M&Aの基礎知識 2022/07/30

会社を売る場合の相場はどれくらい?企業価値評価算出の方法を解説

会社を売る場合の相場はどれくらい?企業価値評価算出の方法を解説
                    

会社を売る場合の相場はどれくらい?

 M&Aで会社を譲渡する場合、自分の会社はどのくらいの価値があり、金額としてはいくらで評価してもらえるのでしょうか。逆に、M&Aの話が持ち込まれた際に、買い手として、どのくらいの金額を提示すればよいのでしょうか。M&Aを行う場合、売り手はできるだけ高く売りたい(評価してほしい)、買い手はできるだけ安く買いたい(投資額を抑えたい)と考えるのが通常だと思います。

 企業の価値が一体どのようにして決まるのかがわかれば、会社を売る場合の相場感もわかるはずです。そこでこの記事では企業価値評価の方法についてその概要を説明していきます。

会社を売る場合の相場を計算するには、企業価値評価算出

図表1: 企業価値評価の方法とその特徴

アプローチ

 (出所: 公認会計士協会(2013)「企業価値評価ガイドライン」

 

 企業価値を評価する手法は様々なものがありますが、一般的な評価方法にはその企業

の何に着目するかによって、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチの 3 つに区分されます。ただし、企業評価の方法には幾つかの考え方があるものの、絶対的な評価方法というものは存在しません。絶対的に正しい評価方法があるわけではないので、評価対象となる企業の特性に合わせて評価方法を選択するのが大切です。上記、図1は、企業評価の方法とその特徴を示したものです。ここからは、それぞれの企業かつ評価の方法について詳しく説明していきます。

インカムアプローチ(企業の収益力に着目した評価方法)

 インカム・アプローチは、企業から期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて企業価値を評価する方法です。具体的には、「DCF法(割引キャッシュフロー法)」や「収益還元法」などがあげられます。インカム・アプローチは評価対象会社が将来獲得すると期待される利益やキャッシュ・フローなど収益力をベースに評価する方法なので、将来の収益獲得能力を企業価値に反映させやすく、また、その企業独自の収益性などを基に評価するため、企業が持つ固有の価値を企業評価に示すことが可能です。

 譲受企業にとっての投資判断という意味では最も理論的な評価方法である一方、将来の利益やキャッシュ・フローを見積もる事業計画等の作成に対する恣意性の排除が難しいことも多く、企業価値評価の客観性が問題となるケースもあります。

マーケットアプローチ(株式市場における株価に着目した評価方法)

 マーケット・アプローチは、上場している同業他社や、類似する会社や事業の取引事例などと比較することによって相対的に企業価値を評価する方法です。マーケット・アプローチでは、評価方法に実際の株価の計算要素を盛り込みます。株価は、企業や業種が持つプラス要素、マイナス要素が十分吟味されたうえで、「買い手」と「売り手」の間で実際に取引が行われ、決定されています。そうした特性を持つ株価を計算要素に使って企業価値評価を行うことから、より具体性を持った評価方法ということができます。

このタイプには「類似企業比較法(類似企業株価指標倍率法)」や「類似業種比較法(類似業種比準価額法)」などがあります。

 市場で取引されている株式との相対的な評価アプローチであるためある程度客観性には優れていると言えます。マーケット・アプローチは第三者間や市場で取引されている株式との相対的な評価アプローチであるため、市場での取引環境などが反映されています。一方で他の企業とは異なる成長ステージにあるようなケースや、そもそも類似する上場会社が無いようなケースでは評価が困難で、評価対象となっている会社固有の性質を反映させられないケースがあるのも事実です。

 中小企業の大半は規模や業態などの類似する上場企業が無い場合も多く、中小企業の M&A においてこの評価方法を採用すると、実態に即した企業評価が困難な場合も少なくありません。類似した商品・製品を取り扱っていても、事業のコンセプトやビジネスモデルが全く異なる場合にも、旧来の企業とは収益性やリスクが異なることが考えられ、マーケット・アプローチを適用することによって誤った評価になる可能性がある点に留意すべきです。

コストアプローチ(企業の純資産に着目した評価方法)

 会社の貸借対照表上の純資産に着目して企業価値を評価する方法です。評価対象の企業が保有している資産を再構築すると仮定し、それに要するコストに観点を置いた方法で、保有している資産をベースに算出する方法となっています。

