M&Aの基礎知識 2022/07/30

コロナで経営不安となった企業のための、経営資金繰り支援策と自力再生以外の対策

コロナで経営不安となった企業のための、経営資金繰り支援策と自力再生以外の対策
                    

新型コロナウイルスの流行により、経営不安が深刻化して経営者は存続判断を迫られ、数多くの企業が資金繰りの対策を行っています。特に中・小事業者では、財務体質が大手企業と比較すると弱含みであることと、大手企業やそのグループ企業よりも信用力が乏しいことが影響し、金融機関からの新規調達借入が難しい状況となる場合があります。その故に、資金繰りが回らなくなり、廃業を選択する事業者も徐々に増加傾向にあります。政府としては、新型コロナウイルスの影響を受け、資金調達が困難な中・小企業の資金繰りを支援するため、特例として融資制度・信用保証制度の拡充を実施しています。また一方で、倒産や事業休止において自力での再建に不安を感じている経営者がとる方法のひとつが、事業承継です。事業承継を適切に行い、他の企業と連携を図ることで、自力再建では実現できなかった新しい道が拓けることがあります。このコラムでは、コロナ禍の経営不安で自力再生が厳しい経営者に向けた対策、事業承継について解説します。コロナにより先行き不安を感じておられる中小企業の経営者のみなさんに参考となれば幸いです。

コロナ関連倒産の現状

コロナウイルスの影響を受けての倒産は、2021年7月21日時点で発生累計が1788件となっています(帝国データバンク調べ)。コロナ関連倒産では、「破産整理」が1554件と発生件数全体の86%を占めているのが現状です。

とくに、テレワークや外出自粛に対応できない業種である飲食店や建設業、宿泊業の倒産は多くなっています。倒産に追い込まれた企業は、もともと経営状況が悪化している中で、コロナが決め手となるケースも少なくありません。さらに、飲食店や宿泊業の倒産は、食品卸や観光業への連鎖が避けられない状況です。

参照元:帝国データバンク https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/index.html

コロナ経営

コロナ禍の経営不安の正体

コロナ禍で業績が悪化した企業の経営者は、以下のような不安を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。

  • 取引先企業の影響を受けた“連鎖倒産”を避けられるだろうか。
  • 事業存続のために自力再生ができるだろうか。
  • 以前のように売上が戻ったとしても、コロナで受けた融資は自力で完済できるのだろうか。

いずれにしても、不確実性の高いコロナウイルスの流行は、先行き不透明感を生み、事業における中長期的な見通しをたてづらくなっています。その中で、足もとの売上も低迷し運転資金の工面さえままならない状態で、経営を続けていくのは経済的にも精神的にも大きな困難を伴います。

コロナ禍の経営不安への対処:売上減少が「見込まれる」場合に利用可能な融資制度

セーフティネット貸付

「セーフティネット貸付」は以前からある制度で、主に自然災害時に適用されていましたが、コロナ対応として利用条件の緩和が実施されています。

従来までは過去の実績等と比較して売上が減少した事実が必要となる、いわゆる売上減少要件がありましたがそれが緩和され、売上減少が「見込まれる」場合であれば利用することが出来るようになりました。

  • 利用対象:中小法人、個人事業主など
  • 売上条件:コロナの影響が見込まれる事業者であれば利用可(※実質無条件)
  • 金利:中小11% 個人1.86%(※基準金利)
  • 融資限度:中小事業2億 国民事業4,800万円
  • 据置期間:3年
  • 貸付期間:設備資金15年以内、運転資金8年以内
  • 担保・保証人:原則必要

対象期間の売上減少が「5%以上」で利用可能な融資制度

コロナの影響で売上減少が5%以上ある事業者は、以下3つの制度から支援を選択することが可能です

  • 新型コロナウイルス特別貸付
  • 商工中金による危機対応融資
  • 新型コロナウイルス対策マル経融資

ただし、②「商工中金による危機対応融資」は、これまでに商工中金と取引がない事業者は、商工中金の新規審査の基準等を勘案し、実質的に利用する事が難しい状況になっています。

