はじめに
会社の事業を承継することを考えるとき、誰に承継するかは非常に重要です。自分の血縁関係の中で事業を承継するケースもあれば、会社の従業員に事業を承継するケースもありますし、全くの会社の外部の人あるいは会社に事業を承継するケースもあります。
このうち、3つ目の会社の外部に人あるいは会社に事業を承継するケースでは、一般に、事業承継を行う譲渡側と、事業承継を受け入れる譲受側があり、両者のニーズが一致するように調整しなければなりません。その調整をマッチングと言います。会社の外部の人あるいは会社に、事業を承継するケースでは、この両者の合意がない限り、事業承継が成立しません。昨今の事業承継ニーズの高まりから、より効率的に、より納得感が得られるように両者を結びつけることを目的として、多くの事業承継マッチング業者、あるいは、マッチングプラットフォームが誕生しています。
そこでこの記事では、会社の外部の人あるいは会社に事業を承継する際に、近年盛んに利用されるようになっている事業承継マッチング業者、マッチングプラットフォームについて解説します。
M&A・事業承継におけるマッチング
会社や事業を売りたい(承継したい)と考えている会社が、会社や事業を買いたいと考えている会社に出会うためには、両者を引き合わせなければはじまりません。このように売りたい側と買いたい側が出会い、条件等双方の合意が得られた状態がマッチング成功となります。
一般に、会社を売りたい人と買いたい人のマッチングを自ら行うことは難しいことから、M&A。事業承継の専門家に相談することになります。近年、事業を売りたいという事業者と、事業を買いたいという事業者をマッチングさせる事業承継マッチング業者やM&Aマッチングプラットフォームと呼ばれるサービスを提供する企業が増えてきています。
事業承継マッチング業者は、中小企業の事業承継(M&A)を支援する機関であり、民間のM&A専門仲介機関や、金融機関、士業の専門家などが存在しています。マッチング業者の担う業務は、相手先企業のマッチングから行う場合もあれば、デユーデリジェンスや契約締結等の特定の業務に特化している場合もあり、その関わり方は様々です。事業承継マッチング業者に支払わなければならない仲介等の手数料についても、仲介者かアドバイザーかといった契約関係だけでなく、案件の規模や報酬体系(着手金・中間金・成功報酬等)によって異なります。
また、事業承継のマッチング業務は、案件の規模にかかわらず同程度の業務が発生するため、最低手数料を設けている専門仲介機関も多くなっています。そのため、近年では、インターネット上でのマッチングも行われるようになってきており、低コストでマッチングを図ることで小規模事業者でも事業承継を実施できる環境も整いつつあります。
いずれにせよ、事業承継を推進していくためには、金融機関、専門仲介機関、士業専門家といった、当事者以外の支援が重要です。こうした支援機関の事業承継への理解を深めるとともに、支援機関同士が連携し専門性の補完やマッチングを図ることで、様々なニーズに対応していくことが期待されています。
事業承継マッチング支援の相談先(専門家)
ここでは、まず事業承継マッチング支援をする代表的な相談先(専門家)について説明していきます。
① 公認会計士
公認会計士は、監査及び会計の専門家として、財務書類の監査証明業務のほか、財務に関する調査や相談に応じており、事業承継の様々な場面で、広い見識に基づく支援が期待できます。特に、経営状況・課題の把握(見える化)や経営改善(磨き上げ)をはじめ、非上場株式の評価・M&Aにおける売却価格試算等の複雑な状況での公正な評価、経営者の個人保証の解除、適正な会計の導入支援といった、将来の事業展開も踏まえた幅広い助言が期待できます。
② 司法書士
司法書士は、商業登記、不動産登記等の実務家として、事業承継における株式及び事業用不動産の承継、M&A、種類株式及び民事信託の活用、担保権の処遇等についてサポートしています。また、日本司法書士会連合会においては、商業登記・企業法務対策部、民事信託等財産管理業務対策部等を設置して事業承継に関する支援事業を行っています。
③ 税理士
