業種別M&A動向・事例 2022/07/30

食品卸売業の現状と課題〜M&Aの活用で廃業の危機を乗り越える〜

食品卸売業の現状と課題〜M&Aの活用で廃業の危機を乗り越える〜
                    

はじめに

食品卸売業に属する企業は、食品の生産者などである企業(メーカー)と、スーパーやレストランなど、食品の販売先となる企業の中間に位置しており、その双方をつなぐパイプ役を担っています。生産者と販売先の中間において生じる様々な業務(物流/在庫/決済など)を、食品卸売業に属する企業が一括して代行することによって、人件費や物流費等の取引コストを削減することで、私たちが日頃手にする機会の多い食品の安定的な供給を支えています。つまり、食品卸売業に属する企業は、食品流通をスムーズに、商品を効率的かつ安定的に供給する役目を社会において担っているのです。

新型コロナウイルスの世界的な感染蔓延を受けて、食品卸売業に属する企業は大きな打撃を受けました。日本では緊急事態宣言による外出自粛の動きを受けて、飲食店が軒並み休業となり、食品卸売業に属する企業もそれに伴って食品の卸先が無くなったことが、業績悪化を招きました。その結果、食品卸売業に属する企業の多くが廃業の危機を迎えています。

この記事では、そんな食品卸売業全体の動向を踏まえたうえで、M&Aを活用した生き残り戦略について説明していきます。

食品卸売業の現状

ここからは食品卸売業の現状について、東京商工リサーチの調査結果に基づいて説明していきます。この調査結果を確認することで、依然として食品卸売業が厳しい状況に置かれていることを確認します。

食品卸売業における直近の倒産件数

図表1: 飲食料品卸売業倒産 月次推移

図表1: 飲食料品卸売業倒産 月次推移

出所: 東京商工リサーチ

2021年上半期(1-6月)の「飲食料品卸売業」倒産件数は106件となりました。この倒産件数は、前年同期と比較すると22.6%減となり、2年ぶりに減少したかたちとなります。つまり、2021年上半期においては倒産件数が少なくなったと言えます。

しかし、このことが直ちに食品卸売業に属する企業が危機を乗り越えたことを意味するわけではありません。倒産件数が少なくなったのは、コロナ関連の資金繰り支援が功を奏したからです。コロナ関連の資金繰り支援は今後も継続されるものの、これが永続するわけではありません。実際、上半期の倒産件数は1992年以降の30年間で最少の結果となっているものの、この結果はコロナ関連の資金繰り支援によるダンピングの結果であると理解できます。

2021年6月の倒産件数は、27件と急増しており、この水準は2020年8月以来、10ヶ月ぶりに月間20件台に乗せたことになります。コロナ禍の長期化で業績回復が遅れ、資金繰りに苦しみ始めている企業や、いつまで続くかわからない自粛ムードに、息切れする企業も出始めているのが現実です。新型コロナ関連倒産の構成比は2021年4月から3ヶ月連続で35.0%を超え、上半期では31.1%となるなど、予断を許さない厳しい状況が続いています。

結論として、飲食料品卸売業の倒産は2021年度の上半期は過去30年間で最少を記録したとはいえ、長引くコロナ禍で飲食業の不振の煽りを受け、企業を取り巻く事業環境は極めて悪化しているということになります。

食品卸売業における業種細分類別倒産状況

図表2: 食品卸売業における業種細分類別倒産状況

図表2: 食品卸売業における業種細分類別倒産状況

出所: 東京商工リサーチ

図表2で示している『食品卸売業における業種細分類別倒産状況」を確認してみると、食品卸売業のなかでも、特に倒産が多い業種を絞り込めます。業種細分類別に考えてみると、2前年度と比較したときに倒産件数が最も多い割合を占めたのは「果実卸売業」で、5件の倒産がありました。この結果は、前年の同期と比べると400%増えたことになります。つまり、5倍もの数になっているということです。

コロナ禍の巣ごもり特需によって、小売店向けなど一部好調な食品卸売業に属する企業も散見されるものの、度重なる時短営業・休業要請や酒類提供の停止によって、主として飲食店向けを中心にした企業は厳しい状況が続いています。また、業界全体の動向として、前年と比べて20%も負債額が増えています。このことは、食品卸売業に属する企業の資金繰りを悪化させる可能性があるため、今後、安全性が問題となりうることを示唆しています。

