昨今、後継者不足により事業承継の問題がある中、M&Aで会社を売るという選択肢を取る経営者が増えています。会社を売ることは大変な出来事ですが、ポイントを押さえて売却をすれば様々なメリットがあります。この記事では、M&Aで会社を売却するメリット、会社を高く売るポイントについて解説します。
会社を売るメリットとは
会社を売ることによって、会社の存続や、経営者が利益を受けることができます。
株主の収入になる
会社を売ることの大きなメリットは、経営者や株主が売却益を得られることです。会社の規模や経営状況によりどの程度利益が出るかは異なりますが、独自のノウハウや強み、相性のいい買い手が見つかれば、売却益を大きくすることも可能です。
事業と従業員の雇用を守ることができる
会社を畳んでしまうことにより、従業員は新しい就職先を見つけなければなりません。しかしM&Aで会社を売る場合、会社が存続できるようになり、従業員の雇用が守れるというメリットがあります。また、事業自体も存続するため、既存の取引先にも継続して利用してもらうことができます。
会社を畳むことなく引き継ぐことができる
M&Aで会社を売ることのメリットは従業員の雇用維持や取引先へ迷惑をかけずに済むことの他に、会社自体を存続させることもあります。これは経営者が長年育ててきた会社を潰さず、看板や法人を買い手企業へバトンをつなげることができ、経営で培ってきた会社の技術を後世に残すことができます。
債務や個人保証などから解放される
債務や個人保証などから解放されることも会社売却を行うメリットです。個人保証とは、会社が金融機関から融資を受ける際に、経営者などの個人が会社の融資について保証をする場合に、その経営者などが負う保証のことです。
会社が金融機関などからお金を借りるときには、社長の個人保証がついている場合が多いのですが、株式譲渡を行った場合には会社に紐づく債務の実質的に次のオーナーである買い手(経営者)が支払義務を負うことになります。また、その場合だと個人保証を名義変更することが一般的で、売り手企業の経営者はここで個人保証から解放されることになります。
買い手とのシナジーで会社が成長する機会を創出できる
買い手とのシナジーで会社の成長が期待できる点も、会社売却のメリットと言えます。M&Aで会社を売り、元々足りていなかった資金面や営業力、買い手企業のノウハウなどを掛け合わせることによって、会社が成長の機会を得ることができます。
会社を高く売るポイントとは
会社を売却する際には下記のような算式で計算されます。
会社の売却額-M&A費用(仲介手数料、税金等)=経営者の手取り額
そのため、売却額を高くすること、M&A費用を安くすることがポイントになります。会社を売るときのポイントを「事業」と「買い手」と「スキーム」の3つの観点から解説します。
会社を高く売るポイント:事業
収益性を高く維持する
会社を売る際の金額を決める要素として一番わかりやすいのは売上、利益などの数字です。
例えばDCF法であれば、主に対象資産が生み出す将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を算出する方法のため、フリーキャッシュフロー(※)が大きければ大きいほど、企業価値は増加していきます。そのため、計算の基礎となる営業利益が大きくなれば企業価値も大きくなり会社を高く売ることができます。
※フリーキャッシュフローの算定:営業利益×(1-税率)+減価償却費-設備投資-運転資本
取引先や顧客
取引先と顧客も会社売却の金額を決める上で重要です。
もし大企業の大口の取引先がある場合、買い手企業からするとつながりのない大企業とのつながりができるため、会社を売る際に高く評価される可能性があります。また、継続して自社のサービスを利用している会社があれば、今後も長期的に収益を得られる可能性が高いため、こちらも高く評価される場合があり、会社を高く売ることにつながります。
技術力・ノウハウ
技術力やノウハウも会社売却の金額を決める上で重要になってきます。技術力やノウハウは会社の数値上表されないものではありますが、会社の利益を大きく支えているものになります。特にそれが独自の技術やノウハウであったり簡単にマネできないものであれば、会社を売る際に高く評価されることが多いでしょう。
