近年、建設業界ではM&Aの件数が増加しています。廃業に代わる手段としてM&Aが経営者に注目されているからです。建設業は人手不足、市場規模の縮小等の要因から厳しい経営環境に置かれており、そのまま放置すれば廃業を選択せざるを得ない企業・個人事業主が多く存在します。しかし廃業するにもコストがかかり、廃業すれば従業員や取引先など関係者にも大きな影響を与えてしまいます。一方、廃業を防ぐ手段としてM&Aがあり、建設業経営者もM&Aに強く関心を持ち始めています。この記事では、建設業の現状と問題点を踏まえ、廃業よりM&Aの実施がどのように当事者や利害関係者にメリットがあるのか、詳しく解説します。
国内建設業の現状と課題
国内建設業界の現状ですが、国土交通省が公開している資料によると、1992年度に建設投資額が約84兆円のピークをとなった後、減少傾向に転じ、2011年度には約42兆円まで落ち込み、その後は増加に転じて、2019年度には約56兆円となり、目下も50兆円前後を推移しています。
今後も公共工事関連では、高度成長期に建設された建物や道路・橋など、社会インフラの建替え・更新工事需要が控えており、加えて、自然災害の拡大を背景に未然防止のための治山治水事業など、建設業が取り組まねばならないプロジェクトは山積みです。このように大きな建設需要が見込まれていることから、建設業が事業さえ継続できれば、廃業には追い込まれにくい状況です。
参照:建設業の現状とこれまでの取組(国土交通省):https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001314888.pdf
一方、建設業に係る人員及び後継者の確保に関して、建設業業界は深刻な問題を抱えています。
同省の資料によると、建設業の就業者数は1997年度の685万人をピークに低下傾向をたどり、2018年度には503万人と大きく低下、以降も増加の兆しが見えません。建設業は3K(きつい、汚い、危険)の代表といわれる業種であり、過酷な労働条件のイメージから若者の入職者が他業種以上に減少傾向にあります。さらに、高齢の就業者が次々と引退していくため、今後も就業者数が減ることが予想されます。
また、帝国データバンクの後継者不在企業動向調査(2019年)によると、国内企業の後継者不在率は2019年全国平均で65.2%、これを業種別で建設業に限れば、後継者不在率が70.8%と、全業種中トップと極めて深刻な状態です。この状態を放置すれば、いくら建設業界の先行き需要が大きくても、人手不足や後継者難から廃業を選択せざるを得なくなります。
参照:全国・後継者不在企業動向調査2019年(帝国データバンク):https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p191104.pdf
建設業が廃業・倒産すると地域経済への影響が大きい
仮に建設業が廃業や倒産すると、極めて地域経済への影響が大きく、雇用情勢の悪化や連鎖倒産の可能性から、最終的に日本経済へ深刻な打撃を与えることになります。
建設業は、飲食業や農林漁業等ととともに、地方でも人を雇用吸収できる重要な業種です。また建設業が元請け・下請けのピラミッド構造になった受注形態の労働集約型産業の代表であることから、その建設事業者が廃業してしまうと、働いている多くの従業員が解雇され、行き場を失ってしまいます。
建設業の廃業や倒産は地域経済に、ひいては日本経済に極めて深刻な影響を与えてしまうのです。
建設業を廃業するならM&Aで売却した方がよい
では、建設業を廃業するなら、その影響を最小限にできる何か良い他の手段はあるのでしょうか?それがM&A(企業の合併及び買収)です。M&Aを使って建設業を有力な他社や余裕資本を持つ個人に売却すれば、廃業に伴う悪影響を避けられるばかりか、経営者含む関係者が多くのメリットを受けることもできます。
一方、建設業を廃業すれば、廃業に伴うコストが追加でかかるばかりか、法人に借金を経営者が連帯保証していれば、廃業後も経営者はその借入金を返済していく義務を負ってしまいます。廃業は、決してリスクゼロで行える行為ではないのです。
