M&Aの基礎知識 2021/10/27

従業員承継とは

従業員承継とは
                    

事業承継とは、現経営者が高齢や病気等による理由で社長や代表としての経営継続が難しくなった場合に備えて、次の世代に会社を継がせることです。事業承継に成功することで、会社自体や、自社の事業、取引先等の様々な要因を次の世代に伝えることができて、廃業せずに済む等の様々なメリットを享受ができます。

従業員承継とは

世間一般には、事業承継と言えば、社長自身の兄弟や子どもへと継がせるものというイメージが強くあります。しかし、今の日本においては、少子高齢化が進んでおり、経営者層の高齢化が進み、自分の兄弟や子供に事業を継がせるのが以前より格段に難しくなっています。すでに、通常引退するとされる年齢である70歳を超える中小企業の経営者は約245万人にものぼるといわれ、加えて、そのうち約半数の127万が後継者不在という問題を抱えています。また、価値観の多様化の中で、兄弟や子どもが事業を継ぎたがらないケースも増えていて、適切な後継者が見つからない可能性がより高まっています。

そんな中、「事業承継」が現在大きな注目を浴びております。親族への承継がかなわない場合にはM&A等を通じての第三者への売却等もありえますが、「従業員承継」という選択肢もあります。「従業員承継」は、「会社内承継」とも呼ばれますが、会社を従業員や役員に継いでもらう事業承継の方法です。

会社のことをよく理解している従業員に承継されるため、経営者にとっては安心感があり、他の従業員からの反発も少なく、スムーズな承継になる可能性が高いです。

従業員承継が実行される割合

事業承継は承継先によって分類可能です。具体的には、「親族内承継」と今回取り上げる「従業員承継」、M&Aによる他企業に対する「第三者承継」の3種類があります。この中で、最もメジャーなのは親族内承継ですが、これは上記に記載の要因で減少傾向にあります。従業員承継は、M&Aによる第三者承継とともに近年非常に注目されており、利用頻度も上がっている事業承継の方法となっております。

従業員承継によるメリット

後継者選択の幅広さ

事業承継に関しては、従来は親族が主な後継者候補でしたが、それに限ると、選択範囲が狭くなります。親族に承継の意欲がなければ、無理矢理継がせることはできませんし、親族が経営者としての資質がなく承継ができない可能性もあります。

これに対し、従業員承継であれば、複数の役員や従業員の中から有能かつ経営に適した人物を選ぶことができます。ただし、素質のある人でも経営をいきなり任せることは難しいでしょう。時間をかけて教育し、優れた指導者として育てることが必要になります。

企業文化の維持

経営者が交代すると、元々の経営理念や企業文化の色は薄くなる可能性があります。特に第三者承継でM&Aを利用した場合などには、社風や理念などは買い手側の会社の影響を受けるため、元々の会社のまま、とはいきません。従業員や役員が承継する場合、その会社の歴史や社風に対する理解が深い人物が経営者になるので、企業文化を自らも体現しながら受け継いでいけることが多いでしょう。

他の従業員や取引先の理解を得やすい

事業承継を実施するときは経営者が代わるので、他の従業員や取引先などへの説明責任が生じます。説明責任を果たせず、従業員が反発すると、会社の運営が円滑にできなくなる上、取引先の不信を買ったら取引停止されて支障がでます。また、経営者が代わったことで金融機関と不和が生じた場合、借り入れができなくなり、資金繰りが悪化する可能性もあります。第三者に承継してイチから全てを説明するよりは、従業員や役員が会社を継ぐパターンは周囲の理解を得やすく、説明責任という観点でよりスムーズに事業を引き継げる可能性があります。

従業員承継によるデメリット

資金面の問題

中小企業においては、経営者自身が自社の株式を所有します。オーナー経営者が次の経営者に経営権を譲るときには、通常は株式を譲渡します。株式譲渡を実施する際には、株式の保有者である経営者(オーナー)に対して、後継者が現金等の譲渡対価を支払わなければなりません。しかし、もともとの会社の従業員や役員は、対価支払いに足りる十分な資金力を持っていない場合が大半です。有望な従業員に資金力がなく、譲渡対価の支払いができない場合には、株式譲渡額を減額せざるを得ませんが、減額すると、現経営者のリタイア後の資金が減ってしまい、創業者利益が大幅に毀損してしまいます。また、税務上・会計上の観点から減額できる額にも限りがあります。事業譲渡の対価の問題は、従業員承継における大きな障害となります。

