近年、中小企業においてもM&Aが盛んに行われるようになっています。中小企業においては、特に現経営者の高齢化に伴い、その事業の承継が問題となりがちですが、それを解決する手段としてM&A(事業売却・株式売却)が活用されているのです。この記事では、製造業における中小企業のM&Aの特徴とその事例について詳しく紹介していきます。
製造業における中小企業のM&Aの特徴と動向
多くの製造業を営む中小企業では、販路の拡大が重要な経営課題となっています。会社内にどんなに高い技術や優秀な人材がいても、製造業の場合、それを商品として販売することができなければ売上に繋げることができません。製造業界には、高い技術力を有するものの、資本力や経営能力に乏しい会社もあり、宝の持ち腐れとなってしまうケースも見受けられますが少なくないのです。
特に、製造業の企業において、成長や新規事業の立ち上げには、製造のノウハウ・技術や人材、優良な取引先などが不可欠な要素となります。しかし、ノウハウなどの経営資源を0から自前で習得取得するには膨大な時間かかります。これに加えて、製造業界を取り巻くトレンドや顧客ニーズの変化が近年は早くなっているため、一から経営資源を確保しようとしては、時代の変化に対応することができません。
そのため、近年では、中小企業の多くが多額の資本を有する大企業の傘下に入る(子会社もしくはか関連会社となる)ケースが多くなっています。実際、中小規模の製造業における中小企業経営のの多くが業績不振にあえいでおり、後継者問題にも悩まされています。
自社よりも事業規模が大きい会社とM&Aを行えば、買い手企業の傘下として製造事業を運営することになりますから、買い手企業が有するブランド力や資金、最新設備などの経営資源を活用することで、安定的な経営や事業成長の加速を実現できます。大企業の傘下に入ることで、大企業が持つ販路を自社の販路として活用できるようになるため、売上増を見込んで、M&Aを検討する企業が増えてきています。大企業にとっても、様々な商品を自社の販売経路で販売できるようになることから、中小企業のM&Aを盛んに行うようになっています。
製造業におけるM&Aの事例
ここでは、製造業において実際に行われたM&Aのケースを3つ紹介します。
(1)株式会社萬坊が第三者割当増資によってJR九州の子会社となったケース
株式会社萬坊の概要
所在地 | 佐賀県唐津市 |
従業員 | 150名 |
資本金 | 2,000万円 |
事業内容 | 食料品製造業 |
ひとつ目に紹介するのは、第三者割当増資によって他社の子会社となったケースです。佐賀県唐津市で活魚料理店の経営と水産物加工品の製造・販売をする企業である株式会社萬坊は、2019年12月にJR九州の子会社となりました。
株式会社萬坊は、もともと、1983年に日本初の海中レストラン「萬坊」を開店した企業で、1985年に料理長が開発した「いかしゅうまい」が大ヒットし、2021年現在、直営7店舗で商品を販売するほか、商社の流通網に乗せて全国へ商品を出荷しています。株式会社萬坊は、九州を代表するお土産品となった「いかしゅうまい」の発祥として、 現在も抜群の人気を誇っており、地域の名産である「呼子のいか」のブランド化に貢献するなど、地域の活性化にも貢献している企業です。
しかしながら、1990年代に始めたフグ養殖業の不振により債務超過に陥り、社長交代を機に不採算事業から撤退するなど、経営改善を進めていました。経営改善によって利益が出ても、債務の返済に回るばかりで、老朽化した工場設備の改修もままならない状態でした。将来に向けた設備投資が不可欠であったものの、投資資金の追加融資の返済計画を練っても、将来的に債務超過に陥る可能性を捨て切れず、当時の社長であった太田氏がM&Aの検討を始めました。その結果、JR九州の子会社となることが、2019年に決定しました。JR九州としても、株式会社萬坊とは、観光・物販の両面で様々な連携が可能で、お土産品の販路開拓や新商品・新業態の開発、地域への送客等の取り組みを通じて、一層の業容の拡大が期待できるM&Aでした。
このM&Aによって、JR九州の販売網を活用して首都圏のスーパーマーケットなど新たな販路を獲得することができ、さらに、増資によって調達した資金を活用して工場設備の改修を行うなど、生産の効率化や販路拡大、経営基盤の安定化に成功しました。
エミック株式会社の概要
所在地 | 東京都品川区 |
従業員数 | 180名 |
資本金 | 9,080万円 |
事業内容 | 業務用機械器具製造業 |