それならば、M&Aで建設業を他社や資金を持つ個人に売却すれば、そのリスクを回避しつつ売却メリットも得られます。次章ではそのメリットを売り手及び買い手に分けて、詳しく解説します。
建設業のM&Aで売り手及び買い手が得られるメリット
建設業の売り手が得られるメリット
建設業のM&Aで売り手が得られる代表的なメリットは以下の4つです。
事業承継できる・後継者問題が解決する
M&Aで建設業が売却できれば、その経営者に後継者がおらず、将来廃業リスクがあったとしても、他社等に売却することで後継者問題が解決するとともに事業もそのまま継続できます。これは、売り手経営者に取ってM&Aの最も大きなメリットです。
売却益が得られる
経営する建設業を後継者不足や経営難のまま放置して廃業してしまうと、廃業コストがかかるばかりか、会社に借金が残っていれば、経営者は廃業後も会社に変わってその借金を払い続けなければならないリスクがあります。
しかし、M&Aで建設業をうまく売却できれば、創業者として経営者は売却益を得られるばかりか、その資金を老後資金に充てたり、別の事業資金に使ったりすることも可能です。もちろん借金は買い手が引き受けてくれるので、連帯保証の義務も免れます。
従業員の雇用が維持できる
売り手メリットの3つ目は、廃業した場合、従業員は解雇され職を失いますが、M&Aで建設業を他社等に売却できれば、従業員はそのまま買い手に引き取ってもらえるので、雇用が維持できます。
一般的に、買い手は売り手より事業規模が大きく財務内容が良い先が多い場合も多いので、売り手側従業員の労働条件も買い手企業にあわせられ、結果として従業員の労働条件も改善されることがあります。
買い手の経営資源の活用が可能
M&Aで建設業が売却できれば、以後、売り手は買い手側企業にグループのメンバーとして参加したり、事業部門の一部に加えられたりします。すると、買い手の持つ経営資源の活用が可能になり、最終的にコスト削減ができます。
たとえば、売り手の事業規模が小さいときには、毎回少しずつしか事業資材が購入できず信用度の低さからコスト高の経営を強いられていたとしても、買い手に譲渡されてグループの一員になると、事業規模が大きくなり信用度も上がるため、価格交渉力が付き低コストで資材購入ができるようになります。
あるいは、売り手が高いリース代を払って借りていた建設機材や設備等のリソースも、譲渡後には買い手がすでに自社(グループ)内で使っている機材や設備を共同で利用できるので、わざわざ高い費用を払ってまで資金を社外流出させる必要がありません。
これもまた、M&Aによるスケールメリットといえるでしょう。
建設業の買い手が得られるメリット
建設業のM&Aで買い手が得られる代表的なメリットは以下の3つです。
事業成長へのスピードアップが図れる
建設業のM&Aで買い手が得られるメリットの一つが事業成長へのスピードアップが図れる点です。具体的には事業エリアの拡大や異業種への進出などを通じて事業成長できます。
もともと建設業の特徴として地域性が強く、以前は他地域の同業者まで買収してあらたな地域に進出しようとする経営者はまれでした。しかし、人材不足や後継者難を背景に経営者の考え方も大きく変化しており、M&Aを使って同業他社を買収し、事業エリアの拡大を図ろうとする経営者も増えてきています。既存で行なっている建設業を他地域で展開する場合、あらたに建設業の許可も取得する必要があるので、その場合は新規で始めるよりM&Aで同業他社を買収する方が手っ取り早いというわけです。
また、それは異業種への進出も同じで、建設業だけでは将来の発展が見込めないと経営者が判断した場合、M&Aで建設業ではない異業種の会社を買収すれば、リスク分散のための多角化経営ができます。新事業展開の時間短縮も図りつつ、将来の収益源を会社内に取り込めるでしょう。
いずれも時間短縮して事業成長のスピードアップが図れるという点で、買い手には大きなメリットとなります。
有資格者の確保及び人材不足の解消
建設業というのは、許可が必要な業種でも29業種もあり、また各工事を行なうにはそれぞれ業種ごとに許可を取る必要があります。加えて建設工事では、現場ごとに資格を持った現場代理人を配属することが義務づけられています。
