はじめに
企業の合併や買収の総称である「mergers(合併)and acquisitions(買収)」は、2つ以上の会社が1つになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)を意味する言葉です。会社法上は「組織再編行為」に該当します。M&Aは、一般に、新しい事業や市場に参入したり、企業グループの再編のために利用されたり、会社が持つ複数の事業を一つの事業へと統合したり、業績不振となった企業や事業を救済するために活用されています。新しい事業や新たな市場へと企業が進出する場合、自ら会社を設立するケースも少なくありません。しかし、M&Aを活用すれば、事業を軌道に乗せるまでの時間を短縮できます。また、事業を再構築する場合、不要となった会社や事業を売却する場合や、他社の事業を買収し自社の主力事業を強化する場合でも、M&Aの活用は非常に効果的です。
M&Aという組織再編行為によって、役員や会社で働く従業員には大きな影響があります。M&Aが実施されると従業員が別の会社に移籍したり、退職したりすることになり、役員も退職する場合があります。この場合、従業員や役員が退職する際に支払わなければならない、退職金の取扱いはどのようになるでしょうか。この記事ではM&Aによって従業員や役員の退職金がどのようになるのか、わかりやすく解説していきます。
M&Aにおける退職金の取扱い
M&Aを成功させるには、従業員の労働条件に配慮することが必要です。一口にM&Aといっても、M&Aには「株式譲渡」、「新株引受」、「株式交換•株式移転」、「事業譲渡」、「合併」、「会社分割」など様々な方法があります。※M&Aの流れや、スキームについてはこちらをご覧ください。
たとえば、会社を売却する組織再編行為である「株式譲渡」は会社の売却を意味します。そして、事業を売却する組織再編行為である「事業譲渡」は、事業の売却を意味します。当然、会社を売却した場合と、事業を売却したケースでは退職金の取扱いも異なるため、留意が必要です。特に、M&Aにおける退職金は、従業員の退職金にせよ、役員の退職金にせよ、就職してから退職するまでの長年の勤務に対する報償的対価を、退職を機会として一括で受領するという性質を持っています。したがって、通常の超過累進税率による所得税の課税ではなく、税負担を軽減するために優遇された税金計算を行うので、M&Aを機会として退職金をもらう役員や従業員は、税制上お得に退職金を受け取ることも可能です。
M&Aにおける退職金 〜従業員ケース〜
「株式譲渡」の場合には、役員の退職を伴うことが多いですが、原則として、従業員の雇用条件が変更されることはありません。その理由は、株式譲渡では、買い手企業の法人格自体には影響はないからです。従業員の買い手企業への移籍後は、買い手企業の退職金・年金制度が適用になるのが一般的です。売り手企業で得た退職金・年金の権利は、事業売却時に清算される(退職金が支給される)ケースもあれば、買い手企業に引き継がれるケースもあります。
「合併」の場合には、消滅会社の従業員の労働契約や就業規則は、存続会社に継承されます。旧会社の法律関係は一括して新会社に移転するのです。特に何もしなければ、雇用条件をそのまま引き継ぐことになるので、買い手側の従業員の売り手側の従業員の間で、雇用条件にズレが生じるケースがあります。その場合、同じ仕事をしている従業員であっても、雇用条件にズレが生じて、それが軋轢を生む可能性があります。もちろん、退職金制度についても同様です。合併後に、労働条件や退職金の不平等など多くの問題が生じる恐れがあるので、注意が必要となります。
なお、M&Aによって労働条件の変更や人員削減も予定しているケースもあります。この場合、株式譲渡や合併の場合は、売り手企業側の労働関係がそのままM&A後の会社体制(買い手側企業側の会社体制)に引き継がれるので、勝手に雇用、労働条件、退職金制度などを変更することは原則としてできません。
そのため、実務上は、労働条件や退職金の問題を解決するため、合併を実行する前の段階もしくは合併後速やかに、売り手企業と買い手企業が協力しなければなりませんし、労使とも誠意をもって十分な協議をして、雇用契約・退職金制度・就業規則の内容を調整しなければなりません。労務関係について、従業員名簿は当然必要となります。他にも、従業員組織、就業規則、労働契約出向契約、退職金規定といった書類が必要です。労働組合があれば、その関係の書類も当然出してもらわなければなりません。