 帳簿上の純資産を基礎として評価をするため、帳簿作成が適正であれば、シンプルで客観性に優れているといえます。他方で、一定時点の純資産に基づいた評価方法のため、その企業の持つ将来の収益性を加味したり、景気や市場の取引環境を反映することは難しいと言われています。このタイプには「簿価純資産法」や「時価純資産法」などがあります。

 コストアプローチは、企業の存続を前提としていないため、企業を清算するとき(解散するとき)の価値である「清算価値」と言われることが多々あります。資産価値は、基本的に将来のことや今後の価格変動が反映されているわけではありません。また資産にいくら含み益があったとしても、その資産を売却しない限り、その含み益を実際に「現金」として手にすることはできません。会社がその含み益を「利益」として享受することはできないのであれば、事業継続が前提の会社の企業価値を考える上で、この含み益を価値として評価することに意味があるとはいえません。このため、「コストアプローチ」は資産をすべて売却して現金化するような局面、すなわち企業の”清算”の場面によく使用されます。

企業価値算定各アプローチのメリット・デメリットについて詳しくはこちら

中小企業等の M&A で採用される評価方法

 中小企業等の M&A における企業価値評価では、多くの場合、上記③のコストアプローチによる評価方法が基準となっています。また、その中でも企業の貸借対照表に表示

されている資産負債をそれぞれ時価に評価し直し、それらの合計額の差額を企業価値として評価する「時価純資産法」が採用されています。その理由は、評価の時点における企業の正味財産価値を客観的に求めることができることから、誰が行ってもある程度同じような評価結果を得ることができ、企業価値の評価に恣意性の入る余地が小さいことがあげられます。

 しかし、この評価方法では、前述の通り、一定時点の純資産に基づいた価値にすぎず、将来の収益性や景気、市場の環境変化等が企業価値に反映されていません。そこで、時価純資産法の評価額に M&A 後における収益力や予想される事業シナジーを考慮した「営業権」を加算することによって、継続企業としての企業価値評価を実現しています。

時価純資産法による評価額 + 営業権の評価額

 すでに説明したように、非上場である中小企業M&Aにおける企業価値には絶対的かつ客観的な価値は存在しません。あくまでも、最終的な取引価格は、外部環境や業界動向、M&A マーケットにおける需給状況、会社内の潜在的なリスク等を総合的に勘案して、当事者間の価格交渉によって決まります。特定の場面では特定の評価アプローチを必ず採用すべきであるとは言い難く、採用すべき評価アプローチはもちろん、それぞれのアプローチの中で具体的にどういった評価法を用いるべきか、どのような前提条件をおくべきかといったことは、個々の場面によって変わるものと考えるべきです。

 中小企業のM&Aでは、企業価値を決めるのによく使われる計算式があり、ある程度の合理的な相場感、目安というものがありますが、上記の計算式と相場感を知っておき、その合理的なレンジの中で価格が決まるようになれば、割高に会社を買ってしまったり、割安に買いたたかれてしまうケースを減らすことが可能です。

おわりに

 会社を売る場合の相場感は、企業価値評価でよく用いられている計算式を使って計算することが可能です。どの評価方法にせよ、絶対的な価値を示しているわけではないことに注意が必要です。企業の価値は様々な要因によって決まります。上記で紹介した3つの方法はあくまでも企業価値を推定しているに過ぎないものです。まずは、インカムアプローチ・マーケットアプローチ・コストアプローチの概念を理解しておけば、相場よりも安い価格で会社を売ったり、相場よりも割高の価格で会社を買ったりせずに済むでしょう。厳密な計算は、実際にM&Aをしなければならなくなった際には、仲介企業や専門家に依頼して正確に行ってもらいましょう。

専門家への依頼なら一括お問い合わせのM&Aガイドへお気軽にご相談ください。

 

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関連コラム

事業譲渡における譲渡元企業の会計処理の基本的な考え方/仕訳方法を解説
事業譲渡における譲渡元企業の会計処理の基本的な考え方/仕訳方法を解説

はじめに

事業譲渡とは、企業を構成する事業を他の企業に移転することを言います。事業譲渡では、必ずしも会社のすべての事業が譲渡されるわけではなく、一部のみのケースも存在し、会社法の規定に則って手続きが進められます。事業譲渡を行うには買い手企業を探し、事業範囲を決定しなければなりません。

