M&Aの基礎知識 2022/08/06

【M&A成約事例】根本製作所様×キヨシゲ様インタビュー

【M&A成約事例】根本製作所様×キヨシゲ様インタビュー
                    

Profile

譲渡企業:株式会社 根本製作所
代表取締役 根本豊太郎 様

群馬県太田市にて建設機械、産業機械、原動機、重工・重電等の部品製造を行う。(溶接加工、機械加工、ショットブラスト、塗装他)

譲受企業:株式会社キヨシゲ
代表取締役社長 小林光徳 様

鋼板・鋼材流通に関する豊富な経験・ノウハウと最新情報に高度の加工技術をミックスさせ、 お客様のニーズに対して鐵の「販売」から「加工」「スクラップ回収」までの理想的なワンストップ・ソリューションを実現。鐵にはめっぽう強い会社。


長年、同地域への進出を目指していた株式会社キヨシゲの小林社長と、過去のM&A提案は断っていた根本製作所の根本社長。今回のお話は、二人の経営者同士が直接出会うことにより、歯車が噛み合い動きはじめました。

譲り受けた株式会社キヨシゲ、譲り渡しをされた株式会社根本製作所の両社の社長にお話を伺いました。


今回のM&Aご成約までの流れについて教えてください。

小林:根本社長と初めてお会いしたのが2021年9月半ば、12月28日に登記を済ませクロージングしました。

2022年1月から正式に根本製作所がキヨシゲグループに参画いただき新体制がスタートしました。 通常のM&Aの流れは、秘密保持契約から始まり、譲渡契約書締結、それに基づいて登記、と進んでいくじゃないですか。

ところが、今回9月よりお話が始まってからすぐの段階で、「ぜひ、一緒にやりたい」とお互いの気持ちが確認できていたので、年内中に全部手続きをしてしまおうと思い、M&A実行を前提に早い段階で、譲渡契約まで一気に結びました。ただ、念のために、進行する上で見直しの選択肢を残すために、譲渡契約書には解除条件を盛り込んだ上で結びました。お互いに難しいところが出てきたら、都度見直しやペンディングをしましょう、と。

買い手様(キヨシゲ)の事業内容を簡単に教えていただけますでしょうか。

小林:私たちは、鉄板を主体にした鋼材販売・加工、そして、加工する中で出てくるスクラップの売買や産廃物の収集運搬という、大きく分けると3分野で事業展開しています。鋼材、鋼板にはさまざま種類がありますが、弊社では種類豊富に幅広い商材を取り扱っています。特に、中板・薄板といわれる鉄板が多いことが特徴のひとつです。

加工については、一般的にプレス屋さん・板金屋さんというような言われ方もしますが、弊社はその両方の機能を有して、顧客の幅広い要望に応えています。具体的には、鉄板を切る・穴を開ける・曲げる・溶接するなどを行います。アングル、チャンネルと呼ばれる構造用材なども加工します。

また、「鉄」は99%以上リサイクルされる資源ですので、リサイクル循環としてのスクラップ売買も行っています。私たちがスクラップの発生する企業から仕入れて、電炉メーカー・高炉メーカーに販売し、メーカー側で鉄を再生して再び世に送り出してもらうという循環です。そしてこの営みの中では、リサイクルができない産業廃棄物も出てきます。私たちは許認可を受け、これら産業廃棄物の収集運搬業も行っています。

何かものづくりをするときには必ず、素材の仕入れという川上から、処理という川下まで一連のフローがあり、そのフェーズごとに専業的に事業を行う企業が多いですが、弊社の場合はこれをワンストップで行っています。ワンストップで行うからこそ、前工程・後工程を俯瞰してどうしたら品質や効率があがるかなど、フェーズごとに事業を行っている中では見えづらい総合的なノウハウが蓄積されます。総合的にさまざまな提案ができるので、お客様には便利に使ってもらいたいと思っています。絶えず弊社がサポートに入ってお手伝いしていくっていうのが、ひとつのコンセプトですね。

手前味噌にはなりますが、他社でなかなかこういったモデルで事業展開しているところはなく、弊社のオリジナリティーとして評価をいただいております。

川上から川下まで全部やってくれるから便利だよね、というのは「言うは易し、行うは難し」ではないかと思いますが、事業を行う難しさはどのような点が挙げられますか。

小林:私たちはお客様の要望に応じて、自分たちのできるサービス領域を増やしていくスタイルなので、絶えずお客様に耳を傾け、いただく要望をどうやって実現していくのかというところに難しさとやりがいを感じています。

もともと弊社は、現会長が個人で創業し、最初はスクラップの回収業から始めました。 スクラップをお客様のところに買いに行くと、「スクラップは出すけど、実は材料が足りないから、安い材料があればもってきて欲しい」という新たな要望をいただく。そのニーズに応えるために、私たちは、スクラップを売ってもらうために材料を一生懸命探して、買って持っていきます。こうして、材料屋の仕事にも領域を拡大していきました。

そして、材料屋をやっていると、今度は「材料そのままではなく、使いやすいように切ってもってきてほしい」とご要望をいただく。そして機械をもち、加工業も始める、と。そうすると「プレスの仕事を手伝ってくれないか」という話がでてくる。

また、大量生産時代から少量多品種時代へと移行してきたときには、板金の仕事も舞い込んできました。その中で、例えば、「切るだけじゃなくて溶接もやってほしい」「鉄板だけじゃなくて形鋼もやってほしい」という声もでてきたため、設備投資して、どんどん業務領域を増やしてきました。

私たちがこうしたい、というよりは、お客様のお考えやご要望ありきで自分たちを変化させています。変化に対応していくうえで、機械や人への投資をどう回収するかなど、常に考え頭を悩ましますが、そこに難しさとやりがいを感じますね。

キヨシゲ小林さん

これまでにもM&Aのご経験があると伺いましたが、どんな経緯だったのでしょうか。

小林:当初、形鋼加工については、自前で賄うのではなく、他社にお願いして買っていました。ただ、その形鋼加工会社の東鋼商事株式会社が後継者不在で「社員や設備を引き継いでくれないか」という話をいただいて、私たちが引き継ぐことになりました。たまたま、私たちの隣の会社だったのですよ。

これが実は、弊社初のM&Aになります。引き継いだときはM&Aをしている意識はなかったですが、後から振り返れば、「え?これがM&Aなの?」という話になって(笑)約20年前になりますが、最初のM&Aは形鋼加工の会社を引き継ぐ、という形で行いました。