従業員の経験・スキル
従業員は会社の大切な財産です。M&Aでは優秀な人材がそろっている会社には高い企業価値が付く可能性があります。特にその経験やスキルが簡単に得られるものでなかった場合、高い評価を得られます。
勤続年数が長く、経験豊富な従業員を採用するよりも会社を買うことで手に入れたほうが効率的であるため、そのような会社を買う場合もあります。
財務状況・法務状況の健全化
買い手企業がM&Aで恐れる要素の一つとして、買った企業が粉飾をしていることがあげられます。買い手は財務・法務状況が健全であるほど安心でき、価格交渉もしやすくなります。そのため、
適切なタイミングで会社を売る
会社を売る際は、タイミングが非常に重要になります。企業価値が一番高い時に会社を売ることで、より高い価格で売ることが期待できるからです。特に業績が好調な時や、最新技術や独自技術が社会の潮流として必要とされているときなどは、企業価値が高くなりやすくなります。逆に業績が不調の時や廃れた技術や規制緩和によって免許も必要なくなる場合などは将来性がないとみなされ、企業価値は低くなりやすいです。
このように、企業価値が高いタイミングは会社によって異なるので、会社売却を考えたら専門家に相談して、一番いいタイミングで売却できるようにしましょう。
会社を高く売るポイント:買い手の選択
買い手候補を多く見つける
会社を高く売る方法として、買い手候補を多く集めるのも重要です。
買い手が複数いることで、買い手同士が競争する環境になり、高い価格が付きやすくなります。その中から、最も好条件を提示した買い手候補を取引相手に選定することもできます。
会社売却にいいM&A専門家を見つけること
M&A専門家の選定も会社を売る際に重要になります。会社を高く売るには、M&A専門家に支払う相談料や手数料といった諸費用を抑えることが重要になります。併せて買い手候補を多く見つけるためには、広いネットワークを持つM&A専門家を選ぶ必要があります。
そのため、各社の費用とサポート体制を比較し、最もM&A専門家を見つけましょう。
シナジー効果の高い買い手企業を見つける
買い手はM&Aによりシナジー効果を発揮できる会社を探しており、売却価格は、買い手がその会社にどの程度の価値を見出すかによって大きく変わります。
これは会計上ののれんに影響していきます。のれんとは、M&Aによって会社を買収した時の買収価格と買収される会社の時価純資産の差額のことを言います。買収価格は買い手・売り手で同意した金額で、時価純資産は会社を今処分した金額に近い金額を指しているため、当該金額を上回るものがのれんに該当します。
そのため、のれんはブランド力や技術力、人的資源や地理的条件、顧客ネットワークなど見えない資産価値を表しており、そういった帳簿上には直接現れづらい部分に魅力を感じる買い手を見つけることにより、今処分した場合の純資産額よりも大きい価格で売ることができます。
買い手の業種
買い手が異業種なのか、同業種なのかも売却額に影響していきます。それぞれ何を意識しているかによって変化するため、認識しているといいかと思います。
異業種の場合
異業種の場合は、目的としては異業種の情報がほしい、新規参入したいなどになり、得られる点が多いため、高く売れる傾向にあります。ただ、なじみのない業種の場合内容理解に時間がかかるため、会社を売るスピードは遅くなる傾向にあります。
同業種の場合
同業種の場合は、目的として規模の拡大が多く、事業内容を詳細に把握しているため、会社を売るスピードは速い傾向にあります。また、事業に詳しいことにより、本質的な面を重視するため、目的が達成されるのであれば高く売れ、目的と違っていたら厳しい条件を提示してくる可能性があります。
隣接業種の場合
隣接業種の場合は買収によるシナジーが大きな目的となります。そのため、同業種よりも高い金額で交渉をすることができ、異業種よりも事業は把握しているため、スムーズに会社を売ることができる傾向にあります。
会社を高く売るポイント:スキーム
株式譲渡と事業譲渡
会社ごと売却する株式譲渡と事業のみを譲渡する事業譲渡では、どのような違いがあるのでしょうか。