③「新型コロナウイルス対策マル経融資」は商工会議所の経営指導員の指導を受ける必要があり、意思決定に時間を大幅に有することから、実際には利用者の大半が①「新型コロナウイルス特別貸付」を選択しているとのことです。そのため、今回は「新型コロナウイルス特別貸付」に関して記載致します。

新型コロナウイルス特別貸付

  • 利用対象:中小法人、個人事業主など
  • 売上条件:5%以上の売上減少(※個人事業主は条件無し)
  • 金利:当初3年間(金利21%~0.36% ※以降は基準金利適用)
  • 融資限度:6億円(利下げは2億円迄)
  • 据置期間5年
  • 貸付期間:設備投資20年以内、運転資金15年以内
  • 担保・保証人:原則無担保で利用可

コロナ対応の信用保証協会による信用保証

信用保証協会とは、信用保証協会法という法律に基づき、信用力の乏しい中小企業・小規模事業者の資金調達支援、資金繰り安定化のために設立された公的な信用保証機関です。保証協会は事業者が金融機関から資金を調達する際に、事業者への「信用保証」を通じて信用力を付与し資金調達のサポートを行います。信用保証協会による信用保証の主な特徴については以下の通りです。

  • 取引金融機関からのプロパー融資と保証付融資の併用により、融資枠の拡大を図れる
  • 多様なニーズに応じて利用できる保証制度を用意
  • 長期借入金に対応した保証制度を用意
  • 無担保で利用可能

コロナ対応として新たに信用保証の対象となったのは、「セーフティネット保証4号」、「セーフティネット保証5号」、「危機対応融資」の3種類です。

セーフティネット保証4号

突発的災害の発生した地域において、災害等に起因し売上高減少している中小企業者を支援するための制度です。現在は「令和2年新型コロナウイルス感染症」だけではなく、「令和2年7月豪雨による災害」「令和2年台風第14号に伴う災害」等が指定案件となっています。

対象事業者

指定地域で1年間以上事業を継続していること(※新型コロナウイルス関連については、全ての都道府県の「業歴3カ月以上」と期間減少されています。)

政府指定を受けた特定災害の発生により、最近1か月間の売上高又は販売数量等が前年同月に比して20%以上減少していること
その後2か月間を含む3か月間の売上高等が前年同期に比して20%以上減少することが見込まれること

保証限度額

普通保証:2億円以内 無担保保証:8,000万円以内
無担保・無保証人保証:2,000万円(※一般保証とは別枠で保証)

セーフティネット保証5号

全国的に「業況の悪化している業種」の中小企業者を支援するための措置ですが、長期化する新型コロナウイルスによる経済の低迷を受け、令和2年5月1日以降は原則全業種が指定対象となり対象範囲が拡大しています。信用保証協会の一般保証(2.8億円)とは別枠で、最大2.8億円の借入債務の80%について保証を受けることが可能です。

対象事業者

  • 指定業種に属する事業を行っており、最近3か月間の売上高等が前年同期比5%以上減少の中小企業者
  • 指定業種に属する事業を行っており、製品等原価のうち20%を占める原油等の仕入価格が20%以上、上昇しているにもかかわらず、製品等価格に転嫁できていない中小企業者

保証限度額

セーフティネット保証4号と等しい条件

危機関連保証

新型コロナウイルスの影響によって、新たに全国・全業種の事業者を対象に設けられた追加保証枠が「危機関連保証」です。売上高が前年同月比15%以上減少する中小企業・小規模事業者に対して、セーフティネット保証とは別枠として2.8億円の借入債務の100%を保証します。

対象事業者

新型コロナウイルスに起因し、金融取引に支障を来しており(リスケの実施等)、金融取引の正常化を図るために資金調達を必要としていること。

原則として、最近1か月間の売上高等が前年同月比で15%以上減少しており、且つ、その後2か月間を含む3か月間の売上高等が前年同期比で15%以上減少することが見込まれること。

保証限度額

普通保証:2億円以内 無担保保証:8,000万円以内
無担保・無保証人保証:2,000万円

(※一般保証・セーフティネット保証4号5号とは別枠で保証)

コロナ禍では、大多数の事業者の方が大幅な売上減少を経験しています。複数制度がある中で、実際にどの制度を利用するべきか過去の事業活動や、事業規模、現在の財務状況などを鑑み判断する必要があります。資金繰りが悪化傾向にある場合は、できる限り迅速に金融機関の窓口や専門家に相談しサポートを受けましょう。

