M&Aの基礎知識 2022/04/02

M&A(エムアンドエー)とは?実行の流れと利害関係者・手法別のメリット・デメリットを徹底解説

M&A(エムアンドエー)とは?実行の流れと利害関係者・手法別のメリット・デメリットを徹底解説
                    

はじめに

後継者不足の解決や事業上のシナジー効果により事業拡大に寄与するM&Aは、近年注目を集めています。M&Aを進めるための手続きや流れに手法(事業譲渡、株式譲渡、会社分割、第三者割当増資)についても理解を深めておくことで、それぞれのケースに応じて最適な方法を検討することができます。また、M&Aを行う際は、買い手と売り手がメリット・デメリットを検討し実行していきますが、その他の利害関係者(取引先、士業、金融機関)への影響も重要な判断材料となります。今回はM&Aの流れや手法、利害関係者のメリット・デメリットをご紹介をいたします。

M&A(エムアンドエー)とは

Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略で、企業の合併、買収を意味します。M&Aの基本的な流れは、M&Aの検討、条件交渉、経営者同士の面談など様々なプロセスがあります。取引をスムーズに進めるための各段階におけるポイントを含めて解説します。

M&Aの具体的な流れは以下の通りです。

  1. プレディール:M&Aの検討
  2. オリジネーション:資料の準備/案件化
  3. マッチング:相手先探し/秘密保持契約の締結
  4. エグゼキューション:経営者同士の面談/M&Aの条件交渉/基本合意の締結/デューデリジェンス/最終契約の締結

M&Aの流れ

各プロセスでの手続きの内容やポイントについて解説します。

プレディール

M&Aの検討

M&Aは、あくまでも経営戦略の実現のためのひとつの手段です。会社の将来や事業目標を達成するために、M&Aという選択がベストなのかどうかを検討しましょう。目標達成のためにM&Aを選択するか否かを多角的に検討することで、M&Aという手段が目的化することを未然に防ぐことができます。M&Aを検討する段階では、顧問税理士やメインバンクなど外部の専門家に相談することもあります。外部に相談することで他社の例などを参考に、売却(買収)価格の目安やメリットを検討することができます。

M&Aの相談

M&Aを進めるためには、会社の財務や税務などに関する専門的な知識が求められます。相手企業との交渉や手続きにも時間や労力を要しますが、忙しい経営者が経営の片手間でM&Aの取引を進めることは容易ではありません。自社で実行できない場合は、M&Aの検討段階から、外部の専門家に相談し、委託契約を締結することが望ましいでしょう。専門家の代表的なものとしてはフィナンシャルアドバイザーやM&A仲介会社などがあります。

オリジネーション

交渉相手の選定

買い手候補先企業の探し方は大別すると3つの方法があります。それは①自分のネットワークで探す、②M&Aプラットフォームで探す、③M&A専門家を活用する、です。

自分のネットワークで探すことで相手が見つかればよいのですが、通常は②か③の方法を採用することになります。その場合、買い手候補先企業への初期的な情報開示はノンネームシートで行われることが一般的です。

交渉相手へのアプローチ

「ノンネームシート」を作成します。

ノンネームシートとは、自社の業種や本社所在地、事業規模、業績推移、売却理由、売却希望価格などの企業概要を企業名を伏せて記載した書面です。&A専門家に依頼をすれば無料で作成してもらえるケースがほとんどですので、初めてM&Aに取り組まれる方はM&A専門家に依頼をしてみるとよいでしょう。

マッチング

秘密保持契約の締結

買収を検討する企業からノンネームより詳細な情報を求められた場合には、秘密保持契約(NDA、CA)を締結します。M&Aの取引は自社の従業員や取引先、金融機関などの利害関係者に大きな影響を及ぼします。M&Aは秘密保持にはじまり、秘密保持に終わると言われますが、秘密保持契約を締結の上、M&Aの一連のやり取りが完結するまでは情報の開示先はたとえ社内であっても最低限に留めることを心がけましょう。