事業譲渡は、まず、買い手企業(譲渡先)探しから始まります。事業譲渡の範囲や概要の条件を相手に提示してもらいます。この際に、買収価格や資産・負債の受け継ぎなどについても提示してもらい、意向表明書として相手から示されることになります。

この記事では、事業譲渡における事業を譲り渡す側(譲渡元)においてどのような会計処理が行われるのか、その基本的な考え方と仕訳方法をわかりやすく解説していきます。

事業譲渡における会計処理の基本的な考え方

事業譲渡は、会計の世界では「事業分離」と呼ばれます。ですが、今回はわかりやすくするために、事業譲渡と呼んでいきましょう。

事業譲渡は、ある企業の事業の一部を他の企業に移転することを言うと会計基準において定義されています。事業を譲渡する場合、事業の移転先がどのような会社であるかによって、会計処理の仕方が異なります。つまり、仕訳も異なるということです。

インターネット上の多くの記事では、事業の移転先が子会社でも関連会社でもないケース(すなわち、投資を精算するケース)を取り扱っていて、会計処理の仕訳方法を完全には説明していません。しかし、実際には、移転先がどのような会社かによって会計処理の仕方が異なるので注意が必要です。

事業譲渡が行われた際に譲渡元企業が適用すべき会計処理は、譲渡元企業からみて移転した事業に対する投資が継続しているか、それとも投資が精算されているかに基づいて決定されます。

もし、投資が継続している場合には、“投資を精算した”とは考えないので、譲渡元企業に損益は発生しません。つまり、投資が継続していれば、譲渡元企業に損益が発生しない簿価承継によって事業は譲渡されることになります。

一方で、投資が精算されている場合には、“投資が継続していない”と考えるので、譲渡元企業に損益が発生します。つまり、精算したとみなされれば、時価による譲渡もしくは交換として会計処理が行われます。

事業譲渡の際の仕訳方法

譲渡元企業側からみれば、事業譲渡は「事業を譲渡し」、「対価を受け取る」という取引です。したがって、以下の仕訳が基本となります。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

受け取った対価

☓☓☓

分離した事業

☓☓☓

次の例について考えてみましょう。

  • 当社は簿価100の事業Xを資本関係のないA社に分離した。
  • 受け取った対価は、現金等の財産(時価は150、A社における帳簿価額は120)である。

この場合、受取対価は現金等の財産であるため、投資は清算されたと判断します。よって、対価は時価の150で計上し、損益を認識することになります。仕訳は以下のとおりです。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

現金等の財産     

150

事業X

100

 

 

差額(損益)

50

同じように次のケースについて考えていきます。

  • 当社は簿価100の事業Xを資本関係のないA社に分離した。
  • 受け取った対価は、A社株式(時価は150)である。
  • 取引後のA社に対する持分比率は20%未満なので、A社株式はその他有価証券として保有する。

今回受取対価はその他有価証券であるため、投資は清算されたと判断します。よって、対価は時価の150で計上し、損益を認識します。仕訳は以下の通りです。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

A社株式

150

事業X

100

 

 

差額(損益)

50

さらに、投資が精算されずに、継続しているケースについても考えていきましょう。

  • 当社は簿価100の事業Xを資本関係のないA社に分離した。
  • 受け取った対価は、A社株式(時価は150)である。
  • 取引後のA社に対する持分比率は50%超なので、A社株式は子会社株式として保有する。

今回は、受取対価は子会社株式であるため、投資は継続していると判断します。よって、対価は簿価の100で計上し、損益は認識しません。仕訳は以下のとおりです。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

A社株式

100

事業X

100

分離先(譲渡先)企業の株式のみを受取対価とする事業譲渡において、分離先企業が新たに分離元(譲渡元)企業の子会社となる場合、経済実態として、分離元企業における当該事業に関する投資がそのまま継続していると考える必要があります(事業分離等会計基準87項)。そのため、損益を認識することをしないのです。このため、個別財務諸表上、当該取引において、移転損益は認識されず、当該分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定します。

子会社となるケースについてみてきたので、次に関連会社となるケースについても考えていきましょう。

  • 当社は簿価100の事業Xを資本関係のないA社に分離した。
  • 受け取った対価は、A社株式(時価は150)である。
  • 取引後のA社に対する持分比率は20%以上なので、A社株式は関連会社株式として保有する。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

