M&Aの基礎知識 2022/07/30

経営権とは~経営権を持っている経営者は自由に会社の意思決定を行える?~

経営権とは~経営権を持っている経営者は自由に会社の意思決定を行える?~
                    

株式会社を経営するのは誰でしょう?一般に、それは経営者であると考えられています。経営者は株式会社を経営する「経営権」を保有しているということです。では、経営権を持っている経営者は自由に会社の意思決定を行えるのでしょうか?実はそうではありません。たとえ経営権を持っている経営者であっても会社の意思決定を自由に行うことができるわけではなく、株式会社の意思決定は最終的に、会社に出資している株主の集まりである株主総会の議決によって決定されます。株式会社という組織は、会社を経営する人と会社の所有する人が分離しているのが特徴です。したがって、経営権を持つ人と会社の所有権を持つ人も分離しています。この記事では、そんなわかりにくい概念である「経営権」について解説していきます。

経営権とは何か?

経営権とは、法律上の用語ではなく、慣用的に用いられている用語です。その意味は、自分が意図したように、会社の意思決定を行える権利のことを言います。会社は誰のものか(所有権は誰が持つのか)と言えば、それはその会社に出資している人(お金を提供している人)、すなわち、株主ということになります。他方で、会社の意思決定を行うのは誰かと言えば、それは、その会社の経営者です。つまり、経営者が「経営権」を執行する権利を持っています。

中小企業においては、会社の所有者と経営が分離していない場合が多い(つまり、会社の出資者と経営権の執行者が分かれていない)ので、会社の所有権者と経営の執行権者が分離していません。会社の所有権と経営権は分離していない状態なのです。

しかし、大企業になると、特に上場企業で顕著ですが、会社の所有権者である株主の数は膨大になります。しかも、株主は、直接会社経営を行うわけではないので、経営権を執行しません。つまり、大企業においては、会社の所有権と経営権が分離しているのです。この場合、会社の所有権は株主が持っていて、会社の経営権は経営者が持っているという状態になっています。

では、会社の経営者が会社の経営権を持っていると言えるのでしょうか。実はそうではありません。なぜなら、企業の経営者は、自分が意図するままに、会社の意思決定を行えるわけではないからです。株式会社の意思決定を行うのは会社経営者に限りません。たとえば、取締役会を構成する取締役、取締役の中から会社を代表する権限を委任されている代表取締役、個別の業務の執行を任せられた執行役員なども会社の意思決定を行えます。経営者は、取締役会や監査役会などの他の組織との協働のなかで、意思決定を下さなければならない仕組みになっているのです。実は、株式会社においては自分で直接これらの役職に就任せずとも、これらの役職の選任・解任権や重要事項の承認権を通じて会社の意思決定を左右できます。株主総会では、通常、取締役、監査役の選任、役員報酬、剰余金の配当など、会社の経営において重要な決定がなされます。

では、こういた役職の選任・解任権や重要事項の承認は、株式会社において誰(どの機関)が行うのでしょうか?それは株主総会です。つまり、株式会社においては、実質的に株主総会が経営権を左右できる構造になっているのです。株主一人一人は経営権を経営者に委任していますが、その執行権の行使の良し悪しを株主総会においてチェックできるようになっているのです。

株主総会における議決権の行使

株主総会の決議は、取締役会のように一人一票の投票で決するわけではありません。株主総会における決議は、議決権が付与された株式の数を基準とする多数決で行い、通常、一株あたり1票の議決権が付与されています。したがって、多くの株式数を持っている方が多くの議決権を持つことになり、会社の意思決定に対する関与度合いを増すことができます。経営者にとっては、自分ないし自分の意図通り議決権を行使してくれる株主が、株主総会の決議を決すに足る数(議決権のある株式のなかに占める割合的数)の株式を保有し、議決権行使することを持って、会社における執行権を支配しているということになります。つまり、株主総会において最も多くの議決権が付与された株式を持っている株主が、会社の実質的な経営権を保有していると考えます。

ただし、議決権が付与された株式を少数しか持っていない少数株主であっても、会社の株主として、株主総会において、株主総会決議不存在・取消訴訟の提起権や、取締役らの違法行為差止請求権(6ヶ月前から引き続き株式を保有している株主)、帳簿閲覧請求権(3パーセント保有株主)など、株主の代理人である経営者を一定程度監督する権限を有しています。株式会社は、一人ひとりの株主が経営者の執行権の行使を牽制できるような仕組みになっているのです。

