はじめに
企業の収益性を高め、事業リスクを軽減するために、経営の多角化を考える経営者のみなさまは少なくありません。経営の多角化を迅速に実現するためにはM&A(Mergers(合併)and Acquisitions(買収))の活用は欠かせません。この記事では、多角化経営の意義について説明したあと、多角化経営を迅速に実現するための手段としてのM&Aについて詳しく解説していきます。
多角化経営実現の意義
多角化経営とは、企業が提供する製品またはサービスを変更または拡大することによって成長を図る企業戦略のことを言います。一般に、企業は、競合他社に差をつけるために多角化戦略をとる場合があり、これは「攻めの多角化」と呼ばれています。一方、企業は、市場環境の大きなプレッシャーに直面した際に、「守りの多角化」に着手するケースもあります。
ビジネスが誕生してから時間経過する、または参入障壁の低いビジネスモデルなどが原因となり、市場シェアや利益を拡大することが難しくなる場合があります。新しい事業分野への多角化は、収入を大幅に増やす機会を与えるだけでなく、本業が一時的または長期的に急降下した場合に備えて、会社を守ることにつながります。
多角化とは、既存のビジネスを拡大することではありません。多角化の本質は、新たなビジネスチャンスを広げることにあります。たとえば、ある町でダイニング・レストランを経営している場合、隣町に2号店をオープンすることは、「経営の多角化」ではなく「事業の拡大」に過ぎません。企業向けにケータリングを始めたる、料理を提供していない時間帯に料理教室を開くといったことが多角化となります。
経営の多角化を検討する際には、関連する事業にとどまるのか、それとも全く別の市場に進出するのかを決めなければなりません。たとえば、ペットシッターがグルーミングサービスを提供するように、市場内にとどまることで、これまでの人脈やブランド、顧客基盤を活用することができるでしょう。
一方で、ペットシッターが造園業を始めるように、新しい市場に進出すれば、特定の業界の景気後退に対して、他の事業でカバーできるようになり経営としての安定性は高まるでしょう。関連する事業に進出する場合には、既存のリソースを活かすことで軌道に乗せやすくなる反面新しい取り組みが失敗した場合、ブランドが損なわれる可能性があります。他方、全く新しい分野でビジネスを始めると、ゼロからのスタートとなるため、既存事業への影響は少ないかもしれませんが、軌道に乗せるにはより多くの時間と資金が必要となる場合が多くなることに留意しなければなりません。
多角化経営を行う6つの理由
多角化経営を行う理由には、以下のようなものがあります。
(1)競争に打ち勝つ
市場における競争優位に立つための最良の方法は多角化です。たとえば、関連する事業へと製品・サービスのポートフォリオを拡大することによって、競合他社が提供できないものを提供できるようになります。
(2)利益を安定させる
経営の多角化が成功すれば、事業の成長、ひいては収益も大きく向上します。一般に、一つの事業が成長し続けられる保証はありません。様々な事業へと多角化し、一つの事業が他の事業を補完するという関係をつくることで会社の収益性を向上させることができます。
(3)事業リスクを回避する
企業経営において、限られた経営資源を有効活用するために、全体を俯瞰した上で、どこに経営資源を配分すればよいかを考えなければなりません。事業多角化は、景気後退などのリスクを回避するための積極的な手段となり得る戦略です。1つの事業に注力する場合、事業の根幹を揺るがす変化が起きると、会社もろとも倒れてしまう可能性があります。事業ごとに異なる製品やサービスを提供することで、業界の不況のダメージを軽減できます。経営の多角化によって事業領域を複数もつことで市場の変化にも対応できるようになるということです。事業を複数とすればするほど、経営者の視点から「事業ポートフォリオの最適化(事業の選択と集中による経営資源の最適配分)」を図らなければなりません。事業ポートフォリオの構築は、事業リスクを回避するための重要な手段です。
(4)ブランドイメージの向上
経営の多角化は、ブランドイメージを向上させる方法となり得えます。新たに買収したブランドとの結びつきを強めることで、ブランドイメージを向上させられるかもしれません。知名度のあるブランドを買収すれば、そのブランドイメージを自社に取り込める可能性があります。