「事業譲渡」の場合には、M&Aが完了したあと、事業の買い手側の就業規則に従業員は従うことになります。ただし、事業譲渡は、法律関係の当事者が個々に合意した範囲でのみ新会社への移転が生じる取引です(特定取引)。したがって、従業員の退職金についてはM&A時に売り手側で支払うケースが一般的です。買い手側企業・売り手側企業のほか、従業員本人も同意しなければ、新会社への移籍は生じません。そのため、合意のうえで移籍した場合には、そのまま買い手側の就業規則に従い、退職金も買い手側企業の制度へと移行することになります。具体的に、売り手側の社員は、買い手側会社との間で転籍に関する合意書を交わし、新たに雇用契約を結びます。そのため、一度売り手側企業の退職金制度は一度清算されます。このように、「合併」や「事業譲渡」の場合には、売り手側企業の従業員の労働条件の変更について、事前に十分な協議と調整を行っておくことが重要となります。
M&Aにおける退職金 〜役員のケース〜
M&Aが行われる場合、売り手企業側の役員は退職するのが一般的です。そのため、退職すると退職金がもらえます。この場合の退職金は、会社の雇用条件によって定められた条件によって決まっているのが一般的です。
ただし、役員の場合、退職金以外にもお金をもらえるケースがあります。それは株式譲渡のケースです。役員自身が保有している会社の株式を売却することになるので、その対価をもらうことができます。それが退職金の代わりになるのです。
「株式譲渡」でM&Aを実行する場合には、役員がもらえる退職金と組み合わせることで税負担を軽くできる可能性があります。売り手側の役員からみると、株式譲渡代金にかかる税率(=20%)と、退職金にかかる税率(0%~27.5%)は異なっているので、一定金額までは株式譲渡代金を退職金として受け取る方が税負担は軽くなります。役員退職金は一時金として取り扱われますが、一時金として受け取る退職金は、給与や賞与よりも税金が優遇されるので、役員退職金の税負担は軽くなるのです。
退職金を支払う会社にとっても、役員退職金は株式譲渡とそれほど変わらない税率で損金算入できるというメリットがあります。ただし、無制限に役員退職金を増やすことはできず、損金として認められない場合もあるほか、例えば役員退職金を支払うには、株主総会での決議が必要となるなど、一定の条件が課されている点に留意が必要です。退職時点で「役員退職金を支払わない」という決議が株主総会で行われると、受け取れないケースもあります。
まとめ:M&A後の従業員・役員の退職金
M&Aは役員や従業員の立場に大きな影響を及ぼします。そのなかでも、役員や従業員の退職金に関する事項は重要な検討項目の1つであり、時として取引の成否を左右するポイントにもなる重要事項です。株式取得・株式交換・株式移転と呼ばれるM&Aは、会社間の資本関係にのみ影響を及ぼすことから、労働者との間の労働契約には影響を与えず、労働契約関係は存続することになります。したがって、この場合、役員・従業員の退職金について基本的に影響を与えません。
一方、M&A手法のなかでも、事業譲渡は、合併や会社分割のような包括承継ではありません。事業譲渡のケースでは、譲渡会社と譲受会社との合意によって事業に属する個々の資産について個別に移転させる必要があり、一つ一つの事項について債権者の同意が必要です。事業譲渡は特定承継なのです。そのため、役員や従業員との雇用契約についても見直しが必要で、退職金についても買い手側との交渉の余地があります。なお、事業譲渡では、役員や従業員の一部だけを承継対象から除外することも可能ですが、原則として労働者の個別の同意があることによって労働契約は承継されるため、退職金も同様に個別の同意が必要です。
M&Aは企業間取引であるため、その成否は経営者同士の面談によって分かれることになります。買い手となる企業と売り手となる企業のトップである経営者同士が面談を行うことによって、お互いに相手企業のことが理解できるようになり、信頼関係を構築したうえで取引に臨めるようになります。この記事では、M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性についてわかりやすく解説していきます。
M&Aにおいてトップ面談は重要な意味を持っています。トップ面談は企業経営者による「お見合い」によく例えられます。M&Aは2つ以上の会社が一緒になることを意味しますから、その運営のトップである経営者同士での面談は、結婚(M&A)前のお見合いに例えられることがあります。