なるほど。御社初のM&Aは能動的に仕掛けてM&Aをするというよりは、仕事を引き受けていく中でつながった取引先との事業承継だったのですね。

小林:はい、最初は全く意識していませんでした。「M&A」っていうのは何千億円単位で、世界的大会社が行うイメージしかなかったので。

2回目のM&Aは、プレス事業を行う会社でした。もう4、50年くらいお付き合いをしている取引先の株式会社田中鉄工所でした。本件も後継者不在ということで、引継ぎのお話をいただきました。弊社が行っているプレスは板厚が薄いものでしたが、田中鉄工所では厚いものを取り扱っていました。また、プレス後の「削る」、「溶接する」の工程を行える設備とノウハウを有している会社でもありました。私たちは、当時プレス後の工程を社内で行っていなかったのですが、田中鉄工所のグループインによって新たに請け負えるようになります。板厚の薄いものから厚いものまで取り扱えるようになり、加工の後工程も一貫して行うことができる体制が整い受注の間口も広がるだろうと。

田中鉄工所としても、プレスの設備やノウハウなどの消滅を防げ、従業員雇用や取引先との関係が継続できるという資産が守られ安心できる。ということで、お互いにメリットのあるいいお話だなと思い、引継ぎを決断しました。

キヨシゲ様としては顧客ニーズへ幅広く応えるために事業領域を拡大されてきたということですが、今回のM&Aに至った背景や、課題感などを教えていただけますか?

小林:大きく3つあります。
ひとつめは、取引先が北関東地域に増えてきたことです。

ここ10年ほどで、群馬県・栃木県などの北関東のお客様が増えてきたため、まずは、営業機能のみを持つ北関東営業所を作りました。しかし、お客様と安定した関係構築をして、本質的に喜んでもらえるような状況には一歩及びませんでした。それで、私たちがこの地域に根を張って仕事をしていくという姿勢をより積極的に示さねばならないと感じ、北関東にしっかりした拠点が欲しいと考えるようになりました。

そこで、工場を探し始めました。ただし、工場という設備だけがあっても、すぐに営業ができるわけではなく、働いてくれる従業員がいないと運営もままなりません。北関東の地域でその両者どちらも満たす会社があるのなら、M&Aという形で一緒に事業を行うという判断もあり得る選択肢だと思いました。

そして、2つめは自然災害などで起こりうるリスクの分散です。BCP(事業継続計画)という観点ですね。もともと、弊社は本社のある千葉県浦安市で事業展開し、近隣から領域を増やしてきました。拠点は浦安に4か所ありますが、近年は浦安でも自然災害が目立ってきています。2019年に浦安に大きな台風がきて、弊社設備も被災してしまいました。設備の屋根に穴が開いて、約600トンの鋼材がびしょ濡れで錆びてしまい、品質ダウンとなってしまいました。このような災害で、もし、設備機械が壊れてしまいでもしたら、それこそお客様に大きな迷惑がかかってしまう。

だから、(千葉と)同時に同じ自然災害が起きない場所へ機能を分散する必要があります。リスク分散できるもうひとつの拠点をもつことは、取引先のお客様に安心してもらえるひとつの方法じゃないかと考えました。このような背景で、北関東という場所を検討していました。

最後に3つめは、自分たちの仕事の領域を広げていけるようなノウハウをもつ会社が望ましいと考えていました。1社目のM&Aの際、新たに形鋼のノウハウが弊社に入ってきたときに、既存事業と相乗効果を発揮して効率化が図れました。例えば、溶接加工の効率化と、その前のブランク加工の仕方は密接に関係しており、双方の機能を有することで見えてくる業務効率化のノウハウがあります。それは、「溶接」という過程を自分たちでやらなければ見えてこないことでした。カバーできる業務が増えるにつれて、新しい視座が増え、そこから発想の転換が生まれます。

すると、ますます改善活動がはかどるので、お客様にその分有意義な提案ができ、よりお客様と同じ方向を向いて事業を行えるのです。非常に良い形でM&Aの効果を出していくことができた過去の経験も踏まえて、今回のM&Aの検討では、「相乗効果を生むノウハウ」と「ある程度広い工場」という観点から、どこかにいい出会いがないかなと「北関東地域」を見ていました。

―― 何年くらい探されていたのですか?

小林:3、4年くらいですかね。もっと、かもしれないです。コロナ禍では、時間がぱっと過ぎてしまった感覚なのでうろ覚えですが…。コロナ前の段階から、この地域の事業者さんを羨ましいなと思って見ていました。とはいえ、なかなかどうしていいかわからない状態ではありました。

そのような課題から、弊社のソーシング(お相手様探し)の支援サービス「アクティブオリジネーション」をご利用いただいたということですね。他社のM&A支援会社からもお声がかかっていたと伺いましたが、弊社のサービスを選んでいただいた理由は何でしょうか。

小林:今まで、2社M&Aをしたというお話しをしましたが、1社はお隣だし、もう1社も先代(現会長)が、駆け出しの頃から通ってお取引をしていただいていて、私も大学生の頃にアルバイトで毎日のように伺っていた4、50年のお取引のある会社と、どちらも親戚のような会社でした。

こういうご縁があったからこそ、丁寧な事業の引継ぎが成立したと考えています。

ところが、外からくるM&A支援会社の営業は、自分の会社に対し愛情を注いで育てている経営者に対して、少し乱暴じゃないかと思うコミュニケーションが散見されることもあり、正直あまり良いイメージがありませんでした。会社を商品のように扱うといいますか…。これは、頼めないなと。

だから、現在取引している銀行からM&Aや事業承継の案件紹介の話があれば話を聞こうという、受け身の体制だったのですよね。しかしながら、受け身でいてもいいお話はなかなかない。そんな中、ティールバンクの桃井さんとお会いしてお話を聞いたら、このような悩みを丁寧にサポートしてくれそうな気がして、まずは相談させてもらいました。

ティールバンクの「アクティブオリジネーション」というサービスを伺う中で、「攻めのM&A」という言葉がありました。私自身がそれまで受け身でいたからこそ、この言葉を重く受け止めましたが、確かに、待っているだけで、希望するような良い出会いはないですよね。手を広げているだけで、自分の希望するものが落ちてくるなんてことはないだろうな、と。こちらからアクションを起こして一生懸命、誰かいないかなと探しに行かなきゃいけないな、と気持ちを「攻め」に切り替えました。

ただ、だからといって自分たちでM&Aの専任社員を採用して、従事してもらうのは、パワーがかかるので非常に大変です。それであれば、すでにノウハウを有しているティールバンクさんにお願いしようと思いました。アクティブオリジネーションのように、成功報酬ではなく着手金がかかったとしても、社員採用するコストと比較すれば、リーズナブルだと判断しました。