税理士は、顧問契約を通じて日常的に中小企業経営者との関わりが深く、決算支援等を通じ経営にも深く関与しています。経営者向けアンケートにおいても、事業承継の相談先として選ばれやすい存在です。また、日本税理士会連合会にて構築した顧問税理士同士によるマッチングサイト「担い手探しナビ」の利用等を通じて、 多くの税理士が、後継者不在の中小企業に対するM&A支援に着手するなど積極的な事業承継支援を行っており、主体的な関与が期待できます。経営者に最も近い存在として、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、相続税に関する助言や株価の評価、生前贈与のやり方や種類株式の発行に関する助言、中小企業会 計要領・中小企業会計指針の活用支援等、事業承継に関係する幅広い領域にわたる支援をしてくれます。
④ 中小企業診断士
中小企業診断士は、「中小企業支援法」に基づき、中小企業のホームドクター として、様々な経営課題への対応や経営診断等に取り組んでいる事業者です。事業承継に関しては、事業承継診断やプレ承継支援(事業承継計画の策定支援、 後継者教育支援、磨き上げ支援等)、ポスト承継支援のほか、M&A等に関わる支援も期待されています。
⑤ 弁護士
弁護士は、中小企業や経営者の代理人として、事業承継を進めるにあたり、経営者と共に金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・説得を行い、円滑な事業承継を進める役割を担います。特に、株主関係が複雑な場合や、会社債務・経営者保証等に関する金融機関との調整・交渉が必要な場合、M&Aを活用する場合等においては、法律面全般の検討と課題の洗い出し、それらを踏まえたスキーム全体の設計、契約書をはじめとする各種書面の作成といった支援が期待される。また、日本弁護士連合会は、事業承継に関するプロジェクトチームを設置し、中小企業の事業承継に関する課題分析と改善策の検討、有用なスキーム・事例の周知活動、具体的な相談体制の整備等に取り組んでいます。
⑥ 金融機関
金融機関は、中小企業に日常的に接して経営状況を把握しており、中小企業に対してきめ細やかな経営支援等を実施し得る立場にあります。また、金融機関が取引先企業の事業実態を理解し、そのニーズや課題を把握し、経営課題に対する支援を組織的・継続的に実施することは、取引先企業の価値向上、ひいては我が国経済の持続的成長につながるとともに、金融機関自身の経営の安定にも寄与するものです。このような観点から、金融機関は取引先中小企業の事業承継問題に対しても積極的な支援を実施することが期待されています。
⑦商工会議所・商工会
商工会議所・商工会は、経営指導員の日々の巡回指導等を通じて中小企業経営者との間に信頼関係を構築している身近な存在です。このため、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、事業承継セミナーの開催や事業承継施策に関する情報提供、専門家の紹介、事業承継・引継ぎ支援センターとの連携等が期待されています。
代表的な事業承継マッチングプラットフォーム提供事業者
近年では、IT技術を活用しインターネット上で事業承継マッチングを行う業者も誕生しており、低コストでマッチングが実現できる環境も整いつつあります。
事業承継マッチングプラットフォームは、事業や会社の譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステム(プラットフォーム)に情報を登録することによって、マッチングをはじめとする事業承継の手続きを低コストで行える支援システムです。従来、事業承継においては、事業者自身が譲り渡しや譲り受けの情報にアクセスすることが困難でした。その橋渡しを事業承継支援業者(金融機関、M&A仲介業者など)が担っていたのです。結果として、情報量の少なさからマッチングの可能性が低くなってしまったり、マッチングにかかるコストが大きく、業者に支払うべき高額の報酬につながってしまったり、といった課題がありました。こういった従来のM&Aの問題点を解決するために誕生したサービスが、マッチングプラットフォームです。