そのため、会社の中に各種工事に必要な有資格者がいくらいるかで、会社が上限でいくら工事を受注できるか決まるので、会社が成長するためにも有資格者数の確保が大きな経営課題となっています。しかしM&Aで同業他社を買収できれば、同時に各工事に必要な有資格者も確保できるのでその目的を早めに達成できます。
建設業界は現状極めて深刻な人材不足に陥っているので、あらたに採用市場に人材を求めるよりも、M&Aで会社を買収すれば、建設業に必要なスキルを持った人材を確保でき問題点を解消できるのです。
事業で使う資材機材調達でスケールメリットがある
売り手側のメリットでも、事業で使う資材や機材調達のスケールメリットを解説しましたが、これは買い手側でもメリットになります。
買い手の事業規模が、売り手が参加することでさらに大きくなり、業界内での存在感や信用度が増すととともに、取引先に対しても価格交渉力が強まるので、コスト削減を通じて最終的に利益の拡大につながってきます。建設業で使う資材や機材の調達費は、他業種に比べて極めて大きいので、M&Aの結果得られる買い手側のスケールメリットもまた大きいです。
まとめ:建設業のM&A
建設業のM&Aについて、そのメリットを中心に詳しく解説してきました。最後になりますが、建設業のM&Aでは重要な注意点がひとつあります。それは、粉飾決算に対する対応です。
ゼネコン等の大手建設業者は、顧問会計士もいることから簡単に粉飾決算に手を染めることはありませんが、地方の中小建設業者は公共工事受注に当たり、経営審査事項を公的機関に良く見せるため、工事に係る会計基準を操作してやむにやまれず粉飾決算を行なうことが0ではありません。建設業のM&Aでは、この点に注意をする必要があります。
それだけに、事前の交渉できちんとDD(デューデリジェンス)を行なえばそれも防げるので、M&A専門家と相談してきちんと基本に即したM&Aを行なうようにしましょう。
M&Aは企業間取引であるため、その成否は経営者同士の面談によって分かれることになります。買い手となる企業と売り手となる企業のトップである経営者同士が面談を行うことによって、お互いに相手企業のことが理解できるようになり、信頼関係を構築したうえで取引に臨めるようになります。この記事では、M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性についてわかりやすく解説していきます。
M&Aにおいてトップ面談は重要な意味を持っています。トップ面談は企業経営者による「お見合い」によく例えられます。M&Aは2つ以上の会社が一緒になることを意味しますから、その運営のトップである経営者同士での面談は、結婚(M&A)前のお見合いに例えられることがあります。
トップ面談が行われるタイミングは、譲渡企業の決算書などに基づいて、まず書面で初期検討を行ったのち、譲受候補となっている企業が「前向きに検討を続けたい」と判断したタイミングで実施されるのが普通です。つまり、譲受候補となっている企業側が、まず決算書などから抽象的な情報を読み取り、そこで興味を持った譲受企業(経営者)がお見合いを申し込むわけです。1回目のトップ面談で企業文化や経営理念、事業内容を理解しきれなかった場合には、複数回実施されることも当然あります。まずは候補企業にアプローチした後、経営者同士の考え方を意見交換するトップ面談を複数回実施します。
譲受企業側がM&Aブック(またはオファー)を検討し、意思表示を提出した後、次のステップとして、譲渡企業の主要な経営陣および/または所有者と面談することになります。トップ面談では、財務の最新情報(およびその他の適切な最新情報)を提供し、譲受候補となる企業は譲渡企業と交流することができます。また、トップ面談では、施設の見学が含まれる場合もあります。
ここで、譲渡企業側は、譲受企業側が書面で関心を示すまでは、譲受候補となっている企業との面談に基本的に応じるべきではありません。売却を考えていない譲渡企業が、譲受を考えている企業から直接連絡を受けた場合でも、譲受を考えている企業が関心を示すまでは面談を控えるべきです。