果実卸売業の次に前年同期と比べて倒産が多かった業種は、茶類卸売業でした。茶葉卸売業の倒産件数は6件であり、これは前年同期比の200%増となります。この他にも、「砂糖・味そ・しょう油卸売業」が2件で100%増となり、「牛乳・乳製品卸売業」が2件で同100%増、「菓子・パン類卸売業」が12件(同71.4%増)で増加傾向にあることがわかります。

食品卸売業の課題

ここまでで、新型コロナ禍における食品卸売業の現状がみえてきたと思います。端的に、食品卸売業に属する企業の業績は極めて厳しい状態にあることがわかったのではないでしょうか。新型コロナ禍によって、将来の見通しもなかなか立たない厳しい状況下において、高齢化が進んでいる食品卸売業は消滅倒産している企業も少なくありません。食品卸売業に属する企業の倒産ケースのなかには、中堅規模の倒産も多くなっていますが、先行きの厳しさから事業継続を断念するケースも多く、廃業に至るケースもかなり多くなっています。

こうしたことを総合的に考慮すると、食品卸売業界全体の事業環境は今後も厳しいと言わざるを得ません。したがって、今後、食品卸売業に属する企業の事業再編が次々と進んでいくと考えられます。その結果、食品卸売業に属する企業の統廃合が進むものと考えられますが、その際に検討しておかなければならないのはM&Aの活用による事業継続の可能性です。

食品卸売業におけるM&Aの活用

食品卸売業に属する企業は、前に説明したように様々な要因で廃業に危機に瀕しています。新型コロナ禍では、政府による支援策のおかげで盛り返したようにみえているものの、実際に支援策がなくなれば、業界全体の市場規模が少なくなった事業環境化での生き残りをかけた競争はより一層激化すると考えられます。

こうした事業環境下においては、M&Aを積極的に活用することが重要です。経営者の高齢化によって事業を畳む企業が少なくない食品卸売業では、近年、M&Aを活用した事業承継が盛んに進められています。中小企業を支援している中小企業庁もM&Aを活用した事業承継を積極的に推進しており、様々な支援策も提供されています。自社に有効的にM&Aを活用するには、まずはM&A専門家へ相談すると良いでしょう。

おわりに

食品卸売業に属する企業の業績は、新型コロナ禍による政府の支援策により一時的に安定しているようにみえるかもしれません。しかし、この支援策はいずれ無くなるものです。どんなに一定期間延命できたとしても、それが永続するわけではないことをきちんと理解しておかなければなりません。そのうえで、今後の食品卸売業に動向を考えると、競争が活発になることが予想されます。したがって、業界の再編が進むと考えられます。

食品卸売業に属する企業は、そうした事業環境に晒される前に、きちんと生き残りのための戦略を考えておかなければなりません。この記事では、M&Aによる生き残り戦略の可能性を示しました。M&Aを活用すれば、廃業に追い込まれそうな企業でも、今後、事業を継続できる可能性が高くなります。食品卸売業に属する中小企業経営者であれば、5年後、10年後の自社が置かれる事業環境についてよく考え、事業の継続性を事前に検討しておくことが重要です。

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業種別M&A動向・事例
2022/07/31
介護業界のM&A~業界動向とM&A事例をご紹介~
介護業界のM&A~業界動向とM&A事例をご紹介~

はじめに

高齢者人口が増加している介護業界は、現在、苛烈な市場環境に置かれています。そうした状況のなかで、生き残るための手段としてM&Aが盛んに行われています。このコラムでは、介護業界が置かれている市場環境について説明したのち、実際に行われたM&A事例を紹介していきます。

介護業界の現状と課題

高齢者人口増加にともなって、要介護認定者数は増加の一途を辿っています。高齢者人口が減少に転じるのは、2040年頃とされており、今後も要介護認定者数は増加していくと考えられます。

こうした状況のなかで、介護サービスに対する需要もさらに高まることが予想されます。介護サービスの需要を見込んで多くの会社が介護業界に参入して久しい昨今では、介護サービス業界では苛烈な競争が起こっており、中小事業者にとって厳しい市場環境となっています。

介護業界において、介護事業者の主な収益は介護報酬です。介護報酬とは、事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に対して支払われる報酬のことを言います。

この介護報酬はサービス毎に設定されており、各サービスの基本的なサービス提供に係る費用に加えて、各事業所のサービス提供体制や利用者の状況等に応じて加算・減算される仕組みとなっています。つまり、介護報酬は介護事業者が自由に設定できるものではないため、介護報酬を増やす(売上を増やす)ために、値上げなどを行うことはできません。そのため、介護業界においては、いかにコストを削減するか、あるいは効率的な経営を行うかが重要な意味を持っています。

