M&Aの基礎知識 2021/11/16

建設業のM&A~廃業を選ぶ前にM&Aで解決しよう~

建設業のM&A~廃業を選ぶ前にM&Aで解決しよう~
                    

近年、建設業界ではM&Aの件数が増加しています。廃業に代わる手段としてM&Aが経営者に注目されているからです。

建設業は人手不足、市場規模の縮小等の要因から厳しい経営環境に置かれており、そのまま放置すれば廃業を選択せざるを得ない企業・個人事業主が多く存在します。しかし廃業するにもコストがかかり、廃業すれば従業員や取引先など関係者にも大きな影響を与えてしまいます。一方、廃業を防ぐ手段としてM&Aがあり、建設業経営者もM&Aに強く関心を持ち始めています。

この記事では、建設業の現状と問題点を踏まえ、廃業よりM&Aの実施がどのように当事者や利害関係者にメリットがあるのか、詳しく解説します。

国内建設業の現状と課題

国内建設業界の現状ですが、国土交通省が公開している資料によると、1992年度に建設投資額が約84兆円のピークをとなった後、減少傾向に転じ、2011年度には約42兆円まで落ち込み、その後は増加に転じて、2019年度には約56兆円となり、目下も50兆円前後を推移しています。

今後も公共工事関連では、高度成長期に建設された建物や道路・橋など、社会インフラの建替え・更新工事需要が控えており、加えて、自然災害の拡大を背景に未然防止のための治山治水事業など、建設業が取り組まねばならないプロジェクトは山積みです。このように大きな建設需要が見込まれていることから、建設業が事業さえ継続できれば、廃業には追い込まれにくい状況です。

 

参照先)建設業の現状とこれまでの取組(国土交通省):https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001314888.pdf

 

一方、建設業に係る人員及び後継者の確保に関して、建設業業界は深刻な問題を抱えています。

同省の資料によると、建設業の就業者数は1997年度の685万人をピークに低下傾向をたどり、2018年度には503万人と大きく低下、以降も増加の兆しが見えません。

建設業は3K(きつい、汚い、危険)の代表といわれる業種であり、過酷な労働条件のイメージから若者の入職者が他業種以上に減少傾向にあります。さらに、高齢の就業者が次々と引退していくため、今後も就業者数が減ることが予想されます。

また、帝国データバンクの後継者不在企業動向調査(2019年)によると、国内企業の後継者不在率は2019年全国平均で65.2%、これを業種別で建設業に限れば、後継者不在率が70.8%と、全業種中トップと極めて深刻な状態です。この状態を放置すれば、いくら建設業界の先行き需要が大きくても、人手不足や後継者難から廃業を選択せざるを得なくなります。

参照先)全国・後継者不在企業動向調査2019年(帝国データバンク):https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p191104.pdf

建設業が廃業・倒産すると地域経済への影響が大きい

仮に建設業が廃業や倒産すると、極めて地域経済への影響が大きく、雇用情勢の悪化や連鎖倒産の可能性から、最終的に日本経済へ深刻な打撃を与えることになります。

建設業は、飲食業や農林漁業等ととともに、地方でも人を雇用吸収できる重要な業種です。また建設業が元請け・下請けのピラミッド構造になった受注形態の労働集約型産業の代表であることから、その建設事業者が廃業してしまうと、働いている多くの従業員が解雇され、行き場を失ってしまいます。

建設業の廃業や倒産は地域経済に、ひいては日本経済に極めて深刻な影響を与えてしまうのです。

建設業を廃業するならM&Aで売却した方がよい

では、建設業を廃業するなら、その影響を最小限にできる何か良い他の手段はあるのでしょうか?それがM&A(企業の合併及び買収)です。M&Aを使って建設業を有力な他社や余裕資本を持つ個人に売却すれば、廃業に伴う悪影響を避けられるばかりか、経営者含む関係者が多くのメリットを受けることもできます。