それでは、現在の日本でマッチングプラットフォームを提供している代表的な事業者を2つ紹介します。
①BATONZ(バトンズ)
BATONZは、無料で利用できる成約数No.1のM&A・事業承継支援サービス提供事業者です。企業と第三者のマッチングを支援し、M&Aによる事業継承をサポートします。バトンズでは小規模・零細企業の案件だけでなく、中小企業も含めた幅広い規模の案件も掲載しており、個人・個人事業主・法人といった、あらゆる属性の人が利用している事業者となっています。業界の標準価格よりもかなり安い金額で成約までたどり着くことができるうえに、充実したサポート体制が魅力となっています。
②TRANBI(トランビ)
TRANBIは、挑戦したい個人・中小企業のためのM&Aや事業開発を中心とするイノベーションプラットフォームです。インターネットを通じて、事業を買いたい人と売りたい人がマッチングする事で、 これまで多額の資金を必要としたM&Aの費用を大幅に削減することに成功しました。会員数も2022年7月時点において、106,246名と業界最大級を誇っています。
昨今、M&Aのマッチングプラットフォームは乱立しており、上記以外にもたくさんのプラットフォームがあります。
おわりに
事業承継において、会社や事業の譲り渡し先を決めるのは容易ではありません。会社のことを理解していないところに事業を承継してしまえば、会社に残った従業員が不幸になることはもちろん、これまで会社に培われてきたものが台無しになってしまいます。だからこそ、マッチングを支援してくれる事業者の存在は、事業承継において欠かせないのです。
事業承継においてマッチングサービスを提供している事業者は数多く存在します。従来は、専門業者に依頼するケースも多かったものの、自分たちで直接プラットフォームサービスを利用するケースも多くなっています。会社の将来を左右する事業承継ですので相手探しは重要です。
M&Aは企業間取引であるため、その成否は経営者同士の面談によって分かれることになります。買い手となる企業と売り手となる企業のトップである経営者同士が面談を行うことによって、お互いに相手企業のことが理解できるようになり、信頼関係を構築したうえで取引に臨めるようになります。この記事では、M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性についてわかりやすく解説していきます。
M&Aにおいてトップ面談は重要な意味を持っています。トップ面談は企業経営者による「お見合い」によく例えられます。M&Aは2つ以上の会社が一緒になることを意味しますから、その運営のトップである経営者同士での面談は、結婚(M&A)前のお見合いに例えられることがあります。
トップ面談が行われるタイミングは、譲渡企業の決算書などに基づいて、まず書面で初期検討を行ったのち、譲受候補となっている企業が「前向きに検討を続けたい」と判断したタイミングで実施されるのが普通です。つまり、譲受候補となっている企業側が、まず決算書などから抽象的な情報を読み取り、そこで興味を持った譲受企業(経営者)がお見合いを申し込むわけです。1回目のトップ面談で企業文化や経営理念、事業内容を理解しきれなかった場合には、複数回実施されることも当然あります。まずは候補企業にアプローチした後、経営者同士の考え方を意見交換するトップ面談を複数回実施します。
譲受企業側がM&Aブック(またはオファー)を検討し、意思表示を提出した後、次のステップとして、譲渡企業の主要な経営陣および/または所有者と面談することになります。トップ面談では、財務の最新情報(およびその他の適切な最新情報)を提供し、譲受候補となる企業は譲渡企業と交流することができます。また、トップ面談では、施設の見学が含まれる場合もあります。
ここで、譲渡企業側は、譲受企業側が書面で関心を示すまでは、譲受候補となっている企業との面談に基本的に応じるべきではありません。売却を考えていない譲渡企業が、譲受を考えている企業から直接連絡を受けた場合でも、譲受を考えている企業が関心を示すまでは面談を控えるべきです。
