M&Aの基礎知識 2022/07/30

会社をたたむ(廃業する)にはいくらかかる? 費用感を解説します。

会社をたたむ(廃業する)にはいくらかかる? 費用感を解説します。
                    

はじめに

東京商工リサーチによると、2021年(1-12月)の「休廃業・解散」企業は、全国で4万4,377件となりました。この数字は、過去に会社廃業数が最多であった前年度の4万9,698件から1割以上減少したかたちです。

2020年と比較して会社を廃業する件数が少なくなった理由は、コロナ禍での政府や自治体、金融機関の強力な資金繰り支援があったためです。2021年の企業倒産は6,030件と1964年以来、57年ぶりの低水準となるなど、会社廃業するまではいかずとも、厳しい状況に置かれていることには変わりありません。支援策が、会社を廃業するかどうかの判断を先送りにし、廃業・休業を考える経営者が減少した可能性は否定できません。

それでは、会社の廃業には、どれくらいのコストがかかるのでしょうか。この記事では、廃業理由について明らかにしたうえで、廃業する際の費用感について解説していきます。

会社を廃業する理由とは

会社の廃業とは、事業活動を停止し、株主総会で解散決議と清算結了を確認したうえで、登記を行うことを意味します。廃業方法には、法的清算と私的整理の2つの方法があり破産法・会社法に則って手続きを行うのが法的清算、特定の支援制度に則って手続きを行うのが私的整理と呼ばれます。

会社をたたむ理由は企業によって異なるのが普通です。企業ごとに置かれた状況は異なるため、それぞれの事情で事業を終了することになるでしょう。少し古いデータとなりますが、中小企業庁が委託して、帝国データバンクが調査したところによれば、廃業することを考えるきっかけとして最も多いのは、経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題であるとされています。次いで、売上の減少が理由として挙げられており、この2つの理由だけで60%以上もの会社が会社を廃業することを考えていることが示されてます。

会社の廃業を考えたきっかけ

出所:中小企業庁委託「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」(2013年12月、(株)帝国データバンク)を参考に筆者作成

廃業を考えるきっかけとしては、経営者の高齢化と売上の減少が多いものの、実際に会社を廃業する理由としてはどのようなものがあるでしょうか。以下の円グラフが、実際に会社をたたんだ理由を示しています。

廃業する理由

出所:中小企業庁委託「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」(2013年12月、(株)帝国データバンク)

この結果が示しているように、経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題は、日本の中小企業が抱える構造的な問題です。高齢化が理由で会社をたたんだり、事業の先行きに対する不安、主要な販売先との取引終了などが会社をたたむ大きな理由となっています。

3. 会社を廃業するときにかかる費用感

会社を廃業するには、各種登記が必要となるため、まずは登記のための費用が必要となります。各種登記に関しては、登記に関する手数料として以下の金額が定められています。

  • 解散登記:3万円
  • 清算人登記:9,000円
  • 清算結了登記:2,000円
  • 官報公告の掲載費用:10行分で約3万5,000円

解散登記と清算人登記は同じタイミングで行うのが普通です。債権者に遅滞なく会社の廃業を伝えるために、官報公告も行わなければなりません。会社をたたむタイミングで債務が有るケースでは、債務の弁済がどうなるのかが問題となります。債権者が異議を申し出る機会を与えるために、通常、清算人が官報で廃業することについて公告を行い、解散通知を行います。官報への解散公告が会社法499条で規定されている趣旨はそのためです。解散公告は2ヶ月以上掲載するのが普通です。この手続を通じて債権者を保護する手続きをとったのち、清算人は債務を確定させることができます。官報への広告は行数によって費用が異なりますが、廃業に関して必要となる公告はおよそ4万円程度に収まるのが一般的です。

これだけをみると、合計で10万円未満となるため、会社をたたむときにかかる費用はそれほどかからないと考えられるかもしれません。しかし、実際には、これ以外にも、債務の弁済のための手続きなどのために、弁護士・司法書士・税理士といった専門家に手続きを任せるのが一般的です。そのため、こうした専門家に対する報酬を支払う必要があります。廃業手続きを行うにあたっては、会社の様々な利害関係者に対して手続きが必要となります。取引先、従業員、自治体などへの対応が必要となりますが、瑕疵なく会社を廃業するための手続きを行うためには、専門家へ依頼しておいたほうが良いでしょう。