一方、建設業を廃業すれば、廃業に伴うコストが追加でかかるばかりか、法人に借金を経営者が連帯保証していれば、廃業後も経営者はその借入金を返済していく義務を負ってしまいます。廃業は、決してリスクゼロで行える行為ではないのです。

それならば、M&Aで建設業を他社や資金を持つ個人に売却すれば、そのリスクを回避しつつ売却メリットも得られます。次章ではそのメリットを売り手及び買い手に分けて、詳しく解説します。

建設業のM&Aで売り手及び買い手が得られるメリット

建設業の売り手が得られるメリット

建設業のM&Aで売り手が得られる代表的なメリットは以下の4つです。

事業承継できる・後継者問題が解決する

M&Aで建設業が売却できれば、その経営者に後継者がおらず、将来廃業リスクがあったとしても、他社等に売却することで後継者問題が解決するとともに事業もそのまま継続できます。これは、売り手経営者に取ってM&Aの最も大きなメリットです。

売却益が得られる

経営する建設業を後継者不足や経営難のまま放置して廃業してしまうと、廃業コストがかかるばかりか、会社に借金が残っていれば、経営者は廃業後も会社に変わってその借金を払い続けなければならないリスクがあります。

しかし、M&Aで建設業をうまく売却できれば、創業者として経営者は売却益を得られるばかりか、その資金を老後資金に充てたり、別の事業資金に使ったりすることも可能です。もちろん借金は買い手が引き受けてくれるので、連帯保証の義務も免れます。

従業員の雇用が維持できる

売り手メリットの3つ目は、廃業した場合、従業員は解雇され職を失いますが、M&Aで建設業を他社等に売却できれば、従業員はそのまま買い手に引き取ってもらえるので、雇用が維持できます。

一般的に、買い手は売り手より事業規模が大きく財務内容が良い先が多い場合も多いので、売り手側従業員の労働条件も買い手企業にあわせられ、結果として従業員の労働条件も改善されることがあります。

買い手の経営資源の活用が可能

M&Aで建設業が売却できれば、以後、売り手は買い手側企業にグループのメンバーとして参加したり、事業部門の一部に加えられたりします。すると、買い手の持つ経営資源の活用が可能になり、最終的にコスト削減ができます。

たとえば、売り手の事業規模が小さいときには、毎回少しずつしか事業資材が購入できず信用度の低さからコスト高の経営を強いられていたとしても、買い手に譲渡されてグループの一員になると、事業規模が大きくなり信用度も上がるため、価格交渉力が付き低コストで資材購入ができるようになります。

あるいは、売り手が高いリース代を払って借りていた建設機材や設備等のリソースも、譲渡後には買い手がすでに自社(グループ)内で使っている機材や設備を共同で利用できるので、わざわざ高い費用を払ってまで資金を社外流出させる必要がありません。

これもまた、M&Aによるスケールメリットといえるでしょう。

建設業の買い手が得られるメリット

建設業のM&Aで買い手が得られる代表的なメリットは以下の3つです。

事業成長へのスピードアップが図れる

建設業のM&Aで買い手が得られるメリットの一つが事業成長へのスピードアップが図れる点です。具体的には事業エリアの拡大や異業種への進出などを通じて事業成長できます。

もともと建設業の特徴として地域性が強く、以前は他地域の同業者まで買収してあらたな地域に進出しようとする経営者はまれでした。しかし、人材不足や後継者難を背景に経営者の考え方も大きく変化しており、M&Aを使って同業他社を買収し、事業エリアの拡大を図ろうとする経営者も増えてきています。既存で行なっている建設業を他地域で展開する場合、あらたに建設業の許可も取得する必要があるので、その場合は新規で始めるよりM&Aで同業他社を買収する方が手っ取り早いというわけです。