エグゼキューション

経営者同士の面談

秘密保持契約書を締結し、双方の社名や会社情報等を開示した上で、されにM&Aの検討を進めたいという際には、経営者同士のトップ面談が行われます。1回のみの場合もありますし、複数回行なわれる場合もあります。特に中小企業の場合には、経営における経営者の影響度が大きいため、トップ面談を行う中で双方の会社運営の考え方、経営理念、企業カルチャーなどについて認識や理解を深めることも重要なポイントになります。トップの間で信頼関係を醸成し、双方が納得行くまで会談を行うことが後続のM&A取引を進める上でも重要です。

M&Aの条件交渉

条件交渉の段階では具体的に以下のことを決定します。

  • 買収価格
  • 経営者・役員・従業員の処遇
  • M&Aの方法やスキーム
  • 最終契約締結までの流れ
  • 守秘義務

交渉段階ではこのような詳細事項を決定し、次のステップである基本合意の締結に向けて動き出します。一般的には買い手企業の側から希望する買収価格やスケジュール、M&Aの方法などが提示され、譲渡企業が合意するという流れで進みます。

基本合意の締結

交渉段階で詳細事項について合意形成ができたら、双方の間で基本合意書が締結されます。基本合意書には法的拘束力があるものと、そうでないものがあります。仮に、法的拘束力がない場合でも無碍にしていいというものではなく、M&Aの成約に向けての意思表明となる重要なプロセスです。一般的に記載される事項は以下の通りです。

上記の中でも独占交渉権の付与は買い手企業に、M&Aにかかる一定期間の独占的な交渉権を与えるものになりますので検討状況によっては他の買い手候補先企業にお断りをいれるなど契約違反とならないように注意が必要です。

デューデリジェンス

基本合意書を締結したらデューデリジェンスに進みます。デューデリジェンスとは買い手企業が売り手企業の財務、法務、税務などを調査し、訴訟の可能性や簿外債務がないかをチェックする手続きです。簡潔に言えば、売り手企業のリスクや問題点の洗い出しということです。

デューデリジェンスを怠ると買収後にトラブルに発生する可能性があるので、買い手企業が確認をしたい各分野の専門家が行うことになります。例えば財務や税務であれば、会計士や税理士が、法務であれば弁護士が行う形になります。

最終契約の締結

デューデリジェンスの結果、買収に問題がないと判明すれば最終契約を締結します。その後然るべき手続等を行い、M&Aをクロージングします。最終契約書の締結日と、譲渡代金の払込日は同日のケースもあれば、別日にずれるケースもあります。株式や事業の権利の移転にあたっては取締役会や株主総会の同意が必要となることもあります。

最終契約書には主に以下の内容が盛り込まれます。

  • 買収価格
  • 譲渡する対象物
  • 誓約事項
  • 表明保証クロージングの前提条件

取り引き先や、従業員はそのまま引き継がれるケースは多いのでご安心ください。

M&Aにおける利害関係者別メリット・デメリット

M&Aを行う場合の買い手と売り手、その他利害関係者にとってメリット・デメリットについてご紹介していきます。M&Aの主な利害関係を整理すると以下の通り、買い手・売り手・取引先・顧問先(会計事務所、税理士事務所等)・金融機関という人たちがいます。

買い手

買い手のメリット

時間と労力を買える、シナジーや節税効果の可能性

M&Aを行うにあたって、多くの買い手に当てはまるメリットは時間と労力を買うことができる点です。通常事業を拡大する、新規事業を立ち上げるためにマーケティング、技術開発、従業員の教育などで多くの時間が必要になります。M&Aを実行することによりすでに完成している状態の事業や企業を買収できるので、時間の短縮が可能です。

現行の事業と買収企業とのシナジー効果や、買収企業に繰越欠損金がある場合には節税効果を図れる可能性があることなどもメリットといえます。

買い手のデメリット

資金投入にリスクを負う

M&Aで企業の譲り受けるには相応の資金が必要です。特に規模の大きな企業や評価の高い企業の譲り受けほどその傾向は顕著ですが、中小企業であっても予想以上の評価額がつくケースもあります。