通常、廃業の際の手続きは、裁判外で行われる手続きであるため、裁判手続ほど複雑な手続きは必要ありません。裁判外で行なえるようになっている理由は専門家に頼らずとも経営者自身の責任で会社を廃業手続きを行えるようにするためです。とはいうものの、会社の解散のための事務処理に加えて法的な手続きも同時に行わなければならないことから、通常は、弁護士や司法書士などに依頼するケースがほとんどです。大きな会社であればあるほど、利害関係者の数も多くなるためその傾向が強くなります。

特に、廃業するにあたって従業員を解雇しなければならないケースがあります。日本では、従業員を容易に解雇できないように法整備が進んでいるため、廃業するケースでも法的な手続きが必要となります。清算人となる方において従業員の退職や解雇についての対応が可能であるケースもありますが、通常は弁護士に依頼することでスムーズに解雇手続きが進むように手配します。

専門家に対する報酬はそれぞれ異なっているため、おおよその費用感となりますが1件あたり数十万円となるケースが多いです。事務所などを賃貸で借りているケースでは、退去費用を支払う必要がありますし、契約次第で原状復帰のための費用を支払うケースもあるでしょう。従業員への退職金を支払うことも必要となりますし、債務がある場合には、これらの債務をすべて弁済しなければなりません。

このように、廃業のために必要となる登記手続き自体の費用はあまりかかりません。しかし、実際には、登記以外のところで費用はかさむことになるでしょう。会社の規模が大きくなれば、利害関係者の数も多くなるので、その対応のために専門家に依頼するということも多くなるはずです。そうなれば、数百万程度の費用がかかるケースもあると言えるでしょう。

おわりに

会社を廃業するということは、その後の事業活動を恒久的に停止することを意味します。企業の経済活動のためにはお金が必要となることから、株主や債権者に対してまずは会社を廃業することについて説明しなければなりません。廃業のためには通常登記が必要ですが、登記の手続きそのものにはそれほど費用はかからないと言えるでしょう。しかし、実際のところ、株主や債権者に対する手続きは専門的な知識が必要となることも少なくありません。その場合には、専門家に依頼することになりますが、その分、費用がかかります。したがって、会社をたたむ場合にも、数百万円の資金を準備しなければならないと言えるでしょう。

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事業譲渡における譲渡元企業の会計処理の基本的な考え方/仕訳方法を解説
事業譲渡における譲渡元企業の会計処理の基本的な考え方/仕訳方法を解説

はじめに

事業譲渡とは、企業を構成する事業を他の企業に移転することを言います。事業譲渡では、必ずしも会社のすべての事業が譲渡されるわけではなく、一部のみのケースも存在し、会社法の規定に則って手続きが進められます。事業譲渡を行うには買い手企業を探し、事業範囲を決定しなければなりません。

事業譲渡は、まず、買い手企業(譲渡先)探しから始まります。事業譲渡の範囲や概要の条件を相手に提示してもらいます。この際に、買収価格や資産・負債の受け継ぎなどについても提示してもらい、意向表明書として相手から示されることになります。

この記事では、事業譲渡における事業を譲り渡す側(譲渡元)においてどのような会計処理が行われるのか、その基本的な考え方と仕訳方法をわかりやすく解説していきます。

事業譲渡における会計処理の基本的な考え方

事業譲渡は、会計の世界では「事業分離」と呼ばれます。ですが、今回はわかりやすくするために、事業譲渡と呼んでいきましょう。

事業譲渡は、ある企業の事業の一部を他の企業に移転することを言うと会計基準において定義されています。事業を譲渡する場合、事業の移転先がどのような会社であるかによって、会計処理の仕方が異なります。つまり、仕訳も異なるということです。

インターネット上の多くの記事では、事業の移転先が子会社でも関連会社でもないケース(すなわち、投資を精算するケース)を取り扱っていて、会計処理の仕訳方法を完全には説明していません。しかし、実際には、移転先がどのような会社かによって会計処理の仕方が異なるので注意が必要です。