また、それは異業種への進出も同じで、建設業だけでは将来の発展が見込めないと経営者が判断した場合、M&Aで建設業ではない異業種の会社を買収すれば、リスク分散のための多角化経営ができます。新事業展開の時間短縮も図りつつ、将来の収益源を会社内に取り込めるでしょう。

いずれも時間短縮して事業成長のスピードアップが図れるという点で、買い手には大きなメリットとなります。

有資格者の確保及び人材不足の解消

建設業というのは、許可が必要な業種でも29業種もあり、また各工事を行なうにはそれぞれ業種ごとに許可を取る必要があります。加えて建設工事では、現場ごとに資格を持った現場代理人を配属することが義務づけられています。

そのため、会社の中に各種工事に必要な有資格者がいくらいるかで、会社が上限でいくら工事を受注できるか決まるので、会社が成長するためにも有資格者数の確保が大きな経営課題となっています。しかしM&Aで同業他社を買収できれば、同時に各工事に必要な有資格者も確保できるのでその目的を早めに達成できます。

建設業界は現状極めて深刻な人材不足に陥っているので、あらたに採用市場に人材を求めるよりも、M&Aで会社を買収すれば、建設業に必要なスキルを持った人材を確保でき問題点を解消できるのです。

事業で使う資材機材調達でスケールメリットがある

売り手側のメリットでも、事業で使う資材や機材調達のスケールメリットを解説しましたが、これは買い手側でもメリットになります。

買い手の事業規模が、売り手が参加することでさらに大きくなり、業界内での存在感や信用度が増すととともに、取引先に対しても価格交渉力が強まるので、コスト削減を通じて最終的に利益の拡大につながってきます。建設業で使う資材や機材の調達費は、他業種に比べて極めて大きいので、M&Aの結果得られる買い手側のスケールメリットもまた大きいです。

建設業のM&A・まとめ

建設業のM&Aについて、そのメリットを中心に詳しく解説してきました。
最後になりますが、建設業のM&Aでは重要な注意点がひとつあります。それは、粉飾決算に対する対応です。

ゼネコン等の大手建設業者は、顧問会計士もいることから簡単に粉飾決算に手を染めることはありませんが、地方の中小建設業者は公共工事受注に当たり、経営審査事項を公的機関に良く見せるため、工事に係る会計基準を操作してやむにやまれず粉飾決算を行なうことが0ではありません。建設業のM&Aでは、この点に注意をする必要があります。

それだけに、事前の交渉できちんとDD(デューデリジェンス)を行なえばそれも防げるので、専門家と相談してきちんと基本に即したM&Aを行なうようにしましょう。

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関連コラム

廃業届の書き方・出し方
廃業届の書き方・出し方

事業を開始する場合に開業届を税務署に提出したのと同様に、事業を廃業する場合にも、税務署に廃業届を提出しなければなりません。今回は、廃業届の書き方を中心に、廃業届とともに提出しなければならない可能性のある書類を紹介していきます。

廃業届とは

廃業届とは、事業の廃業を届け出るための書類です。所得税法の第229条には、新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続きが規定されています。所得税法では、開業届から廃業届までを一括して規定しているのです。

開業届や廃業届は、個人事業主が事業を何らかの事業を開始、廃止するときに利用する書類なので、なぜ所得税法で規定されているのかを疑問に思うかもしれません。しかし、行政手続き上、開業届は“個人事業主がどこから所得を得ているのかをわかるようにするための書類”で、廃業届は“個人事業主が得ている所得が無くなることをわかるようにするための書類”です。したがって、開業届や廃業届は所得税法で規定されるのです。

所得税法第229条の「開業等の届出」の規定では、「居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から1月以内に、税務署長に提出しなければならない」とされています。もし、廃業届を提出しない場合、個人事業主は事業からの所得があるものと見なされますから、きちんと届出を行わなければなりません。原則として、廃業届は廃業の事実が明らかとなった日から1ヶ月以内に届出なければならないことになっています。