ふたつ目に紹介するのは同業他社から事業を買収したケースです。東京都品川区のエミック株式会社は、複合環境試験装置の製造・販売を主に営む企業です。主な取引先は自動車メーカーと自動車部品メーカーとなっています。自動車は、近年、ガソリン車からEVへと開発のシフトが起きており、それに伴いエンジン周りを中心に部品点数が減っています。その結果、複合環境試験装置は景気変動の影響を受けやすいこともあり、近年は、顧客が持ち込んだサンプルを試験する受託試験事業にも参入するなど、事業の多角化を図るなど成長を続けてきました。
一方で、日測エンジニアリング株式会社は、温度試験に必要な装置(特殊チャンバー)などの製造や受託試験事業を営む企業です。2008年のリーマンショック後に投資に失敗し、業績不振に陥り、2018年に自主再建が困難となったため、事業譲渡の引受先を探していました。
そこで引受先となったのがエミック株式会社です。エミック株式は、2019年7月に日測エンジニアリング株式会社を買収しました。M&A実施により受託試験事業などの規模が拡大し、エミック株式会社の受託試験事業の売上げ、営業利益は約2倍となるなど、買収によるシナジー効果によって経営の安定化にも成功したケースとなっています。
株式会社ユニックスの概要
所在地 | 大阪府東大阪市 |
従業員数 | 12名 |
資本金 | 2,200万円 |
事業内容 | プラスチック製品製造業 |
さいごに紹介するのは従業員への事業承継に成功したケースです。大阪府東大阪市の株式会社ユニックスは、1984年に現会長である苗村昭夫氏が設立した企業で、表面処理加工業を営んでいます。ポリウレタンの表面処理技術を強みに産学連携にも積極的に取り組むなど、研究開発型企業として長年事業展開してきました。実際、独自開発した表面加工技術を強みに国内外に展開し、大阪府より新技術・新製品開発功労賞を受賞しています。
こうした輝かしい実績がある一方で、会長である苗村氏が高齢となったこともあり、事業の承継を検討し始めました。株式会社ユニックスの事業承継のケースがユニークであるのは、従業員アンケートを実施して後継者を決定した点です。全従業員にアンケートを実施して、後継者を抜擢しています。会長が保有していた自社株式は、取引先銀行からアドバイスを受けて、事業承継ファンドが無議決権株式として買い取り、後継者が議決権のある株式の3分の2を保有することで事業承継を行っています。この手続きにより、従業員後継者への事業承継で問題となりがちな後継者の資金問題を解決しています。
また、事業を承継するまでに、およそ3年間の準備期間を設けたことも今回の事業承継が成功した重要な要因です。株式会社ユニックスの後継者に抜擢された町田氏は、中小企業大学校などで事前に経営について学び、2016年、代表権を苗村会長に残したまま社長に就任するなど、実際に経営者となる前の事前準備を十分に行いました。代表権を現オーナーから後継者に委譲することは、後継者が会社の重要事項を決められる立場になり、独り立ちして会社経営を行うことを意味します。したがって、そのための十分な準備期間を後継者に与えることが、非常に重要な意味を持つのです。その結果、2020年に代表権が町田氏に移っても、新体制のもとで事業を展開することができました。
製造業における中小企業のM&Aの特徴は、多額の資本を持つ企業の傘下に入って、販路の拡大を目指している点にあります。製造業において、有能な人材の確保や技術力の向上は重要な経営課題ではあるものの、それを製品として販売できなければ売上に繋がりません。その結果、業績が悪化してしまい、再起不能となるケースも少なくありません。その結果、販路拡大のために、多額の資本を持つ企業の傘下に入って、販路を拡大する中小企業が多くあります。そうした事例としてこの記事では3つのM&A事例を紹介してきました。
M&Aは、製造業における様々な経営課題を解決するための一つの手段となりうるものです。業績の不振にあえいでいる中小企業経営者の方は、それを解決するための手段の一つとしてM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。M&Aのメリットやデメリットはこちらをご覧ください。
近年増加傾向のM&A・事業承継について、業種・業界別の一覧です。業種別に特長や動向、成約事例などをみてみましょう。
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高齢者人口が増加している介護業界は、現在、苛烈な市場環境に置かれています。そうした状況のなかで、生き残るための手段としてM&Aが盛んに行われています。・・・
高齢者人口が増加している介護業界は、現在、苛烈な市場環境に置かれています。そうした状況のなかで、生き残るための手段としてM&Aが盛んに行われています。このコラムでは、介護業界が置かれている市場環境について説明したのち、実際に行われたM&A事例を紹介していきます。