トップ面談が行われるタイミングは、譲渡企業の決算書などに基づいて、まず書面で初期検討を行ったのち、譲受候補となっている企業が「前向きに検討を続けたい」と判断したタイミングで実施されるのが普通です。つまり、譲受候補となっている企業側が、まず決算書などから抽象的な情報を読み取り、そこで興味を持った譲受企業(経営者)がお見合いを申し込むわけです。1回目のトップ面談で企業文化や経営理念、事業内容を理解しきれなかった場合には、複数回実施されることも当然あります。まずは候補企業にアプローチした後、経営者同士の考え方を意見交換するトップ面談を複数回実施します。
譲受企業側がM&Aブック(またはオファー)を検討し、意思表示を提出した後、次のステップとして、譲渡企業の主要な経営陣および/または所有者と面談することになります。トップ面談では、財務の最新情報(およびその他の適切な最新情報)を提供し、譲受候補となる企業は譲渡企業と交流することができます。また、トップ面談では、施設の見学が含まれる場合もあります。
ここで、譲渡企業側は、譲受企業側が書面で関心を示すまでは、譲受候補となっている企業との面談に基本的に応じるべきではありません。売却を考えていない譲渡企業が、譲受を考えている企業から直接連絡を受けた場合でも、譲受を考えている企業が関心を示すまでは面談を控えるべきです。
トップ面談では、譲受企業側からは、譲渡企業の経営者に会社や事業への想い、理念などについて聞いても良いでしょう。具体的な財務状況や経営成績を聞くのは、トップ面談のタイミングではありません。お見合いでも、初対面のお見合い相手に「年収はいくらですか?」と聞くのは野暮でしょう。それと同じで、トップ面談では、むしろ、経営に対するビジョンや理念などの確認をする方が大切です。譲渡を希望する理由や、譲渡後の展望、希望について話を聞くのも良いと思います。
一方で、譲渡企業側からは、譲受企業の経営者に理念やビジョン、ミッション、今後の経営計画、事業に対する想いなどについて聞くのが良いでしょう。トップ面談の時には、企業に関する詳細情報をすでに得ていることが多いものの、実際にトップ面談を行うことで決算書の数字や企業情報などだけではわからないことがトップ面談で得られるはずです。
譲渡企業(またはその仲介者)は、譲受企業候補の経営者の様子を観察して、どの譲受企業候補に売却すれば事業の成功を継続できる可能性が高いか、事業を運営するのに適したスキルを持っているか、取引をまとめる能力があるかを見極めようとします。この際の基準は主観的なものであり、ほとんどの場合、高い評価額(買収額)が他のすべての考慮事項に優先する傾向にあるものの、時には、より直感的な「自分(自社)に合わないから他の人にしよう」という理由で取引を断るケースもあります。
ここでも、やはりお見合いと同じで、どんなに年収が高かったり、社会的な地位の高い職業について居たりしても、それだけで結婚を考えることはないのと同様に、もっと直感的で主観的な評価基準によって、譲受企業候補を見極める必要があります。
譲受企業は、譲渡企業側が他の譲受企業候補ともM&Aに関する話を進めている場合が多いことを忘れてはなりません。譲受企業候補の一つとして、譲渡企業側が自分を選んでくれることを当然だとは思わず、トップ面談において謙虚に譲渡企業の経営者と交渉に臨む必要があります。
結局のところ、M&Aにおいてトップ面談で最も重要なことは、相手企業との信頼関係の構築にあります。信頼関係の構築のためには、必ずしも買収金額(譲渡金額)だけが重要なわけではありません。むしろ、トップ面談においては、本当に相手企業が信頼できるかどうかを基本としながら、相手を見極めることが大切です。トップ面談では、お互いの経営者の人間性、経営理念、事業内容への理解を深め、信頼関係を構築することを重視すべきです。そのような場で、買収金額などの具体的な交渉を行おうとすると、一気に場が冷めてしまい、相手先からの不信感を招く可能性が高くなります。繰り返し説明しているように、トップ会談は、双方の企業のビジョンや運営方針、経営方針などを共有し、お互いの理解を深めるようにしましょう。
M&Aにおいてトップ面談は、M&A成功を左右するほど重要です。トップ面談は、企業同士のお見合いであり、お互いの理解を深めることで、その後のM&Aの具体的な交渉をスムーズに進めるために行われます。具体的なM&Aの交渉はトップ面談後に行われるのが普通です。トップ面談で具体的な条件などを交渉してしまうと、その後のプロセスにいつまでもたどり着けなくなってしまうので注意が必要です。M&Aにおけるトップ面談の位置づけを正しく理解し、なぜトップ面談を行うのか、その理由をきちんと把握しておくことによって、M&Aをお互いの企業とって意義深いものにしていきましょう。