株式譲渡は株主が買い手に株式を売ることで、買い手が経営権を取得することになります。この場合は売却利益を得ることができるのは株主になり、オーナー企業であれば社長個人が利益を得ることになります。対して事業譲渡は会社が自社の事業の一部を売ることで、買い手がその事業を吸収することになります。この場合、会社が自社の事業を売っているので、売却利益は会社の利益に計上されます。
売却価額
会社売却では、株式譲渡の場合は一般的に従業員もそのまま移動しますが、事業譲渡の場合には、異なる企業の従業員になるために転籍手続が必要になります。この際に、人の移動が限定的な可能性があり、買い手にとっては不安要素になります。
そのため、人の数で売り上げが伸びる業態や属人性が高い業態、採用が難しい職種の人材を必要とする業態の場合、価格が高くなりやすくなります。
税金費用
税金費用はM&Aの中でも、最終の手取り額に大きな影響を与えます。その金額については株式譲渡と事業譲渡では、取引形態と利益を受け取る主体が異なるため、納める税金も異なってきます。税金を少なくしたいのであれば、有利なのは株式譲渡となります。株式譲渡の場合、譲渡益は消費税の対象とはならず、譲渡益に対して20%の税金が課せられます。
それに対して事業譲渡は売却した利益に対して法人税として29.74%と消費税の10%が課されることになります。そのため、税率が異なることにより、株式譲渡の方が税金費用を抑えられ、譲渡金額が同じ場合には
DD(デューデリジェンス)は事業売却の方が簡易的
事業譲渡の方がDD手続としては簡易的なものとなります。
DDとは、買い手が売り手の会社や事業を詳細に調査することです。財務状況のみならず、法務や労務など会社の状態を調べ、リスクがないかを明らかにします。会社売却では企業をすべてチェックする必要がありますが、事業譲渡では対象となる事業のみに限定されているため比較的簡易にDDが行われます。
まとめ:会社を高く売る方法
M&Aにより会社を売る場合、事前の準備や買い手候補の選定で売却額、売却までのスピードも変わってきます。売却方法、売却先、事前の整理など会社を高く売る方法はさまざまであり複雑でもあるので、一度専門家に依頼して相談してみましょう。M&Aガイドで希望にあう専門家を探してみてください。
M&Aは企業間取引であるため、その成否は経営者同士の面談によって分かれることになります。買い手となる企業と売り手となる企業のトップである経営者同士が面談を行うことによって、お互いに相手企業のことが理解できるようになり、信頼関係を構築したうえで取引に臨めるようになります。この記事では、M&Aにおけるトップ面談の位置づけと重要性についてわかりやすく解説していきます。
M&Aにおいてトップ面談は重要な意味を持っています。トップ面談は企業経営者による「お見合い」によく例えられます。M&Aは2つ以上の会社が一緒になることを意味しますから、その運営のトップである経営者同士での面談は、結婚(M&A)前のお見合いに例えられることがあります。
トップ面談が行われるタイミングは、譲渡企業の決算書などに基づいて、まず書面で初期検討を行ったのち、譲受候補となっている企業が「前向きに検討を続けたい」と判断したタイミングで実施されるのが普通です。つまり、譲受候補となっている企業側が、まず決算書などから抽象的な情報を読み取り、そこで興味を持った譲受企業(経営者)がお見合いを申し込むわけです。1回目のトップ面談で企業文化や経営理念、事業内容を理解しきれなかった場合には、複数回実施されることも当然あります。まずは候補企業にアプローチした後、経営者同士の考え方を意見交換するトップ面談を複数回実施します。
譲受企業側がM&Aブック(またはオファー)を検討し、意思表示を提出した後、次のステップとして、譲渡企業の主要な経営陣および/または所有者と面談することになります。トップ面談では、財務の最新情報(およびその他の適切な最新情報)を提供し、譲受候補となる企業は譲渡企業と交流することができます。また、トップ面談では、施設の見学が含まれる場合もあります。
ここで、譲渡企業側は、譲受企業側が書面で関心を示すまでは、譲受候補となっている企業との面談に基本的に応じるべきではありません。売却を考えていない譲渡企業が、譲受を考えている企業から直接連絡を受けた場合でも、譲受を考えている企業が関心を示すまでは面談を控えるべきです。