廃業届の書き方の注意点

まず廃業届は、国税庁ホームページからダウンロードできます。 

参考:個人事業の開業・廃業等届出書(国税庁):https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm


廃業届の「所得の種類」欄には、新たに開始した事業又は廃止した事業に係る所得の種類について、該当するものを丸(○)で囲みます。また、事業所得を生ずべき事業を2以上(例えば、小売業と建設業など)行っている方がその事業の全部を廃止する場合は「全部」を○で囲みます。一方で、その事業の一部を廃止する場合には「一部」を○で囲み、廃止する事業を括弧内に簡記します。廃業届そのものを提出しなかった場合でも、特に罰則があるわけではありません。しかし、すでに説明したように、廃業届は所得税に関係するものなので、提出されないと事業は継続しているものと税務署は判断するので、廃業後も確定申告をしなければならなくなりますし、あとで説明する廃業届以外の書類とも整合性がとれなくなります。

廃業時に提出しなければならない廃業届以外の書類

廃業届を税務署に提出すると、事業が完全に停止したことになります。事業が停止することになるので、次のような申請を行っていた場合には、廃業届以外にも提出しなければならない書類があります。その書類とは以下のようなものです。

  • 青色申告をしていた個人事業主 → 所得税の青色申告の取りやめの届出書の提出
  • 消費税の納税をしていた個人事業主 → 事業廃止届出書の提出
  • 予定納税がある個人事業主 → 所得税等の減額の申請
  • 従業員を雇用していた個人事業主 → 給与支払事務所等の廃止届

 ここからは、それぞれの書類について詳しく說明していきます。

(1)青色申告の取りやめ届出書

 青色申告をしている場合、個人事業主は税制上の優遇を受けています。したがって、事業を廃止する場合、この優遇措置を停止しなければなりません。そのため、所得税の青色申告の取りやめ届出書が必要となります。個人事業の廃業の届出を行っただけでは、青色申告の取りやめの手続きは完了しないので注意が必要です。

(2)事業廃止届出書

 売上が1,000万円を越えている場合、個人事業主は消費税を支払わなければなりません。売上が1,000万円を超えていない場合には、特例として消費税の納税が免除されていますが、売上があるということは、顧客から消費税を預かっている状態にあるので、本来は預かっている消費税を納税する義務があるのです。したがって、売上が1,000万円を越えている場合、事業廃止届出書を提出しなければなりません(消費税法第57条第1項第3号、消費税法施行規則第26条第1項第4号)。

(3)所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書

 その年の5月15日現在において確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上の場合、その年の所得税及び復興特別所得税の一部をあらかじめ納付するという制度があります。この制度を「予定納税」といいます。

 廃業する場合、所得が減って納税すべき所得税額が15万円を下回る可能性があり、予定納税では前年の所得で所得税額を計算しているので、実際に支払わなければならない所得税額よりも所得税を多く支払ってしまう可能性があります。それを回避するために、予定納税額の減額申請書を税務署に提出することで、所得税額を減額できます。

(4)給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

 事業を行うにあたって従業員を雇用していた事業主は、当然、給与・賞与の支払いをしているはずです。その場合、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書を提出する必要があります(所得税法230条、所得税法施行規則第99条)。

まとめ:廃業届の書き方から出し方

廃業届は所得税と関係する書類です。事業が廃業した際、提出しなくとも罰則は設けられていませんが、所得税などの税金を納税する際に困ったことになります。廃業した場合、税務署に1ヶ月以内に廃業届を提出するのが原則です。廃業届だけではなく、状況に応じて他の書類の提出も必要となりますので早めの準備をしましょう

また、廃業の決断をする前にぜひM&Aの方法もご検討ください。M&A事業売却を行うメリット・デメリットはこちら

M&Aの基礎知識
2021/11/27
会社を高く売るポイントとは-M&Aで会社を売りたい方へ
会社を高く売るポイントとは-M&Aで会社を売りたい方へ

昨今、後継者不足により事業承継の問題がある中、M&Aで会社を売るという選択肢を取る経営者が増えています。会社を売ることは大変な出来事ですが、ポイントを押さえて売却をすれば様々なメリットがあります。この記事では、M&Aで会社を売却するメリット、会社を高く売るポイントについて解説します。