事業譲渡が行われた際に譲渡元企業が適用すべき会計処理は、譲渡元企業からみて移転した事業に対する投資が継続しているか、それとも投資が精算されているかに基づいて決定されます。

もし、投資が継続している場合には、“投資を精算した”とは考えないので、譲渡元企業に損益は発生しません。つまり、投資が継続していれば、譲渡元企業に損益が発生しない簿価承継によって事業は譲渡されることになります。

一方で、投資が精算されている場合には、“投資が継続していない”と考えるので、譲渡元企業に損益が発生します。つまり、精算したとみなされれば、時価による譲渡もしくは交換として会計処理が行われます。

事業譲渡の際の仕訳方法

譲渡元企業側からみれば、事業譲渡は「事業を譲渡し」、「対価を受け取る」という取引です。したがって、以下の仕訳が基本となります。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

受け取った対価

☓☓☓

分離した事業

☓☓☓

次の例について考えてみましょう。

  • 当社は簿価100の事業Xを資本関係のないA社に分離した。
  • 受け取った対価は、現金等の財産(時価は150、A社における帳簿価額は120)である。

この場合、受取対価は現金等の財産であるため、投資は清算されたと判断します。よって、対価は時価の150で計上し、損益を認識することになります。仕訳は以下のとおりです。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

現金等の財産     

150

事業X

100

 

 

差額(損益)

50

同じように次のケースについて考えていきます。

  • 当社は簿価100の事業Xを資本関係のないA社に分離した。
  • 受け取った対価は、A社株式(時価は150)である。
  • 取引後のA社に対する持分比率は20%未満なので、A社株式はその他有価証券として保有する。

今回受取対価はその他有価証券であるため、投資は清算されたと判断します。よって、対価は時価の150で計上し、損益を認識します。仕訳は以下の通りです。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

A社株式

150

事業X

100

 

 

差額(損益)

50

さらに、投資が精算されずに、継続しているケースについても考えていきましょう。

  • 当社は簿価100の事業Xを資本関係のないA社に分離した。
  • 受け取った対価は、A社株式(時価は150)である。
  • 取引後のA社に対する持分比率は50%超なので、A社株式は子会社株式として保有する。

今回は、受取対価は子会社株式であるため、投資は継続していると判断します。よって、対価は簿価の100で計上し、損益は認識しません。仕訳は以下のとおりです。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

A社株式

100

事業X

100

分離先(譲渡先)企業の株式のみを受取対価とする事業譲渡において、分離先企業が新たに分離元(譲渡元)企業の子会社となる場合、経済実態として、分離元企業における当該事業に関する投資がそのまま継続していると考える必要があります(事業分離等会計基準87項)。そのため、損益を認識することをしないのです。このため、個別財務諸表上、当該取引において、移転損益は認識されず、当該分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定します。

子会社となるケースについてみてきたので、次に関連会社となるケースについても考えていきましょう。

  • 当社は簿価100の事業Xを資本関係のないA社に分離した。
  • 受け取った対価は、A社株式(時価は150)である。
  • 取引後のA社に対する持分比率は20%以上なので、A社株式は関連会社株式として保有する。

勘定科目

金額

勘定科目

金額

A社株式

100

事業X

100

今回も受取対価は関連会社株式であるため、投資は継続していると判断します。よって、対価は簿価の100で計上し、損益は認識しません。

おわりに

事業を譲渡することで譲渡側はその対価を得ることになります。事業を譲渡する際には、譲渡先に譲り渡した事業に対して投資が継続するのか、精算されるのかによって会社処理の仕方が異なるので注意しなければなりません。精算される場合には、損益を認識しますし、投資が継続される場合には損益を認識しません。仕訳の方法が異なることをきちんと理解しておきましょう。

関連コラム:事業譲渡とは?事業譲渡の概要と手続きについて解説

 

M&Aの基礎知識
2022/08/06
垂直統合戦略と水平統合戦略とはなにか?基本的考え方について
垂直統合戦略と水平統合戦略とはなにか?基本的考え方について

はじめに

M&Aのプロセスは、買収の種類と事業戦略によって、「水平統合」と「垂直統合」に分類することができます。水平統合は、企業規模の拡大、製品ラインナップの多様化、競争の緩和、新市場への進出を目的としたM&Aです。一方で、垂直統合は、利益を高め、消費者へのアクセスをより迅速にすることを目的としたM&Aであると言えます。この記事では、M&Aのプロセスを垂直統合と水平統合に分け、その効果について説明していきます。

