M&Aにおいて会社の売買価格(企業価値)は売り手・買い手双方が意思決定をする上で重要な土台となります。その売買価格を決める上で、企業価値評価が重要になっていきます。本コラムでは、M&Aにおける企業価値の算定とその種類について詳しく解説します。
企業価値評価(Valuation/バリュエーション)とは
M&Aにおける企業価値評価とは
企業価値評価とは、「会社の値段」のことをいい、「エンタープライズ・バリュー(Enterprise Value:EV)」とも呼びます。M&Aの企業価値評価の目的は、売り手側では依頼する価格、買い手側では投資するかどうかといった意思決定の判断基準として用いられます。そのため、企業の売却・買収あるいは合併などのM&Aでは、この企業価値評価が非常に重要になります。
売り手においては買い手から評価が得られない場合もあるため、できるだけ評価されるように経営や事業の整理など譲渡への準備も必要になっていきます。
相続時の企業価値評価の違い
経営者が変わって相続が行われる場合の企業価値評価は、国税庁が使用する評価方式「財産評価基本通達」が適用されます。そのため、一定の評価額を算出することが可能で、相続する側は、安心して企業価値評価を任せられます。
一方で、M&Aにおける企業価値評価は、企業が持っている資産の価値のみではなく、将来の収益性を加味して算出する必要があるため、税法上の企業価値評価は用いられない場合が多いです。
上場会社のM&A企業価値評価
上場会社であれば、1株当たりの株価と株式数は市場で把握できるため、株式の時価総額はすぐに算出できます。証券取引所において多くの投資家が参加して取引がなされた結果が反映される株価には、投資家の合理的な意思や、様々な情報に対する判断などが含まれており、客観性の高い指標であるということができます。
しかし、株価の背景には会社の業績のみではなく、例えばコロナウイルスの影響による株価の悪化などの世界情勢が影響するため、その時点での時価総額だけではM&A評価額を決定できません。
そのため、株価のみで企業価値評価をするのではなく、将来的に発生する収益性を予測して加味し、事業内容の価値を付加する手法が必要になります。
非上場会社のM&A企業価値評価
非上場会社の企業価値評価では、株価のような明確な指標はありません。そのため、非上場企業の企業価値評価は上場企業の企業価値評価よりも難しくなります。
例えば、相続財産としての株式は、国税庁が定めている「財産評価通達」という評価方法で評価しなければなりません。これは類似会社比準方式や純資産価額方式等を用いて実施するものですが、事業の特性や成長ステージ、経営環境などの影響が含まれていないため、M&Aの企業価値評価ではあまり利用できません。
そのため、M&Aでの企業価値評価では、目的に応じて、ふさわしい評価方法を選択する必要があります。
企業価値評価の方法
企業価値評価の評価方法は、大きく分けて以下の3つのタイプに分けることができます。
- インカム・アプローチ
- マーケット・アプローチ
- コスト・アプローチ
これらのアプローチから妥当な価格の幅を導き出し、その範囲内で最終的な価格を決定する方法が一般的です。
インカム・アプローチ
インカム・アプローチとは、評価対象企業が将来獲得すると期待される利益やキャッシュ・フローを、リスクを考慮した資本コストで資本還元ないしは現在価値に割り引くことにより企業価値を算出する方法です。
DCF法
DCF法とは、Discounted Cash Flowの略で、企業の将来獲得できるキャッシュ・フローを、リスクを考慮した現在価値になおすことで、事業価値を算出し、それに非事業投下資本の価値を加えて、企業価値を算定する方法です。これはM&Aにおける企業価値評価の算出方法で最も代表的な評価方法です。
この企業価値評価の方法を利用する場合には事業計画書が必要であるため、将来発生する可能性のあるキャッシュ・フロー、投資計画、リスクなどをきちんと客観的に予測できているかどうかによって、正確な企業価値を算出できるかが決まります。
収益還元法
収益還元法は、会計上の利益を基礎として、それを資本還元することにより事業価値を算出し、それに非事業投下資本の価値を加えることで、企業価値を算定する方法です。会計上の利益を基礎とするので、簡便な評価方法ではあるものの、設備への投資や減価償却費などの再投資を考慮しないことから、投下資本の変化が企業価値に反映されないという特性があります。
配当還元法
配当還元法は、株主に帰属するリターンである配当を予想し、これを株主資本コストで現在価値に割り引くことにより株主価値を直接算定する企業価値評価の方法です。この方法は安定して配当を行っている企業の評価に有用です。ただし、将来の成長は見込めるものの、将来の投資資金のため、現在は配当を行っていないような企業の評価を行うことは困難であり、配当が少ない金額で実施されているような企業については、株主価値を過小に評価してしまう可能性があると言われています。