トップ面談では、譲受企業側からは、譲渡企業の経営者に会社や事業への想い、理念などについて聞いても良いでしょう。具体的な財務状況や経営成績を聞くのは、トップ面談のタイミングではありません。お見合いでも、初対面のお見合い相手に「年収はいくらですか?」と聞くのは野暮でしょう。それと同じで、トップ面談では、むしろ、経営に対するビジョンや理念などの確認をする方が大切です。譲渡を希望する理由や、譲渡後の展望、希望について話を聞くのも良いと思います。
一方で、譲渡企業側からは、譲受企業の経営者に理念やビジョン、ミッション、今後の経営計画、事業に対する想いなどについて聞くのが良いでしょう。トップ面談の時には、企業に関する詳細情報をすでに得ていることが多いものの、実際にトップ面談を行うことで決算書の数字や企業情報などだけではわからないことがトップ面談で得られるはずです。
譲渡企業(またはその仲介者)は、譲受企業候補の経営者の様子を観察して、どの譲受企業候補に売却すれば事業の成功を継続できる可能性が高いか、事業を運営するのに適したスキルを持っているか、取引をまとめる能力があるかを見極めようとします。この際の基準は主観的なものであり、ほとんどの場合、高い評価額(買収額)が他のすべての考慮事項に優先する傾向にあるものの、時には、より直感的な「自分(自社)に合わないから他の人にしよう」という理由で取引を断るケースもあります。
ここでも、やはりお見合いと同じで、どんなに年収が高かったり、社会的な地位の高い職業について居たりしても、それだけで結婚を考えることはないのと同様に、もっと直感的で主観的な評価基準によって、譲受企業候補を見極める必要があります。
譲受企業は、譲渡企業側が他の譲受企業候補ともM&Aに関する話を進めている場合が多いことを忘れてはなりません。譲受企業候補の一つとして、譲渡企業側が自分を選んでくれることを当然だとは思わず、トップ面談において謙虚に譲渡企業の経営者と交渉に臨む必要があります。
結局のところ、M&Aにおいてトップ面談で最も重要なことは、相手企業との信頼関係の構築にあります。信頼関係の構築のためには、必ずしも買収金額(譲渡金額)だけが重要なわけではありません。むしろ、トップ面談においては、本当に相手企業が信頼できるかどうかを基本としながら、相手を見極めることが大切です。トップ面談では、お互いの経営者の人間性、経営理念、事業内容への理解を深め、信頼関係を構築することを重視すべきです。そのような場で、買収金額などの具体的な交渉を行おうとすると、一気に場が冷めてしまい、相手先からの不信感を招く可能性が高くなります。繰り返し説明しているように、トップ会談は、双方の企業のビジョンや運営方針、経営方針などを共有し、お互いの理解を深めるようにしましょう。
M&Aにおいてトップ面談は、M&A成功を左右するほど重要です。トップ面談は、企業同士のお見合いであり、お互いの理解を深めることで、その後のM&Aの具体的な交渉をスムーズに進めるために行われます。具体的なM&Aの交渉はトップ面談後に行われるのが普通です。トップ面談で具体的な条件などを交渉してしまうと、その後のプロセスにいつまでもたどり着けなくなってしまうので注意が必要です。M&Aにおけるトップ面談の位置づけを正しく理解し、なぜトップ面談を行うのか、その理由をきちんと把握しておくことによって、M&Aをお互いの企業とって意義深いものにしていきましょう。
M&A取引のプロセスのなかでも、交渉からクロージングまでのプロセスを指す「エグゼキュージョン」は、買収対象となる企業の価値を確定するための重要なプロセスです。この記事では、M&Aにおけるエグゼキュージョンがどのような意味を持っているのか、解説していきます。
エグゼキュージョン(execution)とは、M&Aのプロセスのなかでも、買い手側が計画を実行するプロセスを指す言葉です。もともと、英語のexecutionという言葉は「(計画を)実行する」という意味を持っています。買い手側がM&Aに関して事前に決定した事項について、実行していくプロセス全体をエグゼキュージョンプロセスと言い、、買い手側が買収候補となる企業を決定した後に行われる交渉・デューデリジェンス・売買契約・買収のための資金調達戦略・買収の完了と統合の計画実行を指すケースが多いです。