経営権は譲渡することもできる

株式会社の経営権を保有しているのは株主総会で、株主総会で最も強い影響力を持っているのは、議決権が付与された株式を最も多く保有している株主であることを説明しました。つまり、会社の経営権は株主が保有する株式と紐付いているのです。議決権を付与された多くの株式を持っている株主が、経営権に対して最も強い影響力を行使できるというわけです。

株式には、株式譲渡自由の原則という「株主がその有する株式について、自由に他人に譲渡することができる原則」があります。株式は自由に譲渡することができるわけです。株式が自由に譲渡できるということは、株式を通じて経営権も自由に譲渡できることがわかります。つまり、会社の経営権を移譲したり、承継したりする場合には、株式を譲渡して経営権を相手に渡せば良いというわけです。しかしながら、多くの日本の中小企業では、経営を安定させるという目的の下で、譲渡制限付き株式という会社の承認が無いと自由に譲渡することができない株式を発行することが慣例となっているためこの点には注意が必要です。

まとめ:経営権とは?

この記事では、実質的に経営権を持っているのは、議決権が付与された株式を最も多く持っている株主であることを説明しました。経営権とは会社の意思決定を行う権利のことを言い、その権利を実質的に持っているのは、経営者ではなく株主総会なのです。経営権と所有権を同一視して考えがちですが、厳密には別のものとなります。例えば、会社を譲渡する際に、所有権としての株式を譲渡したとしても、株式を譲渡をした次の株主から信頼されれば引き続き社長として会社に残り経営を行うことも可能になります。少し分かりづらい概念ではありますが、分別して考えることで経営や承継の可能性も広がリます。専門家と話すときもこの概念を知っていることは役立ちます。有効に活用できるように、留意しておきましょう。

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M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性を解説
M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性を解説

はじめに

M&Aは企業間取引であるため、その成否は経営者同士の面談によって分かれることになります。買い手となる企業と売り手となる企業のトップである経営者同士が面談を行うことによって、お互いに相手企業のことが理解できるようになり、信頼関係を構築したうえで取引に臨めるようになります。この記事では、M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性についてわかりやすく解説していきます。

M&Aにおけるトップ面談の位置づけ

M&Aにおいてトップ面談は重要な意味を持っています。トップ面談は企業経営者による「お見合い」によく例えられます。M&Aは2つ以上の会社が一緒になることを意味しますから、その運営のトップである経営者同士での面談は、結婚(M&A)前のお見合いに例えられることがあります。

トップ面談が行われるタイミングは、譲渡企業の決算書などに基づいて、まず書面で初期検討を行ったのち、譲受候補となっている企業が「前向きに検討を続けたい」と判断したタイミングで実施されるのが普通です。つまり、譲受候補となっている企業側が、まず決算書などから抽象的な情報を読み取り、そこで興味を持った譲受企業(経営者)がお見合いを申し込むわけです。1回目のトップ面談で企業文化や経営理念、事業内容を理解しきれなかった場合には、複数回実施されることも当然あります。まずは候補企業にアプローチした後、経営者同士の考え方を意見交換するトップ面談を複数回実施します。

譲受企業側がM&Aブック(またはオファー)を検討し、意思表示を提出した後、次のステップとして、譲渡企業の主要な経営陣および/または所有者と面談することになります。トップ面談では、財務の最新情報(およびその他の適切な最新情報)を提供し、譲受候補となる企業は譲渡企業と交流することができます。また、トップ面談では、施設の見学が含まれる場合もあります。

ここで、譲渡企業側は、譲受企業側が書面で関心を示すまでは、譲受候補となっている企業との面談に基本的に応じるべきではありません。売却を考えていない譲渡企業が、譲受を考えている企業から直接連絡を受けた場合でも、譲受を考えている企業が関心を示すまでは面談を控えるべきです。

トップ面談が重要な理由

トップ面談では、譲受企業側からは、譲渡企業の経営者に会社や事業への想い、理念などについて聞いても良いでしょう。具体的な財務状況や経営成績を聞くのは、トップ面談のタイミングではありません。お見合いでも、初対面のお見合い相手に「年収はいくらですか?」と聞くのは野暮でしょう。それと同じで、トップ面談では、むしろ、経営に対するビジョンや理念などの確認をする方が大切です。譲渡を希望する理由や、譲渡後の展望、希望について話を聞くのも良いと思います。