参照資料

日本政策金融公庫経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)ページ:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/07_keieisien_m.html

全国信用保証協会連合会HP:https://www.zenshinhoren.or.jp/index.html

コロナ禍の経営不安への対処:事業承継

コロナウイルスの経営不安を回避する対策として、政府では世代交代の事業承継を推進しています。事業を引き継ぐ後継者がいれば税制上の優遇措置が受けられます。しかし、事業承継において、すでに後継者が決まっている企業は少ないのではないでしょうか。後継者不在の場合、親族内承継、従業員承継、第三者承継など幾つかの方法がありますが、親族内承継、従業員承継は人材の選定や資金の準備などに時間がかかることも多くあります。短期で検討できる処方箋という観点では、第三者承継を選択する必要があります。

参照元:帝国データバンク https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p210605.html

コロナ禍の経営不安対処:第三者承継

第三者承継は、事業承継の方法の一つです。現状の企業経営者が後継者不在のため、第三者に経営権を譲る方法になります。
第三者承継は、次のような状況下において効果的です。

  • 後継者がいない
  • コロナによる収益獲得ができない
  • 金融機関からの資金調達ができない

事業承継や第三者承継には補助金も適用されるものもあります。

中小企業庁より令和2年度第3次補正予算「事業承継・引継ぎ補助金」の公募が開始されています。事業承継による補助金は400万円~800万円を上限とする規模です。

本補助金は“事業承継やM&A(事業再編・事業統合等。経営資源を引き継いで行う創業を含む。)を契機とした経営革新等(事業再構築、設備投資、販路開拓等)への挑戦に要する費用”とされており、事業承継やM&A(第三者承継)にかかる費用の一部を補助するものとなります。

参照元:中小企業庁 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2021/210702shoukei.html

第三者承継

第三者承継のメリット

  • 後継者問題から解放される
  • 旧社名を残して事業を継続できる
  • 買い手と売り手のシナジーが期待できる
  • 雇用の継続ができる
  • 取引先や仕入れ先との関係性を続けられる
  • 譲渡代金を受け取れる

後継者問題からの解放

後継者問題は、少子高齢化の進む我が国の大きな課題です。
子供がいない家庭はもちろん、なんらかの事情で子供に経営のバトンを渡せない状況など、親族内承継がスムーズに行えないケースも多くあります。事業承継において、第三者承継の取り組みは今後ますます標準化していくでしょう。
経営に第三者的視点がはいることなど、副次的メリットも大きいです。

旧社名を残した事業継続

事業承継後も旧社名を残した事業継続が可能な場合もあります。
コロナの影響がなければ経営が順調だった企業の場合は、旧社名を残した承継では、取引先や仕入れ先の信用につながることが考えられます。事業自体がまったく新しい発想となる場合は、旧社名を残さないケースもあるでしょう。
社名に関しては、事業状況により判断が左右されます。

買い手と売り手のシナジー効果

買い手が売り手の事業を引き継ぐことで、買い手が既存に持っていた事業や経営資源と、売り手から引き継いだ事業やノウハウ・経営資源を組み合わせることで相乗(シナジー)効果が発生することが考えられます。シナジー効果は、売り手・買い手双方の事業にプラスになることが多く、事業の停滞によって引き継ぎを決めた売り手の事業が、シナジー効果によって再生する事例などもあります。
事業承継先を選ぶ際のポイントとしてシナジー効果は重要です。

雇用継続

事業承継をせずに廃業を選択した場合、雇用している従業員は原則解雇となります。事業承継で事業や会社を残すことを選択した場合には、買い手の方針にもよりますが、従業員の雇用を継続できる可能性が拓けます。通例、事業承継をした買い手も、引き継ぎ後の事業を滞りなく運営するために従業員を継続雇用するケースが多く見られます。

取引先や仕入れ先との取引継続

売り手の取引先や仕入先は重要な経営資源になりますので、事業承継の際には、取引先や仕入れ先との取引継続を買い手から望まれることが多いです。事業継続により、従来の取引を継続できれば連鎖倒産の防止にも役立つでしょう。