中小企業の価値評価は純資産もベースとして評価する場合が大半ですが、その場合、評価額が1億円を超えることも珍しくないため、個人が簡単に用意できる金額ではありません。この問題をクリアするためには、後継者に対し資金的な支援を行う必要があります。具体的には、後継者を役員にした後、役員報酬の金額を増額して資金を貯めさせる方法、金融機関と相談し、株式買収の資金を融資してもらう等の方法があります。

会社発展の交代可能性

従業員承継の場合、企業文化や社風をそのまま引き継いでもらえることが大きなメリットですが、裏を返すと、会社大きな変化を起こす難しいとも言えます。

経営者が代わるとき、会社にとっては大きな変革のチャンスとなります。また、M&Aによる事業承継をすると、買い手企業とのシナジー効果により、大きく業況を伸ばすことも可能です。例えば、買い手の持つ設備や販路を活用する、買い手から資金的な支援を受けるなどです。一方、従業員が承継する場合、そういった大きな外部からの新規リソースの調達は難しく、これまでの現有リソースに基づいた経営を踏襲することが多くなります。どのような方法でだれに事業承継を行うかで会社や事業の未来は大きく変わるでしょう。

従業員承継のまとめ

後継者の不足という問題の解決策として従業員承継は有効な手段の1つで複数メリットがあります。。株式買収の資金に関しては専門家のサポートをうけながら進めていきましょう。

 

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会社を高く売るポイントとは-M&Aで会社を売りたい方へ
会社を高く売るポイントとは-M&Aで会社を売りたい方へ

昨今、後継者不足により事業承継の問題がある中、M&Aで会社を売るという選択肢を取る経営者が増えています。会社を売ることは大変な出来事ですが、ポイントを押さえて売却をすれば様々なメリットがあります。この記事では、M&Aで会社を売却するメリット、会社を高く売るポイントについて解説します。

会社を売るメリットとは

会社を売ることによって、会社の存続や、経営者が利益を受けることができます。

株主の収入になる

会社を売ることの大きなメリットは、経営者や株主が売却益を得られることです。会社の規模や経営状況によりどの程度利益が出るかは異なりますが、独自のノウハウや強み、相性のいい買い手が見つかれば、売却益を大きくすることも可能です。

事業と従業員の雇用を守ることができる

会社を畳んでしまうことにより、従業員は新しい就職先を見つけなければなりません。しかしM&Aで会社を売る場合、会社が存続できるようになり、従業員の雇用が守れるというメリットがあります。また、事業自体も存続するため、既存の取引先にも継続して利用してもらうことができます。

会社を畳むことなく引き継ぐことができる 

M&Aで会社を売ることのメリットは従業員の雇用維持や取引先へ迷惑をかけずに済むことの他に、会社自体を存続させることもあります。これは経営者が長年育ててきた会社を潰さず、看板や法人を買い手企業へバトンをつなげることができ、経営で培ってきた会社の技術を後世に残すことができます。

債務や個人保証などから解放される

債務や個人保証などから解放されることも会社売却を行うメリットです。個人保証とは、会社が金融機関から融資を受ける際に、経営者などの個人が会社の融資について保証をする場合に、その経営者などが負う保証のことです。

会社が金融機関などからお金を借りるときには、社長の個人保証がついている場合が多いのですが、株式譲渡を行った場合には会社に紐づく債務の実質的に次のオーナーである買い手(経営者)が支払義務を負うことになります。また、その場合だと個人保証を名義変更することが一般的で、売り手企業の経営者はここで個人保証から解放されることになります。

買い手とのシナジーで会社が成長する機会を創出できる

買い手とのシナジーで会社の成長が期待できる点も、会社売却のメリットと言えます。M&Aで会社を売り、元々足りていなかった資金面や営業力、買い手企業のノウハウなどを掛け合わせることによって、会社が成長の機会を得ることができます。                     