―通常M&A仲介会社だと、相手探しと呼ばれるソーシングの部分と、マッチング、その後の交渉や手続きを行うエグゼキューションというプロセスまで、ひとくくりのサービスが多いですが、私たちはソーシング特化型のサービスをご案内させていただきました。クロージングのサポートがない不安はなかったでしょうか。

小林:不安はなかったですね。過去2回M&Aを行った際には、取引銀行に全部サポートしてもらっていたし、弊社監査役の公認会計士もM&Aには慣れていて、ノウハウがあったので、全く不安はありませんでした。むしろ、「本当にいい出会い」に特化してプロデュースしてもらえるというのはありがたく、魅力を感じました。

― ありがとうございます。アプローチを届けることに価値を置くサービスを利用して良かった点を教えていただけますでしょうか。

小林:私やうちの社員が、直接会社に出向いて、いきなり「会社を売ってくれませんか?」なんてことは言いずらいし、相手からしても当然驚くと思うのですよ(笑)

そういった意味では、ティールバンクの桃井さんみたいな誠実な方が、相手の失礼にならないように、傷つけないように、私たちに代わって意向を伝えてもらったということには大変感謝しています。

また、桃井さんにはエリア・業種などをキーワード的にお伝えして、企業の候補を出してもらったのですが、これもやはり我々が自分たちで調べたところで、調べきれないと思います。私たちの希望に沿いマッチングするよう、調査いただけたというのは、プロにお願いして良かった点です。

今回、短期間での成約でしたが、桃井さんにオープンネームの方が良いというアドバイスをいただいたことがとてもよかったと思います。
どこの誰なのかを隠して、覆面(ノンネーム)で話を進めていくのではなく、ある程度早い段階で「キヨシゲ」という名前を出して、具体的に素性をはっきりさせてお話をした方がいいと。こういうお作法みたいなものは僕らも分からない部分ですから、どうしたらいいかわからずビクビクしていました。そこをきめ細やかにサポートをしてくださり、背中を押してくれたことは非常に感謝しています。

そして何より、根本社長がお考えになっていることをストレートに話をしてくれたため、すごく打ち合わせしやすかったです。

今回M&Aについて全体的なご感想をお聞かせいただけますか。

小林:はい、やはりM&Aというものは打算的に取り組んでも、なかなかうまくいかないと思うのですよ。本当に何て言うのかな…運命的な出会いのようなものだと思っています。リストアップされた1社1社ホームページを見ていたら、根本製作所さんは立地も素晴らしく敷地も広くて、事業内容も私たちの事業の延長線上でした。まさに、商品に仕上げていくためのフローでいうと、私たちの次のプロセスの仕事をしていらっしゃる。

今まで私たちがお客様の要望に応えられなかったことを、根本製作所さんと一緒にやればきっと実現できると思いました。前工程である私たちのパーツを安価に根本製作所さんに提供することで、根本製作所さんの収益にも貢献できる。これはすごい、と思いました。

ということで、ティールバンクさんから根本社長にラブコールをちゃんと届けていただいて。
こうして一緒に事業展開することが決まり嬉しく思っています。運命的だったと思っています。

直接やりとりをし、早い段階で相互理解ができたということが、ポイントだったのですね。

小林:はい、そうですね。本当に早い段階から自社の考えることをすり合わせることができたため、短期間ながらも有意義な時間の使い方で早期成約につながったと思います。 また、やはりどんな業種で、どんな事業をやっているかなど、会社の表面的な情報というのはもちろんありますが、最終的には「人」だと思います。

例えば、M&Aの話がまとまったとしても、従業員が退職したり、非協力的であれば事業を進めていけません。根本社長とお話しする中で、私たちのグループの一員となったあとでも、積極的な協力体制・信頼関係が構築できると感じましたし、最後の決め手は「人」ですね。

根本社長が「資本がキヨシゲになったとしても引き続き頑張る」といってくださったことと、根本製作所さんの従業員の方がたにも、本件についての丁寧な説明をしていただいたことが一番ありがたかったですね。

大筋の方向性の合意ができている中で、月日が過ぎ、3月となってしまったら決算もありますし、後手に回るよりは、1日でも早いほうがいいですね!と、お話しを進めていきました。 根本社長には、引き継ぎに必要な手続きを急ぎで行っていただいたので、株式の譲渡手続きなどの事務周りでご迷惑おかけした部分もありますが…。おかげで、お客様に対してグループインや、グループでの新しい取り組みを遅滞なくご案内することができました。

その結果、もうすでに両社で協調しながら製作・出荷を済ませている商品などもでてきています。(2022年1月末日現在)

M&Aの実行直後にすでに現場レベルでの成果がでているのは、素晴らしいですね。

小林:
はい、本当に社員のみなさんに積極的にやっていただいたからだと思っています。一緒にやったら効果があがるだろうと当初から思ってはいましたが、本当に期待していた以上ですね。

―では、ここから売り手様、根本社長にお伺いします。まず、会社の事業内容を教えていただけますでしょうか。

根本:主に、厚板の溶接及び機械加工を行っています。業界でいうと、6ミリから上になると厚板というのですが、うちの場合ですと12・16・19ミリというような板厚がメインで、もっと厚いと90ミリとか100ミリもあります。建設機械メーカーさんの部品が取り扱いの比率としては大きいです。

キヨシゲさんとの関わりの点でいうと、キヨシゲさんが切ったり、曲げたりして作った小さなパーツを、私たちが大きな厚い板にアセンブリー(組み立て)し、溶接して作り込んでいく作業をしています。祖父が創業し、父からバトンを受け引き継いで事業運営してきました。

譲渡を考えられたきっかけは何でしょうか。

根本:はい、正直に言ってしまえば、私個人の力だけで、この事業を継続するのは厳しいのではないかと思っていたためです。

譲渡をご検討しはじめたのはいつごろだったのでしょうか。また、検討の中で他のM&A支援事業者からのお話も伺っていたとのことでしたが、お相手探しや引き継ぎへの取り組みをどのように進められようとしていらっしゃったのでしょうか。

根本:検討をし始めたのは、実はお声がけいただいた頃の9月です。だから、本当に運命的なのですよ。

まさに小林社長がおっしゃったように、弊社にもM&A支援事業者から営業はきましたが、やっぱり少し乱暴に感じるのですよね。モノの売買のような…。もちろん大きい会社の戦略的な売買の中で、企業をモノとして見るのはある意味正しいのかもしれないですけれども、私たちのような創業一族がやっている会社は、そんな風に見られるとやっぱり違和感があるのです。