そのため買収資金と買収後の想定パフォーマンスの比較、想定パフォーマンスを実現できる確率についてはよく検討する必要があります。上場企業のケースでも大型M&Aによって負債が膨らみ、本社ビルなどの資産売却を迫られる事例も見受けられます。

売り手

売り手のメリット

後継者問題の解決、売却代金の獲得と個人保証の解消

M&Aによって、業績が良く意欲も高い企業に事業や会社を譲渡することで、後継者不足の問題の解消につながります。市場環境が不透明な中、最近は無理に家業を継がせて我が子に苦労をさせたくないという考え方をもつオーナーも増えている状況です。実子や親族による承継が減っており、M&Aは事業承継問題の課題解決の手段となっております。

また、売却代金の獲得と負債の引継ぎによる個人保証などの解消についても大きなメリットと考えられます。M&Aによるハッピーリタイアメントに向けて経営者利益の獲得ができることは見逃せません。

売り手のデメリット

対応に心理的・実務的なコストを要する

M&Aにおいて売り手のデメリットとしては、対応にコストがかかること、コストをかけたといって必ず希望価格で売れることは保証されていないことがあげられます。仲介会社等に依頼したとしても、価格や条件について折り合いがつかず、スムーズに買い手企業が見つからないケースは多々あります。成約まで平均的には早くても半年、1年以上かかる場合も多くあり、その間の資料提出にかかる準備の時間や、交渉の中での心理的な負担など、M&売り手企業のオーナーに心理的・実務的なコストが発生します。

取引先

取引先のメリット

買い手・売り手:サービスの充実やコスト削減、販路の拡大

買い手・売り手双方の顧客にとって、M&Aを行うことで取引している企業の商品ラインナップが増加する場合や、生産ラインを統一したり仕入先を最適化したりすることでコストが削減できる可能性が存在します。販売網が強化できれば顧客が増える可能性に繋がります。また、売り手が主要な取引先にあたる場合、売り手の事業が存続することによりその後も継続して取引を行うことができる面もメリットといえます

取引先のデメリット

買い手・売り手:競合可能性や名称の刷新によるネガティブな影響

デメリットとしては、取引条件の変更や、買い手、売り手のどちらかともう一方の取引先が競合関係にある場合に取引が継続できなくなってしまう、また、売り手側の事業の一部が廃止になり、これまでと同じ商品やサービスが利用できなくなってしまうといったこともあります。

また商品の機能や性能は同じでも、M&Aによる統合によってブランド名や店舗名を刷新するというケースがあります。その場合、信頼関係を築いてきた顧客が違和感を抱くおそれもあります。

顧問先(会計事務所、税理士事務所等)

顧問先(会計事務所、税理士事務所等)のメリット

  • 買い手:顧問範囲の拡大
  • 売り手:アドバイザリー業務の受託

買い手側の顧問士業のメリットとしては、M&Aに伴う、会計及び税務のデューデリジェンス等を依頼される可能性があります。加えて、M&Aにより子会社や事業が増え、顧問範囲が広がる可能性があるでしょう。

売り手側の顧問士業のメリットとしては、顧問先をM&A仲介会社等に紹介することで、M&Aが成約した場合に手数料のフィーバックがもらえることがあげられます。また、顧問先のM&Aが成約すれば、顧問先の廃業リスクが減り、将来の事業継続可能性が高まり、顧問業のニーズも維持できる可能性があります。さらに、顧問先の廃業を防ぐためのM&Aの提案をしたことでオーナーから信頼を獲得することもあり、安定的な顧問業の継続に寄与することも考えられます。