(5)経営資源の最適化
事業の成長が鈍化し、環境変化によって将来性が見込まれなくなってしまった場合、経営者はその事業へ投資ができず、会社に余剰資金が発生することになるでしょう。そんなときに、事業を多角化していれば、ある事業の余剰資金を他の事業へ振り向けることができます。余剰キャッシュフローの活用、既存インフラの有効活用、企業レベルの意思決定の改善など、多角化は企業の資源を最適化する方法となり得るのです。
多角化経営とM&A
多角化経営を行う企業は、2以上の事業の経営資源を組み合わせることで会社の収益性を高めリスクを分散することもできます。中小企業が陥りがちな収益性に関する成長の鈍化と事業リスクへの直面を解決できるのが多角化経営なのです。
多角化経営の実現を目指す場合、既存事業がうまくいっていて、会社に余剰資金がある場合、その余剰資金を使って事業を多角化することもできるかもしれません。しかし、通常、新しい事業を軌道にのせるためには時間がかかります。
しかし、多角化経営を迅速に実現する手段が一つだけあります。それがM&Aの活用です。
たとえば、特定の地域に店舗・工場を建設しようとすれば、土地・建物の購入または賃借、改装等工事、従業員の雇用、取引先開拓など多くの時間とコストを投じなければなりません。しかし、M&Aを行うことで、自社で一から経営資源を投入して、事業を立ち上げずに済みます。買収対象の企業がすでに事業を展開しているため、その経営資源を利用すれば良いからです。さらに、買収を通じて、優秀な人材やノウハウなどを獲得できます。自社で人材育成を行ったり、ノウハウを積み上げたりする時間を短縮できるなど、多角化を迅速に実現するためには、M&Aが不可欠です。
事業を多角化する場合、既存事業と関連する事業に参入するケースと既存事業と関連しない事業へ参入するケースが考えられます。特に、既存事業と関連しない事業へ参入するケースでは、必要となる経営資源を準備するために時間もコストも必要となるケースが多いため、M&Aを活用してすでに事業を展開している会社を買収してくることで、買収企業の経営資源を有効に活用しながら、自社の経営資源と組み合わせることでシナジー効果を得られます。
おわりに
多角化経営を行えば、ビジネスを成長させ、リスクを軽減することができます。M&Aは多角化経営を迅速に実現するための有効な手段です。ただし、経営の多角化は、経営資源を各事業へと分散させることになるため、短期的にはコストの上昇が避けられません。こうした事実をきちんと理解したうえで、多角化経営の意義を考えることが重要です。
M&A取引は、買い手と売り手の交渉によって成立します。売り手にとっては、できるだけ高い取引価格をつけてくれる買い手に会社や事業を売却することを検討するでしょう。反対にで、買い手にとっては、できるだけ安い取引価格で会社や事業を取得することを検討します。このように、M&A取引は買い手と売り手の交渉によって成立するため、この交渉を行うタイミングが非常に重要な意味を持ちます。
一般に、M&Aにおいて、売り手側が会社や事業を売却しようとすると、複数の買い手が見つかることになります。しかし、それぞれの買い手と交渉に臨んでも、多くの時間がかかり、会社や事業の売却が難しくなるケースがあります。そこで、売り手側は、会社や事業の売却をM&A市場に委ねる前に、あらかじめ特定の買い手に対して優先的にM&A取引に関する情報を提供し、優先的にM&A交渉を行う権利を行うケースがあります。その際に利用されるのが、優先交渉権を付与した契約です。あらかじめ特定の買い手候補となる企業に優先交渉権を付与することで、効率的にM&Aの取引交渉に臨めるようになります。
優先交渉権(Right of First Refusal)とは、第一拒否権、有線拒否権とも呼ばれ、誰よりも早く個人または企業と交渉を行うことができる契約上の権利のことです。M&Aにおいては、売り手と優先的に交渉できる権利のことを意味します。この権利を持つ当事者が取引の締結を辞退した場合、売り手側は、他の買い手候補から自由にオファーを受けることができます。売り手側が買い手側に優先交渉権を与えることで、売り手が売却を考えたときに、買い手に会社や事業について取引の機会があるという確証を与えることができるのです。