介護報酬は3年毎に見直されるため、改訂されることで介護報酬が増える可能性ももちろんあります。しかし、こうした事業環境にある以上、大幅な介護報酬の増加は見込めないと言えるでしょう。したがって、介護事業者にはコストの削減が求められます。介護事業者の主なコストは、施設の減価償却費や賃料等の設備関連コストと人件費です。

昨今において、建築費は、資材単価や労務単価の上昇を背景として上昇傾向にあります。さらに、介護サービス従事者の給与については、足元目立った変動は見られないものの、有効求人倍率が上昇していることから、今後賃上げが必要となることも想定され、人材派遣費の増加も懸念されています。

今後、介護報酬が増えれば、事業所様の収入が増加すると考えることもできますが、介護スタッフの給与等も引き上げられる可能性も高まっていることから、必ずしも市場環境が改善されるわけではありません。

介護業界におけるM&A

 市場環境の厳しさに加え、深刻な人手不足や新型コロナウイルス感染症の影響で、介護業界の中小事業者の経営は厳しい状況に置かれています。一方で、高齢者人口の増加によって、今後も市場規模の拡大が見込まれています。

高まる介護需要に対して、介護人材を確保し、規模のメリットを生かすために、大手事業者によるM&Aによって、介護事業の拡大を図る動きが活発化しており、業界の再編が進んでいます。

介護業界において、M&Aによる事業者買収が増加している要因は、そもそも経営者自身が高齢化して、事業承継問題を抱えていることに加え、経営環境の悪化が挙げられます。慢性的かつ深刻な人手不足は、入居者の受け入れ制限や人件費の上昇につながっています。また、コロナ禍において、入居者の感染防止に取り組む必要があることから、コスト増の傾向が強まっており、中小企業が単体では経営を続けるのが難しくなりつつあります。

2022年からは、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となることから、今後も、介護サービスについては中長期の需要が見込まれており、介護業界は今後も規模が大きくなっていく見通しです。こうした状況下において、成長を加速させるためにM&Aを積極的に行う介護サービス事業者が増えています。

M&Aによって会社の売上規模を大きくすることによって、スケールメリットを享受することができるだけはなく、介護サービスに必要不可欠な人材も確保できます。施設の収入になる介護報酬は、国が地域やサービスごとに単価を定めているため、大幅に売上高を増加させることは難しい状況です。そのなかで収益を出すためには、規模を拡大し、コストを削減していくことが重要となります。こうした状況であるからこそ、介護業界においては、大手介護サービス事業者によるM&Aが盛んに行われているのです。

介護

介護業界におけるM&A事例

ここからは、介護業界におけるM&A事例を紹介していきます。

(1)ALSOKによるかんでんジョイライフとかんでんライフサポートのM&A

2022年6月、ALSOKは、関西電力傘下で有料老人ホーム運営など介護事業を手がける、「かんでんジョイライフ」と「かんでんライフサポート」の2社を子会社化することに成功しました。ALSOKは、この子会社化を通じて、主業である警備事業の周辺分野として育成中の介護事業を強化する狙いがあります。

ALSOKは、国や地方公共団体、各種金融機関、一般事業者向けに、多種多様な警備サービスを提供するほか、個人の顧客にもホームセキュリティをはじめ、安全安心と便利を提供する取組みを進めており、さらに、警備事業を起点として周辺分野への事業領域拡大に取組んでいます。

個人、特に高齢者に対する安全安心を提供するため、2012年にALSOKケア株式会社を設立して介護事業に参入したあと、2014年には株式会社HCM、2015年にはALSOKあんしんケアサポート株式会社、2016年には株式会社ウイズネット、2018年に訪問マッサージの株式会社ケアプラス、2020年に㈱らいふホールディングスを子会社化し、更には同年、三菱商事株式会社と資本業務提携のうえ高齢者生活支援サービス等を行う株式会社日本ケアサプライを持分法適用関連会社化し、介護およびその関連事業を強化しています。

今回のM&Aによって、主に特定施設を中心に高齢者施設・住宅事業を1,200室超規模で展開し、関西4府県(京都、大阪、兵庫、奈良)においてトップクラスを誇る、強固なブランド力を確立するとしています。