譲渡代金

事業の売り手経営者には、会社(株式)や事業の譲渡代金が入ります。その他、退職金等が支給される場合もあります。
株式譲渡代金や退職金等は税制の観点からも役員報酬や給与所得より優遇されていますので、ある程度まとまった資金を手元に残すことができる可能性は高まります。

まとめ:経営資金繰り支援策と自力再生以外の対策

コロナ前と同様の経営においては、急激な環境変化に伴う一時的な手当てができたとしても、負債の増加など、経営に対する悪影響は免れません。中長期的に考えれば尚更のことです。見通しのつかない不安もある中で、環境変化への対応を実行しなければいけません。

独立独歩での事業回復以外の選択肢として、第三者承継を活用した事業承継も有用な選択肢の1つとなりえます。事業上の相乗効果や、資本力や経営資源の豊かな企業とタッグを組んで業績の回復や再成長を志向するのもアフターコロナの新しい手法と言えるでしょう。この記事で紹介した事業承継のメリットと一致する部分があれば、ぜひ前向きに検討してみることをおすすめします。

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M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性を解説
M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性を解説

はじめに

M&Aは企業間取引であるため、その成否は経営者同士の面談によって分かれることになります。買い手となる企業と売り手となる企業のトップである経営者同士が面談を行うことによって、お互いに相手企業のことが理解できるようになり、信頼関係を構築したうえで取引に臨めるようになります。この記事では、M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性についてわかりやすく解説していきます。

M&Aにおけるトップ面談の位置づけ

M&Aにおいてトップ面談は重要な意味を持っています。トップ面談は企業経営者による「お見合い」によく例えられます。M&Aは2つ以上の会社が一緒になることを意味しますから、その運営のトップである経営者同士での面談は、結婚(M&A)前のお見合いに例えられることがあります。

トップ面談が行われるタイミングは、譲渡企業の決算書などに基づいて、まず書面で初期検討を行ったのち、譲受候補となっている企業が「前向きに検討を続けたい」と判断したタイミングで実施されるのが普通です。つまり、譲受候補となっている企業側が、まず決算書などから抽象的な情報を読み取り、そこで興味を持った譲受企業(経営者)がお見合いを申し込むわけです。1回目のトップ面談で企業文化や経営理念、事業内容を理解しきれなかった場合には、複数回実施されることも当然あります。まずは候補企業にアプローチした後、経営者同士の考え方を意見交換するトップ面談を複数回実施します。

譲受企業側がM&Aブック(またはオファー)を検討し、意思表示を提出した後、次のステップとして、譲渡企業の主要な経営陣および/または所有者と面談することになります。トップ面談では、財務の最新情報(およびその他の適切な最新情報)を提供し、譲受候補となる企業は譲渡企業と交流することができます。また、トップ面談では、施設の見学が含まれる場合もあります。

ここで、譲渡企業側は、譲受企業側が書面で関心を示すまでは、譲受候補となっている企業との面談に基本的に応じるべきではありません。売却を考えていない譲渡企業が、譲受を考えている企業から直接連絡を受けた場合でも、譲受を考えている企業が関心を示すまでは面談を控えるべきです。

トップ面談が重要な理由

トップ面談では、譲受企業側からは、譲渡企業の経営者に会社や事業への想い、理念などについて聞いても良いでしょう。具体的な財務状況や経営成績を聞くのは、トップ面談のタイミングではありません。お見合いでも、初対面のお見合い相手に「年収はいくらですか?」と聞くのは野暮でしょう。それと同じで、トップ面談では、むしろ、経営に対するビジョンや理念などの確認をする方が大切です。譲渡を希望する理由や、譲渡後の展望、希望について話を聞くのも良いと思います。

一方で、譲渡企業側からは、譲受企業の経営者に理念やビジョン、ミッション、今後の経営計画、事業に対する想いなどについて聞くのが良いでしょう。トップ面談の時には、企業に関する詳細情報をすでに得ていることが多いものの、実際にトップ面談を行うことで決算書の数字や企業情報などだけではわからないことがトップ面談で得られるはずです。