高齢者人口増加にともなって、要介護認定者数は増加の一途を辿っています。高齢者人口が減少に転じるのは、2040年頃とされており、今後も要介護認定者数は増加していくと考えられます。
こうした状況のなかで、介護サービスに対する需要もさらに高まることが予想されます。介護サービスの需要を見込んで多くの会社が介護業界に参入して久しい昨今では、介護サービス業界では苛烈な競争が起こっており、中小事業者にとって厳しい市場環境となっています。
介護業界において、介護事業者の主な収益は介護報酬です。介護報酬とは、事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に対して支払われる報酬のことを言います。
この介護報酬はサービス毎に設定されており、各サービスの基本的なサービス提供に係る費用に加えて、各事業所のサービス提供体制や利用者の状況等に応じて加算・減算される仕組みとなっています。つまり、介護報酬は介護事業者が自由に設定できるものではないため、介護報酬を増やす(売上を増やす)ために、値上げなどを行うことはできません。そのため、介護業界においては、いかにコストを削減するか、あるいは効率的な経営を行うかが重要な意味を持っています。
介護報酬は3年毎に見直されるため、改訂されることで介護報酬が増える可能性ももちろんあります。しかし、こうした事業環境にある以上、大幅な介護報酬の増加は見込めないと言えるでしょう。したがって、介護事業者にはコストの削減が求められます。介護事業者の主なコストは、施設の減価償却費や賃料等の設備関連コストと人件費です。
昨今において、建築費は、資材単価や労務単価の上昇を背景として上昇傾向にあります。さらに、介護サービス従事者の給与については、足元目立った変動は見られないものの、有効求人倍率が上昇していることから、今後賃上げが必要となることも想定され、人材派遣費の増加も懸念されています。
今後、介護報酬が増えれば、事業所様の収入が増加すると考えることもできますが、介護スタッフの給与等も引き上げられる可能性も高まっていることから、必ずしも市場環境が改善されるわけではありません。
市場環境の厳しさに加え、深刻な人手不足や新型コロナウイルス感染症の影響で、介護業界の中小事業者の経営は厳しい状況に置かれています。一方で、高齢者人口の増加によって、今後も市場規模の拡大が見込まれています。
高まる介護需要に対して、介護人材を確保し、規模のメリットを生かすために、大手事業者によるM&Aによって、介護事業の拡大を図る動きが活発化しており、業界の再編が進んでいます。
介護業界において、M&Aによる事業者買収が増加している要因は、そもそも経営者自身が高齢化して、事業承継問題を抱えていることに加え、経営環境の悪化が挙げられます。慢性的かつ深刻な人手不足は、入居者の受け入れ制限や人件費の上昇につながっています。また、コロナ禍において、入居者の感染防止に取り組む必要があることから、コスト増の傾向が強まっており、中小企業が単体では経営を続けるのが難しくなりつつあります。
2022年からは、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となることから、今後も、介護サービスについては中長期の需要が見込まれており、介護業界は今後も規模が大きくなっていく見通しです。こうした状況下において、成長を加速させるためにM&Aを積極的に行う介護サービス事業者が増えています。
M&Aによって会社の売上規模を大きくすることによって、スケールメリットを享受することができるだけはなく、介護サービスに必要不可欠な人材も確保できます。施設の収入になる介護報酬は、国が地域やサービスごとに単価を定めているため、大幅に売上高を増加させることは難しい状況です。そのなかで収益を出すためには、規模を拡大し、コストを削減していくことが重要となります。こうした状況であるからこそ、介護業界においては、大手介護サービス事業者によるM&Aが盛んに行われているのです。
ここからは、介護業界におけるM&A事例を紹介していきます。
2022年6月、ALSOKは、関西電力傘下で有料老人ホーム運営など介護事業を手がける、「かんでんジョイライフ」と「かんでんライフサポート」の2社を子会社化することに成功しました。ALSOKは、この子会社化を通じて、主業である警備事業の周辺分野として育成中の介護事業を強化する狙いがあります。
ALSOKは、国や地方公共団体、各種金融機関、一般事業者向けに、多種多様な警備サービスを提供するほか、個人の顧客にもホームセキュリティをはじめ、安全安心と便利を提供する取組みを進めており、さらに、警備事業を起点として周辺分野への事業領域拡大に取組んでいます。