M&A取引において、買い手が関心のある会社や事業があっても、現在、売却に出されていないケースでは、売り手が買い手候補に優先交渉権を付与することで、売り手がその会社や事業を売りに出すことを決定した場合、その会社や事業を購入する最初の権利を持つことができるようになります。この契約では、売り手は買い手候補に連絡し、その会社や事業に対する別の申し出を受け入れる前に、M&A取引を行う機会を与えなければなりません。
M&Aにおける優先交渉権は、買い手側に以下のようなメリットをもたらします。
売り手が会社や事業をM&A市場に出したとしても、最初の契約条件に基づき、その会社や事業の取引に関して、優先交渉権を有する買い手が許可するよりも前に、他のオファーを受け入れることはできません。そのため、入札合戦の不安を抱えることなく、本当に価値のある会社・事業を手に入れることができる可能性があります。
契約書に価格条件が含まれていることが多いため、M&A市場に出た場合の価格よりも安い価格で物件を手に入れることができる可能性があります。これは、M&Aの取引価格が市場において着実に上昇している場合に特に有効に機能します。
買い手にとっては、優先交渉権を契約で締結することで、取引価格を固定しつつ、売り手側との信用力を高めながら、購入に必要な資金を貯める時間ができるため、売り手が売却する準備ができたときに、すぐに購入できるようになります。
他方で、M&Aにおける優先交渉権は、買い手側に以下のようなデメリットをもたらします。
一般に、優先交渉権には期限が設定されています。したがって、売り手が会社や事業を売りに出すことを決めたら、買い手候補は迅速に決断し、取引を行うかどうかを選択しなければなりません。基本的には、数日以内に売買契約を締結できるよう準備する必要があります。
これは買い手と売り手の双方にとって長所でもあり、短所でもあります。本来、M&A取引の対象となる会社や事業の価格が下がっている場合、当初の契約条件に基づいて取引を行うことは、過払いになる可能性があります。しかし、だからといって、会社や事業をM&A市場に出してしまえば、手に入らない可能性があるというリスクを負うことになります。
売り手には、優先交渉権に関して特有のメリットとデメリットがあり、それを考慮しながらM&A取引に臨まなければなりません。ここからは、売り手のメリットとデメリットを説明していきましょう。
優先交渉権を契約で締結すれば、会社や事業の詳細を仲介企業などに掲載することなく売却できる可能性があり、コストを大幅に抑えることができます。
買い手が競争の可能性なしにM&A取引を望んでいる場合、市場における取引価格以上の価値で会社や事業を売却できるかもしれません。
買い手にとっての欠点があるように、売り手にとっても欠点があります。
一般的に、より多くの買い手が参加すればするほど、売り手はより高い価格を得ることができる。最初の選択肢を特定の買い手に与えることによって、あなたは意図せずに取引価格を下げている可能性があります。
契約時に特定の取引価格を設定し、それがその会社や事業の現在の市場価値よりも低くなってしまう場合、損失を被る可能性があります。
現在、会社や事業の売却を考えていなくても、一部の事業の継続を考えている場合、優先交渉権が問題となる可能性があります。会社や事業が融資の担保となるため、銀行や投資家は、一般的に優先交渉権を付与する場合、融資を受けることを禁止しています。
優先交渉権は、売り手側が買い手側に優先的に交渉できる権利を与えるものです。M&A市場に会社や事業の情報を出せば、買い手は複数見つかるかもしれません。しかし、買い手候補が多くなりすぎれば、誰に売るのが良いかわからなくなってしまうでしょう。したがって、M&A市場に会社や事業の情報を出す前に、買い手候補にあらかじめ優先交渉権を付与することで、効率的に取引を成立させることを望むのです。しかし、優先交渉権を与えてしまえば、本来M&A市場においてもっと高値で取引されることがあった場合でも、優先交渉権を付与した買い手に買い叩かれてしまう可能性があることも理解しておく必要があります。優先交渉権を買い手候補に与えることは、諸刃の剣であることをきちんと理解しておきましょう。