なお、エグゼキュージョンという用語をよく利用するのは、M&A取引の成立をサポートするアドバイザーです。アドバイザーは、買い手の買収計画が上手くいくようにサポートを行います。
M&Aは、主に以下の10個のプロセスによって成り立っています。
(1)買収戦略の策定
優れた買収戦略の策定は、買収者が買収によって何を得ることを期待しているのか、つまり対象企業を買収する事業目的は何か(製品ラインの拡大や新規市場への参入など)を明確に把握することを中心に行われます。
(2)M&Aの検索基準の設定
潜在的なターゲット企業を特定するための重要な基準を決定します(例:利益率、地理的位置、または顧客基盤など)。
(3)買収候補企業の検索
買収者は、特定した検索基準を使用して、買収候補企業を検索し、評価します。
(4)買収計画の開始
買収者は、検索基準を満たし、良い価値を提供すると思われる1社以上の企業と接触します。最初の会話の目的は、より多くの情報を入手し、ターゲット企業が合併または買収に対してどれくらい積極的であるかを確認することにあります。
(5)評価分析の実施
最初の接触と会話がうまくいったと仮定して、買収者はターゲット企業に、買収者がターゲットをさらに評価できるような実質的な情報(現在の財務状況など)を提供するよう求め、ビジネス単体として、また適切な買収ターゲットとして、評価します。
(6)交渉
買収者は、ターゲット企業の評価モデルをいくつか作成した後、合理的なオファーを構築するのに十分な情報を得る必要があります。
(7)M&Aデューデリジェンス
デューデリジェンスは、オファーが受諾された時点から開始される包括的なプロセスです。デューデリジェンスの目的は、対象会社の財務指標、資産・負債、顧客、人材などのあらゆる側面について詳細な調査と分析を行い、買収者の対象会社の価値評価を確認または修正することにあります。
(8)売買契約
デューデリジェンスが完了し、大きな問題や懸念がなければ、次のステップとして売買契約を締結し、資産購入か株式購入か、売買契約の種類を最終的に決定します。
(9)買収のための資金調達戦略
買収者は、もちろん、買収のための資金調達オプションを早期に検討しますが、資金調達の詳細は、通常、売買契約が締結された後にまとまっていきます。
(10)買収の完了と統合
買収案件が完了し、買収先と買収企業の経営陣が協力して両社の統合プロセスに取り組みます。
このプロセスのうち、エグゼキュージョンプロセスは、(6)〜(10)を指します。
M&Aにおいて、エグゼキュージョンは、要するに、買収対象となる企業の価値を決定するプロセスにほかなりません。買収対象となる企業の価値を決定するにあたっては、以下の2点が重要となります。それぞれについて説明していきましょう。
(1)価値の最適化
デューデリジェンス調査が完了し、その結果について評価を行った後、取引の成功に向けて最もエキサイティングなステップであるバインディング・オファー(売買契約)、そして取引の実行に移っていきます。
M&A取引プロセスにおいて、株式売買契約書(SPA)の作成、規制当局への取引に関する届出の提出、取引財務の作成、初日の準備など、多くの重要なステップが含まれています。取引の終了まであと少しと思われるかもしれませんが、実はその前に検討すべきこと、達成すべきことがまだまだたくさんあります。
M&Aの取引をうまく実行したい(エグゼキュート)したいのであれば、最終的に取引はより多くの価値、たとえば、適正な評価額や所有権を引き継いだ後の状態を、あらかじめしっかりと確定しておくことが大切です。
(2)売買契約書(SPA)
SPAの作成は、しばしば弁護士のための形式的なものとみなされます。SPAのプロセスの多くには、保証、保証、潜在的な紛争の解決などの法的側面が含まれているため、ある程度はその通りです。しかし、SPAには何よりもまず、取引の決済方法を定義する金融条件が含まれ、評価方法についての詳細が記載されます。売買契約書は、買主と売主を法的に拘束するものです。したがって、買収対象となる企業の価値を確定するために、どのような法的拘束力のある事項を実行しなければならないのかを明らかにしておかなければなりません。