M&A取引のプロセスのなかでも、交渉からクロージングまでのプロセスを指す「エグゼキュージョン」は、買収対象となる企業の価値を確定するための重要なプロセスです。この記事では、M&Aにおけるエグゼキュージョンがどのような意味を持っているのか、解説していきます。
エグゼキュージョン(execution)とは、M&Aのプロセスのなかでも、買い手側が計画を実行するプロセスを指す言葉です。もともと、英語のexecutionという言葉は「(計画を)実行する」という意味を持っています。買い手側がM&Aに関して事前に決定した事項について、実行していくプロセス全体をエグゼキュージョンプロセスと言い、、買い手側が買収候補となる企業を決定した後に行われる交渉・デューデリジェンス・売買契約・買収のための資金調達戦略・買収の完了と統合の計画実行を指すケースが多いです。
なお、エグゼキュージョンという用語をよく利用するのは、M&A取引の成立をサポートするアドバイザーです。アドバイザーは、買い手の買収計画が上手くいくようにサポートを行います。
M&Aは、主に以下の10個のプロセスによって成り立っています。
(1)買収戦略の策定
優れた買収戦略の策定は、買収者が買収によって何を得ることを期待しているのか、つまり対象企業を買収する事業目的は何か(製品ラインの拡大や新規市場への参入など)を明確に把握することを中心に行われます。
(2)M&Aの検索基準の設定
潜在的なターゲット企業を特定するための重要な基準を決定します(例:利益率、地理的位置、または顧客基盤など)。
(3)買収候補企業の検索
買収者は、特定した検索基準を使用して、買収候補企業を検索し、評価します。
(4)買収計画の開始
買収者は、検索基準を満たし、良い価値を提供すると思われる1社以上の企業と接触します。最初の会話の目的は、より多くの情報を入手し、ターゲット企業が合併または買収に対してどれくらい積極的であるかを確認することにあります。
(5)評価分析の実施
最初の接触と会話がうまくいったと仮定して、買収者はターゲット企業に、買収者がターゲットをさらに評価できるような実質的な情報(現在の財務状況など)を提供するよう求め、ビジネス単体として、また適切な買収ターゲットとして、評価します。
(6)交渉
買収者は、ターゲット企業の評価モデルをいくつか作成した後、合理的なオファーを構築するのに十分な情報を得る必要があります。
(7)M&Aデューデリジェンス
デューデリジェンスは、オファーが受諾された時点から開始される包括的なプロセスです。デューデリジェンスの目的は、対象会社の財務指標、資産・負債、顧客、人材などのあらゆる側面について詳細な調査と分析を行い、買収者の対象会社の価値評価を確認または修正することにあります。
(8)売買契約
デューデリジェンスが完了し、大きな問題や懸念がなければ、次のステップとして売買契約を締結し、資産購入か株式購入か、売買契約の種類を最終的に決定します。
(9)買収のための資金調達戦略
買収者は、もちろん、買収のための資金調達オプションを早期に検討しますが、資金調達の詳細は、通常、売買契約が締結された後にまとまっていきます。
(10)買収の完了と統合
買収案件が完了し、買収先と買収企業の経営陣が協力して両社の統合プロセスに取り組みます。
このプロセスのうち、エグゼキュージョンプロセスは、(6)〜(10)を指します。
M&Aにおいて、エグゼキュージョンは、要するに、買収対象となる企業の価値を決定するプロセスにほかなりません。買収対象となる企業の価値を決定するにあたっては、以下の2点が重要となります。それぞれについて説明していきましょう。
(1)価値の最適化
デューデリジェンス調査が完了し、その結果について評価を行った後、取引の成功に向けて最もエキサイティングなステップであるバインディング・オファー(売買契約)、そして取引の実行に移っていきます。
M&A取引プロセスにおいて、株式売買契約書(SPA)の作成、規制当局への取引に関する届出の提出、取引財務の作成、初日の準備など、多くの重要なステップが含まれています。取引の終了まであと少しと思われるかもしれませんが、実はその前に検討すべきこと、達成すべきことがまだまだたくさんあります。
M&Aの取引をうまく実行したい(エグゼキュート)したいのであれば、最終的に取引はより多くの価値、たとえば、適正な評価額や所有権を引き継いだ後の状態を、あらかじめしっかりと確定しておくことが大切です。