不動産業とは、大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分類され、不動産の売買、交換、賃貸、管理または不動産の売買、賃借、交換の代理もしくは仲介を行う事業を営むことを言います。近年、不動産業界では業界の再編が進んでおり、その手段としてM&A(Mergers & Acquisitions)が盛んに利用されています。今回は、そんな不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。
不動産業は、全産業の売上高の 3.3%、法人数の 12.4%(令和2年度)を占める重要な産業の1つです。不動産業に関わる業務内容は幅広く、事業者の規模も大手総合不動産会社から個人経営の中小事業者まで多岐にわたることが特徴となっています。
近年では、不動産専業の事業者だけでなく、異業種でも一部不動産業を営む事業者や新興企業の参入も多くM&Aの買収ニーズもある業界です。不動産業は、不動産という高額な商品を取り扱うという業界特性を持つことから、景気動向に左右される業界となります。景気が良ければ、戸建てやマンションの売れ行きも好調となり、各社の業績も良くなりますが、景気が悪くなれば、不動産が売れずに不調に陥る場合もあります。
今後の日本は、高齢化社会を迎えるということもあり、人口減少も予想されるなかで、不動産業はその対応を迫られることになるでしょう。その結果、多くの中小企業者同士のM&Aが進んだり、他業界からの新規参入も相次いでいます。商用施設の建設については、新型コロナウイルスの世界的な流行がおさまってきたこともあって、今後、一定の需要が見込まれるものの、戸建てやマンションといった居住施設については、人口減少によって需要が減少することが予想されるため、現在から業界の再編が進んでいます。
ここからは、最近の不動産業に関するM&A事例を紹介していきましょう。
2022年6月、住宅のトータルメンテナンス事業、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を手掛けている日本リビング保証は、完全子会社であった横浜ハウス(売上高1億1900万円、営業利益△555万円、純資産△909万円)の全株式を、不動産売買や賃貸の仲介などを手がける三春情報センター(横浜市)に譲渡しました。横浜ハウスは、戸建住宅・マンション・店舗等の全リフォーム工事の請負などを行っている企業です。
もともと、日本リビング保証は2020年7月に横浜ハウスを子会社化していたものの、シナジー効果を十分に得られないと判断し、譲渡に至っています。
2022年5月、国内外の富裕層・投資家を顧客とした資産運用サービスを手掛ける総合不動産会社であるビーロットは、不動産賃貸業を営む東観不動産(東京都千代田区。売上高1億3100万円、営業利益500万円、純資産8億300万円)の全株式を取得して子会社化しました。
ビーロットは、不動産を保有する企業のM&Aに積極的に取り組んでおり、今回の東観不動産の買収を通じて、不動産管理のノウハウを取得するとともに、保有する不動産のさらなるバリューアップを図るとしています。
2022年4月、1925 年の創業以来、ベビー・子供アパレル事業を主な事業内容とし、一貫して自社オリジナル企画・デザインによる製品を提供してきたキムラタンは、不動産賃貸業を営む和泉商事(売上高11億3000万円、営業利益2億4900万円、純資産9億4800万円)の全株式を取得し子会社化しました。
キムラタンは、「2021年2月に事業を開始した不動産事業を第2の柱事業として拡大を図ることを目指し、全国に約70の収益物件を所有し、安定収益を計上している和泉商事の全株式を取得することを決定した」と公表しています。
このM&Aによって、キムラタンは、赤字となっているベビー・子供アパレル事業を大幅に縮小し、不動産賃貸業を主事業へと切り替えていくとしています。
2021年8月、関西、首都圏を中心に全国で不動産の総合開発事業を展開する日本エスコンは、関西で不動産賃貸事業を展開するピカソ(大阪市。売上高60億7000万円、営業利益18億7000万円、純資産43億9000万円)、優木産業(大阪市。売上高31億円、営業利益7億1300万円、純資産15億9000万円)の2社の全株式を取得し子会社化しました。
ピカソと優木産業の子会社化は、「賃貸事業を強化するとともに安定収益を確保し、収益構造の転換を一気に推進するものである」と公表しています。