A社株式

100

事業X

100

今回も受取対価は関連会社株式であるため、投資は継続していると判断します。よって、対価は簿価の100で計上し、損益は認識しません。

おわりに

事業を譲渡することで譲渡側はその対価を得ることになります。事業を譲渡する際には、譲渡先に譲り渡した事業に対して投資が継続するのか、精算されるのかによって会社処理の仕方が異なるので注意しなければなりません。精算される場合には、損益を認識しますし、投資が継続される場合には損益を認識しません。仕訳の方法が異なることをきちんと理解しておきましょう。

関連コラム:事業譲渡とは?事業譲渡の概要と手続きについて解説

 

M&Aの基礎知識
2022/08/06
垂直統合戦略と水平統合戦略とはなにか?基本的考え方について
垂直統合戦略と水平統合戦略とはなにか?基本的考え方について

はじめに

M&Aのプロセスは、買収の種類と事業戦略によって、「水平統合」と「垂直統合」に分類することができます。水平統合は、企業規模の拡大、製品ラインナップの多様化、競争の緩和、新市場への進出を目的としたM&Aです。一方で、垂直統合は、利益を高め、消費者へのアクセスをより迅速にすることを目的としたM&Aであると言えます。この記事では、M&Aのプロセスを垂直統合と水平統合に分け、その効果について説明していきます。

M&Aにおける水平統合と垂直統合の概要

水平統合と垂直統合は、企業が自らの地位を固め、競合他社との差別化を図るために用いる競争戦略です。どちらも、他の事業の買収を伴う、つまりM&Aを活用した企業の成長戦略であると考えることができます。

垂直統合は、同じサプライチェーンに沿って複数の企業が結合することであるのに対し、水平統合は、企業が同じ業界で顧客基盤、市場規模、または製品の多様性を高めるために類似した他の企業(多くの場合競合)をM&Aによって取得することを意味します。

さらに、水平統合は、製品の差別化を図ったり、市場支配力を拡大したりするために行われる場合もあります。水平統合は、多くの場合同じ業界内で行われますが、異業種や関連業界で行われるケースもある行為です。したがって、その意図は、必ずしも自社のサプライチェーンをより多くコントロールすることによるコスト削減ではないものの、水平統合を行う企業は、消費者基盤、資産や資源の増加、または収益の増加を期待して行うことが多いと考えることができます。

水平統合と垂直統合という2つの戦略は、企業の拡大を助けるものではあるものの重要な違いがあります。

水平統合は、企業が関連する企業、つまり競合他社を買収することによって成長することを目指す戦略です。一方、垂直統合は、企業が生産や流通の1つまたは複数の段階を支配することで、産業プロセスのすべての部分を所有することを目指す成長戦略です。

水平統合の基本的考え方

水平統合は、規模の経済、競争力、市場シェアの拡大、事業の拡大をもたらす競争戦略です。より多くの資源、市場、能力、効率性を目標に水平統合を行います。水平統合とは、言い換えれば、似たような2つのビジネスが1つの会社になることである。たとえば、ナイキとアディダスの合併は、水平統合の一例です。

両社は、スポーツウェアの製造・販売を営んでいます。M&Aを行って水平統合を実施した2つの事業体は、独立して事業を行う場合よりも、より多くの収益を実現できるような体制になるはずです。水平統合は活動の最適化、または会社のプロセスおよび活動の範囲内の戦略的なビジネス活動の統合を促進する可能性があります。

垂直統合は、サプライチェーン上で同じ段階にある限り、水平統合は産業間でも起こりうることに注意しましょう。たとえば、サウジアラビアの石油・ガス採掘業者が、ブラジルのコーヒー豆栽培業者を買収することがあります。両社は原材料の供給業者であり、サプライチェーン上で同じ段階にあるにもかかわらず、業種が異なっていますが、サプライチェーン上の同じ段階の事業者同士によるM&Aの実行は当然あり得るものです。

具体的な例として、ディズニーがピクサー(映画製作)と、エクソンがモービル(石油生産、精製、流通)と、あるいは悪名高いですがダイムラー・ベンツとクライスラーの合併(自動車の開発、製造、小売)が水平統合の有名な事例です。

もし、同じ業界に属していて、同じ事業を営む企業同士が水平統合した場合どうなるでしょうか。たとえば、ボーイング社とエアバス社は共に飛行機を製造しており、合計で99%の市場シェアを誇っています。もし、この2社が水平統合をすれば、独占が可能になるのです。