トップ面談では、譲受企業側からは、譲渡企業の経営者に会社や事業への想い、理念などについて聞いても良いでしょう。具体的な財務状況や経営成績を聞くのは、トップ面談のタイミングではありません。お見合いでも、初対面のお見合い相手に「年収はいくらですか?」と聞くのは野暮でしょう。それと同じで、トップ面談では、むしろ、経営に対するビジョンや理念などの確認をする方が大切です。譲渡を希望する理由や、譲渡後の展望、希望について話を聞くのも良いと思います。
一方で、譲渡企業側からは、譲受企業の経営者に理念やビジョン、ミッション、今後の経営計画、事業に対する想いなどについて聞くのが良いでしょう。トップ面談の時には、企業に関する詳細情報をすでに得ていることが多いものの、実際にトップ面談を行うことで決算書の数字や企業情報などだけではわからないことがトップ面談で得られるはずです。
譲渡企業(またはその仲介者)は、譲受企業候補の経営者の様子を観察して、どの譲受企業候補に売却すれば事業の成功を継続できる可能性が高いか、事業を運営するのに適したスキルを持っているか、取引をまとめる能力があるかを見極めようとします。この際の基準は主観的なものであり、ほとんどの場合、高い評価額(買収額)が他のすべての考慮事項に優先する傾向にあるものの、時には、より直感的な「自分(自社)に合わないから他の人にしよう」という理由で取引を断るケースもあります。
ここでも、やはりお見合いと同じで、どんなに年収が高かったり、社会的な地位の高い職業について居たりしても、それだけで結婚を考えることはないのと同様に、もっと直感的で主観的な評価基準によって、譲受企業候補を見極める必要があります。
譲受企業は、譲渡企業側が他の譲受企業候補ともM&Aに関する話を進めている場合が多いことを忘れてはなりません。譲受企業候補の一つとして、譲渡企業側が自分を選んでくれることを当然だとは思わず、トップ面談において謙虚に譲渡企業の経営者と交渉に臨む必要があります。
結局のところ、M&Aにおいてトップ面談で最も重要なことは、相手企業との信頼関係の構築にあります。信頼関係の構築のためには、必ずしも買収金額(譲渡金額)だけが重要なわけではありません。むしろ、トップ面談においては、本当に相手企業が信頼できるかどうかを基本としながら、相手を見極めることが大切です。トップ面談では、お互いの経営者の人間性、経営理念、事業内容への理解を深め、信頼関係を構築することを重視すべきです。そのような場で、買収金額などの具体的な交渉を行おうとすると、一気に場が冷めてしまい、相手先からの不信感を招く可能性が高くなります。繰り返し説明しているように、トップ会談は、双方の企業のビジョンや運営方針、経営方針などを共有し、お互いの理解を深めるようにしましょう。
M&Aにおいてトップ面談は、M&A成功を左右するほど重要です。トップ面談は、企業同士のお見合いであり、お互いの理解を深めることで、その後のM&Aの具体的な交渉をスムーズに進めるために行われます。具体的なM&Aの交渉はトップ面談後に行われるのが普通です。トップ面談で具体的な条件などを交渉してしまうと、その後のプロセスにいつまでもたどり着けなくなってしまうので注意が必要です。M&Aにおけるトップ面談の位置づけを正しく理解し、なぜトップ面談を行うのか、その理由をきちんと把握しておくことによって、M&Aをお互いの企業とって意義深いものにしていきましょう。
M&A取引のプロセスのなかでも、交渉からクロージングまでのプロセスを指す「エグゼキュージョン」は、買収対象となる企業の価値を確定するための重要なプロセスです。この記事では、M&Aにおけるエグゼキュージョンがどのような意味を持っているのか、解説していきます。
エグゼキュージョン(execution)とは、M&Aのプロセスのなかでも、買い手側が計画を実行するプロセスを指す言葉です。もともと、英語のexecutionという言葉は「(計画を)実行する」という意味を持っています。買い手側がM&Aに関して事前に決定した事項について、実行していくプロセス全体をエグゼキュージョンプロセスと言い、、買い手側が買収候補となる企業を決定した後に行われる交渉・デューデリジェンス・売買契約・買収のための資金調達戦略・買収の完了と統合の計画実行を指すケースが多いです。