このM&Aによって、日本エスコンは、関西圏における不動産賃貸事業の安定収益を確保していくとしています。
2020年11月、三越伊勢丹ホールディングスの完全子会社である三越伊勢丹が保有する連結子会社の三越伊勢丹不動産の全株式をThe Blackstone Group Inc.とその関連会社が運用または投資アドバイザーを務める特定のファンドが設立した法人であるエチゴ合同会社に譲渡しました。
三越伊勢丹不動産は、自社で所有する物件の賃貸営業やマンションの分譲を中心に事業を展開する一方で、不動産オーナーが所有する物件のサブリース事業・賃貸管理事業、管理組合事業にも取り組んできた企業です。
このM&Aによって、三越伊勢丹ホールディングスは株式の売却益を得ることとなった。三越伊勢丹ホールディングスの主事業である百貨店事業が不況にあえぐなか、今回の株式売却を通じて赤字を補填して、今後は主事業の強化に取り組むとしています。
景気動向に左右されやすい不動産業界は、安定収益をもたらす物件を取得するために、盛んにM&Aが行われている業界です。不動産管理には、不動産管理特有のノウハウが必要となるということもあり、異業種からの参入のために、不動産業を営む企業の買収も盛んに行われています。
ネットショップ(electronic commerce: EC)業界では、近年、M&Aが盛んに行われています。EC市場は世界的に拡大傾向にあるものの、多くの企業が参入したことから競争が激化しており、業界の再編が進んでいる業界です。この記事では、ネットショップ(EC)業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。
ネットショップ(ECサイト)市場は世界的に拡大成長を続ける業界です。従来、日本国内においては大手モールでの販売が中心であったものの、近年では、SNS等を活用して自社販路を拡大する企業が多数出現するなど、販売経路も複雑化し、業界の構図は刻々と変化しています。
こうした事情を背景として、D2CブランドやECサイトのM&A事例が国内外ともに多く見られるようになりました。新型コロナウイルスの世界的な流行も重なったことで、オンラインショッピングへの対応の必要性が認識されたことも、この傾向にさらに拍車を掛けました。
ネットショップ業界では、サイトの運営に限界を感じる事業者やさらなる効率化による事業の発展・展開を目指す事業者を買収し、自社が持つ広告戦略ノウハウ、物流の効率化ノウハウ等を活かして事業の急拡大を続ける事業者が生まれるなど、競争も激化しています。
特に、ネットショップ市場においては、ECサイトの構築にとどまらず、ECサイトの運用フェーズにおけるマーケティング支援までを一気通貫で行う、垂直統合型のサービスへのニーズが高まっており、ECサイトの構築からマーケティングまでを総合したソリューションを提供する企業も増えてきています。こうしたソリューションを1から構築することは大変難しいことから、M&Aによってこれを実現しようとしています。
以下では、ネットショップ業を営む企業のM&A事例を紹介していきましょう。
2022年5月、日本最大の製菓製パンのプラットフォームECサイトである「cotta」を運営する株式会社cottaは、不二製油株式会社との間で資本業務提携契約を締結しました。
cottaは、会員数170万人、月間アクセス数約3,500万PV、SNS総フォロワー100万人を抱える日本最大級の製菓製パン材料のECポータルサイトを運営している企業です。一方、不二製油は創業以来、植物性素材を主原料として植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の事業を展開している企業です。
cottaは今回の資本業務提携によって、次の時代に必要な「健康に配慮した食の提案」「環境に配慮した食の提案」を推進することで、両社の中長期的企業価値の向上を実現するとともに、持続可能な社会の発展に貢献するとしています。具体的には、今後益々加速するデジタル社会において消費者との接点を強め、製品開発に活かし、食の多様な価値観に幅広い選択肢を提供し、新たな需要の創造に挑戦すると公表しています。