M&Aにおける水平統合と垂直統合の概要

水平統合と垂直統合は、企業が自らの地位を固め、競合他社との差別化を図るために用いる競争戦略です。どちらも、他の事業の買収を伴う、つまりM&Aを活用した企業の成長戦略であると考えることができます。

垂直統合は、同じサプライチェーンに沿って複数の企業が結合することであるのに対し、水平統合は、企業が同じ業界で顧客基盤、市場規模、または製品の多様性を高めるために類似した他の企業(多くの場合競合)をM&Aによって取得することを意味します。

さらに、水平統合は、製品の差別化を図ったり、市場支配力を拡大したりするために行われる場合もあります。水平統合は、多くの場合同じ業界内で行われますが、異業種や関連業界で行われるケースもある行為です。したがって、その意図は、必ずしも自社のサプライチェーンをより多くコントロールすることによるコスト削減ではないものの、水平統合を行う企業は、消費者基盤、資産や資源の増加、または収益の増加を期待して行うことが多いと考えることができます。

水平統合と垂直統合という2つの戦略は、企業の拡大を助けるものではあるものの重要な違いがあります。

水平統合は、企業が関連する企業、つまり競合他社を買収することによって成長することを目指す戦略です。一方、垂直統合は、企業が生産や流通の1つまたは複数の段階を支配することで、産業プロセスのすべての部分を所有することを目指す成長戦略です。

水平統合の基本的考え方

水平統合は、規模の経済、競争力、市場シェアの拡大、事業の拡大をもたらす競争戦略です。より多くの資源、市場、能力、効率性を目標に水平統合を行います。水平統合とは、言い換えれば、似たような2つのビジネスが1つの会社になることである。たとえば、ナイキとアディダスの合併は、水平統合の一例です。

両社は、スポーツウェアの製造・販売を営んでいます。M&Aを行って水平統合を実施した2つの事業体は、独立して事業を行う場合よりも、より多くの収益を実現できるような体制になるはずです。水平統合は活動の最適化、または会社のプロセスおよび活動の範囲内の戦略的なビジネス活動の統合を促進する可能性があります。

垂直統合は、サプライチェーン上で同じ段階にある限り、水平統合は産業間でも起こりうることに注意しましょう。たとえば、サウジアラビアの石油・ガス採掘業者が、ブラジルのコーヒー豆栽培業者を買収することがあります。両社は原材料の供給業者であり、サプライチェーン上で同じ段階にあるにもかかわらず、業種が異なっていますが、サプライチェーン上の同じ段階の事業者同士によるM&Aの実行は当然あり得るものです。

具体的な例として、ディズニーがピクサー(映画製作)と、エクソンがモービル(石油生産、精製、流通)と、あるいは悪名高いですがダイムラー・ベンツとクライスラーの合併(自動車の開発、製造、小売)が水平統合の有名な事例です。

もし、同じ業界に属していて、同じ事業を営む企業同士が水平統合した場合どうなるでしょうか。たとえば、ボーイング社とエアバス社は共に飛行機を製造しており、合計で99%の市場シェアを誇っています。もし、この2社が水平統合をすれば、独占が可能になるのです。

こうした水平統合は、特定の産業において独占的な力を生み出し、消費者にとって不利益となる場合があることに注意が必要です。競争の低下により、談合行為が誘発され、製品価格の上昇につながる可能性があります。

垂直統合の基本的考え方

垂直統合とは、企業が自社製品のサプライチェーンを所有する戦略的構造であり、通常、異なる生産段階に関与する1社または2社の企業で構成されます。

サプライチェーンには、原材料の調達から製品化、販売までのすべての段階が含まれます。その意味で、垂直統合型の企業は、サプライチェーンの複数(またはすべて)の部分を所有する戦略です。