顧問先(会計事務所、税理士事務所等)のデメリット

  • 買い手:作業や対応範囲の増加
  • 売り手:顧問先喪失リスク

買い手側の顧問士業のデメリットとしては、M&Aの検討フローの一貫として、買収対象企業やその取引先に海外企業が入っているなどの理由で専門外の業務を依頼されるケースがあります。また、M&Aに伴う業務が依頼されることが多い場合は、通常の業務を逼迫する恐れがあります。

売り手側の顧問士業のデメリットとしては、顧問先のM&Aのニーズに正しく対応出来ない場合は、顧問先が知らぬ間に他社に買収されることで顧問業務が減少する点です。

逆に、顧問先のM&Aのニーズに正しく答えていくことで、オーナーの信頼を勝ち得たり、紹介手数料獲得したりするチャンスに繋がります。自社でM&A業務等に対応していない場合でも、M&A業務等に対応可能なパートナーや事業者と協業し、外部のリソースを上手く活用することで顧問先に対して適切なサービス提供を行なうことが解決手段の1つになります。

金融機関

金融機関のメリット

  • 買い手:融資機会、アドバイザリー業務の受託
  • 売り手:アドバイザリー業務の受託

買い手側の金融機関のメリットとしては、顧客がM&Aによる企業買収をしている場合ほとんどのケースで買い手は資金調達を検討しており、金融機関としては買収を検討する企業に対して融資を実行できる可能性があります。また売り手側の金融機関のメリットとして、売り手の企業が金融機関の融資を返せないまま廃業する可能性がある場合、優良な買い手企業に買収される選択肢を選んでもらうことで貸し倒れを防ぐこがのできる有効な手段です。

また買い手側、売り手側問わずM&Aを行う企業に対し、金融機関がアドバイザーとして関われば、M&Aアドバイザリーの手数料を受け取れます。

金融機関のデメリット

買い手・売り手:顧客の借り換えリスク

買い手側の金融機関のデメリットとしては、M&Aによる資金ニーズ等に答えられない場合は、他行に借り換えをされてしまう可能性があることです。

買い手が検討しているM&A案件の買収資金の融資検討の際に、メインバンクは融資不可、サブバンクは融資可能という判断となる場合があります。その場合、買い手が買収資金の融資と含めてその他の現状の借入についても借り換えを依頼するケースもあるようです。

売り手の金融機関のデメリットとしては、融資先がM&Aによって売却された場合、買い手の事情で買収後に借り換えをされてしまう可能性も出てくることがあげられます。

M&Aにおける各手法別メリット・デメリット

ここからはM&Aを行うにあたっての各手法についてとメリットとメリットについてご紹介していきます。M&Aの主な手法を整理すると以下の通りとなります。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手が株式を売却し買い手がその対価で現金を渡し経営権を得る手法でM&Aの中で最も活用されています。

株式譲渡のメリット

  • 買い手:シンプルなプロセスでの支配権の獲得
  • 売り手:被買収企業がある程度独立性を保てる

株式の譲渡による経営権の譲渡であるため、株主(≒経営陣)のみが変化し、会社内の資産や組織構造には変化がないことが買い手と売り手に選択されやすい特徴です。買い手のメリットは他の手法と比較して、主な手続きが取締役会の決議のみであることなど比較的プロセスが簡単であることです。また売り手にとってもメリットは債権者保護手続きが不要になるなど会社法の手続きが比較的簡便である点や買収後も被買収企業の独立性が維持しやすい点があります。

株式譲渡のデメリット

  • 買い手:必要のない資産や、異なる企業文化の受け入れ
  • 売り手:経営判断に関与できなくなる

株式譲渡の買い手のデメリットは買収した会社が抱えている負債や事業に関して、必要のない資産を引き受けるリスクがある点があります。また、異なる企業文化の企業が買収後も存続するため、シナジー効果の発揮や融合がスムーズに進まない可能性もあります。