トップ面談では、譲受企業側からは、譲渡企業の経営者に会社や事業への想い、理念などについて聞いても良いでしょう。具体的な財務状況や経営成績を聞くのは、トップ面談のタイミングではありません。お見合いでも、初対面のお見合い相手に「年収はいくらですか?」と聞くのは野暮でしょう。それと同じで、トップ面談では、むしろ、経営に対するビジョンや理念などの確認をする方が大切です。譲渡を希望する理由や、譲渡後の展望、希望について話を聞くのも良いと思います。
一方で、譲渡企業側からは、譲受企業の経営者に理念やビジョン、ミッション、今後の経営計画、事業に対する想いなどについて聞くのが良いでしょう。トップ面談の時には、企業に関する詳細情報をすでに得ていることが多いものの、実際にトップ面談を行うことで決算書の数字や企業情報などだけではわからないことがトップ面談で得られるはずです。
譲渡企業(またはその仲介者)は、譲受企業候補の経営者の様子を観察して、どの譲受企業候補に売却すれば事業の成功を継続できる可能性が高いか、事業を運営するのに適したスキルを持っているか、取引をまとめる能力があるかを見極めようとします。この際の基準は主観的なものであり、ほとんどの場合、高い評価額(買収額)が他のすべての考慮事項に優先する傾向にあるものの、時には、より直感的な「自分(自社)に合わないから他の人にしよう」という理由で取引を断るケースもあります。
ここでも、やはりお見合いと同じで、どんなに年収が高かったり、社会的な地位の高い職業について居たりしても、それだけで結婚を考えることはないのと同様に、もっと直感的で主観的な評価基準によって、譲受企業候補を見極める必要があります。
譲受企業は、譲渡企業側が他の譲受企業候補ともM&Aに関する話を進めている場合が多いことを忘れてはなりません。譲受企業候補の一つとして、譲渡企業側が自分を選んでくれることを当然だとは思わず、トップ面談において謙虚に譲渡企業の経営者と交渉に臨む必要があります。
結局のところ、M&Aにおいてトップ面談で最も重要なことは、相手企業との信頼関係の構築にあります。信頼関係の構築のためには、必ずしも買収金額(譲渡金額)だけが重要なわけではありません。むしろ、トップ面談においては、本当に相手企業が信頼できるかどうかを基本としながら、相手を見極めることが大切です。トップ面談では、お互いの経営者の人間性、経営理念、事業内容への理解を深め、信頼関係を構築することを重視すべきです。そのような場で、買収金額などの具体的な交渉を行おうとすると、一気に場が冷めてしまい、相手先からの不信感を招く可能性が高くなります。繰り返し説明しているように、トップ会談は、双方の企業のビジョンや運営方針、経営方針などを共有し、お互いの理解を深めるようにしましょう。
M&Aにおいてトップ面談は、M&A成功を左右するほど重要です。トップ面談は、企業同士のお見合いであり、お互いの理解を深めることで、その後のM&Aの具体的な交渉をスムーズに進めるために行われます。具体的なM&Aの交渉はトップ面談後に行われるのが普通です。トップ面談で具体的な条件などを交渉してしまうと、その後のプロセスにいつまでもたどり着けなくなってしまうので注意が必要です。M&Aにおけるトップ面談の位置づけを正しく理解し、なぜトップ面談を行うのか、その理由をきちんと把握しておくことによって、M&Aをお互いの企業とって意義深いものにしていきましょう。
M&A取引のプロセスのなかでも、交渉からクロージングまでのプロセスを指す「エグゼキュージョン」は、買収対象となる企業の価値を確定するための重要なプロセスです。この記事では、M&Aにおけるエグゼキュージョンがどのような意味を持っているのか、解説していきます。
エグゼキュージョン(execution)とは、M&Aのプロセスのなかでも、買い手側が計画を実行するプロセスを指す言葉です。もともと、英語のexecutionという言葉は「(計画を)実行する」という意味を持っています。買い手側がM&Aに関して事前に決定した事項について、実行していくプロセス全体をエグゼキュージョンプロセスと言い、、買い手側が買収候補となる企業を決定した後に行われる交渉・デューデリジェンス・売買契約・買収のための資金調達戦略・買収の完了と統合の計画実行を指すケースが多いです。