個人、特に高齢者に対する安全安心を提供するため、2012年にALSOKケア株式会社を設立して介護事業に参入したあと、2014年には株式会社HCM、2015年にはALSOKあんしんケアサポート株式会社、2016年には株式会社ウイズネット、2018年に訪問マッサージの株式会社ケアプラス、2020年に㈱らいふホールディングスを子会社化し、更には同年、三菱商事株式会社と資本業務提携のうえ高齢者生活支援サービス等を行う株式会社日本ケアサプライを持分法適用関連会社化し、介護およびその関連事業を強化しています。
今回のM&Aによって、主に特定施設を中心に高齢者施設・住宅事業を1,200室超規模で展開し、関西4府県(京都、大阪、兵庫、奈良)においてトップクラスを誇る、強固なブランド力を確立するとしています。
「かんでんジョイライフ」と「かんでんライフサポート」が展開する介護事業は、利用者が自分らしい生活を継続できることを重視した、自立者向けを含む高品質な介護サービスを提供し続けてきた特徴があるとしており、今回のM&Aを通じてALSOKに参画することで、介護事業を拡大・強化するのみならず、新たなラインナップ拡充による総合力強化に資するとしています。
2022年4月、SOMPOホールディングス(HD)傘下で介護事業を手掛けている「SOMPOケア」は21日、全国で16の介護施設を運営する「ネクサスケア」を完全子会社化することに成功しました。
SOMPOケアは、M&Aを行った2022年4月時点において、約450の介護施設を運営しており、今後も自社施設の新設やM&Aなどによって規模の拡大を狙っています。提供している介護サービスの価格帯がSOMPOケアの施設の水準に近いことから、M&Aを行うことによって、運営面でシナジーを生みやすいと考え、今回のM&Aに至りました。
もともと、ネクサスケアは、東京や仙台、札幌などの主要都市で、9カ所の介護付き有料老人ホームと、7カ所の住宅型有料老人ホームを運営している企業です。従業員はそのままSOMPOケアが引き継ぎ、施設名なども当面は変えずに運営するとしています。SOMPOケアは、自社でも今後5年間で33棟の介護施設を新設する方針を掲げており、規模拡大に積極的だ。また、こうした動きの中でも安定的に人材を確保するため、賃金改定の実施や研修制度の強化にも取り組んでいくとしています。
2021年6月、ニチイ学館は、LeTechの介護事業を承継する西日本ヘルスケアを子会社化することに成功しました。
もともと、ニチイ学館は、医療関連事業、介護事業、保育事業、ヘルスケア事業、教育(語学)事業、セラピー事業、グローバル事業を展開している企業でした。一方で、LeTechは、2015年11月に住宅型有料老人ホーム「サンライフ栗東」(滋賀県栗東市)を開設して以来、順調に拡大を続け、滋賀県、京都府及び大阪府に、合計7施設の住宅型有料老人ホーム、グループホーム・小規模多機能型居宅介護及びサービス付き高齢者向け住宅を運営していた企業です。今回のM&Aを通じて、施設利用者や展開地域へのサービス供給を安定化し、グループの中長期的な企業価値向上を図るとしています。
介護業界は厳しい市場環境に置かれています。それでもM&Aによって再編が起こっている理由は、市場規模の拡大が今後も見込まれているからです。こうした市場環境においては、介護事業者が、さらに効率化やコスト削減を推し進めるべく、M&Aが盛んに行われるようになっていくはずです。特に中小事業者は、厳しい状況に置かれており、大手事業者とのM&Aによってその傘下に入ることが多くなっていくことでしょう。
その他の業種・業界別の事業承継/M&A(事業買収・売却・提携)の特徴・動向や事例はこちら
不動産業とは、大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分類され、不動産の売買、交換、賃貸、管理または不動産の売買、賃借、交換の代理もしくは仲介を行う事業を営むことを言います。近年、不動産業界では業界の再編が進んでおり、その手段としてM&A(Mergers & Acquisitions)が盛んに利用されています。今回は、そんな不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。
不動産業は、全産業の売上高の 3.3%、法人数の 12.4%(令和2年度)を占める重要な産業の1つです。不動産業に関わる業務内容は幅広く、事業者の規模も大手総合不動産会社から個人経営の中小事業者まで多岐にわたることが特徴となっています。
近年では、不動産専業の事業者だけでなく、異業種でも一部不動産業を営む事業者や新興企業の参入も多くM&Aの買収ニーズもある業界です。不動産業は、不動産という高額な商品を取り扱うという業界特性を持つことから、景気動向に左右される業界となります。景気が良ければ、戸建てやマンションの売れ行きも好調となり、各社の業績も良くなりますが、景気が悪くなれば、不動産が売れずに不調に陥る場合もあります。