譲渡企業(またはその仲介者)は、譲受企業候補の経営者の様子を観察して、どの譲受企業候補に売却すれば事業の成功を継続できる可能性が高いか、事業を運営するのに適したスキルを持っているか、取引をまとめる能力があるかを見極めようとします。この際の基準は主観的なものであり、ほとんどの場合、高い評価額(買収額)が他のすべての考慮事項に優先する傾向にあるものの、時には、より直感的な「自分(自社)に合わないから他の人にしよう」という理由で取引を断るケースもあります。

ここでも、やはりお見合いと同じで、どんなに年収が高かったり、社会的な地位の高い職業について居たりしても、それだけで結婚を考えることはないのと同様に、もっと直感的で主観的な評価基準によって、譲受企業候補を見極める必要があります。

譲受企業は、譲渡企業側が他の譲受企業候補ともM&Aに関する話を進めている場合が多いことを忘れてはなりません。譲受企業候補の一つとして、譲渡企業側が自分を選んでくれることを当然だとは思わず、トップ面談において謙虚に譲渡企業の経営者と交渉に臨む必要があります。

結局のところ、M&Aにおいてトップ面談で最も重要なことは、相手企業との信頼関係の構築にあります。信頼関係の構築のためには、必ずしも買収金額(譲渡金額)だけが重要なわけではありません。むしろ、トップ面談においては、本当に相手企業が信頼できるかどうかを基本としながら、相手を見極めることが大切です。トップ面談では、お互いの経営者の人間性、経営理念、事業内容への理解を深め、信頼関係を構築することを重視すべきです。そのような場で、買収金額などの具体的な交渉を行おうとすると、一気に場が冷めてしまい、相手先からの不信感を招く可能性が高くなります。繰り返し説明しているように、トップ会談は、双方の企業のビジョンや運営方針、経営方針などを共有し、お互いの理解を深めるようにしましょう。

おわりに

M&Aにおいてトップ面談は、M&A成功を左右するほど重要です。トップ面談は、企業同士のお見合いであり、お互いの理解を深めることで、その後のM&Aの具体的な交渉をスムーズに進めるために行われます。具体的なM&Aの交渉はトップ面談後に行われるのが普通です。トップ面談で具体的な条件などを交渉してしまうと、その後のプロセスにいつまでもたどり着けなくなってしまうので注意が必要です。M&Aにおけるトップ面談の位置づけを正しく理解し、なぜトップ面談を行うのか、その理由をきちんと把握しておくことによって、M&Aをお互いの企業とって意義深いものにしていきましょう。

M&Aの基礎知識
2022/09/26
M&Aにおけるエグゼキュージョンとは何か?重要ポイント
M&Aにおけるエグゼキュージョンとは何か?重要ポイント

M&A取引のプロセスのなかでも、交渉からクロージングまでのプロセスを指す「エグゼキュージョン」は、買収対象となる企業の価値を確定するための重要なプロセスです。この記事では、M&Aにおけるエグゼキュージョンがどのような意味を持っているのか、解説していきます。

エグゼキュージョン

エグゼキュージョン(execution)とは、M&Aのプロセスのなかでも、買い手側が計画を実行するプロセスを指す言葉です。もともと、英語のexecutionという言葉は「(計画を)実行する」という意味を持っています。買い手側がM&Aに関して事前に決定した事項について、実行していくプロセス全体をエグゼキュージョンプロセスと言い、、買い手側が買収候補となる企業を決定した後に行われる交渉・デューデリジェンス・売買契約・買収のための資金調達戦略・買収の完了と統合の計画実行を指すケースが多いです。

なお、エグゼキュージョンという用語をよく利用するのは、M&A取引の成立をサポートするアドバイザーです。アドバイザーは、買い手の買収計画が上手くいくようにサポートを行います。

M&Aにおけるエグゼキュージョンプロセスを具体的に解説

M&Aは、主に以下の10個のプロセスによって成り立っています。

(1)買収戦略の策定

優れた買収戦略の策定は、買収者が買収によって何を得ることを期待しているのか、つまり対象企業を買収する事業目的は何か(製品ラインの拡大や新規市場への参入など)を明確に把握することを中心に行われます。