そして、引継ぎの取り組みに関してですが、私がM&Aでお願いしたい希望としては、たった2つだけでした。とにかく、大事なのは「従業員の雇用を維持する」こと。そして、「私たちの設備を有効活用してほしい」ということです。

ところが、私が聞いたM&A事業者さんは「企業価値をいかに高くアピールして、経営者さんにどれだけのお金を渡せるか」ということを、メインに紹介するのがほとんどでした。この設備を活用して、従業員を生き生きとさせてくれるための提案をしてくれるところはなかったのです。

失礼ながらティールバンクさんが、文字通り従業員と設備をフル活用させますよと言ってくれたわけではないのだけれども、早いうちに企業名を教えてくれた上でお話をしてくれて、私なりにキヨシゲさんを調べたら、その2つの希望が十分満たせるだろうと思ったので、お話を前に進めようと思いました。

― はじめに、買い手の小林社長には、ぜひオープンネームで進めたほうが良いとお話しさせていただきました。弊社としても、覆面でお声がけすると業界や地域など一定のセグメント情報でしかお声がけができず、会社が持つ独自の魅力が伝わらないことが多分にあり、共に具体的な未来を描こうにも描けない、というようなもどかしさがありました。お互いより近い距離で温度感が伝わるように話していただければ、きっとうまくいくと思っていたので、まさにオープンネームを評価して頂けて嬉しく思います。

根本:本当にそれが、今回役に立ちました。

キヨシゲさんに決められたポイントは、どのようなところだったのでしょう。

根本:小林社長とお話しをさせていただいて、小林社長が持たれている会社のビジョンを聞いて、そのビジョンの中に入れば、根本製作所は息を吹き返すのかな、と思いました。息を吹き返すだけでなくて、キヨシゲさんとしても成長する過程で、弊社従業員の技術や設備がフルに活用されるのだろうと強く感じられました。

どうしても仲介の方が挟まると、直接話をせず、仲介業者を介してのお話になることが多いと思いますが、早めに小林社長とのご面談をセッティングいしてただいて“直接”ビジョンや思いを聞けたというのは、本当に良かったと思っています。

早めに相手の顔が見えて実際にお話ができるという安心感があったということですね。

根本:はい、結局会って直接話をしてみないとわからないですよね。話をして、考えが違うのであれば止めればいいですし、ベクトルが同じだと思ったら、迷うことなく進めばいいと思いますし。

仲介のスタイルですと、買い手様・売り手様双方から手数料をいただくことが一般的ですが、「アクティブオリジネーション」の特徴として、売り手様からは一切手数料はいただいておりません。費用面に関してはいかがでしたでしょうか。

根本:費用を払う・払わないとか、安い・高いはもちろんあるのですけれども…。

結局、M&A支援事業者が成功報酬型で、成約金額に連動する形でM&A支援事業者の手数料が決まるという考え方だと、「なるべく高く売る」とか「なるべく安くして買ってもらう」ということに執着してしまうものだと思います。売り手と買い手の双方に、M&A支援事業者の取り分が増えるという思惑が透けて見えてしまうやり方は、売り手や買い手が望んでいるのと違う方向に行く可能性が高いと思っています。こういうことはよく男女関係に例えると思いますが、例えば仲人さんが、「あそこの御両家のお嬢さんなんとか縁談取り付けましたので、心付けよろしく」とか「ちょっと町娘だからしょうがない…」なんてことは、ちょっと失礼な話ですよね。そんな雰囲気を感じてしまっていたのですよ。

小林:そうですね。毎度それは感じますよね。

根本:そういう意味だと、ティールバンクさんは弊社からは料金をいただかないと言っていただきましたが、私としてはそれよりも、高く売ろう、安く買おうという匂いが全然しなかったので、警戒心が湧かなかったというのはありますね。

小林:やっぱりそうですね。今のお話の通りだと思う。(成功報酬型だと)本当にこのマッチングがいいことだと思って、進めてくれているのかなと疑ってみてしまうことはありますよね。

 

今回のご譲渡でご親族や・従業員など周囲の方のご反応はいかがでしたでしょうか。

根本:小林社長とお話をして、急な環境変化は精神的にも物理的にも大変なので、事業の融合には時間をかけてアレルギーがでないように進めましょう、としました。

最初、私の方から会社全体に発表してから、個別に詳細説明をするような形で進めました。従業員の反発はなかったですね。「どんな風に変わるのですか」という質問を受けたくらいです。今のやり方を続けていても、会社の急速な成長は見込みづらいから、前向きに変化を捉えよう、というような趣旨の話はしました。それに対しては、従業員には納得してもらえたと思います。退職者はひとりもいないですよ。

親族にも特に反対されることはありませんでした。「もう譲ったのだから好きなようにやればいいんじゃない?」という反応でした。

根本社長にとって人生で初めてのことかと思いますが、今回の事業譲渡については振り返ってみていかがでしょうか。

根本:私としては、業界の動向等も鑑みると、独立独歩での事業の継続には不安を感じていて、どこかのタイミングで、誰かに力を借りる必要があると考えていました。もともと、いわゆる高く売ろうとか、ビジネスとしての売買みたいな駆け引きをするつもりは全くなかったです。小林社長と何度かお話しをする中で、私としてはマイナスと感じることがなく、これはプラスしかないと思いました。

敢えていえば、祖父から続く事業を譲渡することに対しては、個人的には若干罪悪感はありましたけど、従業員や設備、事業運営などいろいろなことを、すこし俯瞰して見れば、譲渡のメリットが非常に大きく、話を進める上で何ら障害はなかったです。

振り返れば、金銭的な何かを揉めることもなく、未来のビジョンに違いを感じることもなく。今回の4カ月弱という期間がスピード成約だと言われれば、そうなのかもしれませんけども、お互い合意して進んでいることなので、当事者の感覚としては事務的にいつ終わるかだけでした。違和感やなにか揉めた覚えは私にはないですが…小林社長はいかがでしょう。

小林:まったくその通りですね。根本社長もそこまでおっしゃっていただいているの?と驚くほど受け入れていただいて。

私たちは厚板という大きな物の溶接、機械加工のノウハウはありません。このM&A後も変わらず、根本社長には音頭とっていただかないと成功しないわけです。その部分で、まず信頼関係ができるかが私にとっては一番重要でした。根本社長は、信頼できる人だなと思って。そのまま残っていただく前提で進めていましたし、不安は感じなかったですよ。