会社を売るメリットとは

会社を売ることによって、会社の存続や、経営者が利益を受けることができます。

株主の収入になる

会社を売ることの大きなメリットは、経営者や株主が売却益を得られることです。会社の規模や経営状況によりどの程度利益が出るかは異なりますが、独自のノウハウや強み、相性のいい買い手が見つかれば、売却益を大きくすることも可能です。

事業と従業員の雇用を守ることができる

会社を畳んでしまうことにより、従業員は新しい就職先を見つけなければなりません。しかしM&Aで会社を売る場合、会社が存続できるようになり、従業員の雇用が守れるというメリットがあります。また、事業自体も存続するため、既存の取引先にも継続して利用してもらうことができます。

会社を畳むことなく引き継ぐことができる 

M&Aで会社を売ることのメリットは従業員の雇用維持や取引先へ迷惑をかけずに済むことの他に、会社自体を存続させることもあります。これは経営者が長年育ててきた会社を潰さず、看板や法人を買い手企業へバトンをつなげることができ、経営で培ってきた会社の技術を後世に残すことができます。

債務や個人保証などから解放される

債務や個人保証などから解放されることも会社売却を行うメリットです。個人保証とは、会社が金融機関から融資を受ける際に、経営者などの個人が会社の融資について保証をする場合に、その経営者などが負う保証のことです。

会社が金融機関などからお金を借りるときには、社長の個人保証がついている場合が多いのですが、株式譲渡を行った場合には会社に紐づく債務の実質的に次のオーナーである買い手(経営者)が支払義務を負うことになります。また、その場合だと個人保証を名義変更することが一般的で、売り手企業の経営者はここで個人保証から解放されることになります。

買い手とのシナジーで会社が成長する機会を創出できる

買い手とのシナジーで会社の成長が期待できる点も、会社売却のメリットと言えます。M&Aで会社を売り、元々足りていなかった資金面や営業力、買い手企業のノウハウなどを掛け合わせることによって、会社が成長の機会を得ることができます。                     

会社を高く売るポイントとは

会社を売却する際には下記のような算式で計算されます。

会社の売却額-M&A費用(仲介手数料、税金等)=経営者の手取り額

そのため、売却額を高くすること、M&A費用を安くすることがポイントになります。会社を売るときのポイントを「事業」と「買い手」と「スキーム」の3つの観点から解説します。

会社を高く売るポイント:事業

 収益性を高く維持する

会社を売る際の金額を決める要素として一番わかりやすいのは売上、利益などの数字です。

例えばDCF法であれば、主に対象資産が生み出す将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を算出する方法のため、フリーキャッシュフロー(※)が大きければ大きいほど、企業価値は増加していきます。そのため、計算の基礎となる営業利益が大きくなれば企業価値も大きくなり会社を高く売ることができます。

※フリーキャッシュフローの算定:営業利益×(1-税率)+減価償却費-設備投資-運転資本

取引先や顧客

取引先と顧客も会社売却の金額を決める上で重要です。

もし大企業の大口の取引先がある場合、買い手企業からするとつながりのない大企業とのつながりができるため、会社を売る際に高く評価される可能性があります。また、継続して自社のサービスを利用している会社があれば、今後も長期的に収益を得られる可能性が高いため、こちらも高く評価される場合があり、会社を高く売ることにつながります。

技術力・ノウハウ

技術力やノウハウも会社売却の金額を決める上で重要になってきます。技術力やノウハウは会社の数値上表されないものではありますが、会社の利益を大きく支えているものになります。特にそれが独自の技術やノウハウであったり簡単にマネできないものであれば、会社を売る際に高く評価されることが多いでしょう。