こうした水平統合は、特定の産業において独占的な力を生み出し、消費者にとって不利益となる場合があることに注意が必要です。競争の低下により、談合行為が誘発され、製品価格の上昇につながる可能性があります。

垂直統合の基本的考え方

垂直統合とは、企業が自社製品のサプライチェーンを所有する戦略的構造であり、通常、異なる生産段階に関与する1社または2社の企業で構成されます。

サプライチェーンには、原材料の調達から製品化、販売までのすべての段階が含まれます。その意味で、垂直統合型の企業は、サプライチェーンの複数(またはすべて)の部分を所有する戦略です。

たとえば、ある企業が綿花の生産者とTシャツの製造会社を買収し、その製品を自社で販売することがあります。つまり、元の会社(現在は、同じ垂直方向に沿った複数の会社のコングロマリット、または同じ種類の製品)が、商品、製造、流通、小売というサプライチェーンの4つの部分を支配することになるのです。

垂直統合を行うと、サプライチェーンをよりコントロールできるようになり、より低い価格で製品を提供できるようになります。市場における市場支配力が高まるなど、企業にとって多くの利点があります。

垂直統合の方法は、企業の種類によって、後方統合と前方統合の2つに分かれます。

(1)前方統合

企業がサプライチェーンの前方に進出する場合(例えば、メーカーが小売業を買収した場合)、前方統合を行うことになります。これは通常、鉱業会社がさらに「下流」の工場を支配するような、サプライチェーンの始点に近い会社が行うものです。この場合、メーカーは流通経路をコントロールすることで、中間業者を通さずに直接消費者に製品を提供することができるようになります。

(2)後方統合

逆に、企業が後方(または「上流」)に拡大し、サプライチェーンのさらに後方の生産部分を支配する場合(たとえば、小売企業が商品のメーカーや生産者を買収した場合)、それは後方統合を行ったことになります。企業が原材料の供給者と合併する場合、プロセスの一部を外部調達するのではなく、必要なものをすべて自社で調達するため、多くのコストが削減されるのが一般的です。この意味で、大手小売企業や流通企業は、輸送費を節約し、供給者を抑えるために、自社商品の生産者やメーカーの買収を行います。

5.おわりに

水平統合と垂直統合は、ある企業が他の企業を統合する2つの成長の方向性を示すものです。水平方向の合併は、互いに競合する2つのビジネスに関するものです。一方、垂直合併は、同じサプライチェーン内で動作する2つのビジネスに関するものです。水平方向のM&Aは、競合する2つの会社が一緒になって1つの会社を作るときに起こり、垂直方向のM&Aは、異なる生産段階にある2つの会社が一緒になって1つの会社を作るときに起こります。

収益を上げたい、または製品の幅を広げたい場合は、M&Aを活用した水平統合の機会を探すとよいでしょう。この場合、M&Aの候補となる企業は、自社と同様の製品・サービスを持ちながら、自社が希望する製品・サービスを追加していたり、現在自社が参入していない地域で事業を展開しているところが良いでしょう。

コスト削減によって競争力を高めたい場合、あるいは重要な供給源へのアクセスを確保する必要がある場合は、垂直統合を検討する必要があります。この場合、M&Aの候補となる企業は、自社の製品を製造するのに必要となる原材料を作っていたり、自社の製品の販売をするのに必要となる販売先であることになります。

どちらの水平統合にせよ、垂直統合にせよ、一長一短の戦略です。その効果をきちんと理解して活用することが大切です。

M&Aの基礎知識
2022/07/30
M&A・事業承継の“マッチング”を支援する相談先・プラットフォームの普及
M&A・事業承継の“マッチング”を支援する相談先・プラットフォームの普及

はじめに

会社の事業を承継することを考えるとき、誰に承継するかは非常に重要です。自分の血縁関係の中で事業を承継するケースもあれば、会社の従業員に事業を承継するケースもありますし、全くの会社の外部の人あるいは会社に事業を承継するケースもあります。

このうち、3つ目の会社の外部に人あるいは会社に事業を承継するケースでは、一般に、事業承継を行う譲渡側と、事業承継を受け入れる譲受側があり、両者のニーズが一致するように調整しなければなりません。その調整をマッチングと言います。会社の外部の人あるいは会社に、事業を承継するケースでは、この両者の合意がない限り、事業承継が成立しません。昨今の事業承継ニーズの高まりから、より効率的に、より納得感が得られるように両者を結びつけることを目的として、多くの事業承継マッチング業者、あるいは、マッチングプラットフォームが誕生しています。