(2)M&Aの検索基準の設定

潜在的なターゲット企業を特定するための重要な基準を決定します(例:利益率、地理的位置、または顧客基盤など)。

(3)買収候補企業の検索

買収者は、特定した検索基準を使用して、買収候補企業を検索し、評価します。

(4)買収計画の開始

買収者は、検索基準を満たし、良い価値を提供すると思われる1社以上の企業と接触します。最初の会話の目的は、より多くの情報を入手し、ターゲット企業が合併または買収に対してどれくらい積極的であるかを確認することにあります。

(5)評価分析の実施

最初の接触と会話がうまくいったと仮定して、買収者はターゲット企業に、買収者がターゲットをさらに評価できるような実質的な情報(現在の財務状況など)を提供するよう求め、ビジネス単体として、また適切な買収ターゲットとして、評価します。

(6)交渉

買収者は、ターゲット企業の評価モデルをいくつか作成した後、合理的なオファーを構築するのに十分な情報を得る必要があります。

(7)M&Aデューデリジェンス

デューデリジェンスは、オファーが受諾された時点から開始される包括的なプロセスです。デューデリジェンスの目的は、対象会社の財務指標、資産・負債、顧客、人材などのあらゆる側面について詳細な調査と分析を行い、買収者の対象会社の価値評価を確認または修正することにあります。

(8)売買契約

デューデリジェンスが完了し、大きな問題や懸念がなければ、次のステップとして売買契約を締結し、資産購入か株式購入か、売買契約の種類を最終的に決定します。

(9)買収のための資金調達戦略

買収者は、もちろん、買収のための資金調達オプションを早期に検討しますが、資金調達の詳細は、通常、売買契約が締結された後にまとまっていきます。

(10)買収の完了と統合

 買収案件が完了し、買収先と買収企業の経営陣が協力して両社の統合プロセスに取り組みます。

このプロセスのうち、エグゼキュージョンプロセスは、(6)〜(10)を指します。

エグゼキュージョンの重要ポイント

M&Aにおいて、エグゼキュージョンは、要するに、買収対象となる企業の価値を決定するプロセスにほかなりません。買収対象となる企業の価値を決定するにあたっては、以下の2点が重要となります。それぞれについて説明していきましょう。

(1)価値の最適化

デューデリジェンス調査が完了し、その結果について評価を行った後、取引の成功に向けて最もエキサイティングなステップであるバインディング・オファー(売買契約)、そして取引の実行に移っていきます。

M&A取引プロセスにおいて、株式売買契約書(SPA)の作成、規制当局への取引に関する届出の提出、取引財務の作成、初日の準備など、多くの重要なステップが含まれています。取引の終了まであと少しと思われるかもしれませんが、実はその前に検討すべきこと、達成すべきことがまだまだたくさんあります。

M&Aの取引をうまく実行したい(エグゼキュート)したいのであれば、最終的に取引はより多くの価値、たとえば、適正な評価額や所有権を引き継いだ後の状態を、あらかじめしっかりと確定しておくことが大切です。

(2)売買契約書(SPA)

SPAの作成は、しばしば弁護士のための形式的なものとみなされます。SPAのプロセスの多くには、保証、保証、潜在的な紛争の解決などの法的側面が含まれているため、ある程度はその通りです。しかし、SPAには何よりもまず、取引の決済方法を定義する金融条件が含まれ、評価方法についての詳細が記載されます。売買契約書は、買主と売主を法的に拘束するものです。したがって、買収対象となる企業の価値を確定するために、どのような法的拘束力のある事項を実行しなければならないのかを明らかにしておかなければなりません。

おわりに

エグゼキュージョンは、M&Aプロセスのなかでも企業価値を確定するうえで重要となるプロセスです。エグゼキュージョンプロセスのなかには、専門性が求められる企業価値評価といったプロセスも含まれることから、M&Aのアドバイザリーサービス提供している事業者がエグゼキュージョンプロセスを代理してくれることもあります。エグゼキュージョンは、M&Aを行う目的によってその具体的なプロセスも変化するのが普通です。目的に応じて明確な計画を立案し、しっかりとエグゼキュートするように、M&Aプロセスを進めていくことが大切です。

M&Aの基礎知識
2022/09/26
M&Aにおけるアドバイザリー契約について解説
M&Aにおけるアドバイザリー契約について解説

はじめに

M&Aは完了までのプロセスで多くの専門的な知識を必要とします。そのため、自社だけでM&Aを完結させることはほぼ不可能であり、一般に、アドバイザリーサービスを提供している事業者と契約を結び、M&Aに関するアドバイスを受けながら進めていくことになります。この記事では、M&Aにおけるアドバイザリー契約の詳細について詳しく解説していきます。

M&Aにおけるアドバイザリー契約とは?