一方で、譲渡企業側からは、譲受企業の経営者に理念やビジョン、ミッション、今後の経営計画、事業に対する想いなどについて聞くのが良いでしょう。トップ面談の時には、企業に関する詳細情報をすでに得ていることが多いものの、実際にトップ面談を行うことで決算書の数字や企業情報などだけではわからないことがトップ面談で得られるはずです。

譲渡企業(またはその仲介者)は、譲受企業候補の経営者の様子を観察して、どの譲受企業候補に売却すれば事業の成功を継続できる可能性が高いか、事業を運営するのに適したスキルを持っているか、取引をまとめる能力があるかを見極めようとします。この際の基準は主観的なものであり、ほとんどの場合、高い評価額(買収額)が他のすべての考慮事項に優先する傾向にあるものの、時には、より直感的な「自分(自社)に合わないから他の人にしよう」という理由で取引を断るケースもあります。

ここでも、やはりお見合いと同じで、どんなに年収が高かったり、社会的な地位の高い職業について居たりしても、それだけで結婚を考えることはないのと同様に、もっと直感的で主観的な評価基準によって、譲受企業候補を見極める必要があります。

譲受企業は、譲渡企業側が他の譲受企業候補ともM&Aに関する話を進めている場合が多いことを忘れてはなりません。譲受企業候補の一つとして、譲渡企業側が自分を選んでくれることを当然だとは思わず、トップ面談において謙虚に譲渡企業の経営者と交渉に臨む必要があります。

結局のところ、M&Aにおいてトップ面談で最も重要なことは、相手企業との信頼関係の構築にあります。信頼関係の構築のためには、必ずしも買収金額(譲渡金額)だけが重要なわけではありません。むしろ、トップ面談においては、本当に相手企業が信頼できるかどうかを基本としながら、相手を見極めることが大切です。トップ面談では、お互いの経営者の人間性、経営理念、事業内容への理解を深め、信頼関係を構築することを重視すべきです。そのような場で、買収金額などの具体的な交渉を行おうとすると、一気に場が冷めてしまい、相手先からの不信感を招く可能性が高くなります。繰り返し説明しているように、トップ会談は、双方の企業のビジョンや運営方針、経営方針などを共有し、お互いの理解を深めるようにしましょう。

おわりに

M&Aにおいてトップ面談は、M&A成功を左右するほど重要です。トップ面談は、企業同士のお見合いであり、お互いの理解を深めることで、その後のM&Aの具体的な交渉をスムーズに進めるために行われます。具体的なM&Aの交渉はトップ面談後に行われるのが普通です。トップ面談で具体的な条件などを交渉してしまうと、その後のプロセスにいつまでもたどり着けなくなってしまうので注意が必要です。M&Aにおけるトップ面談の位置づけを正しく理解し、なぜトップ面談を行うのか、その理由をきちんと把握しておくことによって、M&Aをお互いの企業とって意義深いものにしていきましょう。

M&Aの基礎知識
2022/09/26
M&Aにおけるエグゼキュージョンとは何か?重要ポイント
M&Aにおけるエグゼキュージョンとは何か?重要ポイント

M&A取引のプロセスのなかでも、交渉からクロージングまでのプロセスを指す「エグゼキュージョン」は、買収対象となる企業の価値を確定するための重要なプロセスです。この記事では、M&Aにおけるエグゼキュージョンがどのような意味を持っているのか、解説していきます。

エグゼキュージョン

エグゼキュージョン(execution)とは、M&Aのプロセスのなかでも、買い手側が計画を実行するプロセスを指す言葉です。もともと、英語のexecutionという言葉は「(計画を)実行する」という意味を持っています。買い手側がM&Aに関して事前に決定した事項について、実行していくプロセス全体をエグゼキュージョンプロセスと言い、、買い手側が買収候補となる企業を決定した後に行われる交渉・デューデリジェンス・売買契約・買収のための資金調達戦略・買収の完了と統合の計画実行を指すケースが多いです。

なお、エグゼキュージョンという用語をよく利用するのは、M&A取引の成立をサポートするアドバイザーです。アドバイザーは、買い手の買収計画が上手くいくようにサポートを行います。