エグゼキュージョンは、M&Aプロセスのなかでも企業価値を確定するうえで重要となるプロセスです。エグゼキュージョンプロセスのなかには、専門性が求められる企業価値評価といったプロセスも含まれることから、M&Aのアドバイザリーサービス提供している事業者がエグゼキュージョンプロセスを代理してくれることもあります。エグゼキュージョンは、M&Aを行う目的によってその具体的なプロセスも変化するのが普通です。目的に応じて明確な計画を立案し、しっかりとエグゼキュートするように、M&Aプロセスを進めていくことが大切です。
M&Aは完了までのプロセスで多くの専門的な知識を必要とします。そのため、自社だけでM&Aを完結させることはほぼ不可能であり、一般に、アドバイザリーサービスを提供している事業者と契約を結び、M&Aに関するアドバイスを受けながら進めていくことになります。この記事では、M&Aにおけるアドバイザリー契約の詳細について詳しく解説していきます。
M&Aのプロセスは複雑で専門的であることから、M&Aの成約までのプロセスをサポートしてくれる事業者が多数存在しています。たとえば、米国では、JP Morgan、Goldman Sachs、Morgan Stanley、Credit Suisse、BofA/Merrill Lynch、Citigroupは一般的にM&Aアドバイザリーのリーダーとして認識されており、通常M&A案件数でも上位にランクインしている事業者です。こうした事業者にM&Aのサポートをしてもらう契約がアドバイザリー契約です。
M&Aアドバイザリー会社は、企業の買収、売却、再編を意図する他社に指導を行う会社のことです。個人のファイナンシャルアドバイザーが個人や中小企業に対してガイダンスを提供するように、M&Aアドバイザリー会社は、あらゆる種類の企業取引において企業の舵取りを支援し、多くの場合、デットファイナンスやエクイティファイナンスをサポートしてくれます。M&Aアドバイザリー会社は、具体的には、以下のようなサービスを提供しています。
多くのM&アドバイザリーA会社は、取引成立時に取引金額の一定割合を手数料として徴収しています。この手数料は、実施される取引の種類や取引規模によって異なります。また、一部のファームでは、パーセンテージフィーに加え、一律の手数料を課すケースもあります。
アドバイザリーサービスは様々なサービスがありますが、アドバイザリーサービスを受けられるのは買い手だけではありません。売り手も受けることができます。
売り手(ターゲット)のアドバイザーとしてM&Aファームが関与することをセルサイドという。
逆に、M&Aファームが買手(買収者)のアドバイザーとして活動することをバイサイド業務という。その他、ジョイントベンチャー、敵対的買収、バイアウト、買収防衛策などに関するアドバイスも行うこともあります。
アドバイザリー契約をM&Aファームと締結すれば、以下のようなサービスを受けられます。
M&Aファームが買主(買収者)に買収のアドバイスをする場合、買収企業のリスクとエクスポージャーを最小限に抑えるために、買収対象の真の財務状況に焦点を当てたデューデリジェンスと呼ばれる作業を支援することもあります。
M&Aデューデリジェンスでは、対象企業の財務情報の収集、分析、解釈、過去と未来の業績の分析、潜在的なシナジーの評価、事業評価による機会や懸念事項の特定などが基本的に含まれています。徹底したデューデリジェンスは、リスクベースの調査分析や、買い手が取引を通じてリスクと利益を識別するのに役立つその他のインテリジェンスを提供することにより、成功の確率を高めます。
企業の売却を検討されている場合、あるいは事業領域の拡大のために他の企業を買収する場合、M&A専門のアドバイザリーサービスを利用することで取引結果を改善することが可能です。
M&Aアドバイザリーサービスは、財務状況を確認し、最終合意に向けた様々なステップを支援し、統合後の新会社のパフォーマンスを最適化するための戦略を策定するための重要なプロセスです。
通常、M&Aファームとのアドバイザリー契約は、企業が潜在的なターゲットを特定した後に結ばれ、M&A取引の完了をサポートするためにデューデリジェンスを実施します。しかし、M&Aアドバイザリーチームは、M&Aのライフサイクルを通じたパートナーとして、より多くのことを行うことができます。