M&Aのプロセスは複雑で専門的であることから、M&Aの成約までのプロセスをサポートしてくれる事業者が多数存在しています。たとえば、米国では、JP Morgan、Goldman Sachs、Morgan Stanley、Credit Suisse、BofA/Merrill Lynch、Citigroupは一般的にM&Aアドバイザリーのリーダーとして認識されており、通常M&A案件数でも上位にランクインしている事業者です。こうした事業者にM&Aのサポートをしてもらう契約がアドバイザリー契約です。

アドバイザリー契約を結ぶのはM&Aアドバイザリー会社

M&Aアドバイザリー会社は、企業の買収、売却、再編を意図する他社に指導を行う会社のことです。個人のファイナンシャルアドバイザーが個人や中小企業に対してガイダンスを提供するように、M&Aアドバイザリー会社は、あらゆる種類の企業取引において企業の舵取りを支援し、多くの場合、デットファイナンスやエクイティファイナンスをサポートしてくれます。M&Aアドバイザリー会社は、具体的には、以下のようなサービスを提供しています。

  • 株式の発行や募集に関するアドバイスやガイダンスの提供
  • 新規証券発行のための引受業務
  • 個人向け投資助言サービスの提供
  • 企業の正確な評価額の算出
  • 売り手のために可能な限り高い価格を得る
  • 買い手候補への会社の紹介
  • 会社が時価以下で売却されることを防止します。
  • 売り手にとって最適な買い手を見つける
  • 買い手が資金を調達できないなどの不測の事態が発生した場合でも、確実に売却取引を完了させる。

多くのM&アドバイザリーA会社は、取引成立時に取引金額の一定割合を手数料として徴収しています。この手数料は、実施される取引の種類や取引規模によって異なります。また、一部のファームでは、パーセンテージフィーに加え、一律の手数料を課すケースもあります。

アドバイザリーサービスは様々なサービスがありますが、アドバイザリーサービスを受けられるのは買い手だけではありません。売り手も受けることができます。

(1)セルサイドM&A(売り手に対するアドバイザリーサービス)

売り手(ターゲット)のアドバイザーとしてM&Aファームが関与することをセルサイドという。

(2)バイサイドM&A(買い手に対するアドバイザリーサービス)

逆に、M&Aファームが買手(買収者)のアドバイザーとして活動することをバイサイド業務という。その他、ジョイントベンチャー、敵対的買収、バイアウト、買収防衛策などに関するアドバイスも行うこともあります。

M&Aにおけるアドバイザリー契約を結ぶことで得られるサービス

アドバイザリー契約をM&Aファームと締結すれば、以下のようなサービスを受けられます。

(1)M&Aデューデリジェンス

M&Aファームが買主(買収者)に買収のアドバイスをする場合、買収企業のリスクとエクスポージャーを最小限に抑えるために、買収対象の真の財務状況に焦点を当てたデューデリジェンスと呼ばれる作業を支援することもあります。

M&Aデューデリジェンスでは、対象企業の財務情報の収集、分析、解釈、過去と未来の業績の分析、潜在的なシナジーの評価、事業評価による機会や懸念事項の特定などが基本的に含まれています。徹底したデューデリジェンスは、リスクベースの調査分析や、買い手が取引を通じてリスクと利益を識別するのに役立つその他のインテリジェンスを提供することにより、成功の確率を高めます。

企業の売却を検討されている場合、あるいは事業領域の拡大のために他の企業を買収する場合、M&A専門のアドバイザリーサービスを利用することで取引結果を改善することが可能です。

M&Aアドバイザリーサービスは、財務状況を確認し、最終合意に向けた様々なステップを支援し、統合後の新会社のパフォーマンスを最適化するための戦略を策定するための重要なプロセスです。

