M&Aの買い手側が「役員、従業員、弁護士、M&Aアドバイザーなどに、取引を検討する上で必要な限度で情報開示を行う」としてきた場合は、これらの者にも同等の機密保持義務等を課すようにし、また、これらの者による開示や漏洩については買い手に責任を負わせる旨を負わせるような条項が売り手には必要かもしれません。ほかにも、デューデリジェンスが完了、M&A取引が完了、もしくは機密保持契約の有効期間が終わった場合、売り手側が請求した場合には、開示した書面その他の物理的資料の返還および破棄、電子データの削除を義務づける条項を加えるべきであるかもしれません。

このように、何を機密として定義するのかは難しい問題です。M&A取引の当事者が変われば、定義すべき機密情報も変わってくるでしょう。

M&Aにおける機密保持契約の意義

M&A取引当事者の利益のために、NDAは、重要な情報が共有される前の早い段階で締結されるべきです。取引の種類や範囲、関係者、開示される情報の性質は、NDAの文言に大きな影響を与えるため、個々のケースに合わせて契約書を作成しなければなりません。

 

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M&Aの基礎知識
2022/05/15
食品卸・物流業界が抱える2024年問題の解説と解決策
NEW 食品卸・物流業界が抱える2024年問題の解説と解決策|フーズチャネル

配送業のドライバー不足が深刻な中、通称「2024年問題」といわれる車の運転業務の残業時間を取り締まる「時間外労働の上限規制」が適用される。食品卸の対応策を紹介する。

M&Aニュース
2022/05/07
100日で終わらない中小企業のM&A 水産業2代目が力を入れる心合わせ
NEW 100日で終わらない中小企業のM&A 水産業2代目が力を入れる心合わせ | ツギノジダイ

 生きたイセエビの卸売業を父から引き継いだ後、「マルヨシ」(福岡市)2代目の吉塚二朗さんは、後継者不在の水産加工会社3社をM&Aしました。「M&Aしたいという相談を受けますが、基本的にはおすすめしていません」。では、自身はなぜM&Aをして…

M&Aニュース
2022/04/23
秘密保持契約(NDA)
NEW 秘密保持契約(NDA)

M&Aにおいて交渉を進める相手企業に、自社情報を開示する場面があります。自社の重要な製品情報やノウハウ、顧客情報など秘匿性の高い情報の漏えいを防止するため、取引相手との間で秘密保持契約書(NDA)を締結します。

秘密保持契約書とは、秘密情報を第三者へ開示または漏えいを禁止することなどを定めた契約書で、英語でNon-Disclosure Agreementと呼ばれるため、頭文字をとって、NDAと略称されます。

参考コラム:M&Aにおける機密保持契約の意義 〜機密情報保持契約書の作成ポイントを解説 〜

M&A・事業承継用語
2022/05/15
息子や娘を後継者にしたい!親族内承継のメリットとデメリット
NEW 息子や娘を後継者にしたい!親族内承継のメリットとデメリット(幻冬舎ゴールドオンライン) - Yahoo!ニュース

子どものように育てた会社を実の息子や娘に引き継ぎたいと考えるのは、人として当然の感情でしょう。親族から選ぶのであれば後継者候補を早くに擁立しやすく、教育などのためにかける時間を長く確保できます。親族

M&Aニュース
2022/04/19
親族内継承/親族外継承
親族内継承/親族外継承

親族内承継とは、事業を子どもや孫、甥、姪などに承継させる方法で、配偶者や娘婿も含む、血縁・親族関係のある者が後継者となる場合の承継をいいます。

これに対して後継者が親族以外の場合を親族外承継といいます。 昨今、親族が家業を継がない割合が高まり、親族外承継を目指すケースが増加しています。

親族外でも、社内か社外かで分かれます。社内の親族外継承は一般的にM&Aで第三者に譲渡することです。

M&A・事業承継用語
2022/04/15