コスト・アプローチ
コスト・アプローチは、評価対象企業の一定時点の貸借対照表をもとに評価することから、静態的な評価アプローチであると言われます。評価対象企業の一定時点の貸借対照表を基礎とする評価方法で、一般的には理解されやすく客観性が高いという利点があります。
簿価純資産法
簿価純資産法は、その企業の貸借対照表における帳簿価額に基づく純資産額を基礎とする企業価値評価の評価方法です。この方法は、簡単に株主価値を算定することができますが、貸借対照表に計上されているものの、実際には減損等で資産価値が低下しているものや、オフバランスとなっているものなどがあり、これらが考慮されない点がデメリットと言われています。
時価純資産法
時価純資産法は、貸借対照表上の資産・負債を時価評価し、さらにオフバランスとなっている資産・負債がある場合には、これを考慮し、その差額としての純資産額を基礎とする企業価値評価の評価方法です。原則として、貸借対照表のすべての資産・負債が時価評価されることになります。
再調達原価法
再調達原価法は、一定時点における貸借対照表上の資産・負債を原則として再調達価額により時価評価をするというものです。継続企業の価値評価を前提としたものであると言われます。
清算価値法
清算価値法は、一定時点における貸借対照表上の資産・負債を売却可能価額により時価評価をするというものです。つまり、その企業を清算した場合に株主が得られる金額としての時価であり、解散等を前提としている企業に適した方法であると言えます。
マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチは、評価対象企業がその株式を上場している場合には、その市場株価を基礎として、また、非上場会社の場合には、同業他社の市場株価や類似取引事例などを基礎として、相対的な価値を算定する評価方法です。
市場株価平均法
市場株価平均法は、証券取引所等にその株式を上場している場合に、その市場における取引価格に基づく株主価値を算出する企業価値評価の評価方法です。証券取引所において、多数の投資家が取引をした結果が反映された市場株価は、客観性の高い指標であるということが言えます。市場株価法を利用する場合には一定時点における市場株価が異常な要因によって変動する場合もあることから、その影響を排除するために一定期間の平均株価を取り、これを評価額とするのが一般的です。
類似会社比準法(マルチプル法)
類似会社比準法は、対象の会社の事業内容や事業規模が類似する上場会社の市場株価とその財務数値から算出される倍率(マルチプル)を、評価対象企業の財務数値に乗じることにより、評価対象企業の企業価値を算出する方法です。主に非上場企業に対して用いられることが多いですが、上場企業であっても、その市場株価の水準が類似上場企業と比較してどのようなものであるかを分析することもあります。
また、類似会社比準法は、DCF法による結果との併用が有効です。DCF法の結果を比較すると、合理的な関係にない場合があります。その原因の一つとして将来の成長に対する期待度があります。事業計画による成長が市場の期待と比べてどうかというチェックをする上で、類似会社比準法が有用となる場合があります。
類似取引比較法
類似取引比較法は、評価の対象となる取引と類似する取引における取引価額と、その取引における評価対象企業の財務数値に関する情報に基づいて、評価対象企業の価値を評価する方法です。M&Aによる取引事例が、類似取引としてよく用いられます。この評価方法は、実際の取引事例に基づくことから、客観性の高い評価方法です。ただし、類似取引に関する情報を入手するのが困難である場合が多く、対象となる取引が必ずしも類似したものでない場合には、算出された企業価値の客観性は乏しいと言われます。
類似業種比較法
類似業種比較法では、評価しようとする会社と事業内容が類似する業種に属する複数の上場会社の株式の価額の平均値に、評価会社と類似業種の1株当たりの配当金額、1株当たりの年利益金額、1株あたりの純資産価額の比準割合を乗じて計算します。税制上の公正さを保つために一定の基準のもとで算出結果に大きなぶれが出ないように評価する方法であり、M&Aの局面で利用する評価方法としてあまり適していません。
企業価値評価算定の手法上の限界
前述したように企業価値評価の方法は、企業価値を何とするかによって異なります。どれも正しい算定方法ではあるものの、評価方法によっては評価額が2、3倍にも変わることがあります。