M&Aにおけるエグゼキュージョンプロセスを具体的に解説

M&Aは、主に以下の10個のプロセスによって成り立っています。

(1)買収戦略の策定

優れた買収戦略の策定は、買収者が買収によって何を得ることを期待しているのか、つまり対象企業を買収する事業目的は何か(製品ラインの拡大や新規市場への参入など)を明確に把握することを中心に行われます。

(2)M&Aの検索基準の設定

潜在的なターゲット企業を特定するための重要な基準を決定します(例:利益率、地理的位置、または顧客基盤など)。

(3)買収候補企業の検索

買収者は、特定した検索基準を使用して、買収候補企業を検索し、評価します。

(4)買収計画の開始

買収者は、検索基準を満たし、良い価値を提供すると思われる1社以上の企業と接触します。最初の会話の目的は、より多くの情報を入手し、ターゲット企業が合併または買収に対してどれくらい積極的であるかを確認することにあります。

(5)評価分析の実施

最初の接触と会話がうまくいったと仮定して、買収者はターゲット企業に、買収者がターゲットをさらに評価できるような実質的な情報(現在の財務状況など)を提供するよう求め、ビジネス単体として、また適切な買収ターゲットとして、評価します。

(6)交渉

買収者は、ターゲット企業の評価モデルをいくつか作成した後、合理的なオファーを構築するのに十分な情報を得る必要があります。

(7)M&Aデューデリジェンス

デューデリジェンスは、オファーが受諾された時点から開始される包括的なプロセスです。デューデリジェンスの目的は、対象会社の財務指標、資産・負債、顧客、人材などのあらゆる側面について詳細な調査と分析を行い、買収者の対象会社の価値評価を確認または修正することにあります。

(8)売買契約

デューデリジェンスが完了し、大きな問題や懸念がなければ、次のステップとして売買契約を締結し、資産購入か株式購入か、売買契約の種類を最終的に決定します。

(9)買収のための資金調達戦略

買収者は、もちろん、買収のための資金調達オプションを早期に検討しますが、資金調達の詳細は、通常、売買契約が締結された後にまとまっていきます。

(10)買収の完了と統合

 買収案件が完了し、買収先と買収企業の経営陣が協力して両社の統合プロセスに取り組みます。

このプロセスのうち、エグゼキュージョンプロセスは、(6)〜(10)を指します。

エグゼキュージョンの重要ポイント

M&Aにおいて、エグゼキュージョンは、要するに、買収対象となる企業の価値を決定するプロセスにほかなりません。買収対象となる企業の価値を決定するにあたっては、以下の2点が重要となります。それぞれについて説明していきましょう。

(1)価値の最適化

デューデリジェンス調査が完了し、その結果について評価を行った後、取引の成功に向けて最もエキサイティングなステップであるバインディング・オファー(売買契約)、そして取引の実行に移っていきます。

M&A取引プロセスにおいて、株式売買契約書(SPA)の作成、規制当局への取引に関する届出の提出、取引財務の作成、初日の準備など、多くの重要なステップが含まれています。取引の終了まであと少しと思われるかもしれませんが、実はその前に検討すべきこと、達成すべきことがまだまだたくさんあります。

M&Aの取引をうまく実行したい(エグゼキュート)したいのであれば、最終的に取引はより多くの価値、たとえば、適正な評価額や所有権を引き継いだ後の状態を、あらかじめしっかりと確定しておくことが大切です。

(2)売買契約書(SPA)

SPAの作成は、しばしば弁護士のための形式的なものとみなされます。SPAのプロセスの多くには、保証、保証、潜在的な紛争の解決などの法的側面が含まれているため、ある程度はその通りです。しかし、SPAには何よりもまず、取引の決済方法を定義する金融条件が含まれ、評価方法についての詳細が記載されます。売買契約書は、買主と売主を法的に拘束するものです。したがって、買収対象となる企業の価値を確定するために、どのような法的拘束力のある事項を実行しなければならないのかを明らかにしておかなければなりません。

おわりに

エグゼキュージョンは、M&Aプロセスのなかでも企業価値を確定するうえで重要となるプロセスです。エグゼキュージョンプロセスのなかには、専門性が求められる企業価値評価といったプロセスも含まれることから、M&Aのアドバイザリーサービス提供している事業者がエグゼキュージョンプロセスを代理してくれることもあります。エグゼキュージョンは、M&Aを行う目的によってその具体的なプロセスも変化するのが普通です。目的に応じて明確な計画を立案し、しっかりとエグゼキュートするように、M&Aプロセスを進めていくことが大切です。