「かんでんジョイライフ」と「かんでんライフサポート」が展開する介護事業は、利用者が自分らしい生活を継続できることを重視した、自立者向けを含む高品質な介護サービスを提供し続けてきた特徴があるとしており、今回のM&Aを通じてALSOKに参画することで、介護事業を拡大・強化するのみならず、新たなラインナップ拡充による総合力強化に資するとしています。

(2)SOMPOケアによるネクサスケアのM&A

2022年4月、SOMPOホールディングス(HD)傘下で介護事業を手掛けている「SOMPOケア」は21日、全国で16の介護施設を運営する「ネクサスケア」を完全子会社化することに成功しました。

SOMPOケアは、M&Aを行った2022年4月時点において、約450の介護施設を運営しており、今後も自社施設の新設やM&Aなどによって規模の拡大を狙っています。提供している介護サービスの価格帯がSOMPOケアの施設の水準に近いことから、M&Aを行うことによって、運営面でシナジーを生みやすいと考え、今回のM&Aに至りました。

もともと、ネクサスケアは、東京や仙台、札幌などの主要都市で、9カ所の介護付き有料老人ホームと、7カ所の住宅型有料老人ホームを運営している企業です。従業員はそのままSOMPOケアが引き継ぎ、施設名なども当面は変えずに運営するとしています。SOMPOケアは、自社でも今後5年間で33棟の介護施設を新設する方針を掲げており、規模拡大に積極的だ。また、こうした動きの中でも安定的に人材を確保するため、賃金改定の実施や研修制度の強化にも取り組んでいくとしています。

(3)ニチイ学館による西日本ヘルスケアのM&A

2021年6月、ニチイ学館は、LeTechの介護事業を承継する西日本ヘルスケアを子会社化することに成功しました。

もともと、ニチイ学館は、医療関連事業、介護事業、保育事業、ヘルスケア事業、教育(語学)事業、セラピー事業、グローバル事業を展開している企業でした。一方で、LeTechは、2015年11月に住宅型有料老人ホーム「サンライフ栗東」(滋賀県栗東市)を開設して以来、順調に拡大を続け、滋賀県、京都府及び大阪府に、合計7施設の住宅型有料老人ホーム、グループホーム・小規模多機能型居宅介護及びサービス付き高齢者向け住宅を運営していた企業です。今回のM&Aを通じて、施設利用者や展開地域へのサービス供給を安定化し、グループの中長期的な企業価値向上を図るとしています。

おわりに

介護業界は厳しい市場環境に置かれています。それでもM&Aによって再編が起こっている理由は、市場規模の拡大が今後も見込まれているからです。こうした市場環境においては、介護事業者が、さらに効率化やコスト削減を推し進めるべく、M&Aが盛んに行われるようになっていくはずです。特に中小事業者は、厳しい状況に置かれており、大手事業者とのM&Aによってその傘下に入ることが多くなっていくことでしょう。

その他の業種・業界別の事業承継/M&A(事業買収・売却・提携)の特徴・動向や事例はこちら

業種別M&A動向・事例
2022/07/30
不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介
不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介

不動産業とは、大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分類され、不動産の売買、交換、賃貸、管理または不動産の売買、賃借、交換の代理もしくは仲介を行う事業を営むことを言います。近年、不動産業界では業界の再編が進んでおり、その手段としてM&A(Mergers & Acquisitions)が盛んに利用されています。今回は、そんな不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。

不動産業を営む企業のM&A動向

不動産業は、全産業の売上高の 3.3%、法人数の 12.4%(令和2年度)を占める重要な産業の1つです。不動産業に関わる業務内容は幅広く、事業者の規模も大手総合不動産会社から個人経営の中小事業者まで多岐にわたることが特徴となっています。

近年では、不動産専業の事業者だけでなく、異業種でも一部不動産業を営む事業者や新興企業の参入も多くM&Aの買収ニーズもある業界です。不動産業は、不動産という高額な商品を取り扱うという業界特性を持つことから、景気動向に左右される業界となります。景気が良ければ、戸建てやマンションの売れ行きも好調となり、各社の業績も良くなりますが、景気が悪くなれば、不動産が売れずに不調に陥る場合もあります。

今後の日本は、高齢化社会を迎えるということもあり、人口減少も予想されるなかで、不動産業はその対応を迫られることになるでしょう。その結果、多くの中小企業者同士のM&Aが進んだり、他業界からの新規参入も相次いでいます。商用施設の建設については、新型コロナウイルスの世界的な流行がおさまってきたこともあって、今後、一定の需要が見込まれるものの、戸建てやマンションといった居住施設については、人口減少によって需要が減少することが予想されるため、現在から業界の再編が進んでいます。