(2)売買契約書(SPA)
SPAの作成は、しばしば弁護士のための形式的なものとみなされます。SPAのプロセスの多くには、保証、保証、潜在的な紛争の解決などの法的側面が含まれているため、ある程度はその通りです。しかし、SPAには何よりもまず、取引の決済方法を定義する金融条件が含まれ、評価方法についての詳細が記載されます。売買契約書は、買主と売主を法的に拘束するものです。したがって、買収対象となる企業の価値を確定するために、どのような法的拘束力のある事項を実行しなければならないのかを明らかにしておかなければなりません。
エグゼキュージョンは、M&Aプロセスのなかでも企業価値を確定するうえで重要となるプロセスです。エグゼキュージョンプロセスのなかには、専門性が求められる企業価値評価といったプロセスも含まれることから、M&Aのアドバイザリーサービス提供している事業者がエグゼキュージョンプロセスを代理してくれることもあります。エグゼキュージョンは、M&Aを行う目的によってその具体的なプロセスも変化するのが普通です。目的に応じて明確な計画を立案し、しっかりとエグゼキュートするように、M&Aプロセスを進めていくことが大切です。
M&Aは完了までのプロセスで多くの専門的な知識を必要とします。そのため、自社だけでM&Aを完結させることはほぼ不可能であり、一般に、アドバイザリーサービスを提供している事業者と契約を結び、M&Aに関するアドバイスを受けながら進めていくことになります。この記事では、M&Aにおけるアドバイザリー契約の詳細について詳しく解説していきます。
M&Aのプロセスは複雑で専門的であることから、M&Aの成約までのプロセスをサポートしてくれる事業者が多数存在しています。たとえば、米国では、JP Morgan、Goldman Sachs、Morgan Stanley、Credit Suisse、BofA/Merrill Lynch、Citigroupは一般的にM&Aアドバイザリーのリーダーとして認識されており、通常M&A案件数でも上位にランクインしている事業者です。こうした事業者にM&Aのサポートをしてもらう契約がアドバイザリー契約です。
M&Aアドバイザリー会社は、企業の買収、売却、再編を意図する他社に指導を行う会社のことです。個人のファイナンシャルアドバイザーが個人や中小企業に対してガイダンスを提供するように、M&Aアドバイザリー会社は、あらゆる種類の企業取引において企業の舵取りを支援し、多くの場合、デットファイナンスやエクイティファイナンスをサポートしてくれます。M&Aアドバイザリー会社は、具体的には、以下のようなサービスを提供しています。
多くのM&アドバイザリーA会社は、取引成立時に取引金額の一定割合を手数料として徴収しています。この手数料は、実施される取引の種類や取引規模によって異なります。また、一部のファームでは、パーセンテージフィーに加え、一律の手数料を課すケースもあります。
アドバイザリーサービスは様々なサービスがありますが、アドバイザリーサービスを受けられるのは買い手だけではありません。売り手も受けることができます。
売り手(ターゲット)のアドバイザーとしてM&Aファームが関与することをセルサイドという。
逆に、M&Aファームが買手(買収者)のアドバイザーとして活動することをバイサイド業務という。その他、ジョイントベンチャー、敵対的買収、バイアウト、買収防衛策などに関するアドバイスも行うこともあります。
アドバイザリー契約をM&Aファームと締結すれば、以下のようなサービスを受けられます。
M&Aファームが買主(買収者)に買収のアドバイスをする場合、買収企業のリスクとエクスポージャーを最小限に抑えるために、買収対象の真の財務状況に焦点を当てたデューデリジェンスと呼ばれる作業を支援することもあります。
M&Aデューデリジェンスでは、対象企業の財務情報の収集、分析、解釈、過去と未来の業績の分析、潜在的なシナジーの評価、事業評価による機会や懸念事項の特定などが基本的に含まれています。徹底したデューデリジェンスは、リスクベースの調査分析や、買い手が取引を通じてリスクと利益を識別するのに役立つその他のインテリジェンスを提供することにより、成功の確率を高めます。
企業の売却を検討されている場合、あるいは事業領域の拡大のために他の企業を買収する場合、M&A専門のアドバイザリーサービスを利用することで取引結果を改善することが可能です。