なお、エグゼキュージョンという用語をよく利用するのは、M&A取引の成立をサポートするアドバイザーです。アドバイザーは、買い手の買収計画が上手くいくようにサポートを行います。
M&Aは、主に以下の10個のプロセスによって成り立っています。
(1)買収戦略の策定
優れた買収戦略の策定は、買収者が買収によって何を得ることを期待しているのか、つまり対象企業を買収する事業目的は何か(製品ラインの拡大や新規市場への参入など)を明確に把握することを中心に行われます。
(2)M&Aの検索基準の設定
潜在的なターゲット企業を特定するための重要な基準を決定します(例:利益率、地理的位置、または顧客基盤など)。
(3)買収候補企業の検索
買収者は、特定した検索基準を使用して、買収候補企業を検索し、評価します。
(4)買収計画の開始
買収者は、検索基準を満たし、良い価値を提供すると思われる1社以上の企業と接触します。最初の会話の目的は、より多くの情報を入手し、ターゲット企業が合併または買収に対してどれくらい積極的であるかを確認することにあります。
(5)評価分析の実施
最初の接触と会話がうまくいったと仮定して、買収者はターゲット企業に、買収者がターゲットをさらに評価できるような実質的な情報(現在の財務状況など)を提供するよう求め、ビジネス単体として、また適切な買収ターゲットとして、評価します。
(6)交渉
買収者は、ターゲット企業の評価モデルをいくつか作成した後、合理的なオファーを構築するのに十分な情報を得る必要があります。
(7)M&Aデューデリジェンス
デューデリジェンスは、オファーが受諾された時点から開始される包括的なプロセスです。デューデリジェンスの目的は、対象会社の財務指標、資産・負債、顧客、人材などのあらゆる側面について詳細な調査と分析を行い、買収者の対象会社の価値評価を確認または修正することにあります。
(8)売買契約
デューデリジェンスが完了し、大きな問題や懸念がなければ、次のステップとして売買契約を締結し、資産購入か株式購入か、売買契約の種類を最終的に決定します。
(9)買収のための資金調達戦略
買収者は、もちろん、買収のための資金調達オプションを早期に検討しますが、資金調達の詳細は、通常、売買契約が締結された後にまとまっていきます。
(10)買収の完了と統合
買収案件が完了し、買収先と買収企業の経営陣が協力して両社の統合プロセスに取り組みます。
このプロセスのうち、エグゼキュージョンプロセスは、(6)〜(10)を指します。
M&Aにおいて、エグゼキュージョンは、要するに、買収対象となる企業の価値を決定するプロセスにほかなりません。買収対象となる企業の価値を決定するにあたっては、以下の2点が重要となります。それぞれについて説明していきましょう。
(1)価値の最適化
デューデリジェンス調査が完了し、その結果について評価を行った後、取引の成功に向けて最もエキサイティングなステップであるバインディング・オファー(売買契約)、そして取引の実行に移っていきます。
M&A取引プロセスにおいて、株式売買契約書(SPA)の作成、規制当局への取引に関する届出の提出、取引財務の作成、初日の準備など、多くの重要なステップが含まれています。取引の終了まであと少しと思われるかもしれませんが、実はその前に検討すべきこと、達成すべきことがまだまだたくさんあります。
M&Aの取引をうまく実行したい(エグゼキュート)したいのであれば、最終的に取引はより多くの価値、たとえば、適正な評価額や所有権を引き継いだ後の状態を、あらかじめしっかりと確定しておくことが大切です。
(2)売買契約書(SPA)
SPAの作成は、しばしば弁護士のための形式的なものとみなされます。SPAのプロセスの多くには、保証、保証、潜在的な紛争の解決などの法的側面が含まれているため、ある程度はその通りです。しかし、SPAには何よりもまず、取引の決済方法を定義する金融条件が含まれ、評価方法についての詳細が記載されます。売買契約書は、買主と売主を法的に拘束するものです。したがって、買収対象となる企業の価値を確定するために、どのような法的拘束力のある事項を実行しなければならないのかを明らかにしておかなければなりません。