会社を高く売るポイントとは

会社を売却する際には下記のような算式で計算されます。

会社の売却額-M&A費用(仲介手数料、税金等)=経営者の手取り額

そのため、売却額を高くすること、M&A費用を安くすることがポイントになります。会社を売るときのポイントを「事業」と「買い手」と「スキーム」の3つの観点から解説します。

会社を高く売るポイント:事業

 収益性を高く維持する

会社を売る際の金額を決める要素として一番わかりやすいのは売上、利益などの数字です。

例えばDCF法であれば、主に対象資産が生み出す将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を算出する方法のため、フリーキャッシュフロー(※)が大きければ大きいほど、企業価値は増加していきます。そのため、計算の基礎となる営業利益が大きくなれば企業価値も大きくなり会社を高く売ることができます。

※フリーキャッシュフローの算定:営業利益×(1-税率)+減価償却費-設備投資-運転資本

取引先や顧客

取引先と顧客も会社売却の金額を決める上で重要です。

もし大企業の大口の取引先がある場合、買い手企業からするとつながりのない大企業とのつながりができるため、会社を売る際に高く評価される可能性があります。また、継続して自社のサービスを利用している会社があれば、今後も長期的に収益を得られる可能性が高いため、こちらも高く評価される場合があり、会社を高く売ることにつながります。

技術力・ノウハウ

技術力やノウハウも会社売却の金額を決める上で重要になってきます。技術力やノウハウは会社の数値上表されないものではありますが、会社の利益を大きく支えているものになります。特にそれが独自の技術やノウハウであったり簡単にマネできないものであれば、会社を売る際に高く評価されることが多いでしょう。

従業員の経験・スキル

従業員は会社の大切な財産です。M&Aでは優秀な人材がそろっている会社には高い企業価値が付く可能性があります。特にその経験やスキルが簡単に得られるものでなかった場合、高い評価を得られます。

勤続年数が長く、経験豊富な従業員を採用するよりも会社を買うことで手に入れたほうが効率的であるため、そのような会社を買う場合もあります。

財務状況・法務状況の健全化

買い手企業がM&Aで恐れる要素の一つとして、買った企業が粉飾をしていることがあげられます。買い手は財務・法務状況が健全であるほど安心でき、価格交渉もしやすくなります。そのため、

適切なタイミングで会社を売る

会社を売る際は、タイミングが非常に重要になります。企業価値が一番高い時に会社を売ることで、より高い価格で売ることが期待できるからです。特に業績が好調な時や、最新技術や独自技術が社会の潮流として必要とされているときなどは、企業価値が高くなりやすくなります。逆に業績が不調の時や廃れた技術や規制緩和によって免許も必要なくなる場合などは将来性がないとみなされ、企業価値は低くなりやすいです。

このように、企業価値が高いタイミングは会社によって異なるので、会社売却を考えたら専門家に相談して、一番いいタイミングで売却できるようにしましょう。

 会社を高く売るポイント:買い手

買い手候補を多く見つける

会社を高く売る方法として、買い手候補を多く集めるのも重要です。

買い手が複数いることで、買い手同士が競争する環境になり、高い価格が付きやすくなります。その中から、最も好条件を提示した買い手候補を取引相手に選定することもできます。

会社売却にいいM&A専門家を見つけること

M&A専門家の選定も会社を売る際に重要になります。

会社を高く売るには、M&A専門家に支払う相談料や手数料といった諸費用を抑えることが重要になります。併せて買い手候補を多く見つけるためには、広いネットワークを持つM&A専門家を選ぶ必要があります。

そのため、各社の費用とサポート体制を比較し、最もM&A専門家を見つけましょう。

シナジー効果の高い買い手企業を見つける

買い手はM&Aによりシナジー効果を発揮できる会社を探しており、売却価格は、買い手がその会社にどの程度の価値を見出すかによって大きく変わります。

これは会計上ののれんに影響していきます。のれんとは、M&Aによって会社を買収した時の買収価格と買収される会社の時価純資産の差額のことを言います。買収価格は買い手・売り手で同意した金額で、時価純資産は会社を今処分した金額に近い金額を指しているため、当該金額を上回るものがのれんに該当します。