今後の日本は、高齢化社会を迎えるということもあり、人口減少も予想されるなかで、不動産業はその対応を迫られることになるでしょう。その結果、多くの中小企業者同士のM&Aが進んだり、他業界からの新規参入も相次いでいます。商用施設の建設については、新型コロナウイルスの世界的な流行がおさまってきたこともあって、今後、一定の需要が見込まれるものの、戸建てやマンションといった居住施設については、人口減少によって需要が減少することが予想されるため、現在から業界の再編が進んでいます。
ここからは、最近の不動産業に関するM&A事例を紹介していきましょう。
2022年6月、住宅のトータルメンテナンス事業、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を手掛けている日本リビング保証は、完全子会社であった横浜ハウス(売上高1億1900万円、営業利益△555万円、純資産△909万円)の全株式を、不動産売買や賃貸の仲介などを手がける三春情報センター(横浜市)に譲渡しました。横浜ハウスは、戸建住宅・マンション・店舗等の全リフォーム工事の請負などを行っている企業です。
もともと、日本リビング保証は2020年7月に横浜ハウスを子会社化していたものの、シナジー効果を十分に得られないと判断し、譲渡に至っています。
2022年5月、国内外の富裕層・投資家を顧客とした資産運用サービスを手掛ける総合不動産会社であるビーロットは、不動産賃貸業を営む東観不動産(東京都千代田区。売上高1億3100万円、営業利益500万円、純資産8億300万円)の全株式を取得して子会社化しました。
ビーロットは、不動産を保有する企業のM&Aに積極的に取り組んでおり、今回の東観不動産の買収を通じて、不動産管理のノウハウを取得するとともに、保有する不動産のさらなるバリューアップを図るとしています。
2022年4月、1925 年の創業以来、ベビー・子供アパレル事業を主な事業内容とし、一貫して自社オリジナル企画・デザインによる製品を提供してきたキムラタンは、不動産賃貸業を営む和泉商事(売上高11億3000万円、営業利益2億4900万円、純資産9億4800万円)の全株式を取得し子会社化しました。
キムラタンは、「2021年2月に事業を開始した不動産事業を第2の柱事業として拡大を図ることを目指し、全国に約70の収益物件を所有し、安定収益を計上している和泉商事の全株式を取得することを決定した」と公表しています。
このM&Aによって、キムラタンは、赤字となっているベビー・子供アパレル事業を大幅に縮小し、不動産賃貸業を主事業へと切り替えていくとしています。
2021年8月、関西、首都圏を中心に全国で不動産の総合開発事業を展開する日本エスコンは、関西で不動産賃貸事業を展開するピカソ(大阪市。売上高60億7000万円、営業利益18億7000万円、純資産43億9000万円)、優木産業(大阪市。売上高31億円、営業利益7億1300万円、純資産15億9000万円)の2社の全株式を取得し子会社化しました。
ピカソと優木産業の子会社化は、「賃貸事業を強化するとともに安定収益を確保し、収益構造の転換を一気に推進するものである」と公表しています。
このM&Aによって、日本エスコンは、関西圏における不動産賃貸事業の安定収益を確保していくとしています。
2020年11月、三越伊勢丹ホールディングスの完全子会社である三越伊勢丹が保有する連結子会社の三越伊勢丹不動産の全株式をThe Blackstone Group Inc.とその関連会社が運用または投資アドバイザーを務める特定のファンドが設立した法人であるエチゴ合同会社に譲渡しました。
三越伊勢丹不動産は、自社で所有する物件の賃貸営業やマンションの分譲を中心に事業を展開する一方で、不動産オーナーが所有する物件のサブリース事業・賃貸管理事業、管理組合事業にも取り組んできた企業です。
このM&Aによって、三越伊勢丹ホールディングスは株式の売却益を得ることとなった。三越伊勢丹ホールディングスの主事業である百貨店事業が不況にあえぐなか、今回の株式売却を通じて赤字を補填して、今後は主事業の強化に取り組むとしています。
景気動向に左右されやすい不動産業界は、安定収益をもたらす物件を取得するために、盛んにM&Aが行われている業界です。不動産管理には、不動産管理特有のノウハウが必要となるということもあり、異業種からの参入のために、不動産業を営む企業の買収も盛んに行われています。
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