従業員の経験・スキル

従業員は会社の大切な財産です。M&Aでは優秀な人材がそろっている会社には高い企業価値が付く可能性があります。特にその経験やスキルが簡単に得られるものでなかった場合、高い評価を得られます。

勤続年数が長く、経験豊富な従業員を採用するよりも会社を買うことで手に入れたほうが効率的であるため、そのような会社を買う場合もあります。

財務状況・法務状況の健全化

買い手企業がM&Aで恐れる要素の一つとして、買った企業が粉飾をしていることがあげられます。買い手は財務・法務状況が健全であるほど安心でき、価格交渉もしやすくなります。そのため、

適切なタイミングで会社を売る

会社を売る際は、タイミングが非常に重要になります。企業価値が一番高い時に会社を売ることで、より高い価格で売ることが期待できるからです。特に業績が好調な時や、最新技術や独自技術が社会の潮流として必要とされているときなどは、企業価値が高くなりやすくなります。逆に業績が不調の時や廃れた技術や規制緩和によって免許も必要なくなる場合などは将来性がないとみなされ、企業価値は低くなりやすいです。

このように、企業価値が高いタイミングは会社によって異なるので、会社売却を考えたら専門家に相談して、一番いいタイミングで売却できるようにしましょう。

 会社を高く売るポイント:買い手

買い手候補を多く見つける

会社を高く売る方法として、買い手候補を多く集めるのも重要です。

買い手が複数いることで、買い手同士が競争する環境になり、高い価格が付きやすくなります。その中から、最も好条件を提示した買い手候補を取引相手に選定することもできます。

会社売却にいいM&A専門家を見つけること

M&A専門家の選定も会社を売る際に重要になります。

会社を高く売るには、M&A専門家に支払う相談料や手数料といった諸費用を抑えることが重要になります。併せて買い手候補を多く見つけるためには、広いネットワークを持つM&A専門家を選ぶ必要があります。

そのため、各社の費用とサポート体制を比較し、最もM&A専門家を見つけましょう。

シナジー効果の高い買い手企業を見つける

買い手はM&Aによりシナジー効果を発揮できる会社を探しており、売却価格は、買い手がその会社にどの程度の価値を見出すかによって大きく変わります。

これは会計上ののれんに影響していきます。のれんとは、M&Aによって会社を買収した時の買収価格と買収される会社の時価純資産の差額のことを言います。買収価格は買い手・売り手で同意した金額で、時価純資産は会社を今処分した金額に近い金額を指しているため、当該金額を上回るものがのれんに該当します。

そのため、のれんはブランド力や技術力、人的資源や地理的条件、顧客ネットワークなど見えない資産価値を表しており、そういった帳簿上には直接現れづらい部分に魅力を感じる買い手を見つけることにより、今処分した場合の純資産額よりも大きい価格で売ることができます。

買い手の業種

買い手が異業種なのか、同業種なのかも売却額に影響していきます。それぞれ何を意識しているかによって変化するため、認識しているといいかと思います。

異業種の場合

異業種の場合は、目的としては異業種の情報がほしい、新規参入したいなどになり、得られる点が多いため、高く売れる傾向にあります。ただ、なじみのない業種の場合内容理解に時間がかかるため、会社を売るスピードは遅くなる傾向にあります。

同業種の場合

同業種の場合は、目的として規模の拡大が多く、事業内容を詳細に把握しているため、会社を売るスピードは速い傾向にあります。また、事業に詳しいことにより、本質的な面を重視するため、目的が達成されるのであれば高く売れ、目的と違っていたら厳しい条件を提示してくる可能性があります。

隣接業種の場合

隣接業種の場合は買収によるシナジーが大きな目的となります。そのため、同業種よりも高い金額で交渉をすることができ、異業種よりも事業は把握しているため、スムーズに会社を売ることができる傾向にあります。