M&Aアドバイザリーサービスは、財務状況を確認し、最終合意に向けた様々なステップを支援し、統合後の新会社のパフォーマンスを最適化するための戦略を策定するための重要なプロセスです。
通常、M&Aファームとのアドバイザリー契約は、企業が潜在的なターゲットを特定した後に結ばれ、M&A取引の完了をサポートするためにデューデリジェンスを実施します。しかし、M&Aアドバイザリーチームは、M&Aのライフサイクルを通じたパートナーとして、より多くのことを行うことができます。
M&Aプロセスの流れをよく理解しているM&Aアドバイザリー会社は、M&A取引で起こりがちなことについて事前にアドバイスを与えてくれます。経験豊富な企業幹部でさえ、M&Aプロセスの複雑さに驚かれることがよくありますが、信頼できるアドバイザーとして、対象企業をより深く理解し、デューデリジェンスのプロセス全体を管理し、適切な質問をし、データを正しく取得することを支援してくれます。M&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を締結すれば、デューデリジェンスや、法律事務所や専門家によるデューデリジェンスなど、取引のあらゆる側面の管理を支援してくれます。これにより、ビジネスの継続に集中し、将来に向けて戦略的に注力することができます。
M&Aアドバイザリー会社は、通常、M&Aに関する契約書(LOI)が締結された後に参入します。しかし、アドバイザーは、LOIが締結される前から積極的な役割を果たすことも可能です。多数の現地訪問、マネジメントインタビュー、デリジェンス分析を通じて、ターゲットビジネスの運営方法、そのキーパーソンは誰か、その企業があなたのビジネスにどのように統合されるかを理解し、合意に至る手助けをすることができるのです。
M&Aによって統合される会社はどのような姿になるのでしょうか。クロージング後の統合とシナジー効果を中断することなく、可能な限りシームレスに展開し、統合後の企業価値を最大化することを誰もが希望するものです。どのようなタイミングで統合しようとしても、本来やるべき事業を継続するために、事業の安定化に注力することが重要です。さらに、人材と文化に戦略的な注意を払い、人材の確保を図る必要があります。最初の100日間と安定化のための努力は取引の意図した価値を完全に実現するための基盤を作るものです。
統合計画の取り組みは、慎重に計画し、タイミングを計らなければなりません。契約締結とクロージングが同日に行われることもありますが、その場合は統合計画をその日に先駆けて完了させなければなりません。契約締結からクロージングまでに時間がかかる場合は、その間に計画を完成させることができます。プレ・プランニングは30~60日程度で完了するのが一般的ですが、大企業の統合にはもっと長い時間がかかる場合もあります。
準備にかかる時間はストレスになりますが、まず必要なことを戦略的に処理し、そこから二次的な計画を進めていけば、ストレスは少なくなります。こうした統合計画をサポートしてくれるのも、M&Aアドバイザリー会社の重要な役割の一つです。
M&Aにおける統合プロセスの分析とパフォーマンスの最適化は、どちらもM&Aアドバイザーが支援できるサービスです。統合の際には、プロセス分析が計画の重要な構成要素となります。プロセスの分析では、ギャップや欠陥を明らかにし、特に技術や人材などの重要な検討事項について、将来の改善(シナジー)のためのロードマップを作成します。プロセス分析/改善とパフォーマンスの最適化は、統合された企業の新しいプロセスでより高い効率を推進するために、時間が経ってから統合後にも活用することができます。これは、人員の変更を最小限に抑えるために行われるため、M&Aによる統合後のパフォーマンスを最適化することができます。
M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識を求められるものです。また、手間がかかるプロセスも多いことから、通常、会社内のリソースだけを活用してM&Aのプロセスを完結させることは不可能です。そこで、M&Aに関するアドバイザリーサービスを提供しているM&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を結ぶことで、状況に応じて様々なサービスの提供を受けることができるようになります。M&Aにおいてどのようなサービスが必要であるかは、どのようなM&Aを行うか次第なので、M&Aの目的を明確にしたうえで、M&Aアドバイザリー会社に相談してみましょう。