そのため、事業譲渡をしたいのか、相続をしたいのか、株式譲渡をしたいのかなど、企業価値評価の目的と会社の特徴や性質をうまく把握した上で、適切な手法を選択することが重要です。評価方法の選定、企業価値評価の算定はとても複雑であるため、専門家やアドバイザーなど適切な専門知識を持った人を選ぶことをお勧めします。
企業価値評価方法のメリット、デメリット
今までの評価方法の説明を踏まえて、メリットとデメリットをまとめると以下の通りです。
インカム・アプローチ
メリット
デメリット
マーケット・アプローチ
メリット
デメリット
コスト・アプローチ
メリット
デメリット
実際の企業価値評価では、評価の目的、評価の対象、対象となる取引などからどの評価方法が適当かを判断する必要があります。
企業価値評価は、M&Aの取引金額を決めるための重要な手続きです。算出方法を詳しく知ることで、M&Aでどれくらいの売却価格になるか予想できます。そのため、売り手側においてはしっかりと企業価値評価の方法を理解することによって、より高く売るためにどのような施策を打つべきかが見えてくるはずです。
ただ、選択手法、算定方法はとても複雑であり、一般の方には馴染みの薄いものでもありますので、実際に企業価値評価を行う場合には、専門家を上手に活用することが企業価値評価をスムーズに行うポイントとなります。
事業譲渡とは、企業を構成する事業を他の企業に移転することを言います。事業譲渡では、必ずしも会社のすべての事業が譲渡されるわけではなく、一部のみのケースも存在し、会社法の規定に則って手続きが進められます。事業譲渡を行うには買い手企業を探し、事業範囲を決定しなければなりません。
事業譲渡は、まず、買い手企業(譲渡先)探しから始まります。事業譲渡の範囲や概要の条件を相手に提示してもらいます。この際に、買収価格や資産・負債の受け継ぎなどについても提示してもらい、意向表明書として相手から示されることになります。
この記事では、事業譲渡における事業を譲り渡す側(譲渡元)においてどのような会計処理が行われるのか、その基本的な考え方と仕訳方法をわかりやすく解説していきます。
事業譲渡は、会計の世界では「事業分離」と呼ばれます。ですが、今回はわかりやすくするために、事業譲渡と呼んでいきましょう。
事業譲渡は、ある企業の事業の一部を他の企業に移転することを言うと会計基準において定義されています。事業を譲渡する場合、事業の移転先がどのような会社であるかによって、会計処理の仕方が異なります。つまり、仕訳も異なるということです。
インターネット上の多くの記事では、事業の移転先が子会社でも関連会社でもないケース(すなわち、投資を精算するケース)を取り扱っていて、会計処理の仕訳方法を完全には説明していません。しかし、実際には、移転先がどのような会社かによって会計処理の仕方が異なるので注意が必要です。
事業譲渡が行われた際に譲渡元企業が適用すべき会計処理は、譲渡元企業からみて移転した事業に対する投資が継続しているか、それとも投資が精算されているかに基づいて決定されます。
もし、投資が継続している場合には、“投資を精算した”とは考えないので、譲渡元企業に損益は発生しません。つまり、投資が継続していれば、譲渡元企業に損益が発生しない簿価承継によって事業は譲渡されることになります。
一方で、投資が精算されている場合には、“投資が継続していない”と考えるので、譲渡元企業に損益が発生します。つまり、精算したとみなされれば、時価による譲渡もしくは交換として会計処理が行われます。
譲渡元企業側からみれば、事業譲渡は「事業を譲渡し」、「対価を受け取る」という取引です。したがって、以下の仕訳が基本となります。
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
受け取った対価 |
☓☓☓ |
分離した事業 |
☓☓☓ |
次の例について考えてみましょう。
この場合、受取対価は現金等の財産であるため、投資は清算されたと判断します。よって、対価は時価の150で計上し、損益を認識することになります。仕訳は以下のとおりです。
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
現金等の財産 |
150 |
事業X |
100 |
|
|
差額(損益) |
50 |
同じように次のケースについて考えていきます。
今回受取対価はその他有価証券であるため、投資は清算されたと判断します。よって、対価は時価の150で計上し、損益を認識します。仕訳は以下の通りです。
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
A社株式 |
150 |
事業X |
100 |
|
|
差額(損益) |
50 |