不動産業を営む企業のM&A事例

ここからは、最近の不動産業に関するM&A事例を紹介していきましょう。

(1)日本リビング保証による三春情報センターへのM&A事例

2022年6月、住宅のトータルメンテナンス事業、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を手掛けている日本リビング保証は、完全子会社であった横浜ハウス(売上高1億1900万円、営業利益△555万円、純資産△909万円)の全株式を、不動産売買や賃貸の仲介などを手がける三春情報センター(横浜市)に譲渡しました。横浜ハウスは、戸建住宅・マンション・店舗等の全リフォーム工事の請負などを行っている企業です。

もともと、日本リビング保証は2020年7月に横浜ハウスを子会社化していたものの、シナジー効果を十分に得られないと判断し、譲渡に至っています。

(2)ビーロットによる東観不動産のM&A事例

2022年5月、国内外の富裕層・投資家を顧客とした資産運用サービスを手掛ける総合不動産会社であるビーロットは、不動産賃貸業を営む東観不動産(東京都千代田区。売上高1億3100万円、営業利益500万円、純資産8億300万円)の全株式を取得して子会社化しました。

ビーロットは、不動産を保有する企業のM&Aに積極的に取り組んでおり、今回の東観不動産の買収を通じて、不動産管理のノウハウを取得するとともに、保有する不動産のさらなるバリューアップを図るとしています。

(3)キムラタンによる和泉商事のM&A事例

2022年4月、1925 年の創業以来、ベビー・子供アパレル事業を主な事業内容とし、一貫して自社オリジナル企画・デザインによる製品を提供してきたキムラタンは、不動産賃貸業を営む和泉商事(売上高11億3000万円、営業利益2億4900万円、純資産9億4800万円)の全株式を取得し子会社化しました。

キムラタンは、「2021年2月に事業を開始した不動産事業を第2の柱事業として拡大を図ることを目指し、全国に約70の収益物件を所有し、安定収益を計上している和泉商事の全株式を取得することを決定した」と公表しています。

このM&Aによって、キムラタンは、赤字となっているベビー・子供アパレル事業を大幅に縮小し、不動産賃貸業を主事業へと切り替えていくとしています。

(4)日本エスコンによるピカソと優木産業のM&A事例

2021年8月、関西、首都圏を中心に全国で不動産の総合開発事業を展開する日本エスコンは、関西で不動産賃貸事業を展開するピカソ(大阪市。売上高60億7000万円、営業利益18億7000万円、純資産43億9000万円)、優木産業(大阪市。売上高31億円、営業利益7億1300万円、純資産15億9000万円)の2社の全株式を取得し子会社化しました。

ピカソと優木産業の子会社化は、「賃貸事業を強化するとともに安定収益を確保し、収益構造の転換を一気に推進するものである」と公表しています。

このM&Aによって、日本エスコンは、関西圏における不動産賃貸事業の安定収益を確保していくとしています。

(5)三越伊勢丹ホールディングスによるThe Blackstone Group Inc.へのM&A事例

2020年11月、三越伊勢丹ホールディングスの完全子会社である三越伊勢丹が保有する連結子会社の三越伊勢丹不動産の全株式をThe Blackstone Group Inc.とその関連会社が運用または投資アドバイザーを務める特定のファンドが設立した法人であるエチゴ合同会社に譲渡しました。

三越伊勢丹不動産は、自社で所有する物件の賃貸営業やマンションの分譲を中心に事業を展開する一方で、不動産オーナーが所有する物件のサブリース事業・賃貸管理事業、管理組合事業にも取り組んできた企業です。

このM&Aによって、三越伊勢丹ホールディングスは株式の売却益を得ることとなった。三越伊勢丹ホールディングスの主事業である百貨店事業が不況にあえぐなか、今回の株式売却を通じて赤字を補填して、今後は主事業の強化に取り組むとしています。

おわりに

景気動向に左右されやすい不動産業界は、安定収益をもたらす物件を取得するために、盛んにM&Aが行われている業界です。不動産管理には、不動産管理特有のノウハウが必要となるということもあり、異業種からの参入のために、不動産業を営む企業の買収も盛んに行われています。

各業界別M&Aの一覧はこちら

業種別M&A動向・事例
2022/07/30