たとえば、ある企業が綿花の生産者とTシャツの製造会社を買収し、その製品を自社で販売することがあります。つまり、元の会社(現在は、同じ垂直方向に沿った複数の会社のコングロマリット、または同じ種類の製品)が、商品、製造、流通、小売というサプライチェーンの4つの部分を支配することになるのです。

垂直統合を行うと、サプライチェーンをよりコントロールできるようになり、より低い価格で製品を提供できるようになります。市場における市場支配力が高まるなど、企業にとって多くの利点があります。

垂直統合の方法は、企業の種類によって、後方統合と前方統合の2つに分かれます。

(1)前方統合

企業がサプライチェーンの前方に進出する場合(例えば、メーカーが小売業を買収した場合)、前方統合を行うことになります。これは通常、鉱業会社がさらに「下流」の工場を支配するような、サプライチェーンの始点に近い会社が行うものです。この場合、メーカーは流通経路をコントロールすることで、中間業者を通さずに直接消費者に製品を提供することができるようになります。

(2)後方統合

逆に、企業が後方(または「上流」)に拡大し、サプライチェーンのさらに後方の生産部分を支配する場合(たとえば、小売企業が商品のメーカーや生産者を買収した場合)、それは後方統合を行ったことになります。企業が原材料の供給者と合併する場合、プロセスの一部を外部調達するのではなく、必要なものをすべて自社で調達するため、多くのコストが削減されるのが一般的です。この意味で、大手小売企業や流通企業は、輸送費を節約し、供給者を抑えるために、自社商品の生産者やメーカーの買収を行います。

5.おわりに

水平統合と垂直統合は、ある企業が他の企業を統合する2つの成長の方向性を示すものです。水平方向の合併は、互いに競合する2つのビジネスに関するものです。一方、垂直合併は、同じサプライチェーン内で動作する2つのビジネスに関するものです。水平方向のM&Aは、競合する2つの会社が一緒になって1つの会社を作るときに起こり、垂直方向のM&Aは、異なる生産段階にある2つの会社が一緒になって1つの会社を作るときに起こります。

収益を上げたい、または製品の幅を広げたい場合は、M&Aを活用した水平統合の機会を探すとよいでしょう。この場合、M&Aの候補となる企業は、自社と同様の製品・サービスを持ちながら、自社が希望する製品・サービスを追加していたり、現在自社が参入していない地域で事業を展開しているところが良いでしょう。

コスト削減によって競争力を高めたい場合、あるいは重要な供給源へのアクセスを確保する必要がある場合は、垂直統合を検討する必要があります。この場合、M&Aの候補となる企業は、自社の製品を製造するのに必要となる原材料を作っていたり、自社の製品の販売をするのに必要となる販売先であることになります。

どちらの水平統合にせよ、垂直統合にせよ、一長一短の戦略です。その効果をきちんと理解して活用することが大切です。

M&Aの基礎知識
2022/07/30
M&A・事業承継の“マッチング”を支援する相談先・プラットフォームの普及
M&A・事業承継の“マッチング”を支援する相談先・プラットフォームの普及

はじめに

会社の事業を承継することを考えるとき、誰に承継するかは非常に重要です。自分の血縁関係の中で事業を承継するケースもあれば、会社の従業員に事業を承継するケースもありますし、全くの会社の外部の人あるいは会社に事業を承継するケースもあります。

このうち、3つ目の会社の外部に人あるいは会社に事業を承継するケースでは、一般に、事業承継を行う譲渡側と、事業承継を受け入れる譲受側があり、両者のニーズが一致するように調整しなければなりません。その調整をマッチングと言います。会社の外部の人あるいは会社に、事業を承継するケースでは、この両者の合意がない限り、事業承継が成立しません。昨今の事業承継ニーズの高まりから、より効率的に、より納得感が得られるように両者を結びつけることを目的として、多くの事業承継マッチング業者、あるいは、マッチングプラットフォームが誕生しています。

そこでこの記事では、会社の外部の人あるいは会社に事業を承継する際に、近年盛んに利用されるようになっている事業承継マッチング業者、マッチングプラットフォームについて解説します。

M&A・事業承継におけるマッチング

会社や事業を売りたい(承継したい)と考えている会社が、会社や事業を買いたいと考えている会社に出会うためには、両者を引き合わせなければはじまりません。このように売りたい側と買いたい側が出会い、条件等双方の合意が得られた状態がマッチング成功となります。