さらに、投資が精算されずに、継続しているケースについても考えていきましょう。
今回は、受取対価は子会社株式であるため、投資は継続していると判断します。よって、対価は簿価の100で計上し、損益は認識しません。仕訳は以下のとおりです。
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
A社株式 |
100 |
事業X |
100 |
分離先(譲渡先)企業の株式のみを受取対価とする事業譲渡において、分離先企業が新たに分離元(譲渡元)企業の子会社となる場合、経済実態として、分離元企業における当該事業に関する投資がそのまま継続していると考える必要があります(事業分離等会計基準87項)。そのため、損益を認識することをしないのです。このため、個別財務諸表上、当該取引において、移転損益は認識されず、当該分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定します。
子会社となるケースについてみてきたので、次に関連会社となるケースについても考えていきましょう。
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
A社株式 |
100 |
事業X |
100 |
今回も受取対価は関連会社株式であるため、投資は継続していると判断します。よって、対価は簿価の100で計上し、損益は認識しません。
事業を譲渡することで譲渡側はその対価を得ることになります。事業を譲渡する際には、譲渡先に譲り渡した事業に対して投資が継続するのか、精算されるのかによって会社処理の仕方が異なるので注意しなければなりません。精算される場合には、損益を認識しますし、投資が継続される場合には損益を認識しません。仕訳の方法が異なることをきちんと理解しておきましょう。
関連コラム:事業譲渡とは?事業譲渡の概要と手続きについて解説
M&Aのプロセスは、買収の種類と事業戦略によって、「水平統合」と「垂直統合」に分類することができます。水平統合は、企業規模の拡大、製品ラインナップの多様化、競争の緩和、新市場への進出を目的としたM&Aです。一方で、垂直統合は、利益を高め、消費者へのアクセスをより迅速にすることを目的としたM&Aであると言えます。この記事では、M&Aのプロセスを垂直統合と水平統合に分け、その効果について説明していきます。
水平統合と垂直統合は、企業が自らの地位を固め、競合他社との差別化を図るために用いる競争戦略です。どちらも、他の事業の買収を伴う、つまりM&Aを活用した企業の成長戦略であると考えることができます。
垂直統合は、同じサプライチェーンに沿って複数の企業が結合することであるのに対し、水平統合は、企業が同じ業界で顧客基盤、市場規模、または製品の多様性を高めるために類似した他の企業(多くの場合競合)をM&Aによって取得することを意味します。
さらに、水平統合は、製品の差別化を図ったり、市場支配力を拡大したりするために行われる場合もあります。水平統合は、多くの場合同じ業界内で行われますが、異業種や関連業界で行われるケースもある行為です。したがって、その意図は、必ずしも自社のサプライチェーンをより多くコントロールすることによるコスト削減ではないものの、水平統合を行う企業は、消費者基盤、資産や資源の増加、または収益の増加を期待して行うことが多いと考えることができます。
水平統合と垂直統合という2つの戦略は、企業の拡大を助けるものではあるものの重要な違いがあります。
水平統合は、企業が関連する企業、つまり競合他社を買収することによって成長することを目指す戦略です。一方、垂直統合は、企業が生産や流通の1つまたは複数の段階を支配することで、産業プロセスのすべての部分を所有することを目指す成長戦略です。
水平統合は、規模の経済、競争力、市場シェアの拡大、事業の拡大をもたらす競争戦略です。より多くの資源、市場、能力、効率性を目標に水平統合を行います。水平統合とは、言い換えれば、似たような2つのビジネスが1つの会社になることである。たとえば、ナイキとアディダスの合併は、水平統合の一例です。
両社は、スポーツウェアの製造・販売を営んでいます。M&Aを行って水平統合を実施した2つの事業体は、独立して事業を行う場合よりも、より多くの収益を実現できるような体制になるはずです。水平統合は活動の最適化、または会社のプロセスおよび活動の範囲内の戦略的なビジネス活動の統合を促進する可能性があります。
垂直統合は、サプライチェーン上で同じ段階にある限り、水平統合は産業間でも起こりうることに注意しましょう。たとえば、サウジアラビアの石油・ガス採掘業者が、ブラジルのコーヒー豆栽培業者を買収することがあります。両社は原材料の供給業者であり、サプライチェーン上で同じ段階にあるにもかかわらず、業種が異なっていますが、サプライチェーン上の同じ段階の事業者同士によるM&Aの実行は当然あり得るものです。