また、売り手のデメリットとしては、株式譲渡後は経営権が買い手側に移ることで経営判断には基本的には関与できなくなる点が大きなデメリットとしてあげられます。

事業譲渡

事業譲渡とは、特定の事業に使用する資産、負債を一体として譲渡する手法です。譲渡対象資産としては、特定の事業に紐付くような、在庫や不動産といった有形資産だけでなく、ソフトウェアのような無形資産、ノウハウや特定の人材、技術、契約なども譲渡対象となりえます。

M&Aではよく利用される手法ですが、特に株式譲渡との比較で、特定の資産のみを取得したい場合に利用されます。

事業譲渡のメリット

  • 買い手:譲受範囲を選択できる
  • 売り手:譲渡範囲の選択と集中が可能

買い手にとっては特定の資産のみを取得したい場合に利用されます。必要な資産だけを買収できるため、買収コストを抑えることができる点や、不要な資産や簿外債務を引き継ぐリスクがない点があります。売り手にとっては、譲渡対象の資産が少ないケースでは、会社法上の手続きが簡便である点や、事業の選択と集中として不要事業だけの売却が可能である点がメリットといえます。

事業譲渡のデメリット

買い手・売り手:手間とコストがかかる

買い手にとっては資産の引継ぎの際に他の手法と比較してコストがかかりやすい点がデメリットとしてあげられます。多数の資産の引継ぎを伴う場合、所有権の移転手続きが必要になる点や、従業員や取引先を承継する場合には契約の移転手続きが必要など手間と時間がかかります。また不動産の移転を伴う場合、不動産取得税や登録免許税などが発生します。資産の買収には消費税が課されるため、その分の資金も用意しなければなりません。

売り手のデメリットとしては譲渡の対象が一部事業である分、その後残る事業運営に影響が出る可能性があることがあげられます。

会社分割

会社分割は株式会社や合同会社などの権利義務の一部もしくは全部を別の会社に承継することです。会社分割には大きく分けて吸収分割と新設分割があります。吸収分割とは会社がその事業の権利義務の全部または一部を分割して他の会社に承継させる方法です。新設分割とは、会社がその事業の権利義務の全部または一部を分割して、新たに設立した会社に承継させる方法です。会社分割の特徴は、分割後の会社が消滅しない点にあります。

また、分割は、分社型分割、分割型分割に区分されます。吸収分割と新設分割との組み合わせで4区分の分割手法が存在します。分社型分割は「縦の分割」とも呼ばれ、孫会社を設立するようなイメージで、分割型分割は「横の分割」とも呼ばれ、兄弟会社を設立するイメージです。

会社分割のメリット

  • 買い手:買収に資金が必要にならないケースがある
  • 売り手:比較的手続きコストをかけずに選択と集中が可能

買い手のメリットとしては買収資金の準備が不要で、買収対価として新株を発行すれば可能であり、承継対価の支払いが柔軟である点が挙げられます。や、また買い手・売り手両社のメリットとして、分割契約では包括承継のため、事業譲渡との比較で契約の個々の移転手続きが不要という点で事業譲渡等よりも手続きコストが低くなることもありえます。また売り手にとっては、自社戦略にそぐわない事業など特定の事業のみ切り離すことができる点があげられます。

会社分割のデメリット

  • 買い手・売り手:実行に時間と手間を要する

まず買い手・売り手両者にとってデメリットは実行に時間がかかる点です。株式を対価として渡すため株式評価の必要があり、登記を含めた手続きに時間がかかります。

買い手のデメリットとしては事業全体を承継するため、事業に紐付く簿外債務を引き継ぐリスクがある点や、外部の事業を自社に取り込むため、システムなどの統合作業に労力を要する場合がある点があげられます。

売り手のデメリットは株主総会の決議にて3分の2以上の同意を得なければならない点であり時間と合わせて手間がかかる点にあります。また対価として受け取り株式の場合は、現金化が難しい点もあげられます。

第三者割当増資

第三者割当増資は対象企業(売り手)が株式を新規で発行し、資金の出し手(買い手)がその株式を引き受けることで、対象会社(売り手)は資金調達、資金の出し手(買い手)は株式を取得する手法です。株式を引き受ける資金の出し手にクライアントや取引先、付き合いがある金融機関、会社の役員など、会社の縁故者であることが多く、縁故募集とも言われましたが、最近では企業間のパートナーシップ構築の手法としてより柔軟に用いられるようになってきています。