そのため、のれんはブランド力や技術力、人的資源や地理的条件、顧客ネットワークなど見えない資産価値を表しており、そういった帳簿上には直接現れづらい部分に魅力を感じる買い手を見つけることにより、今処分した場合の純資産額よりも大きい価格で売ることができます。

買い手の業種

買い手が異業種なのか、同業種なのかも売却額に影響していきます。それぞれ何を意識しているかによって変化するため、認識しているといいかと思います。

異業種の場合

異業種の場合は、目的としては異業種の情報がほしい、新規参入したいなどになり、得られる点が多いため、高く売れる傾向にあります。ただ、なじみのない業種の場合内容理解に時間がかかるため、会社を売るスピードは遅くなる傾向にあります。

同業種の場合

同業種の場合は、目的として規模の拡大が多く、事業内容を詳細に把握しているため、会社を売るスピードは速い傾向にあります。また、事業に詳しいことにより、本質的な面を重視するため、目的が達成されるのであれば高く売れ、目的と違っていたら厳しい条件を提示してくる可能性があります。

隣接業種の場合

隣接業種の場合は買収によるシナジーが大きな目的となります。そのため、同業種よりも高い金額で交渉をすることができ、異業種よりも事業は把握しているため、スムーズに会社を売ることができる傾向にあります。

会社を高く売るポイント:スキーム

株式譲渡と事業譲渡

会社ごと売却する株式譲渡と事業のみを譲渡する事業譲渡では、どのような違いがあるのでしょうか。

株式譲渡は株主が買い手に株式を売ることで、買い手が経営権を取得することになります。この場合は売却利益を得ることができるのは株主になり、オーナー企業であれば社長個人が利益を得ることになります。

対して事業譲渡は会社が自社の事業の一部を売ることで、買い手がその事業を吸収することになります。

この場合、会社が自社の事業を売っているので、売却利益は会社の利益に計上されます。

売却価額

会社売却では、株式譲渡の場合は一般的に従業員もそのまま移動しますが、事業譲渡の場合には、異なる企業の従業員になるために転籍手続が必要になります。この際に、人の移動が限定的な可能性があり、買い手にとっては不安要素になります。

そのため、人の数で売り上げが伸びる業態や属人性が高い業態、採用が難しい職種の人材を必要とする業態の場合、価格が高くなりやすくなります。

税金費用

税金費用はM&Aの中でも、最終の手取り額に大きな影響を与えます。その金額については株式譲渡と事業譲渡では、取引形態と利益を受け取る主体が異なるため、納める税金も異なってきます。税金を少なくしたいのであれば、有利なのは株式譲渡となります。株式譲渡の場合、譲渡益は消費税の対象とはならず、譲渡益に対して20%の税金が課せられます。

それに対して事業譲渡は売却した利益に対して法人税として29.74%と消費税の10%が課されることになります。そのため、税率が異なることにより、株式譲渡の方が税金費用を抑えられ、譲渡金額が同じ場合には

DD(デューデリジェンス)は事業売却の方が簡易的

事業譲渡の方がDD手続としては簡易的なものとなります。

DDとは、買い手が売り手の会社や事業を詳細に調査することです。財務状況のみならず、法務や労務など会社の状態を調べ、リスクがないかを明らかにします。会社売却では企業をすべてチェックする必要がありますが、事業譲渡では対象となる事業のみに限定されているため比較的簡易にDDが行われます。

まとめ:会社を高く売る方法

M&Aにより会社を売る場合、事前の準備や買い手候補の選定で売却額、売却までのスピードも変わってきます。売却方法、売却先、事前の整理など会社を高く売る方法はさまざまであり複雑でもあるので、一度専門家に依頼して相談してみることもいいと思います。

 

 

 

M&Aの基礎知識
2021/11/25
M&Aで生じる「のれん」とは?
M&Aで生じる「のれん」とは?