一般に、会社を売りたい人と買いたい人のマッチングを自ら行うことは難しいことから、M&A。事業承継の専門家に相談することになります。近年、事業を売りたいという事業者と、事業を買いたいという事業者をマッチングさせる事業承継マッチング業者やM&Aマッチングプラットフォームと呼ばれるサービスを提供する企業が増えてきています。

事業承継マッチング業者は、中小企業の事業承継(M&A)を支援する機関であり、民間のM&A専門仲介機関や、金融機関、士業の専門家などが存在しています。マッチング業者の担う業務は、相手先企業のマッチングから行う場合もあれば、デユーデリジェンスや契約締結等の特定の業務に特化している場合もあり、その関わり方は様々です。事業承継マッチング業者に支払わなければならない仲介等の手数料についても、仲介者かアドバイザーかといった契約関係だけでなく、案件の規模や報酬体系(着手金・中間金・成功報酬等)によって異なります。

また、事業承継のマッチング業務は、案件の規模にかかわらず同程度の業務が発生するため、最低手数料を設けている専門仲介機関も多くなっています。そのため、近年では、インターネット上でのマッチングも行われるようになってきており、低コストでマッチングを図ることで小規模事業者でも事業承継を実施できる環境も整いつつあります。

いずれにせよ、事業承継を推進していくためには、金融機関、専門仲介機関、士業専門家といった、当事者以外の支援が重要です。こうした支援機関の事業承継への理解を深めるとともに、支援機関同士が連携し専門性の補完やマッチングを図ることで、様々なニーズに対応していくことが期待されています。

事業承継マッチング支援の相談先(専門家)

ここでは、まず事業承継マッチング支援をする代表的な相談先(専門家)について説明していきます。

① 公認会計士

公認会計士は、監査及び会計の専門家として、財務書類の監査証明業務のほか、財務に関する調査や相談に応じており、事業承継の様々な場面で、広い見識に基づく支援が期待できます。特に、経営状況・課題の把握(見える化)や経営改善(磨き上げ)をはじめ、非上場株式の評価・M&Aにおける売却価格試算等の複雑な状況での公正な評価、経営者の個人保証の解除、適正な会計の導入支援といった、将来の事業展開も踏まえた幅広い助言が期待できます。

② 司法書士

司法書士は、商業登記、不動産登記等の実務家として、事業承継における株式及び事業用不動産の承継、M&A、種類株式及び民事信託の活用、担保権の処遇等についてサポートしています。また、日本司法書士会連合会においては、商業登記・企業法務対策部、民事信託等財産管理業務対策部等を設置して事業承継に関する支援事業を行っています。

③ 税理士

税理士は、顧問契約を通じて日常的に中小企業経営者との関わりが深く、決算支援等を通じ経営にも深く関与しています。経営者向けアンケートにおいても、事業承継の相談先として選ばれやすい存在です。また、日本税理士会連合会にて構築した顧問税理士同士によるマッチングサイト「担い手探しナビ」の利用等を通じて、 多くの税理士が、後継者不在の中小企業に対するM&A支援に着手するなど積極的な事業承継支援を行っており、主体的な関与が期待できます。経営者に最も近い存在として、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、相続税に関する助言や株価の評価、生前贈与のやり方や種類株式の発行に関する助言、中小企業会 計要領・中小企業会計指針の活用支援等、事業承継に関係する幅広い領域にわたる支援をしてくれます。

④ 中小企業診断士

中小企業診断士は、「中小企業支援法」に基づき、中小企業のホームドクター として、様々な経営課題への対応や経営診断等に取り組んでいる事業者です。事業承継に関しては、事業承継診断やプレ承継支援(事業承継計画の策定支援、 後継者教育支援、磨き上げ支援等)、ポスト承継支援のほか、M&A等に関わる支援も期待されています。