具体的な例として、ディズニーがピクサー(映画製作)と、エクソンがモービル(石油生産、精製、流通)と、あるいは悪名高いですがダイムラー・ベンツとクライスラーの合併(自動車の開発、製造、小売)が水平統合の有名な事例です。
もし、同じ業界に属していて、同じ事業を営む企業同士が水平統合した場合どうなるでしょうか。たとえば、ボーイング社とエアバス社は共に飛行機を製造しており、合計で99%の市場シェアを誇っています。もし、この2社が水平統合をすれば、独占が可能になるのです。
こうした水平統合は、特定の産業において独占的な力を生み出し、消費者にとって不利益となる場合があることに注意が必要です。競争の低下により、談合行為が誘発され、製品価格の上昇につながる可能性があります。
垂直統合とは、企業が自社製品のサプライチェーンを所有する戦略的構造であり、通常、異なる生産段階に関与する1社または2社の企業で構成されます。
サプライチェーンには、原材料の調達から製品化、販売までのすべての段階が含まれます。その意味で、垂直統合型の企業は、サプライチェーンの複数(またはすべて)の部分を所有する戦略です。
たとえば、ある企業が綿花の生産者とTシャツの製造会社を買収し、その製品を自社で販売することがあります。つまり、元の会社(現在は、同じ垂直方向に沿った複数の会社のコングロマリット、または同じ種類の製品)が、商品、製造、流通、小売というサプライチェーンの4つの部分を支配することになるのです。
垂直統合を行うと、サプライチェーンをよりコントロールできるようになり、より低い価格で製品を提供できるようになります。市場における市場支配力が高まるなど、企業にとって多くの利点があります。
垂直統合の方法は、企業の種類によって、後方統合と前方統合の2つに分かれます。
企業がサプライチェーンの前方に進出する場合(例えば、メーカーが小売業を買収した場合)、前方統合を行うことになります。これは通常、鉱業会社がさらに「下流」の工場を支配するような、サプライチェーンの始点に近い会社が行うものです。この場合、メーカーは流通経路をコントロールすることで、中間業者を通さずに直接消費者に製品を提供することができるようになります。
逆に、企業が後方(または「上流」)に拡大し、サプライチェーンのさらに後方の生産部分を支配する場合(たとえば、小売企業が商品のメーカーや生産者を買収した場合)、それは後方統合を行ったことになります。企業が原材料の供給者と合併する場合、プロセスの一部を外部調達するのではなく、必要なものをすべて自社で調達するため、多くのコストが削減されるのが一般的です。この意味で、大手小売企業や流通企業は、輸送費を節約し、供給者を抑えるために、自社商品の生産者やメーカーの買収を行います。
水平統合と垂直統合は、ある企業が他の企業を統合する2つの成長の方向性を示すものです。水平方向の合併は、互いに競合する2つのビジネスに関するものです。一方、垂直合併は、同じサプライチェーン内で動作する2つのビジネスに関するものです。水平方向のM&Aは、競合する2つの会社が一緒になって1つの会社を作るときに起こり、垂直方向のM&Aは、異なる生産段階にある2つの会社が一緒になって1つの会社を作るときに起こります。
収益を上げたい、または製品の幅を広げたい場合は、M&Aを活用した水平統合の機会を探すとよいでしょう。この場合、M&Aの候補となる企業は、自社と同様の製品・サービスを持ちながら、自社が希望する製品・サービスを追加していたり、現在自社が参入していない地域で事業を展開しているところが良いでしょう。
コスト削減によって競争力を高めたい場合、あるいは重要な供給源へのアクセスを確保する必要がある場合は、垂直統合を検討する必要があります。この場合、M&Aの候補となる企業は、自社の製品を製造するのに必要となる原材料を作っていたり、自社の製品の販売をするのに必要となる販売先であることになります。
どちらの水平統合にせよ、垂直統合にせよ、一長一短の戦略です。その効果をきちんと理解して活用することが大切です。
会社の事業を承継することを考えるとき、誰に承継するかは非常に重要です。自分の血縁関係の中で事業を承継するケースもあれば、会社の従業員に事業を承継するケースもありますし、全くの会社の外部の人あるいは会社に事業を承継するケースもあります。