M&A(Mergers(合併)and Acquisitions(買収))を行うと買い手側の企業に対して「のれん」が生じることがあります。こののれんとは一体どのようなものでしょうか?今回は、M&Aのときに発生する「のれん」についてわかりやすく解説していきます。

「のれん」とは何か

 のれん(goodwill)とは、ある企業が別の企業を買収した際に発生する「無形資産」のことを言います。具体的には、企業のブランド名、強固な顧客基盤、良好な顧客関係、良好な従業員関係、独自の技術などの価値が、のれんの形態です。

 「のれん分け」という言葉がある通り、日本のお店の入り口には「のれん」が掛かっていることがあると思います。その「のれん」は、お店のブランド価値、顧客からの信頼、老舗として価値など、様々な魅力(お金を稼ぐ能力)を持つものです。有名なお店の「のれん分け」をしたお店であると分かれば、そのお店に行ってみたくなりませんか?その“行ってみたくなる”という、顧客を引き寄せる、目に見えない力が「のれん」と呼ばれるものの力なのです。つまり、のれんは会社にとって「キャッシュをもたらすもの」=無形資産=目に見えない収益を稼ぐ力なのです。のれんは、日本語では「超過収益力」とも呼ばれますが、これは、のれんが目に見えないけれど顧客を引き寄せる力を持っているからです。

具体的には、買収価格のうち、買収で購入したすべての資産の公正価値と、引き受けた負債の公正価値の純額よりも高い部分を「のれん」と呼びます。のれんの価値は、通常、買収(買収者がターゲットの企業を購入すること)の際に発生します。買収企業が対象企業に対して支払った金額が、対象企業の純資産の公正価値を上回った場合はほとんどのケースで、対象企業の「のれん」の価値が計上されます。買収企業が、対象企業の純資産の公正価値 よりも低い金額を支払った場合、買収企業は負ののれんを獲得しますが、これは窮地に追い込まれた企業をバーゲン価格で購入した場合などに発生します。

「のれん」の具体

たとえば、ABC社の資産(200億円)から負債(80億円)を差し引いた会社の価値(公正価値)が120億円であったとしましょう。そして、DEF社が150億円でABC社を買収した場合、本来、120億円であるはずのABC社をDEF社は150億円で買収したことになります。なぜ、DEF社は資産から負債を差し引いた公正価値が120億円の会社を150億円もかけて、つまり、30億円も余計にプレミアムを支払って買収するのでしょうか。

その理由は、DEF社にとってABC社には150億円の価値があるからです。資産から負債を差し引いた価値が120億円であっても、それは純粋な会社の清算価値を示しています。つまり、今すぐに会社を清算して、会社が保有している全ての資産を売却し、全ての負債の支払いをした価値が120億円なのです。

しかし、通常、会社は、目に見える資産だけではなく、目に見えない資産(無形資産)を保有しています。それは、前述のとおり、ブランド名、強固な顧客基盤、良好な顧客関係、良好な従業員関係、独自の技術といったその会社独自のものです。この無形資産に対して、DEF社は30億円分のプレミアムを支払っています。この30億円分を「のれん」と呼びます。そして、この30億円は「のれん」として買収者側の貸借対照表(B/S)に無形資産として計上されます。

 M&Aにおけるのれんと会計処理の方法

M&Aにおいて、特定の会社を買収する場合、一体いくらでその会社を買収できるのでしょうか?

たとえば、資産が50億円(時価)、負債が40億円(時価)の会社を買収しようとした場合、理論的には、この会社の価値は10億円(この会社の「株式」の価値は10億円)ですから、10億円あればこの会社を買収することができることになります。

しかし、通常、この会社を買収するためには、10億円以上の対価を支払わなければなりません。もし、10億円の会社を買収するために、12億円支払った場合には、差額2億円のプレミアムを支払い、のれんは無形資産として、貸借対照表に計上されることになります。