第三者割当増資のメリット

  • 買い手:段階的な支配権の獲得
  • 売り手:財務基盤の強化

資金の出し手(買い手)のメリットとしては、段階的な支配権の獲得と資金供給による対象会社(売り手)との関係維持があげられます。資金の出し手(買い手)が対象会社の買収を考えている一方で、対象会社(売り手)にとって既存株主との資本関係が有益であり、資金の出し手(買い手)としても既存株主と対象会社の関係継続を望む状況かつ、対象会社(売り手)に資金ニーズがある場合、第三者割当増資に応じることが、段階的な支配権の獲得と対象会社と既存株主との関係維持につながります。

また対象会社(売り手)のメリットとしては、第三者割当増資の受け入れは資金を集めながら自己資本比率を改善できる特徴があり、財務基盤を強化できる点にあります。また、対象会社(売り手)は資金の出し手(買い手)を自ら選択できる点もメリットといえます。

第三者割当増資のデメリット

  • 買い手:早急な完全支配ができない
  • 売り手:資金の出し手(買い手)の影響力の増加

資金の出し手(買い手)のデメリットに原則として100%の株式取得はできないことがあげられます。

対象会社(売り手)のデメリットとしては、第三者割当増資により資金の出し手(買い手)は対象会社(売り手)の株主になるため、関係悪化時、資金の出し手(買い手)の影響力が対象会社(売り手)にとってネガティブに作用する可能性がある点があります。また、第三者割当増資を行うことは既存株主の保有株価値の希薄化につながります。既存株主に対して第三者割当増資の目的を適切に説明しなければ、株主からネガティブなイメージを持たれてしまうリスクもあります。

おわりに

ここまでM&Aの流れや利害関係者・手法別のメリット・デメリットついて解説しましたが、実際にM&Aを実行するためには少なくとも半年以上がかかり、長いと年単位の取り組みになることも少なくありません。準備が遅れて適切なM&Aの取引のチャンスを逃してしまうことも多くあります。買い手・売り手に係る多くの関係者に大きな影響が発生します。当事者になる前段階で、自身の立ち位置にどのような影響が出るか事前に抑えておけるかが、いざというとき判断を誤らない為の重要な要素になるといえます。また、手法について複数ご紹介しましたが、状況に応じてそれぞれのケースを検討できることが大切です。そのためには事前に知識をつけておくことや、詳細な部分については都度適切な専門家に相談することが、M&A検討にあたっての重要なポイントであるといえます。M&Aを検討する必要が出てきた場合には、早めの段階からM&A専門家に相談し、M&Aの準備に取り掛かりましょう。

一覧へ戻る

関連コラム

レーマン方式とは?~M&Aにおける報酬はどのように決まる?~
レーマン方式とは?~M&Aにおける報酬はどのように決まる?~

はじめに

中小企業経営者の高齢化に伴ってM&Aを利用した事業承継が活発に行われています。中小企業にはM&A取引を行うだけのリソースが限られているため、M&A仲介業者にM&A取引を委託するのが一般的となっています。

一方で、M&A仲介業者に支払う報酬(手数料)の不透明さや不公正さが問題となっています。M&A仲介業者ごとに、中小企業側が支払うべき手数料が異なっていて、“中小企業側がその報酬額が妥当であるかどうかが判断できない”ことが大きな問題となっているのです。M&A仲介業者が利益を得る方法は様々です。取引ごとに定額で手数料を徴収する方法、取引額に応じて手数料を得る方法、あるいはその両方を組み合わせた方法などがあります。

結果として、M&Aにおける手数料の算定方式の標準化を目指して、近年では手数料の算定方式が一定程度整備されました。M&Aにおける手数料の算定方式としては「レーマン方式」と呼ばれる方式が広く実務に浸透しています。