2022年4月、広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」や、EC(電子商取引)オープンプラットフォーム「EC-CUBE」など、マーケティングDX支援サービスを提供する株式会社イルグルムは、ボクブロック株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。
ボグブロックは、EC-CUBEをベースとしたECサイト制作や、ECサイトをメディア化しファンマーケティングを推進するためのクラウドサービス「Media EC FANTAS(ファンタス)」の提供しており、EC-CUBEインテグレートパートナー最上位のプラチナパートナーとして、独自性の高いECサイトの構築から運用支援に至るまで幅広く事業を展開している企業です。
イングルムは、ECサイトの構築から運用支援に至るまで幅広く展開するボクブロックを子会社化することで、ECサイト構築からマーケティング支援までを垂直統合型で提供する新たなソリューションを展開し、事業領域の更なる拡大を目指しています。
2022年3月、2011年の創業以来、EC事業者向けのシステム・サービスを開発・提供しているファーストトレード株式会社は、IT領域に特化したM&Aアドバイザリー事業ならびに事業開発を手がけてきた株式会社パラダイムシフトと業務提携契約を締結しました。
ファーストトレードは、仕入れ・ロジ・販促まで一貫して支援を受けられるEC事業サポートシステム「CiLEL」を自社開発し、これまでに5,000社以上のEC事業者支援を手がけ、企業間取引のDX支援を進めており、今回の業務提携を通じて、ファーストトレードが支援中のEC事業者に対して、M&Aによるさらなる事業成長の機会と、事業の売却という選択肢を提供するとしています。
2022年3月、2020年に創業したスタートアップ企業で、アルゴリズム解析・データ分析・デザイン・広告運用等、デジタルマーケティングを活用したEC事業を展開しているケイティケイ株式会社は、サプリメントの開発・販売を行う株式会社イコリスの全株式を取得して子会社化しました。
今回の子会社化を通じて、イコリスが現在展開しているEC事業については、ケイティケイの調達力と信用力を活かして、現状のサプリメントから商品ラインナップを拡充し、さらなる成長を加速していくとしています。また、また、資本提携を機に、ケイティケイ内に専門部署「デジタルマーケティング本部」を設立しました。
2022年1月、デジタルコンテンツの流通・配信を手掛ける株式会社メディアドゥは、連結子会社であったNet Galley, LLCの英国現地法人であるNetGalley UK Ltd.を通じて、欧州・北米を中心に出版に係るEコマースソリューションなどを提供するSupadü Limitedの全株式を取得し、子会社化しました。
Supadüは、欧米大手出版社の殆どを含む約250社の顧客を抱え、27の異なる言語と20の国をカバーし、あらゆる規模の出版社へサービスを提供している企業です。Supadüのメタデータ管理プラットフォーム「Supafolio」を利用することで、書誌情報と連携した自社書籍(紙と電子)の直売が可能なwebサイトを容易に安価で構築し、物流機能を利用できます。Supadüは、高度な検索機能やレコメンド機能によるリッチなユーザー体験、流通パートナーとの連携機能など統合的なEコマースソリューションを出版社に提供しています。
メディアドゥは、今回のM&Aを通じて、海外ビジネスの強化並びに国内と欧米の出版業界のDX推進支援を加速させる等、グローバルに出版業界を支援するPublishing Service Platformの構築を目指すとしています。
ネットショップ(EC)業界は、業界再編が激化している業界です。これまで、ECサイトを構築する事業者が買収したり、買収されたりしていました。しかし、近年は、ECサイトの構築だけではなく、ECサイトの構築からマーケティングソリューションの提供まで一貫したサービスの提供を目指してM&Aが盛んに行われるようになっています。こうしたソリューションを提供できる事業者が、資本力のある事業者によって買収されているのが最近の業界のトレンドとなっています。単にECサイトを構築できるだけでは生き残れなくなっているのが、ネットショップ業界の現状であると理解しておきましょう。