⑤ 弁護士

弁護士は、中小企業や経営者の代理人として、事業承継を進めるにあたり、経営者と共に金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・説得を行い、円滑な事業承継を進める役割を担います。特に、株主関係が複雑な場合や、会社債務・経営者保証等に関する金融機関との調整・交渉が必要な場合、M&Aを活用する場合等においては、法律面全般の検討と課題の洗い出し、それらを踏まえたスキーム全体の設計、契約書をはじめとする各種書面の作成といった支援が期待される。また、日本弁護士連合会は、事業承継に関するプロジェクトチームを設置し、中小企業の事業承継に関する課題分析と改善策の検討、有用なスキーム・事例の周知活動、具体的な相談体制の整備等に取り組んでいます。

⑥ 金融機関

金融機関は、中小企業に日常的に接して経営状況を把握しており、中小企業に対してきめ細やかな経営支援等を実施し得る立場にあります。また、金融機関が取引先企業の事業実態を理解し、そのニーズや課題を把握し、経営課題に対する支援を組織的・継続的に実施することは、取引先企業の価値向上、ひいては我が国経済の持続的成長につながるとともに、金融機関自身の経営の安定にも寄与するものです。このような観点から、金融機関は取引先中小企業の事業承継問題に対しても積極的な支援を実施することが期待されています。

⑦商工会議所・商工会

商工会議所・商工会は、経営指導員の日々の巡回指導等を通じて中小企業経営者との間に信頼関係を構築している身近な存在です。このため、事業承継ニーズの掘り起こしのほか、事業承継セミナーの開催や事業承継施策に関する情報提供、専門家の紹介、事業承継・引継ぎ支援センターとの連携等が期待されています。

代表的な事業承継マッチングプラットフォーム提供事業者

近年では、IT技術を活用しインターネット上で事業承継マッチングを行う業者も誕生しており、低コストでマッチングが実現できる環境も整いつつあります。

事業承継マッチングプラットフォームは、事業や会社の譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステム(プラットフォーム)に情報を登録することによって、マッチングをはじめとする事業承継の手続きを低コストで行える支援システムです。従来、事業承継においては、事業者自身が譲り渡しや譲り受けの情報にアクセスすることが困難でした。その橋渡しを事業承継支援業者(金融機関、M&A仲介業者など)が担っていたのです。結果として、情報量の少なさからマッチングの可能性が低くなってしまったり、マッチングにかかるコストが大きく、業者に支払うべき高額の報酬につながってしまったり、といった課題がありました。こういった従来のM&Aの問題点を解決するために誕生したサービスが、マッチングプラットフォームです。

それでは、現在の日本でマッチングプラットフォームを提供している代表的な事業者を2つ紹介します。

①BATONZ(バトンズ)

BATONZは、無料で利用できる成約数No.1のM&A・事業承継支援サービス提供事業者です。企業と第三者のマッチングを支援し、M&Aによる事業継承をサポートします。バトンズでは小規模・零細企業の案件だけでなく、中小企業も含めた幅広い規模の案件も掲載しており、個人・個人事業主・法人といった、あらゆる属性の人が利用している事業者となっています。業界の標準価格よりもかなり安い金額で成約までたどり着くことができるうえに、充実したサポート体制が魅力となっています。

②TRANBI(トランビ)

TRANBIは、挑戦したい個人・中小企業のためのM&Aや事業開発を中心とするイノベーションプラットフォームです。インターネットを通じて、事業を買いたい人と売りたい人がマッチングする事で、 これまで多額の資金を必要としたM&Aの費用を大幅に削減することに成功しました。会員数も2022年7月時点において、106,246名と業界最大級を誇っています。

昨今、M&Aのマッチングプラットフォームは乱立しており、上記以外にもたくさんのプラットフォームがあります。

頑張っていく事業承継

おわりに

事業承継において、会社や事業の譲り渡し先を決めるのは容易ではありません。会社のことを理解していないところに事業を承継してしまえば、会社に残った従業員が不幸になることはもちろん、これまで会社に培われてきたものが台無しになってしまいます。だからこそ、マッチングを支援してくれる事業者の存在は、事業承継において欠かせないのです。

事業承継においてマッチングサービスを提供している事業者は数多く存在します。従来は、専門業者に依頼するケースも多かったものの、自分たちで直接プラットフォームサービスを利用するケースも多くなっています。会社の将来を左右する事業承継ですので相手探しは重要です。

M&Aの基礎知識
2022/07/31