このうち、3つ目の会社の外部に人あるいは会社に事業を承継するケースでは、一般に、事業承継を行う譲渡側と、事業承継を受け入れる譲受側があり、両者のニーズが一致するように調整しなければなりません。その調整をマッチングと言います。会社の外部の人あるいは会社に、事業を承継するケースでは、この両者の合意がない限り、事業承継が成立しません。昨今の事業承継ニーズの高まりから、より効率的に、より納得感が得られるように両者を結びつけることを目的として、多くの事業承継マッチング業者、あるいは、マッチングプラットフォームが誕生しています。
そこでこの記事では、会社の外部の人あるいは会社に事業を承継する際に、近年盛んに利用されるようになっている事業承継マッチング業者、マッチングプラットフォームについて解説します。
会社や事業を売りたい(承継したい)と考えている会社が、会社や事業を買いたいと考えている会社に出会うためには、両者を引き合わせなければはじまりません。このように売りたい側と買いたい側が出会い、条件等双方の合意が得られた状態がマッチング成功となります。
一般に、会社を売りたい人と買いたい人のマッチングを自ら行うことは難しいことから、M&A。事業承継の専門家に相談することになります。近年、事業を売りたいという事業者と、事業を買いたいという事業者をマッチングさせる事業承継マッチング業者やM&Aマッチングプラットフォームと呼ばれるサービスを提供する企業が増えてきています。
事業承継マッチング業者は、中小企業の事業承継(M&A)を支援する機関であり、民間のM&A専門仲介機関や、金融機関、士業の専門家などが存在しています。マッチング業者の担う業務は、相手先企業のマッチングから行う場合もあれば、デユーデリジェンスや契約締結等の特定の業務に特化している場合もあり、その関わり方は様々です。事業承継マッチング業者に支払わなければならない仲介等の手数料についても、仲介者かアドバイザーかといった契約関係だけでなく、案件の規模や報酬体系(着手金・中間金・成功報酬等)によって異なります。
また、事業承継のマッチング業務は、案件の規模にかかわらず同程度の業務が発生するため、最低手数料を設けている専門仲介機関も多くなっています。そのため、近年では、インターネット上でのマッチングも行われるようになってきており、低コストでマッチングを図ることで小規模事業者でも事業承継を実施できる環境も整いつつあります。
いずれにせよ、事業承継を推進していくためには、金融機関、専門仲介機関、士業専門家といった、当事者以外の支援が重要です。こうした支援機関の事業承継への理解を深めるとともに、支援機関同士が連携し専門性の補完やマッチングを図ることで、様々なニーズに対応していくことが期待されています。
ここでは、まず事業承継マッチング支援をする代表的な相談先(専門家)について説明していきます。
① 公認会計士
公認会計士は、監査及び会計の専門家として、財務書類の監査証明業務のほか、財務に関する調査や相談に応じており、事業承継の様々な場面で、広い見識に基づく支援が期待できます。特に、経営状況・課題の把握(見える化)や経営改善(磨き上げ)をはじめ、非上場株式の評価・M&Aにおける売却価格試算等の複雑な状況での公正な評価、経営者の個人保証の解除、適正な会計の導入支援といった、将来の事業展開も踏まえた幅広い助言が期待できます。
② 司法書士
司法書士は、商業登記、不動産登記等の実務家として、事業承継における株式及び事業用不動産の承継、M&A、種類株式及び民事信託の活用、担保権の処遇等についてサポートしています。また、日本司法書士会連合会においては、商業登記・企業法務対策部、民事信託等財産管理業務対策部等を設置して事業承継に関する支援事業を行っています。
③ 税理士
税理士は、顧問契約を通じて日常的に中小企業経営者との関わりが深く、決算支援等を通じ経営にも深く関与しています。経営者向けアンケートにおいても、事業承継の相談先として選ばれやすい存在です。また、日本税理士会連合会にて構築した顧問税理士同士によるマッチングサイト「担い手探しナビ」の利用等を通じて、 多くの税理士が、後継者不在の中小企業に対するM&A支援に着手するなど積極的な事業承継支援を行っており、主体的な関与が期待できます。経営者に最も近い存在として、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、相続税に関する助言や株価の評価、生前贈与のやり方や種類株式の発行に関する助言、中小企業会 計要領・中小企業会計指針の活用支援等、事業承継に関係する幅広い領域にわたる支援をしてくれます。
④ 中小企業診断士
中小企業診断士は、「中小企業支援法」に基づき、中小企業のホームドクター として、様々な経営課題への対応や経営診断等に取り組んでいる事業者です。事業承継に関しては、事業承継診断やプレ承継支援(事業承継計画の策定支援、 後継者教育支援、磨き上げ支援等)、ポスト承継支援のほか、M&A等に関わる支援も期待されています。
⑤ 弁護士