 貸借対照表に計上されたのれん(2億円)は、ずっと2億円の価値があるわけではありません。時間の経過とともに、その価値は減少しています。これは、老舗のお店の味が悪くなれば、お客さんが離れていくのと同様に、のれんも時間が経てば、収益を得られる力が失われていくことになります。したがって、日本の会計基準では、のれんを最大20年間にわたって償却することになっています。これを「のれんの償却」と呼びます。先の例で挙げた2億円ののれんを20年にわたって償却する場合、200,000,000÷20で1年間の償却額を求めることができますから、M&Aによる買収時に計上されていた200,000,000円の「のれん」は1年間で1,000,000円分の価値を向こう20年にわたり失っていくことになります。

これが日本の会計基準におけるのれんの会計処理の基本的な考え方です。

まとめ:M&Aで生じる「のれん」

 M&Aでは多くの場合、のれんが発生します。会社の価値よりも多額の資金を支払えば、それだけ多くのプレミアムを支払っているので、多額の「のれん」が計上されることになります。一方で、会社の価値よりも少ない資金で買収を成功させた場合には、逆ののれん、つまり「負ののれん」が計上されることになります。のれんは少しわかりにくい概念ですが、その本質は、会社に収益をもたらしてくれる目に見えない資産です。

M&Aの基礎知識
2021/11/24
事業売却は従業員にどのような影響を与えるか?|事業売却側の従業員への影響と処遇の変化
事業売却は従業員にどのような影響を与えるか?|事業売却側の従業員への影響と処遇の変化

事業売却のプロセスは、従業員のストレスレベルに大きな影響を与えます。場合によっては、事業売却のプロセスが1年以上に及ぶこともあります。合併が完了するまでの時間は、両社の従業員のストレスレベルに大きな影響を与えますし、組織再編が行われるので、従業員の処遇も変化します。このコラムでは、事業売却が従業員にどのような影響を与えるのかについて解説します。

売却される事業に従事する従業員に対する影響

事業売却とは、取得側となる企業に、売却側の企業が既存の事業を売却することをいいます。事業売却は、組織再編行為の一種ですが、売却される事業を実際に動かしているのは、その仕事に従事している従業員なので、組織体制が変わることは、従業員にさまざまな影響を与えます。ここでは、売却される事業に従事する従業員への影響について説明します。

(1)不確実性

 事業売却による不確実性の発生は、売却される事業に従事する従業員に対して、ネガティブな影響をもたらすものと考えられがちですが、ポジティブな影響をもたらすものもあります。この不確実性がもたらす影響は次のような形で顕現します。

(2)従業員雇用の喪失や配置転換

歴史的に見てもM&Aは雇用の喪失を招く傾向にあります。その原因の多くは、業務の重複や効率化のためのリストラクチャリング(雇用再編)です。雇用が脅かされるのは、一般に、売却される事業の上級管理職であり、退職金を提示されて解雇されるケースも少なくありません。また、ほとんどの従業員は、自分の立場が脅かされていることに気づき、他の場所で仕事を探し始めるかもしれません。事業売却後、余剰人員の発生は避けられません。この場合、従業員の権利が尊重されるべきであることは言うまでもありませんが、それでも重複する業務の人員は削減されるか他の業務へと配置転換がなされます。

たとえば、2つの銀行が合併したり、1つの銀行が買収されたりした場合、合併後の銀行はオペレーションや営業所が重複することになるでしょう。事業売却完了後の新しい銀行には、すべての支店は必要ないかもしれないし、2つの住宅ローン部門、2つの企業会計事務所、すべての預金を処理する2つの証明部門も必要ないといえます。

もちろん、事業売却後の企業の方がより多くの顧客や取引を処理することになるため、事業売却前の事業の無駄な業務プロセスがすべて解消されるわけではありませんが、重複している業務プロセスに従事している従業員が余剰となることが考えられます。その際には、業務プロセスの再整理の中で配置転換やレイオフが行われることになります。

一方で、M&Aにより従来の業務より大きな範囲や権限を任される従業員は、自身のキャリアアップや能力向上のチャンスとなります。レイオフや配置転換となった従業員でも、M&Aを機に従来のキャリアとは異なった仕事に触れ、自らのキャリアの新しい可能性が拓けたり、業務の幅が広がり市場価値が向上したりするプレイヤーもいます。また、M&Aという変化を伴う環境の中で業務を体験したということそのものが市場からの評価に繋がる可能性もあります。