なお、エグゼキュージョンという用語をよく利用するのは、M&A取引の成立をサポートするアドバイザーです。アドバイザーは、買い手の買収計画が上手くいくようにサポートを行います。
M&Aは、主に以下の10個のプロセスによって成り立っています。
(1)買収戦略の策定
優れた買収戦略の策定は、買収者が買収によって何を得ることを期待しているのか、つまり対象企業を買収する事業目的は何か(製品ラインの拡大や新規市場への参入など)を明確に把握することを中心に行われます。
(2)M&Aの検索基準の設定
潜在的なターゲット企業を特定するための重要な基準を決定します(例:利益率、地理的位置、または顧客基盤など)。
(3)買収候補企業の検索
買収者は、特定した検索基準を使用して、買収候補企業を検索し、評価します。
(4)買収計画の開始
買収者は、検索基準を満たし、良い価値を提供すると思われる1社以上の企業と接触します。最初の会話の目的は、より多くの情報を入手し、ターゲット企業が合併または買収に対してどれくらい積極的であるかを確認することにあります。
(5)評価分析の実施
最初の接触と会話がうまくいったと仮定して、買収者はターゲット企業に、買収者がターゲットをさらに評価できるような実質的な情報(現在の財務状況など)を提供するよう求め、ビジネス単体として、また適切な買収ターゲットとして、評価します。
(6)交渉
買収者は、ターゲット企業の評価モデルをいくつか作成した後、合理的なオファーを構築するのに十分な情報を得る必要があります。
(7)M&Aデューデリジェンス
デューデリジェンスは、オファーが受諾された時点から開始される包括的なプロセスです。デューデリジェンスの目的は、対象会社の財務指標、資産・負債、顧客、人材などのあらゆる側面について詳細な調査と分析を行い、買収者の対象会社の価値評価を確認または修正することにあります。
(8)売買契約
デューデリジェンスが完了し、大きな問題や懸念がなければ、次のステップとして売買契約を締結し、資産購入か株式購入か、売買契約の種類を最終的に決定します。
(9)買収のための資金調達戦略
買収者は、もちろん、買収のための資金調達オプションを早期に検討しますが、資金調達の詳細は、通常、売買契約が締結された後にまとまっていきます。
(10)買収の完了と統合
買収案件が完了し、買収先と買収企業の経営陣が協力して両社の統合プロセスに取り組みます。
このプロセスのうち、エグゼキュージョンプロセスは、(6)〜(10)を指します。
M&Aにおいて、エグゼキュージョンは、要するに、買収対象となる企業の価値を決定するプロセスにほかなりません。買収対象となる企業の価値を決定するにあたっては、以下の2点が重要となります。それぞれについて説明していきましょう。
(1)価値の最適化
デューデリジェンス調査が完了し、その結果について評価を行った後、取引の成功に向けて最もエキサイティングなステップであるバインディング・オファー(売買契約)、そして取引の実行に移っていきます。
M&A取引プロセスにおいて、株式売買契約書(SPA)の作成、規制当局への取引に関する届出の提出、取引財務の作成、初日の準備など、多くの重要なステップが含まれています。取引の終了まであと少しと思われるかもしれませんが、実はその前に検討すべきこと、達成すべきことがまだまだたくさんあります。
M&Aの取引をうまく実行したい(エグゼキュート)したいのであれば、最終的に取引はより多くの価値、たとえば、適正な評価額や所有権を引き継いだ後の状態を、あらかじめしっかりと確定しておくことが大切です。
(2)売買契約書(SPA)
SPAの作成は、しばしば弁護士のための形式的なものとみなされます。SPAのプロセスの多くには、保証、保証、潜在的な紛争の解決などの法的側面が含まれているため、ある程度はその通りです。しかし、SPAには何よりもまず、取引の決済方法を定義する金融条件が含まれ、評価方法についての詳細が記載されます。売買契約書は、買主と売主を法的に拘束するものです。したがって、買収対象となる企業の価値を確定するために、どのような法的拘束力のある事項を実行しなければならないのかを明らかにしておかなければなりません。