弁護士は、中小企業や経営者の代理人として、事業承継を進めるにあたり、経営者と共に金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・説得を行い、円滑な事業承継を進める役割を担います。特に、株主関係が複雑な場合や、会社債務・経営者保証等に関する金融機関との調整・交渉が必要な場合、M&Aを活用する場合等においては、法律面全般の検討と課題の洗い出し、それらを踏まえたスキーム全体の設計、契約書をはじめとする各種書面の作成といった支援が期待される。また、日本弁護士連合会は、事業承継に関するプロジェクトチームを設置し、中小企業の事業承継に関する課題分析と改善策の検討、有用なスキーム・事例の周知活動、具体的な相談体制の整備等に取り組んでいます。
⑥ 金融機関
金融機関は、中小企業に日常的に接して経営状況を把握しており、中小企業に対してきめ細やかな経営支援等を実施し得る立場にあります。また、金融機関が取引先企業の事業実態を理解し、そのニーズや課題を把握し、経営課題に対する支援を組織的・継続的に実施することは、取引先企業の価値向上、ひいては我が国経済の持続的成長につながるとともに、金融機関自身の経営の安定にも寄与するものです。このような観点から、金融機関は取引先中小企業の事業承継問題に対しても積極的な支援を実施することが期待されています。
⑦商工会議所・商工会
商工会議所・商工会は、経営指導員の日々の巡回指導等を通じて中小企業経営者との間に信頼関係を構築している身近な存在です。このため、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、事業承継セミナーの開催や事業承継施策に関する情報提供、専門家の紹介、事業承継・引継ぎ支援センターとの連携等が期待されています。
近年では、IT技術を活用しインターネット上で事業承継マッチングを行う業者も誕生しており、低コストでマッチングが実現できる環境も整いつつあります。
事業承継マッチングプラットフォームは、事業や会社の譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステム(プラットフォーム)に情報を登録することによって、マッチングをはじめとする事業承継の手続きを低コストで行える支援システムです。従来、事業承継においては、事業者自身が譲り渡しや譲り受けの情報にアクセスすることが困難でした。その橋渡しを事業承継支援業者(金融機関、M&A仲介業者など)が担っていたのです。結果として、情報量の少なさからマッチングの可能性が低くなってしまったり、マッチングにかかるコストが大きく、業者に支払うべき高額の報酬につながってしまったり、といった課題がありました。こういった従来のM&Aの問題点を解決するために誕生したサービスが、マッチングプラットフォームです。
それでは、現在の日本でマッチングプラットフォームを提供している代表的な事業者を2つ紹介します。
①BATONZ(バトンズ)
BATONZは、無料で利用できる成約数No.1のM&A・事業承継支援サービス提供事業者です。企業と第三者のマッチングを支援し、M&Aによる事業継承をサポートします。バトンズでは小規模・零細企業の案件だけでなく、中小企業も含めた幅広い規模の案件も掲載しており、個人・個人事業主・法人といった、あらゆる属性の人が利用している事業者となっています。業界の標準価格よりもかなり安い金額で成約までたどり着くことができるうえに、充実したサポート体制が魅力となっています。
②TRANBI(トランビ)
TRANBIは、挑戦したい個人・中小企業のためのM&Aや事業開発を中心とするイノベーションプラットフォームです。インターネットを通じて、事業を買いたい人と売りたい人がマッチングする事で、 これまで多額の資金を必要としたM&Aの費用を大幅に削減することに成功しました。会員数も2022年7月時点において、106,246名と業界最大級を誇っています。
昨今、M&Aのマッチングプラットフォームは乱立しており、上記以外にもたくさんのプラットフォームがあります。
事業承継において、会社や事業の譲り渡し先を決めるのは容易ではありません。会社のことを理解していないところに事業を承継してしまえば、会社に残った従業員が不幸になることはもちろん、これまで会社に培われてきたものが台無しになってしまいます。だからこそ、マッチングを支援してくれる事業者の存在は、事業承継において欠かせないのです。
事業承継においてマッチングサービスを提供している事業者は数多く存在します。従来は、専門業者に依頼するケースも多かったものの、自分たちで直接プラットフォームサービスを利用するケースも多くなっています。会社の将来を左右する事業承継ですので相手探しは重要です。