(3)会社文化の融合

文化が個人にどのような影響を与えるかを考える最も簡単な方法は、外国でのホームステイを思い浮かべることでしょう。目に見えない違いであっても、ほとんどすべてが異なっています。買収側の従業員も売却側の従業員も、新しい企業文化、経営構造、オペレーションシステムを理解することを求められます。もし、新経営陣に移行のための効果的なコミュニケーションが不足していると、従業員の間で不満が生じる可能性があります。

しかし、そういった文化の混じり合いを乗り越えて、双方の文化の良い部分が継承され、新しい文化となることで会社の文化が更により良いものかつ強固なものになっていきます。また、M&Aを繰り返すことで他社の文化に対する順応性や受容性もあがり、排他的でない文化の醸成につなげていくことができます。

(4)従業員の賃金

合併した2つの会社の間に存在していた賃金格差がいくつか出てくる可能性があります。従業員はそのことを話題にするでしょうし、一見小さな格差であっても、大きな憤りを引き起こす可能性があります。

合併後の企業で貴重な貢献をしてくれるはずの従業員が、自分の仕事が脅かされていると感じた場合、自分の仕事が保証されていない企業よりも、当面の仕事が保証されている企業での仕事を引き受けた方が安全だと判断するかもしれません。

事業売却が完了し、売却後の統合段階に入れば、少なくともどちらかの会社において文化的な変化が起こります。これにより、従業員はより一生懸命働かなければならないと感じたり、新しいプロセスが「この会社のやり方ではない」と感じたりして、不満を抱くかもしれません。このような不満やそれに伴う反発は、少なくとも短期的にはパフォーマンスの低下につながると考えられます。

このような合併後の摺合せはリスクがありますが、しっかりと買収後のプランを事前に作っておくことで対応が可能です。中長期的には人事体系なども一本化されることで賃金にかかる不満はクリアにすることができますし、M&Aによるシナジー効果等で、業界内でのシェアや利益率などが向上すれば従業員に対する還元も可能になります。

従業員に対する事業売却の影響を緩和するには

事業売却に際して、譲渡側のマネジャー、あるいは譲受側のマネジャーからの曖昧で一方的なコミュニケーションなど、合併時の発生しがちな従業員とのコミュニケーション不足があります。これは、実際に事業に従事する従業員のモチベーションや生産性に大きな影響を与えます。

会社の利益を生み出すはずの主要な従業員が、この変化の中で保護され、尊重されていると感じられない場合、会社から逃げ出したくなるかもしれません。従業員が事業売却の際に以下のような質問をするのは当然のことであり、これらの質問にマネジャーがどのように解答できるかによって、その従業員の生産性や新会社に残りたいと思う可能性に影響を与えます。

  • 給与、福利厚生、有給休暇、退職金制度などはどのように変わるのか?
  • 他の場所や新しい場所での仕事の機会はあるのか?
  • 自分の仕事内容や責任は変わるのか?
  • 仕事のプロセス、システム、手順は変わるのか?その場合、どのようなトレーニングが提供されるのか?
  • お客様やメディアからの問い合わせにはどのように対応すればよいか?
  • 正式な発表のスケジュールはどうなっているか?

買い手側、売り手側問わずM&Aに関わる企業の経営者や上級管理職は、このような事項についてクリアにし従業員に対して十分なコミュニケーションを行う必要があります。

まとめ:事業売却側の従業員への影響と処遇の変化

譲受企業において、事業売却を成功させるためには、法的な組織再編行為だけではなく、譲受側の事業に従事する従業員への対応も重要です。企業には当然、それぞれ特有の組織文化、賃金体系、システムなどのルールが存在しています。これらを無視して、自分達のやり方やルールを押し付けてしまうと、従業員の生産性にも影響を与えますし、最悪の場合、従業員が辞めてしまうというケースも少なくありません。これに対応するためには、従業員と可能な限りコミュニケーションをとり、十分な説明をするのが重要です。

M&Aの基礎知識
2021/11/22