(2)M&Aに対する包括的なアプローチ

通常、M&Aファームとのアドバイザリー契約は、企業が潜在的なターゲットを特定した後に結ばれ、M&A取引の完了をサポートするためにデューデリジェンスを実施します。しかし、M&Aアドバイザリーチームは、M&Aのライフサイクルを通じたパートナーとして、より多くのことを行うことができます。

M&Aプロセスの流れをよく理解しているM&Aアドバイザリー会社は、M&A取引で起こりがちなことについて事前にアドバイスを与えてくれます。経験豊富な企業幹部でさえ、M&Aプロセスの複雑さに驚かれることがよくありますが、信頼できるアドバイザーとして、対象企業をより深く理解し、デューデリジェンスのプロセス全体を管理し、適切な質問をし、データを正しく取得することを支援してくれます。M&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を締結すれば、デューデリジェンスや、法律事務所や専門家によるデューデリジェンスなど、取引のあらゆる側面の管理を支援してくれます。これにより、ビジネスの継続に集中し、将来に向けて戦略的に注力することができます。

(3)デューデリジェンス前の事前の調査

M&Aアドバイザリー会社は、通常、M&Aに関する契約書(LOI)が締結された後に参入します。しかし、アドバイザーは、LOIが締結される前から積極的な役割を果たすことも可能です。多数の現地訪問、マネジメントインタビュー、デリジェンス分析を通じて、ターゲットビジネスの運営方法、そのキーパーソンは誰か、その企業があなたのビジネスにどのように統合されるかを理解し、合意に至る手助けをすることができるのです。

(4)スムーズな移行のための統合計画

M&Aによって統合される会社はどのような姿になるのでしょうか。クロージング後の統合とシナジー効果を中断することなく、可能な限りシームレスに展開し、統合後の企業価値を最大化することを誰もが希望するものです。どのようなタイミングで統合しようとしても、本来やるべき事業を継続するために、事業の安定化に注力することが重要です。さらに、人材と文化に戦略的な注意を払い、人材の確保を図る必要があります。最初の100日間と安定化のための努力は取引の意図した価値を完全に実現するための基盤を作るものです。

統合計画の取り組みは、慎重に計画し、タイミングを計らなければなりません。契約締結とクロージングが同日に行われることもありますが、その場合は統合計画をその日に先駆けて完了させなければなりません。契約締結からクロージングまでに時間がかかる場合は、その間に計画を完成させることができます。プレ・プランニングは30~60日程度で完了するのが一般的ですが、大企業の統合にはもっと長い時間がかかる場合もあります。

準備にかかる時間はストレスになりますが、まず必要なことを戦略的に処理し、そこから二次的な計画を進めていけば、ストレスは少なくなります。こうした統合計画をサポートしてくれるのも、M&Aアドバイザリー会社の重要な役割の一つです。

(5)パフォーマンスの最適化

M&Aにおける統合プロセスの分析とパフォーマンスの最適化は、どちらもM&Aアドバイザーが支援できるサービスです。統合の際には、プロセス分析が計画の重要な構成要素となります。プロセスの分析では、ギャップや欠陥を明らかにし、特に技術や人材などの重要な検討事項について、将来の改善(シナジー)のためのロードマップを作成します。プロセス分析/改善とパフォーマンスの最適化は、統合された企業の新しいプロセスでより高い効率を推進するために、時間が経ってから統合後にも活用することができます。これは、人員の変更を最小限に抑えるために行われるため、M&Aによる統合後のパフォーマンスを最適化することができます。

おわりに

M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識を求められるものです。また、手間がかかるプロセスも多いことから、通常、会社内のリソースだけを活用してM&Aのプロセスを完結させることは不可能です。そこで、M&Aに関するアドバイザリーサービスを提供しているM&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を結ぶことで、状況に応じて様々なサービスの提供を受けることができるようになります。M&Aにおいてどのようなサービスが必要であるかは、どのようなM&Aを行うか次第なので、M&Aの目的を明確にしたうえで、M&Aアドバイザリー会社に相談してみましょう。

M&Aの基礎知識
2022/09/26