エグゼキュージョンは、M&Aプロセスのなかでも企業価値を確定するうえで重要となるプロセスです。エグゼキュージョンプロセスのなかには、専門性が求められる企業価値評価といったプロセスも含まれることから、M&Aのアドバイザリーサービス提供している事業者がエグゼキュージョンプロセスを代理してくれることもあります。エグゼキュージョンは、M&Aを行う目的によってその具体的なプロセスも変化するのが普通です。目的に応じて明確な計画を立案し、しっかりとエグゼキュートするように、M&Aプロセスを進めていくことが大切です。
M&Aは完了までのプロセスで多くの専門的な知識を必要とします。そのため、自社だけでM&Aを完結させることはほぼ不可能であり、一般に、アドバイザリーサービスを提供している事業者と契約を結び、M&Aに関するアドバイスを受けながら進めていくことになります。この記事では、M&Aにおけるアドバイザリー契約の詳細について詳しく解説していきます。
M&Aのプロセスは複雑で専門的であることから、M&Aの成約までのプロセスをサポートしてくれる事業者が多数存在しています。たとえば、米国では、JP Morgan、Goldman Sachs、Morgan Stanley、Credit Suisse、BofA/Merrill Lynch、Citigroupは一般的にM&Aアドバイザリーのリーダーとして認識されており、通常M&A案件数でも上位にランクインしている事業者です。こうした事業者にM&Aのサポートをしてもらう契約がアドバイザリー契約です。
M&Aアドバイザリー会社は、企業の買収、売却、再編を意図する他社に指導を行う会社のことです。個人のファイナンシャルアドバイザーが個人や中小企業に対してガイダンスを提供するように、M&Aアドバイザリー会社は、あらゆる種類の企業取引において企業の舵取りを支援し、多くの場合、デットファイナンスやエクイティファイナンスをサポートしてくれます。M&Aアドバイザリー会社は、具体的には、以下のようなサービスを提供しています。
多くのM&アドバイザリーA会社は、取引成立時に取引金額の一定割合を手数料として徴収しています。この手数料は、実施される取引の種類や取引規模によって異なります。また、一部のファームでは、パーセンテージフィーに加え、一律の手数料を課すケースもあります。
アドバイザリーサービスは様々なサービスがありますが、アドバイザリーサービスを受けられるのは買い手だけではありません。売り手も受けることができます。
売り手(ターゲット)のアドバイザーとしてM&Aファームが関与することをセルサイドという。
逆に、M&Aファームが買手(買収者)のアドバイザーとして活動することをバイサイド業務という。その他、ジョイントベンチャー、敵対的買収、バイアウト、買収防衛策などに関するアドバイスも行うこともあります。
アドバイザリー契約をM&Aファームと締結すれば、以下のようなサービスを受けられます。
M&Aファームが買主(買収者)に買収のアドバイスをする場合、買収企業のリスクとエクスポージャーを最小限に抑えるために、買収対象の真の財務状況に焦点を当てたデューデリジェンスと呼ばれる作業を支援することもあります。
M&Aデューデリジェンスでは、対象企業の財務情報の収集、分析、解釈、過去と未来の業績の分析、潜在的なシナジーの評価、事業評価による機会や懸念事項の特定などが基本的に含まれています。徹底したデューデリジェンスは、リスクベースの調査分析や、買い手が取引を通じてリスクと利益を識別するのに役立つその他のインテリジェンスを提供することにより、成功の確率を高めます。
企業の売却を検討されている場合、あるいは事業領域の拡大のために他の企業を買収する場合、M&A専門のアドバイザリーサービスを利用することで取引結果を改善することが可能です。
M&Aアドバイザリーサービスは、財務状況を確認し、最終合意に向けた様々なステップを支援し、統合後の新会社のパフォーマンスを最適化するための戦略を策定するための重要なプロセスです。