私が根本製作所の工場のみなさんと会って語りかけたのは新年が明けた仕事始めの日でした。そこで混乱なく移行できたのは、根本社長が丁寧に社員さんの立場で説明してくださったおかげです。大変感謝をしています。

M&A後の根本製作所の経営体制について教えてください。

小林:私が社長で、キヨシゲの会長と専務も取締役で登記されています。根本社長には常務執行役員として実質の根本製作所のトップとして、今までと変わらず仕事をしていただいています。いろんな重要な経営判断がある場合には、私が決裁を行い責任を負う体制となっています。

今回は一般的な全部のプロセスを同じ会社が担当せずに、弊社は初回面談まで、その後、銀行さんにサポートいただいたと思いますが、なにかやりにくさなどはありませんでしたか。

小林:困難はなかったです。今回は弊社の取引銀行で議論を進めることにしましたが、もしこの進め方に対して根本社長が不安を感じるのであれば、根本社長の方でもFAなどの支援業者を依頼されることは全く問題ありませんでした。一方の立場に寄って、都合のいいようにすすめてしまうこともありますからね。でも、結果的には我々を信頼していただいて、弊社取引銀行で進めることにしました。

もちろん銀行へは、キヨシゲ側に立って動くということはしないで、双方の間に立って一番いい方法を考えコンサルティングして欲しいと伝えました。実際にそのように動いてくれたので、よかったと思っています。

 

― 引継ぎを終えられて、今後キヨシゲグループとしての展望について改めて教えていただけますでしょうか。

小林:現状は根本製作所さんの中で設備やノウハウ、素晴らしい職人さんたちの技術が埋もれてしまっているので、フル活用できる状態をまずは目指したいと思います。

今申し上げているのは5Sを徹底することや、敷地の有効利用に向けて、利用方法の再検討にも着手しています。私からも積極的に意見を出させてもらっているのですが、本当に従業員の方々はみんなとても協力的ですよ。訪問するたびに敷地内がどんどんきれいになっていきます。

また、これからは現状受注している建機の仕事で終わらずに、建築や土木の領域までも広げていきたいです。いまはうまくアクセスできてないだけで、まだまだ、世の中のお客様が求めるものに対して、私たちが提供できることがたくさんあると思っています。今まで以上に、キヨシゲと根本製作所のお客様とも結び付きを強くしていきたいと思います。

今、根本製作所というブランドを残して子会社にしていますが、対お客様との関係においてこのブランドを残すことが大切だと考えているからです。でも、私の頭の中ではキヨシゲも根本製作所も全部1つのOneキヨシゲです。

そして、これからますます後継者の問題や、様々な理由で残念ながら事業をたたまざるを得ない会社がたくさん出てくるはずです。技術もある、社員もいる、ノウハウもいいものを持っているが、なんらかの原因で閉めざるを得ない…と。私たちは今回3社目のM&Aとなったわけですが、これで打ち止めというわけではなく、出会いがあればどんどんキヨシゲに参画いただいて、同じOneキヨシゲとなって双方に良い相乗効果のある事業展開を図りたいと考えています。日本のモノづくりのノウハウ消失を防ぐ一助になればと考えています。

私たちの業界ですと、鋼材ひとつとっても、薄いものも使うけど厚いものも使うし、様々なパーツを使ってひとつのものを作ります。仕入れもするし、スクラップや産廃物も出る。全体を見ればまだまだ領域は広がります。

― 根本社長はいかがでしょうか。

根本:ちょっと、青臭い言い方になっちゃいますが。小林社長とは、何回か事業ビジョンの話や取引先の増やし方、その規模などのお話をしたとき、私の考えと同じだなと共感する部分がたくさんありました。目指している会社像や事業の将来など、ほぼ、自分が思っていた理想の会社像だったのです。

現状で言うと、ビジョンを実現し続けて、さらに伸ばしているのが小林社長。同じビジョンを夢として語っているのが自分。だから、小林社長と一緒にやれば、「実現だ!」と。キヨシゲグループとなることで、自分も夢の実現ができると思いました。

小林:そう言っていただけると、私も嬉しいですね。

 

― 今後M&Aをご検討されている、経営者様に向けてメッセージをお願します。

小林:あまり偉そうなことは言えませんが、会社というのは、従業員という仲間がいますから、その仲間の雇用が維持できるような方法というものを考えるのは重要なことで、M&Aは有効な手段だと思っています。

会社をたたんでしまうと、結局従業員はみな路頭に迷ってしまいますからね。その意味でも、経営者はM&Aを利用して、次にバトンを託すことを考える必要があります。もちろん、ずっと愛情をもって経営してきた会社を譲渡するという後ろめたさを感じるというのもあると思いますが、きちんと次にバトンを渡すのは、私は経営者として立派な決断と考えています。

根本:そうですね。少し手前味噌になりますが、今回は大成功のM&Aだと思っています。もちろんまだまだここからスタートなので、ちょっと早いですけど。こんないいパターンって、そうそうないような気がしています。ご譲渡を考えている方に、今回の事例をあたかも普通かのように語ってしまうと、譲渡に対する期待値を上げてしまい、話が違うじゃないかと言われてしまうだろうなと(笑)

そのくらい、満足度の高いM&Aだったと感じています。

―今回、お二人ともに大成功だと思われるM&Aとなりましたが、その最大の要因はどういった点でしょうか。

根本:ビジョンが一致したことが大きかったと思います。再び、男女の話になりますが(笑)、知らない人とお見合いで結婚するか、お互いに話をして熱愛のうちに結婚するかの違いに近いかと思います。月並みな説明にはなりますが、私はそう思いましたね。

今後の売却を検討される方に1つお伝えとするとしたら、「会ってお話をしてみた方がいいですよ」ということです。好条件で一緒になるよりも、想いが重なる方と一緒になったほうがいいのではないかとは思います。ただ、好条件を望んでいる方もいらっしゃるとは思いますから、そこはバランスをとっていくことが必要ですね。

小林:また男女の話になりそうですね(笑)

根本:高学歴・高収入に目を向けすぎずに、価値観が同じ人と…ということですね。

小林:変な駆け引きじゃなくて、何をしていきたいのか、それはなぜなのか、ということを膝詰めして話したことが良かったと私も思っています。例えば、譲渡金額のことばかりを争点で話していて、話がまとまったとしても、蓋を開けてみたら異なる事業展開の方向性を考えていたとなったら、新体制でスタートしても「こんなはずじゃなかった…」となってしまいますよね。それは不幸ですからね。本心で話す機会を早い段階でつくることをオススメしますね。