そこでこの記事では、会社の外部の人あるいは会社に事業を承継する際に、近年盛んに利用されるようになっている事業承継マッチング業者、マッチングプラットフォームについて解説します。

M&A・事業承継におけるマッチング

会社や事業を売りたい(承継したい)と考えている会社が、会社や事業を買いたいと考えている会社に出会うためには、両者を引き合わせなければはじまりません。このように売りたい側と買いたい側が出会い、条件等双方の合意が得られた状態がマッチング成功となります。

一般に、会社を売りたい人と買いたい人のマッチングを自ら行うことは難しいことから、M&A。事業承継の専門家に相談することになります。近年、事業を売りたいという事業者と、事業を買いたいという事業者をマッチングさせる事業承継マッチング業者やM&Aマッチングプラットフォームと呼ばれるサービスを提供する企業が増えてきています。

事業承継マッチング業者は、中小企業の事業承継(M&A)を支援する機関であり、民間のM&A専門仲介機関や、金融機関、士業の専門家などが存在しています。マッチング業者の担う業務は、相手先企業のマッチングから行う場合もあれば、デユーデリジェンスや契約締結等の特定の業務に特化している場合もあり、その関わり方は様々です。事業承継マッチング業者に支払わなければならない仲介等の手数料についても、仲介者かアドバイザーかといった契約関係だけでなく、案件の規模や報酬体系(着手金・中間金・成功報酬等)によって異なります。

また、事業承継のマッチング業務は、案件の規模にかかわらず同程度の業務が発生するため、最低手数料を設けている専門仲介機関も多くなっています。そのため、近年では、インターネット上でのマッチングも行われるようになってきており、低コストでマッチングを図ることで小規模事業者でも事業承継を実施できる環境も整いつつあります。

いずれにせよ、事業承継を推進していくためには、金融機関、専門仲介機関、士業専門家といった、当事者以外の支援が重要です。こうした支援機関の事業承継への理解を深めるとともに、支援機関同士が連携し専門性の補完やマッチングを図ることで、様々なニーズに対応していくことが期待されています。

事業承継マッチング支援の相談先(専門家)

ここでは、まず事業承継マッチング支援をする代表的な相談先(専門家)について説明していきます。

① 公認会計士

公認会計士は、監査及び会計の専門家として、財務書類の監査証明業務のほか、財務に関する調査や相談に応じており、事業承継の様々な場面で、広い見識に基づく支援が期待できます。特に、経営状況・課題の把握(見える化)や経営改善(磨き上げ)をはじめ、非上場株式の評価・M&Aにおける売却価格試算等の複雑な状況での公正な評価、経営者の個人保証の解除、適正な会計の導入支援といった、将来の事業展開も踏まえた幅広い助言が期待できます。

② 司法書士

司法書士は、商業登記、不動産登記等の実務家として、事業承継における株式及び事業用不動産の承継、M&A、種類株式及び民事信託の活用、担保権の処遇等についてサポートしています。また、日本司法書士会連合会においては、商業登記・企業法務対策部、民事信託等財産管理業務対策部等を設置して事業承継に関する支援事業を行っています。

③ 税理士

税理士は、顧問契約を通じて日常的に中小企業経営者との関わりが深く、決算支援等を通じ経営にも深く関与しています。経営者向けアンケートにおいても、事業承継の相談先として選ばれやすい存在です。また、日本税理士会連合会にて構築した顧問税理士同士によるマッチングサイト「担い手探しナビ」の利用等を通じて、 多くの税理士が、後継者不在の中小企業に対するM&A支援に着手するなど積極的な事業承継支援を行っており、主体的な関与が期待できます。経営者に最も近い存在として、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、相続税に関する助言や株価の評価、生前贈与のやり方や種類株式の発行に関する助言、中小企業会 計要領・中小企業会計指針の活用支援等、事業承継に関係する幅広い領域にわたる支援をしてくれます。

④ 中小企業診断士

中小企業診断士は、「中小企業支援法」に基づき、中小企業のホームドクター として、様々な経営課題への対応や経営診断等に取り組んでいる事業者です。事業承継に関しては、事業承継診断やプレ承継支援(事業承継計画の策定支援、 後継者教育支援、磨き上げ支援等)、ポスト承継支援のほか、M&A等に関わる支援も期待されています。