今回は、M&Aにおける手数料の算定方式である「レーマン方式」について詳しく解説していきます。

レーマン方式の由来 〜M&Aにおける報酬を計算する〜

レーマン方式によるM&A仲介業者の報酬計算式はもともとリーマン・ブラザーズが顧客のために事業資金を調達する際に使用するために1960年代後半に開発されたものです。英語圏はLehmann Formulaと呼ばれており、英語圏の発音に則ればリーマン方式と呼ぶほうが妥当でしょう。

それでは、なぜ日本ではレーマン方式という呼び方となっているのでしょうか。

その理由は、日本においては、レーマン方式は「ドイツの経営学者であるレーマンの学説を応用した成果配分方式」として説明されているからです。

しかし、日本でレーマン方式について説明したもののなかに、レーマンの学説を説明したものは一切ありません。そもそも、レーマンは企業の業績である売上高・付加価値・営業利益・経常利益等を労働者の貢献度合いによって付加価値を計算する計算式を提示したに過ぎません。

英語圏の資料を紐解けば容易にわかるように、レーマンの学説を応用した成果配分方式であると説明しているものはなく、レーマン方式はレーマンの学説に由来するというのは根拠のない説明であることがわかります。英語圏では、リーマン方式の由来はリーマン・ブラザーズが開発したものであるという説明が有力です。

もともと、グローバルな投資銀行サービスを提供するリーマン・ブラザーズはサービスに対する手数料を顧客に明確に伝える方法を必要としていました。レーマン方式の利点は、誰にでも理解しやすく、顧客が取引でどれだけの手数料がかかるかすぐに概算を知ることができる点にあります。その後、レーマン方式による報酬の計算は、ビジネス・ブローカー、M&Aアドバイザー、投資銀行家、その他あらゆる規模の事業売却の仲介を行う専門家に支払われる手数料を計算するために広く適用されるようになりました。

リーマン・ブラザーズがレーマン方式による計算式を開発する以前は、金融機関によって手数料が大きく異なり、なかには手数料が総額の15%以上に達するケースもありました。

この報酬方法は、バラツキのある手数料を標準化する方法として1990年代まで広く利用されています。レーマン方式による計算式は、もともと100万ドル以上の取引に適用され、次のように計算されていました。

  • 最初の100万ドルの5%
  • 2回目の100万ドルに対して4%
  • 3回目の100万ドルの3%
  • 4番目の100万ドルの2%

このように計算していき、400万ドル以上の取引については1%の手数料となります。レーマン方式では、投資銀行手数料は取引額に対するパーセンテージで構成され、段階的な手数料が設定されるのが普通です。

レーマン方式による報酬計算の実情

レーマン方式を利用した報酬計算は、2020年3月に中小企業庁が公表した『中小M&Aガイドライン』でも説明されています。そこでは、「レーマン方式は、「基準となる価額」に応じて変動する各階層の「乗じる割合」を、各階層の「基準となる価額」に該当する各部分にそれぞれ乗じた金額を合算して、報酬を算定する手法」とされています(中小企業庁『中小M&Aガイドライン』p.46)。

中小M&Aガイドラインに掲載されているレーマン方式の例

出所:中小企業庁(2020)『中小M&Aガイドライン』p.46

M&A仲介業者は、M&A当事者である譲渡側・譲受側双方と契約締結の上、譲渡側・譲受側双方に対して手数料を請求するのが普通です。レーマン方式による報酬計算は、標準化された計算方式ではあるものの、「基準となる価額」について決まった額があるわけではありません。「乗じる割合」についても同様です。

したがって、各M&A仲介業者によって基準となる価額、乗じる割合は異なることになります。レーマン方式による報酬計算は、こうした体系表をM&A取引の当事者に事前に提示することができるため、透明な手数料設定が可能となり、M&A取引の当事者である中小行経営者も納得しやすいというメリットがあります。