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M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性を解説
M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性を解説

はじめに

M&Aは企業間取引であるため、その成否は経営者同士の面談によって分かれることになります。買い手となる企業と売り手となる企業のトップである経営者同士が面談を行うことによって、お互いに相手企業のことが理解できるようになり、信頼関係を構築したうえで取引に臨めるようになります。この記事では、M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性についてわかりやすく解説していきます。

M&Aにおけるトップ面談の位置づけ

M&Aにおいてトップ面談は重要な意味を持っています。トップ面談は企業経営者による「お見合い」によく例えられます。M&Aは2つ以上の会社が一緒になることを意味しますから、その運営のトップである経営者同士での面談は、結婚(M&A)前のお見合いに例えられることがあります。

トップ面談が行われるタイミングは、譲渡企業の決算書などに基づいて、まず書面で初期検討を行ったのち、譲受候補となっている企業が「前向きに検討を続けたい」と判断したタイミングで実施されるのが普通です。つまり、譲受候補となっている企業側が、まず決算書などから抽象的な情報を読み取り、そこで興味を持った譲受企業(経営者)がお見合いを申し込むわけです。1回目のトップ面談で企業文化や経営理念、事業内容を理解しきれなかった場合には、複数回実施されることも当然あります。まずは候補企業にアプローチした後、経営者同士の考え方を意見交換するトップ面談を複数回実施します。

譲受企業側がM&Aブック(またはオファー)を検討し、意思表示を提出した後、次のステップとして、譲渡企業の主要な経営陣および/または所有者と面談することになります。トップ面談では、財務の最新情報(およびその他の適切な最新情報)を提供し、譲受候補となる企業は譲渡企業と交流することができます。また、トップ面談では、施設の見学が含まれる場合もあります。

ここで、譲渡企業側は、譲受企業側が書面で関心を示すまでは、譲受候補となっている企業との面談に基本的に応じるべきではありません。売却を考えていない譲渡企業が、譲受を考えている企業から直接連絡を受けた場合でも、譲受を考えている企業が関心を示すまでは面談を控えるべきです。

トップ面談が重要な理由

トップ面談では、譲受企業側からは、譲渡企業の経営者に会社や事業への想い、理念などについて聞いても良いでしょう。具体的な財務状況や経営成績を聞くのは、トップ面談のタイミングではありません。お見合いでも、初対面のお見合い相手に「年収はいくらですか?」と聞くのは野暮でしょう。それと同じで、トップ面談では、むしろ、経営に対するビジョンや理念などの確認をする方が大切です。譲渡を希望する理由や、譲渡後の展望、希望について話を聞くのも良いと思います。

一方で、譲渡企業側からは、譲受企業の経営者に理念やビジョン、ミッション、今後の経営計画、事業に対する想いなどについて聞くのが良いでしょう。トップ面談の時には、企業に関する詳細情報をすでに得ていることが多いものの、実際にトップ面談を行うことで決算書の数字や企業情報などだけではわからないことがトップ面談で得られるはずです。

譲渡企業(またはその仲介者)は、譲受企業候補の経営者の様子を観察して、どの譲受企業候補に売却すれば事業の成功を継続できる可能性が高いか、事業を運営するのに適したスキルを持っているか、取引をまとめる能力があるかを見極めようとします。この際の基準は主観的なものであり、ほとんどの場合、高い評価額(買収額)が他のすべての考慮事項に優先する傾向にあるものの、時には、より直感的な「自分(自社)に合わないから他の人にしよう」という理由で取引を断るケースもあります。

ここでも、やはりお見合いと同じで、どんなに年収が高かったり、社会的な地位の高い職業について居たりしても、それだけで結婚を考えることはないのと同様に、もっと直感的で主観的な評価基準によって、譲受企業候補を見極める必要があります。

譲受企業は、譲渡企業側が他の譲受企業候補ともM&Aに関する話を進めている場合が多いことを忘れてはなりません。譲受企業候補の一つとして、譲渡企業側が自分を選んでくれることを当然だとは思わず、トップ面談において謙虚に譲渡企業の経営者と交渉に臨む必要があります。

結局のところ、M&Aにおいてトップ面談で最も重要なことは、相手企業との信頼関係の構築にあります。信頼関係の構築のためには、必ずしも買収金額(譲渡金額)だけが重要なわけではありません。むしろ、トップ面談においては、本当に相手企業が信頼できるかどうかを基本としながら、相手を見極めることが大切です。トップ面談では、お互いの経営者の人間性、経営理念、事業内容への理解を深め、信頼関係を構築することを重視すべきです。そのような場で、買収金額などの具体的な交渉を行おうとすると、一気に場が冷めてしまい、相手先からの不信感を招く可能性が高くなります。繰り返し説明しているように、トップ会談は、双方の企業のビジョンや運営方針、経営方針などを共有し、お互いの理解を深めるようにしましょう。

おわりに

M&Aにおいてトップ面談は、M&A成功を左右するほど重要です。トップ面談は、企業同士のお見合いであり、お互いの理解を深めることで、その後のM&Aの具体的な交渉をスムーズに進めるために行われます。具体的なM&Aの交渉はトップ面談後に行われるのが普通です。トップ面談で具体的な条件などを交渉してしまうと、その後のプロセスにいつまでもたどり着けなくなってしまうので注意が必要です。M&Aにおけるトップ面談の位置づけを正しく理解し、なぜトップ面談を行うのか、その理由をきちんと把握しておくことによって、M&Aをお互いの企業とって意義深いものにしていきましょう。

M&Aの基礎知識
2022/09/26
M&Aにおけるエグゼキュージョンとは何か?重要ポイント
M&Aにおけるエグゼキュージョンとは何か?重要ポイント

M&A取引のプロセスのなかでも、交渉からクロージングまでのプロセスを指す「エグゼキュージョン」は、買収対象となる企業の価値を確定するための重要なプロセスです。この記事では、M&Aにおけるエグゼキュージョンがどのような意味を持っているのか、解説していきます。

エグゼキュージョン

エグゼキュージョン(execution)とは、M&Aのプロセスのなかでも、買い手側が計画を実行するプロセスを指す言葉です。もともと、英語のexecutionという言葉は「(計画を)実行する」という意味を持っています。買い手側がM&Aに関して事前に決定した事項について、実行していくプロセス全体をエグゼキュージョンプロセスと言い、、買い手側が買収候補となる企業を決定した後に行われる交渉・デューデリジェンス・売買契約・買収のための資金調達戦略・買収の完了と統合の計画実行を指すケースが多いです。