会社を高く売るポイント:スキーム

株式譲渡と事業譲渡

会社ごと売却する株式譲渡と事業のみを譲渡する事業譲渡では、どのような違いがあるのでしょうか。

株式譲渡は株主が買い手に株式を売ることで、買い手が経営権を取得することになります。この場合は売却利益を得ることができるのは株主になり、オーナー企業であれば社長個人が利益を得ることになります。

対して事業譲渡は会社が自社の事業の一部を売ることで、買い手がその事業を吸収することになります。

この場合、会社が自社の事業を売っているので、売却利益は会社の利益に計上されます。

売却価額

会社売却では、株式譲渡の場合は一般的に従業員もそのまま移動しますが、事業譲渡の場合には、異なる企業の従業員になるために転籍手続が必要になります。この際に、人の移動が限定的な可能性があり、買い手にとっては不安要素になります。

そのため、人の数で売り上げが伸びる業態や属人性が高い業態、採用が難しい職種の人材を必要とする業態の場合、価格が高くなりやすくなります。

税金費用

税金費用はM&Aの中でも、最終の手取り額に大きな影響を与えます。その金額については株式譲渡と事業譲渡では、取引形態と利益を受け取る主体が異なるため、納める税金も異なってきます。税金を少なくしたいのであれば、有利なのは株式譲渡となります。株式譲渡の場合、譲渡益は消費税の対象とはならず、譲渡益に対して20%の税金が課せられます。

それに対して事業譲渡は売却した利益に対して法人税として29.74%と消費税の10%が課されることになります。そのため、税率が異なることにより、株式譲渡の方が税金費用を抑えられ、譲渡金額が同じ場合には

DD(デューデリジェンス)は事業売却の方が簡易的

事業譲渡の方がDD手続としては簡易的なものとなります。

DDとは、買い手が売り手の会社や事業を詳細に調査することです。財務状況のみならず、法務や労務など会社の状態を調べ、リスクがないかを明らかにします。会社売却では企業をすべてチェックする必要がありますが、事業譲渡では対象となる事業のみに限定されているため比較的簡易にDDが行われます。

まとめ:会社を高く売る方法

M&Aにより会社を売る場合、事前の準備や買い手候補の選定で売却額、売却までのスピードも変わってきます。売却方法、売却先、事前の整理など会社を高く売る方法はさまざまであり複雑でもあるので、一度専門家に依頼して相談してみることもいいと思います。

 

 

 

M&Aの基礎知識
2021/11/25
M&Aで生じる「のれん」とは?
M&Aで生じる「のれん」とは?

M&A(Mergers(合併)and Acquisitions(買収))を行うと買い手側の企業に対して「のれん」が生じることがあります。こののれんとは一体どのようなものでしょうか?今回は、M&Aのときに発生する「のれん」についてわかりやすく解説していきます。

「のれん」とは何か

 のれん(goodwill)とは、ある企業が別の企業を買収した際に発生する「無形資産」のことを言います。具体的には、企業のブランド名、強固な顧客基盤、良好な顧客関係、良好な従業員関係、独自の技術などの価値が、のれんの形態です。

 「のれん分け」という言葉がある通り、日本のお店の入り口には「のれん」が掛かっていることがあると思います。その「のれん」は、お店のブランド価値、顧客からの信頼、老舗として価値など、様々な魅力(お金を稼ぐ能力)を持つものです。有名なお店の「のれん分け」をしたお店であると分かれば、そのお店に行ってみたくなりませんか?その“行ってみたくなる”という、顧客を引き寄せる、目に見えない力が「のれん」と呼ばれるものの力なのです。つまり、のれんは会社にとって「キャッシュをもたらすもの」=無形資産=目に見えない収益を稼ぐ力なのです。のれんは、日本語では「超過収益力」とも呼ばれますが、これは、のれんが目に見えないけれど顧客を引き寄せる力を持っているからです。