エグゼキュージョンは、M&Aプロセスのなかでも企業価値を確定するうえで重要となるプロセスです。エグゼキュージョンプロセスのなかには、専門性が求められる企業価値評価といったプロセスも含まれることから、M&Aのアドバイザリーサービス提供している事業者がエグゼキュージョンプロセスを代理してくれることもあります。エグゼキュージョンは、M&Aを行う目的によってその具体的なプロセスも変化するのが普通です。目的に応じて明確な計画を立案し、しっかりとエグゼキュートするように、M&Aプロセスを進めていくことが大切です。
M&Aは完了までのプロセスで多くの専門的な知識を必要とします。そのため、自社だけでM&Aを完結させることはほぼ不可能であり、一般に、アドバイザリーサービスを提供している事業者と契約を結び、M&Aに関するアドバイスを受けながら進めていくことになります。この記事では、M&Aにおけるアドバイザリー契約の詳細について詳しく解説していきます。
M&Aのプロセスは複雑で専門的であることから、M&Aの成約までのプロセスをサポートしてくれる事業者が多数存在しています。たとえば、米国では、JP Morgan、Goldman Sachs、Morgan Stanley、Credit Suisse、BofA/Merrill Lynch、Citigroupは一般的にM&Aアドバイザリーのリーダーとして認識されており、通常M&A案件数でも上位にランクインしている事業者です。こうした事業者にM&Aのサポートをしてもらう契約がアドバイザリー契約です。
M&Aアドバイザリー会社は、企業の買収、売却、再編を意図する他社に指導を行う会社のことです。個人のファイナンシャルアドバイザーが個人や中小企業に対してガイダンスを提供するように、M&Aアドバイザリー会社は、あらゆる種類の企業取引において企業の舵取りを支援し、多くの場合、デットファイナンスやエクイティファイナンスをサポートしてくれます。M&Aアドバイザリー会社は、具体的には、以下のようなサービスを提供しています。
多くのM&アドバイザリーA会社は、取引成立時に取引金額の一定割合を手数料として徴収しています。この手数料は、実施される取引の種類や取引規模によって異なります。また、一部のファームでは、パーセンテージフィーに加え、一律の手数料を課すケースもあります。
アドバイザリーサービスは様々なサービスがありますが、アドバイザリーサービスを受けられるのは買い手だけではありません。売り手も受けることができます。
売り手(ターゲット)のアドバイザーとしてM&Aファームが関与することをセルサイドという。
逆に、M&Aファームが買手(買収者)のアドバイザーとして活動することをバイサイド業務という。その他、ジョイントベンチャー、敵対的買収、バイアウト、買収防衛策などに関するアドバイスも行うこともあります。
アドバイザリー契約をM&Aファームと締結すれば、以下のようなサービスを受けられます。
M&Aファームが買主(買収者)に買収のアドバイスをする場合、買収企業のリスクとエクスポージャーを最小限に抑えるために、買収対象の真の財務状況に焦点を当てたデューデリジェンスと呼ばれる作業を支援することもあります。
M&Aデューデリジェンスでは、対象企業の財務情報の収集、分析、解釈、過去と未来の業績の分析、潜在的なシナジーの評価、事業評価による機会や懸念事項の特定などが基本的に含まれています。徹底したデューデリジェンスは、リスクベースの調査分析や、買い手が取引を通じてリスクと利益を識別するのに役立つその他のインテリジェンスを提供することにより、成功の確率を高めます。
企業の売却を検討されている場合、あるいは事業領域の拡大のために他の企業を買収する場合、M&A専門のアドバイザリーサービスを利用することで取引結果を改善することが可能です。
M&Aアドバイザリーサービスは、財務状況を確認し、最終合意に向けた様々なステップを支援し、統合後の新会社のパフォーマンスを最適化するための戦略を策定するための重要なプロセスです。
通常、M&Aファームとのアドバイザリー契約は、企業が潜在的なターゲットを特定した後に結ばれ、M&A取引の完了をサポートするためにデューデリジェンスを実施します。しかし、M&Aアドバイザリーチームは、M&Aのライフサイクルを通じたパートナーとして、より多くのことを行うことができます。