通常、M&Aファームとのアドバイザリー契約は、企業が潜在的なターゲットを特定した後に結ばれ、M&A取引の完了をサポートするためにデューデリジェンスを実施します。しかし、M&Aアドバイザリーチームは、M&Aのライフサイクルを通じたパートナーとして、より多くのことを行うことができます。
M&Aプロセスの流れをよく理解しているM&Aアドバイザリー会社は、M&A取引で起こりがちなことについて事前にアドバイスを与えてくれます。経験豊富な企業幹部でさえ、M&Aプロセスの複雑さに驚かれることがよくありますが、信頼できるアドバイザーとして、対象企業をより深く理解し、デューデリジェンスのプロセス全体を管理し、適切な質問をし、データを正しく取得することを支援してくれます。M&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を締結すれば、デューデリジェンスや、法律事務所や専門家によるデューデリジェンスなど、取引のあらゆる側面の管理を支援してくれます。これにより、ビジネスの継続に集中し、将来に向けて戦略的に注力することができます。
M&Aアドバイザリー会社は、通常、M&Aに関する契約書(LOI)が締結された後に参入します。しかし、アドバイザーは、LOIが締結される前から積極的な役割を果たすことも可能です。多数の現地訪問、マネジメントインタビュー、デリジェンス分析を通じて、ターゲットビジネスの運営方法、そのキーパーソンは誰か、その企業があなたのビジネスにどのように統合されるかを理解し、合意に至る手助けをすることができるのです。
M&Aによって統合される会社はどのような姿になるのでしょうか。クロージング後の統合とシナジー効果を中断することなく、可能な限りシームレスに展開し、統合後の企業価値を最大化することを誰もが希望するものです。どのようなタイミングで統合しようとしても、本来やるべき事業を継続するために、事業の安定化に注力することが重要です。さらに、人材と文化に戦略的な注意を払い、人材の確保を図る必要があります。最初の100日間と安定化のための努力は取引の意図した価値を完全に実現するための基盤を作るものです。
統合計画の取り組みは、慎重に計画し、タイミングを計らなければなりません。契約締結とクロージングが同日に行われることもありますが、その場合は統合計画をその日に先駆けて完了させなければなりません。契約締結からクロージングまでに時間がかかる場合は、その間に計画を完成させることができます。プレ・プランニングは30~60日程度で完了するのが一般的ですが、大企業の統合にはもっと長い時間がかかる場合もあります。
準備にかかる時間はストレスになりますが、まず必要なことを戦略的に処理し、そこから二次的な計画を進めていけば、ストレスは少なくなります。こうした統合計画をサポートしてくれるのも、M&Aアドバイザリー会社の重要な役割の一つです。
M&Aにおける統合プロセスの分析とパフォーマンスの最適化は、どちらもM&Aアドバイザーが支援できるサービスです。統合の際には、プロセス分析が計画の重要な構成要素となります。プロセスの分析では、ギャップや欠陥を明らかにし、特に技術や人材などの重要な検討事項について、将来の改善(シナジー)のためのロードマップを作成します。プロセス分析/改善とパフォーマンスの最適化は、統合された企業の新しいプロセスでより高い効率を推進するために、時間が経ってから統合後にも活用することができます。これは、人員の変更を最小限に抑えるために行われるため、M&Aによる統合後のパフォーマンスを最適化することができます。
M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識を求められるものです。また、手間がかかるプロセスも多いことから、通常、会社内のリソースだけを活用してM&Aのプロセスを完結させることは不可能です。そこで、M&Aに関するアドバイザリーサービスを提供しているM&Aアドバイザリー会社とアドバイザリー契約を結ぶことで、状況に応じて様々なサービスの提供を受けることができるようになります。M&Aにおいてどのようなサービスが必要であるかは、どのようなM&Aを行うか次第なので、M&Aの目的を明確にしたうえで、M&Aアドバイザリー会社に相談してみましょう。