M&Aの基礎知識
2022/09/26
M&Aにおけるアドバイザリー契約について解説
M&Aにおけるアドバイザリー契約について解説

はじめに

M&Aは完了までのプロセスで多くの専門的な知識を必要とします。そのため、自社だけでM&Aを完結させることはほぼ不可能であり、一般に、アドバイザリーサービスを提供している事業者と契約を結び、M&Aに関するアドバイスを受けながら進めていくことになります。この記事では、M&Aにおけるアドバイザリー契約の詳細について詳しく解説していきます。

M&Aにおけるアドバイザリー契約とは?

M&Aのプロセスは複雑で専門的であることから、M&Aの成約までのプロセスをサポートしてくれる事業者が多数存在しています。たとえば、米国では、JP Morgan、Goldman Sachs、Morgan Stanley、Credit Suisse、BofA/Merrill Lynch、Citigroupは一般的にM&Aアドバイザリーのリーダーとして認識されており、通常M&A案件数でも上位にランクインしている事業者です。こうした事業者にM&Aのサポートをしてもらう契約がアドバイザリー契約です。

アドバイザリー契約を結ぶのはM&Aアドバイザリー会社

M&Aアドバイザリー会社は、企業の買収、売却、再編を意図する他社に指導を行う会社のことです。個人のファイナンシャルアドバイザーが個人や中小企業に対してガイダンスを提供するように、M&Aアドバイザリー会社は、あらゆる種類の企業取引において企業の舵取りを支援し、多くの場合、デットファイナンスやエクイティファイナンスをサポートしてくれます。M&Aアドバイザリー会社は、具体的には、以下のようなサービスを提供しています。

  • 株式の発行や募集に関するアドバイスやガイダンスの提供
  • 新規証券発行のための引受業務
  • 個人向け投資助言サービスの提供
  • 企業の正確な評価額の算出
  • 売り手のために可能な限り高い価格を得る
  • 買い手候補への会社の紹介
  • 会社が時価以下で売却されることを防止します。
  • 売り手にとって最適な買い手を見つける
  • 買い手が資金を調達できないなどの不測の事態が発生した場合でも、確実に売却取引を完了させる。

多くのM&アドバイザリーA会社は、取引成立時に取引金額の一定割合を手数料として徴収しています。この手数料は、実施される取引の種類や取引規模によって異なります。また、一部のファームでは、パーセンテージフィーに加え、一律の手数料を課すケースもあります。

アドバイザリーサービスは様々なサービスがありますが、アドバイザリーサービスを受けられるのは買い手だけではありません。売り手も受けることができます。

(1)セルサイドM&A(売り手に対するアドバイザリーサービス)

売り手(ターゲット)のアドバイザーとしてM&Aファームが関与することをセルサイドという。

(2)バイサイドM&A(買い手に対するアドバイザリーサービス)

逆に、M&Aファームが買手(買収者)のアドバイザーとして活動することをバイサイド業務という。その他、ジョイントベンチャー、敵対的買収、バイアウト、買収防衛策などに関するアドバイスも行うこともあります。

M&Aにおけるアドバイザリー契約を結ぶことで得られるサービス

アドバイザリー契約をM&Aファームと締結すれば、以下のようなサービスを受けられます。

(1)M&Aデューデリジェンス

M&Aファームが買主(買収者)に買収のアドバイスをする場合、買収企業のリスクとエクスポージャーを最小限に抑えるために、買収対象の真の財務状況に焦点を当てたデューデリジェンスと呼ばれる作業を支援することもあります。

M&Aデューデリジェンスでは、対象企業の財務情報の収集、分析、解釈、過去と未来の業績の分析、潜在的なシナジーの評価、事業評価による機会や懸念事項の特定などが基本的に含まれています。徹底したデューデリジェンスは、リスクベースの調査分析や、買い手が取引を通じてリスクと利益を識別するのに役立つその他のインテリジェンスを提供することにより、成功の確率を高めます。

企業の売却を検討されている場合、あるいは事業領域の拡大のために他の企業を買収する場合、M&A専門のアドバイザリーサービスを利用することで取引結果を改善することが可能です。