M&Aプロセスの流れをよく理解しているM&Aアドバイザリー会社は、M&A取引で起こりがちなことについて事前にアドバイスを与えてくれます。経験豊富な企業幹部でさえ、M&Aプロセスの複雑さに驚かれることがよくありますが、信頼できるアドバイザーとして、対象企業をより深く理解し、デューデリジェンスのプロセス全体を管理し、適切な質問をし、データを正しく取得することを支援してくれます。M&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を締結すれば、デューデリジェンスや、法律事務所や専門家によるデューデリジェンスなど、取引のあらゆる側面の管理を支援してくれます。これにより、ビジネスの継続に集中し、将来に向けて戦略的に注力することができます。
M&Aアドバイザリー会社は、通常、M&Aに関する契約書(LOI)が締結された後に参入します。しかし、アドバイザーは、LOIが締結される前から積極的な役割を果たすことも可能です。多数の現地訪問、マネジメントインタビュー、デリジェンス分析を通じて、ターゲットビジネスの運営方法、そのキーパーソンは誰か、その企業があなたのビジネスにどのように統合されるかを理解し、合意に至る手助けをすることができるのです。
M&Aによって統合される会社はどのような姿になるのでしょうか。クロージング後の統合とシナジー効果を中断することなく、可能な限りシームレスに展開し、統合後の企業価値を最大化することを誰もが希望するものです。どのようなタイミングで統合しようとしても、本来やるべき事業を継続するために、事業の安定化に注力することが重要です。さらに、人材と文化に戦略的な注意を払い、人材の確保を図る必要があります。最初の100日間と安定化のための努力は取引の意図した価値を完全に実現するための基盤を作るものです。
統合計画の取り組みは、慎重に計画し、タイミングを計らなければなりません。契約締結とクロージングが同日に行われることもありますが、その場合は統合計画をその日に先駆けて完了させなければなりません。契約締結からクロージングまでに時間がかかる場合は、その間に計画を完成させることができます。プレ・プランニングは30~60日程度で完了するのが一般的ですが、大企業の統合にはもっと長い時間がかかる場合もあります。
準備にかかる時間はストレスになりますが、まず必要なことを戦略的に処理し、そこから二次的な計画を進めていけば、ストレスは少なくなります。こうした統合計画をサポートしてくれるのも、M&Aアドバイザリー会社の重要な役割の一つです。
M&Aにおける統合プロセスの分析とパフォーマンスの最適化は、どちらもM&Aアドバイザーが支援できるサービスです。統合の際には、プロセス分析が計画の重要な構成要素となります。プロセスの分析では、ギャップや欠陥を明らかにし、特に技術や人材などの重要な検討事項について、将来の改善(シナジー)のためのロードマップを作成します。プロセス分析/改善とパフォーマンスの最適化は、統合された企業の新しいプロセスでより高い効率を推進するために、時間が経ってから統合後にも活用することができます。これは、人員の変更を最小限に抑えるために行われるため、M&Aによる統合後のパフォーマンスを最適化することができます。
M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識を求められるものです。また、手間がかかるプロセスも多いことから、通常、会社内のリソースだけを活用してM&Aのプロセスを完結させることは不可能です。そこで、M&Aに関するアドバイザリーサービスを提供しているM&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を結ぶことで、状況に応じて様々なサービスの提供を受けることができるようになります。M&Aにおいてどのようなサービスが必要であるかは、どのようなM&Aを行うか次第なので、M&Aの目的を明確にしたうえで、M&Aアドバイザリー会社に相談してみましょう。