⑤ 弁護士

弁護士は、中小企業や経営者の代理人として、事業承継を進めるにあたり、経営者と共に金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・説得を行い、円滑な事業承継を進める役割を担います。特に、株主関係が複雑な場合や、会社債務・経営者保証等に関する金融機関との調整・交渉が必要な場合、M&Aを活用する場合等においては、法律面全般の検討と課題の洗い出し、それらを踏まえたスキーム全体の設計、契約書をはじめとする各種書面の作成といった支援が期待される。また、日本弁護士連合会は、事業承継に関するプロジェクトチームを設置し、中小企業の事業承継に関する課題分析と改善策の検討、有用なスキーム・事例の周知活動、具体的な相談体制の整備等に取り組んでいます。

⑥ 金融機関

金融機関は、中小企業に日常的に接して経営状況を把握しており、中小企業に対してきめ細やかな経営支援等を実施し得る立場にあります。また、金融機関が取引先企業の事業実態を理解し、そのニーズや課題を把握し、経営課題に対する支援を組織的・継続的に実施することは、取引先企業の価値向上、ひいては我が国経済の持続的成長につながるとともに、金融機関自身の経営の安定にも寄与するものです。このような観点から、金融機関は取引先中小企業の事業承継問題に対しても積極的な支援を実施することが期待されています。

⑦商工会議所・商工会

商工会議所・商工会は、経営指導員の日々の巡回指導等を通じて中小企業経営者との間に信頼関係を構築している身近な存在です。このため、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、事業承継セミナーの開催や事業承継施策に関する情報提供、専門家の紹介、事業承継・引継ぎ支援センターとの連携等が期待されています。

代表的な事業承継マッチングプラットフォーム提供事業者

近年では、IT技術を活用しインターネット上で事業承継マッチングを行う業者も誕生しており、低コストでマッチングが実現できる環境も整いつつあります。

事業承継マッチングプラットフォームは、事業や会社の譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステム(プラットフォーム)に情報を登録することによって、マッチングをはじめとする事業承継の手続きを低コストで行える支援システムです。従来、事業承継においては、事業者自身が譲り渡しや譲り受けの情報にアクセスすることが困難でした。その橋渡しを事業承継支援業者(金融機関、M&A仲介業者など)が担っていたのです。結果として、情報量の少なさからマッチングの可能性が低くなってしまったり、マッチングにかかるコストが大きく、業者に支払うべき高額の報酬につながってしまったり、といった課題がありました。こういった従来のM&Aの問題点を解決するために誕生したサービスが、マッチングプラットフォームです。

それでは、現在の日本でマッチングプラットフォームを提供している代表的な事業者を2つ紹介します。

①BATONZ(バトンズ)

BATONZは、無料で利用できる成約数No.1のM&A・事業承継支援サービス提供事業者です。企業と第三者のマッチングを支援し、M&Aによる事業継承をサポートします。バトンズでは小規模・零細企業の案件だけでなく、中小企業も含めた幅広い規模の案件も掲載しており、個人・個人事業主・法人といった、あらゆる属性の人が利用している事業者となっています。業界の標準価格よりもかなり安い金額で成約までたどり着くことができるうえに、充実したサポート体制が魅力となっています。

②TRANBI(トランビ)

TRANBIは、挑戦したい個人・中小企業のためのM&Aや事業開発を中心とするイノベーションプラットフォームです。インターネットを通じて、事業を買いたい人と売りたい人がマッチングする事で、 これまで多額の資金を必要としたM&Aの費用を大幅に削減することに成功しました。会員数も2022年7月時点において、106,246名と業界最大級を誇っています。

昨今、M&Aのマッチングプラットフォームは乱立しており、上記以外にもたくさんのプラットフォームがあります。

頑張っていく事業承継

おわりに

事業承継において、会社や事業の譲り渡し先を決めるのは容易ではありません。会社のことを理解していないところに事業を承継してしまえば、会社に残った従業員が不幸になることはもちろん、これまで会社に培われてきたものが台無しになってしまいます。だからこそ、マッチングを支援してくれる事業者の存在は、事業承継において欠かせないのです。

事業承継においてマッチングサービスを提供している事業者は数多く存在します。従来は、専門業者に依頼するケースも多かったものの、自分たちで直接プラットフォームサービスを利用するケースも多くなっています。会社の将来を左右する事業承継ですので相手探しは重要です。

M&Aの基礎知識
2022/07/31