M&Aアドバイザリーサービスは、財務状況を確認し、最終合意に向けた様々なステップを支援し、統合後の新会社のパフォーマンスを最適化するための戦略を策定するための重要なプロセスです。

(2)M&Aに対する包括的なアプローチ

通常、M&Aファームとのアドバイザリー契約は、企業が潜在的なターゲットを特定した後に結ばれ、M&A取引の完了をサポートするためにデューデリジェンスを実施します。しかし、M&Aアドバイザリーチームは、M&Aのライフサイクルを通じたパートナーとして、より多くのことを行うことができます。

M&Aプロセスの流れをよく理解しているM&Aアドバイザリー会社は、M&A取引で起こりがちなことについて事前にアドバイスを与えてくれます。経験豊富な企業幹部でさえ、M&Aプロセスの複雑さに驚かれることがよくありますが、信頼できるアドバイザーとして、対象企業をより深く理解し、デューデリジェンスのプロセス全体を管理し、適切な質問をし、データを正しく取得することを支援してくれます。M&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を締結すれば、デューデリジェンスや、法律事務所や専門家によるデューデリジェンスなど、取引のあらゆる側面の管理を支援してくれます。これにより、ビジネスの継続に集中し、将来に向けて戦略的に注力することができます。

(3)デューデリジェンス前の事前の調査

M&Aアドバイザリー会社は、通常、M&Aに関する契約書(LOI)が締結された後に参入します。しかし、アドバイザーは、LOIが締結される前から積極的な役割を果たすことも可能です。多数の現地訪問、マネジメントインタビュー、デリジェンス分析を通じて、ターゲットビジネスの運営方法、そのキーパーソンは誰か、その企業があなたのビジネスにどのように統合されるかを理解し、合意に至る手助けをすることができるのです。

(4)スムーズな移行のための統合計画

M&Aによって統合される会社はどのような姿になるのでしょうか。クロージング後の統合とシナジー効果を中断することなく、可能な限りシームレスに展開し、統合後の企業価値を最大化することを誰もが希望するものです。どのようなタイミングで統合しようとしても、本来やるべき事業を継続するために、事業の安定化に注力することが重要です。さらに、人材と文化に戦略的な注意を払い、人材の確保を図る必要があります。最初の100日間と安定化のための努力は取引の意図した価値を完全に実現するための基盤を作るものです。

統合計画の取り組みは、慎重に計画し、タイミングを計らなければなりません。契約締結とクロージングが同日に行われることもありますが、その場合は統合計画をその日に先駆けて完了させなければなりません。契約締結からクロージングまでに時間がかかる場合は、その間に計画を完成させることができます。プレ・プランニングは30~60日程度で完了するのが一般的ですが、大企業の統合にはもっと長い時間がかかる場合もあります。

準備にかかる時間はストレスになりますが、まず必要なことを戦略的に処理し、そこから二次的な計画を進めていけば、ストレスは少なくなります。こうした統合計画をサポートしてくれるのも、M&Aアドバイザリー会社の重要な役割の一つです。

(5)パフォーマンスの最適化

M&Aにおける統合プロセスの分析とパフォーマンスの最適化は、どちらもM&Aアドバイザーが支援できるサービスです。統合の際には、プロセス分析が計画の重要な構成要素となります。プロセスの分析では、ギャップや欠陥を明らかにし、特に技術や人材などの重要な検討事項について、将来の改善(シナジー)のためのロードマップを作成します。プロセス分析/改善とパフォーマンスの最適化は、統合された企業の新しいプロセスでより高い効率を推進するために、時間が経ってから統合後にも活用することができます。これは、人員の変更を最小限に抑えるために行われるため、M&Aによる統合後のパフォーマンスを最適化することができます。

おわりに

M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識を求められるものです。また、手間がかかるプロセスも多いことから、通常、会社内のリソースだけを活用してM&Aのプロセスを完結させることは不可能です。そこで、M&Aに関するアドバイザリーサービスを提供しているM&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を結ぶことで、状況に応じて様々なサービスの提供を受けることができるようになります。M&Aにおいてどのようなサービスが必要であるかは、どのようなM&Aを行うか次第なので、M&Aの目的を明確にしたうえで、M&Aアドバイザリー会社に相談してみましょう。

M&Aの基礎知識
2022/09/26