なお、エグゼキュージョンという用語をよく利用するのは、M&A取引の成立をサポートするアドバイザーです。アドバイザーは、買い手の買収計画が上手くいくようにサポートを行います。

M&Aにおけるエグゼキュージョンプロセスを具体的に解説

M&Aは、主に以下の10個のプロセスによって成り立っています。

(1)買収戦略の策定

優れた買収戦略の策定は、買収者が買収によって何を得ることを期待しているのか、つまり対象企業を買収する事業目的は何か(製品ラインの拡大や新規市場への参入など)を明確に把握することを中心に行われます。

(2)M&Aの検索基準の設定

潜在的なターゲット企業を特定するための重要な基準を決定します(例:利益率、地理的位置、または顧客基盤など)。

(3)買収候補企業の検索

買収者は、特定した検索基準を使用して、買収候補企業を検索し、評価します。

(4)買収計画の開始

買収者は、検索基準を満たし、良い価値を提供すると思われる1社以上の企業と接触します。最初の会話の目的は、より多くの情報を入手し、ターゲット企業が合併または買収に対してどれくらい積極的であるかを確認することにあります。

(5)評価分析の実施

最初の接触と会話がうまくいったと仮定して、買収者はターゲット企業に、買収者がターゲットをさらに評価できるような実質的な情報(現在の財務状況など)を提供するよう求め、ビジネス単体として、また適切な買収ターゲットとして、評価します。

(6)交渉

買収者は、ターゲット企業の評価モデルをいくつか作成した後、合理的なオファーを構築するのに十分な情報を得る必要があります。

(7)M&Aデューデリジェンス

デューデリジェンスは、オファーが受諾された時点から開始される包括的なプロセスです。デューデリジェンスの目的は、対象会社の財務指標、資産・負債、顧客、人材などのあらゆる側面について詳細な調査と分析を行い、買収者の対象会社の価値評価を確認または修正することにあります。

(8)売買契約

デューデリジェンスが完了し、大きな問題や懸念がなければ、次のステップとして売買契約を締結し、資産購入か株式購入か、売買契約の種類を最終的に決定します。

(9)買収のための資金調達戦略

買収者は、もちろん、買収のための資金調達オプションを早期に検討しますが、資金調達の詳細は、通常、売買契約が締結された後にまとまっていきます。

(10)買収の完了と統合

 買収案件が完了し、買収先と買収企業の経営陣が協力して両社の統合プロセスに取り組みます。

このプロセスのうち、エグゼキュージョンプロセスは、(6)〜(10)を指します。

エグゼキュージョンの重要ポイント

M&Aにおいて、エグゼキュージョンは、要するに、買収対象となる企業の価値を決定するプロセスにほかなりません。買収対象となる企業の価値を決定するにあたっては、以下の2点が重要となります。それぞれについて説明していきましょう。

(1)価値の最適化

デューデリジェンス調査が完了し、その結果について評価を行った後、取引の成功に向けて最もエキサイティングなステップであるバインディング・オファー(売買契約)、そして取引の実行に移っていきます。

M&A取引プロセスにおいて、株式売買契約書(SPA)の作成、規制当局への取引に関する届出の提出、取引財務の作成、初日の準備など、多くの重要なステップが含まれています。取引の終了まであと少しと思われるかもしれませんが、実はその前に検討すべきこと、達成すべきことがまだまだたくさんあります。

M&Aの取引をうまく実行したい(エグゼキュート)したいのであれば、最終的に取引はより多くの価値、たとえば、適正な評価額や所有権を引き継いだ後の状態を、あらかじめしっかりと確定しておくことが大切です。

(2)売買契約書(SPA)

SPAの作成は、しばしば弁護士のための形式的なものとみなされます。SPAのプロセスの多くには、保証、保証、潜在的な紛争の解決などの法的側面が含まれているため、ある程度はその通りです。しかし、SPAには何よりもまず、取引の決済方法を定義する金融条件が含まれ、評価方法についての詳細が記載されます。売買契約書は、買主と売主を法的に拘束するものです。したがって、買収対象となる企業の価値を確定するために、どのような法的拘束力のある事項を実行しなければならないのかを明らかにしておかなければなりません。

おわりに

エグゼキュージョンは、M&Aプロセスのなかでも企業価値を確定するうえで重要となるプロセスです。エグゼキュージョンプロセスのなかには、専門性が求められる企業価値評価といったプロセスも含まれることから、M&Aのアドバイザリーサービス提供している事業者がエグゼキュージョンプロセスを代理してくれることもあります。エグゼキュージョンは、M&Aを行う目的によってその具体的なプロセスも変化するのが普通です。目的に応じて明確な計画を立案し、しっかりとエグゼキュートするように、M&Aプロセスを進めていくことが大切です。

M&Aの基礎知識
2022/09/26
M&Aにおけるアドバイザリー契約について解説
M&Aにおけるアドバイザリー契約について解説

はじめに

M&Aは完了までのプロセスで多くの専門的な知識を必要とします。そのため、自社だけでM&Aを完結させることはほぼ不可能であり、一般に、アドバイザリーサービスを提供している事業者と契約を結び、M&Aに関するアドバイスを受けながら進めていくことになります。この記事では、M&Aにおけるアドバイザリー契約の詳細について詳しく解説していきます。

M&Aにおけるアドバイザリー契約とは?

M&Aのプロセスは複雑で専門的であることから、M&Aの成約までのプロセスをサポートしてくれる事業者が多数存在しています。たとえば、米国では、JP Morgan、Goldman Sachs、Morgan Stanley、Credit Suisse、BofA/Merrill Lynch、Citigroupは一般的にM&Aアドバイザリーのリーダーとして認識されており、通常M&A案件数でも上位にランクインしている事業者です。こうした事業者にM&Aのサポートをしてもらう契約がアドバイザリー契約です。

アドバイザリー契約を結ぶのはM&Aアドバイザリー会社

M&Aアドバイザリー会社は、企業の買収、売却、再編を意図する他社に指導を行う会社のことです。個人のファイナンシャルアドバイザーが個人や中小企業に対してガイダンスを提供するように、M&Aアドバイザリー会社は、あらゆる種類の企業取引において企業の舵取りを支援し、多くの場合、デットファイナンスやエクイティファイナンスをサポートしてくれます。M&Aアドバイザリー会社は、具体的には、以下のようなサービスを提供しています。