具体的には、買収価格のうち、買収で購入したすべての資産の公正価値と、引き受けた負債の公正価値の純額よりも高い部分を「のれん」と呼びます。のれんの価値は、通常、買収(買収者がターゲットの企業を購入すること)の際に発生します。買収企業が対象企業に対して支払った金額が、対象企業の純資産の公正価値を上回った場合はほとんどのケースで、対象企業の「のれん」の価値が計上されます。買収企業が、対象企業の純資産の公正価値 よりも低い金額を支払った場合、買収企業は負ののれんを獲得しますが、これは窮地に追い込まれた企業をバーゲン価格で購入した場合などに発生します。

「のれん」の具体

たとえば、ABC社の資産(200億円)から負債(80億円)を差し引いた会社の価値(公正価値)が120億円であったとしましょう。そして、DEF社が150億円でABC社を買収した場合、本来、120億円であるはずのABC社をDEF社は150億円で買収したことになります。なぜ、DEF社は資産から負債を差し引いた公正価値が120億円の会社を150億円もかけて、つまり、30億円も余計にプレミアムを支払って買収するのでしょうか。

その理由は、DEF社にとってABC社には150億円の価値があるからです。資産から負債を差し引いた価値が120億円であっても、それは純粋な会社の清算価値を示しています。つまり、今すぐに会社を清算して、会社が保有している全ての資産を売却し、全ての負債の支払いをした価値が120億円なのです。

しかし、通常、会社は、目に見える資産だけではなく、目に見えない資産(無形資産)を保有しています。それは、前述のとおり、ブランド名、強固な顧客基盤、良好な顧客関係、良好な従業員関係、独自の技術といったその会社独自のものです。この無形資産に対して、DEF社は30億円分のプレミアムを支払っています。この30億円分を「のれん」と呼びます。そして、この30億円は「のれん」として買収者側の貸借対照表(B/S)に無形資産として計上されます。

 M&Aにおけるのれんと会計処理の方法

M&Aにおいて、特定の会社を買収する場合、一体いくらでその会社を買収できるのでしょうか?

たとえば、資産が50億円(時価)、負債が40億円(時価)の会社を買収しようとした場合、理論的には、この会社の価値は10億円(この会社の「株式」の価値は10億円)ですから、10億円あればこの会社を買収することができることになります。

しかし、通常、この会社を買収するためには、10億円以上の対価を支払わなければなりません。もし、10億円の会社を買収するために、12億円支払った場合には、差額2億円のプレミアムを支払い、のれんは無形資産として、貸借対照表に計上されることになります。

 貸借対照表に計上されたのれん(2億円)は、ずっと2億円の価値があるわけではありません。時間の経過とともに、その価値は減少しています。これは、老舗のお店の味が悪くなれば、お客さんが離れていくのと同様に、のれんも時間が経てば、収益を得られる力が失われていくことになります。したがって、日本の会計基準では、のれんを最大20年間にわたって償却することになっています。これを「のれんの償却」と呼びます。先の例で挙げた2億円ののれんを20年にわたって償却する場合、200,000,000÷20で1年間の償却額を求めることができますから、M&Aによる買収時に計上されていた200,000,000円の「のれん」は1年間で1,000,000円分の価値を向こう20年にわたり失っていくことになります。

これが日本の会計基準におけるのれんの会計処理の基本的な考え方です。

まとめ:M&Aで生じる「のれん」

 M&Aでは多くの場合、のれんが発生します。会社の価値よりも多額の資金を支払えば、それだけ多くのプレミアムを支払っているので、多額の「のれん」が計上されることになります。一方で、会社の価値よりも少ない資金で買収を成功させた場合には、逆ののれん、つまり「負ののれん」が計上されることになります。のれんは少しわかりにくい概念ですが、その本質は、会社に収益をもたらしてくれる目に見えない資産です。

M&Aの基礎知識
2021/11/24