M&Aプロセスの流れをよく理解しているM&Aアドバイザリー会社は、M&A取引で起こりがちなことについて事前にアドバイスを与えてくれます。経験豊富な企業幹部でさえ、M&Aプロセスの複雑さに驚かれることがよくありますが、信頼できるアドバイザーとして、対象企業をより深く理解し、デューデリジェンスのプロセス全体を管理し、適切な質問をし、データを正しく取得することを支援してくれます。M&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を締結すれば、デューデリジェンスや、法律事務所や専門家によるデューデリジェンスなど、取引のあらゆる側面の管理を支援してくれます。これにより、ビジネスの継続に集中し、将来に向けて戦略的に注力することができます。
M&Aアドバイザリー会社は、通常、M&Aに関する契約書(LOI)が締結された後に参入します。しかし、アドバイザーは、LOIが締結される前から積極的な役割を果たすことも可能です。多数の現地訪問、マネジメントインタビュー、デリジェンス分析を通じて、ターゲットビジネスの運営方法、そのキーパーソンは誰か、その企業があなたのビジネスにどのように統合されるかを理解し、合意に至る手助けをすることができるのです。
M&Aによって統合される会社はどのような姿になるのでしょうか。クロージング後の統合とシナジー効果を中断することなく、可能な限りシームレスに展開し、統合後の企業価値を最大化することを誰もが希望するものです。どのようなタイミングで統合しようとしても、本来やるべき事業を継続するために、事業の安定化に注力することが重要です。さらに、人材と文化に戦略的な注意を払い、人材の確保を図る必要があります。最初の100日間と安定化のための努力は取引の意図した価値を完全に実現するための基盤を作るものです。
統合計画の取り組みは、慎重に計画し、タイミングを計らなければなりません。契約締結とクロージングが同日に行われることもありますが、その場合は統合計画をその日に先駆けて完了させなければなりません。契約締結からクロージングまでに時間がかかる場合は、その間に計画を完成させることができます。プレ・プランニングは30~60日程度で完了するのが一般的ですが、大企業の統合にはもっと長い時間がかかる場合もあります。
準備にかかる時間はストレスになりますが、まず必要なことを戦略的に処理し、そこから二次的な計画を進めていけば、ストレスは少なくなります。こうした統合計画をサポートしてくれるのも、M&Aアドバイザリー会社の重要な役割の一つです。
M&Aにおける統合プロセスの分析とパフォーマンスの最適化は、どちらもM&Aアドバイザーが支援できるサービスです。統合の際には、プロセス分析が計画の重要な構成要素となります。プロセスの分析では、ギャップや欠陥を明らかにし、特に技術や人材などの重要な検討事項について、将来の改善(シナジー)のためのロードマップを作成します。プロセス分析/改善とパフォーマンスの最適化は、統合された企業の新しいプロセスでより高い効率を推進するために、時間が経ってから統合後にも活用することができます。これは、人員の変更を最小限に抑えるために行われるため、M&Aによる統合後のパフォーマンスを最適化することができます。
M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識を求められるものです。また、手間がかかるプロセスも多いことから、通常、会社内のリソースだけを活用してM&Aのプロセスを完結させることは不可能です。そこで、M&Aに関するアドバイザリーサービスを提供しているM&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を結ぶことで、状況に応じて様々なサービスの提供を受けることができるようになります。M&Aにおいてどのようなサービスが必要であるかは、どのようなM&Aを行うか次第なので、M&Aの目的を明確にしたうえで、M&Aアドバイザリー会社に相談してみましょう。