  • 株式の発行や募集に関するアドバイスやガイダンスの提供
  • 新規証券発行のための引受業務
  • 個人向け投資助言サービスの提供
  • 企業の正確な評価額の算出
  • 売り手のために可能な限り高い価格を得る
  • 買い手候補への会社の紹介
  • 会社が時価以下で売却されることを防止します。
  • 売り手にとって最適な買い手を見つける
  • 買い手が資金を調達できないなどの不測の事態が発生した場合でも、確実に売却取引を完了させる。

多くのM&アドバイザリーA会社は、取引成立時に取引金額の一定割合を手数料として徴収しています。この手数料は、実施される取引の種類や取引規模によって異なります。また、一部のファームでは、パーセンテージフィーに加え、一律の手数料を課すケースもあります。

アドバイザリーサービスは様々なサービスがありますが、アドバイザリーサービスを受けられるのは買い手だけではありません。売り手も受けることができます。

(1)セルサイドM&A(売り手に対するアドバイザリーサービス)

売り手(ターゲット)のアドバイザーとしてM&Aファームが関与することをセルサイドという。

(2)バイサイドM&A(買い手に対するアドバイザリーサービス)

逆に、M&Aファームが買手(買収者)のアドバイザーとして活動することをバイサイド業務という。その他、ジョイントベンチャー、敵対的買収、バイアウト、買収防衛策などに関するアドバイスも行うこともあります。

M&Aにおけるアドバイザリー契約を結ぶことで得られるサービス

アドバイザリー契約をM&Aファームと締結すれば、以下のようなサービスを受けられます。

(1)M&Aデューデリジェンス

M&Aファームが買主(買収者)に買収のアドバイスをする場合、買収企業のリスクとエクスポージャーを最小限に抑えるために、買収対象の真の財務状況に焦点を当てたデューデリジェンスと呼ばれる作業を支援することもあります。

M&Aデューデリジェンスでは、対象企業の財務情報の収集、分析、解釈、過去と未来の業績の分析、潜在的なシナジーの評価、事業評価による機会や懸念事項の特定などが基本的に含まれています。徹底したデューデリジェンスは、リスクベースの調査分析や、買い手が取引を通じてリスクと利益を識別するのに役立つその他のインテリジェンスを提供することにより、成功の確率を高めます。

企業の売却を検討されている場合、あるいは事業領域の拡大のために他の企業を買収する場合、M&A専門のアドバイザリーサービスを利用することで取引結果を改善することが可能です。

M&Aアドバイザリーサービスは、財務状況を確認し、最終合意に向けた様々なステップを支援し、統合後の新会社のパフォーマンスを最適化するための戦略を策定するための重要なプロセスです。

(2)M&Aに対する包括的なアプローチ

通常、M&Aファームとのアドバイザリー契約は、企業が潜在的なターゲットを特定した後に結ばれ、M&A取引の完了をサポートするためにデューデリジェンスを実施します。しかし、M&Aアドバイザリーチームは、M&Aのライフサイクルを通じたパートナーとして、より多くのことを行うことができます。

M&Aプロセスの流れをよく理解しているM&Aアドバイザリー会社は、M&A取引で起こりがちなことについて事前にアドバイスを与えてくれます。経験豊富な企業幹部でさえ、M&Aプロセスの複雑さに驚かれることがよくありますが、信頼できるアドバイザーとして、対象企業をより深く理解し、デューデリジェンスのプロセス全体を管理し、適切な質問をし、データを正しく取得することを支援してくれます。M&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を締結すれば、デューデリジェンスや、法律事務所や専門家によるデューデリジェンスなど、取引のあらゆる側面の管理を支援してくれます。これにより、ビジネスの継続に集中し、将来に向けて戦略的に注力することができます。

(3)デューデリジェンス前の事前の調査

M&Aアドバイザリー会社は、通常、M&Aに関する契約書(LOI)が締結された後に参入します。しかし、アドバイザーは、LOIが締結される前から積極的な役割を果たすことも可能です。多数の現地訪問、マネジメントインタビュー、デリジェンス分析を通じて、ターゲットビジネスの運営方法、そのキーパーソンは誰か、その企業があなたのビジネスにどのように統合されるかを理解し、合意に至る手助けをすることができるのです。

(4)スムーズな移行のための統合計画

M&Aによって統合される会社はどのような姿になるのでしょうか。クロージング後の統合とシナジー効果を中断することなく、可能な限りシームレスに展開し、統合後の企業価値を最大化することを誰もが希望するものです。どのようなタイミングで統合しようとしても、本来やるべき事業を継続するために、事業の安定化に注力することが重要です。さらに、人材と文化に戦略的な注意を払い、人材の確保を図る必要があります。最初の100日間と安定化のための努力は取引の意図した価値を完全に実現するための基盤を作るものです。

統合計画の取り組みは、慎重に計画し、タイミングを計らなければなりません。契約締結とクロージングが同日に行われることもありますが、その場合は統合計画をその日に先駆けて完了させなければなりません。契約締結からクロージングまでに時間がかかる場合は、その間に計画を完成させることができます。プレ・プランニングは30~60日程度で完了するのが一般的ですが、大企業の統合にはもっと長い時間がかかる場合もあります。

準備にかかる時間はストレスになりますが、まず必要なことを戦略的に処理し、そこから二次的な計画を進めていけば、ストレスは少なくなります。こうした統合計画をサポートしてくれるのも、M&Aアドバイザリー会社の重要な役割の一つです。

(5)パフォーマンスの最適化

M&Aにおける統合プロセスの分析とパフォーマンスの最適化は、どちらもM&Aアドバイザーが支援できるサービスです。統合の際には、プロセス分析が計画の重要な構成要素となります。プロセスの分析では、ギャップや欠陥を明らかにし、特に技術や人材などの重要な検討事項について、将来の改善(シナジー)のためのロードマップを作成します。プロセス分析/改善とパフォーマンスの最適化は、統合された企業の新しいプロセスでより高い効率を推進するために、時間が経ってから統合後にも活用することができます。これは、人員の変更を最小限に抑えるために行われるため、M&Aによる統合後のパフォーマンスを最適化することができます。

おわりに

M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識を求められるものです。また、手間がかかるプロセスも多いことから、通常、会社内のリソースだけを活用してM&Aのプロセスを完結させることは不可能です。そこで、M&Aに関するアドバイザリーサービスを提供しているM&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を結ぶことで、状況に応じて様々なサービスの提供を受けることができるようになります。M&Aにおいてどのようなサービスが必要であるかは、どのようなM&Aを行うか次第なので、M&Aの目的を明確にしたうえで、M&Aアドバイザリー会社に相談してみましょう。

M&Aの基礎知識
2022/09/26