一方、M&A仲介業者にとっては、売り手側の提示額が小規模である場合、「基準となる価額」が小さくなることから、十分な成功報酬を確保できないケースがあるというデメリットがあります。通常、M&A仲介業者は、こうしたリスクを未然に防ぐために、別途最低手数料を設けているケースが多いです。

報酬の計算には、レーマン方式以外にもいくつかの計算方法があります。たとえば、会社を売却する価格の目標値を設定して、この評価額に対する基本的な報酬を売り手との間で合意しておくものの、それ以上の価格で売却することができれば、M&A仲介業者は順次高い報酬を得ることができる、という「スケールドパーセント方式」です。

たとえば、800万ドルで売却した場合、3%の手数料を得ることができるものの、900万ドル以上で売却した場合、手数料は3.5%に跳ね上がり、1000万ドル以上で売却した場合は、最高で4%となるようなケースです。この報酬体系はM&A仲介業者が最高価格を付けてくれるような買い手となる企業を見つけるインセンティブを与えるものです。ただし、日本の中小企業に対してM&A仲介業者は買い手・売り手の両方から報酬を得ているため、スケールドパーセント方式はあまり用いられていません。

おわりに

レーマン方式によるM&A仲介業者の報酬計算は、報酬の透明性と公正性を担保するための一つの方法に過ぎません。レーマン方式は、日本では、ドイツ経営学由来の計算方式であると説明されることが多いものの、英語圏では米国由来の計算方式であると説明されています。結局のところ、M&A仲介業者の報酬を透明あるいは公正にするというのは非常に難しい課題です。「〜%以上の報酬を受けてはいけない」というルールを作っても、それはM&A仲介業者の競争を阻害する可能性があり、M&A業界の健全な発展を妨げる可能性があります。したがって、現在は、中小企業庁が『中小M&Aガイドライン』を公表して、M&A仲介業者の報酬に一定の制限をかけています。M&A仲介業者もガイドラインを積極的に守ることでM&A仲介業者を利用する中小企業が安心して取引を依頼できる環境作りが行われており、M&A業界の健全な発展が期待されています。

 

M&Aの基礎知識
2022/05/18
社長が「会社売却」を真剣に考える理由は?よくある売却理由5選
社長が「会社売却」を真剣に考える理由は?よくある売却理由5選

 はじめに

経営者(社長)が会社売却や事業売却を考える理由としてどのようなものがあるでしょうか。

自分のビジネスを持つことは、非常にやりがいがあり充実したものですが、いつかは出口戦略を検討しなければならないときがきます。会社や事業を売却するという決断は、会社にとって重要な選択のひとつです。会社や事業を売却するタイミングは事業価値がピークに達したときや事業を良いタイミングで引き継げるときに合わせるのが理想的ですが、それを予測するのは困難です。この記事では経営者が会社売却や事業売却を考える理由を5つ紹介していきます。

社長が会社売却を考える理由

経営者が自分の会社や事業の売却を考える理由は様々です。経営者の個人的な事情である場合もあれば、会社が置かれた事業環境の影響の場合もあるでしょう。以下では、経営者が会社・事業の売却理由として挙げることの多い順に説明していきます。

売却理由①:後継者不在による事業承継

経営者が会社売却を考える理由として最も多いのは後継者が不在であるためです。個人事業主である場合もそうですが、特に、従業員を抱えているケースでは簡単に会社をたたむこともできないので、事業を承継しなければなりません。この場合、後継者を探して事業を承継しなければなりませんが、そのときに用いられるのが、「経営者が保有する株式を売却して事業を承継する」という方法です。つまり、経営権を企業外部あるいは内部に譲渡して会社を存続させます。そして、自身は会社経営から退く、またはアドバイザーとなります。近年では、特に中小企業において、経営者の高齢化とともにどのように事業を継続させるかが問題となっており、その際、後継者がいないことが大きな問題となっています。

売却理由②: 創業者利益の獲得

創業者が保有する株式を売却して利益を得る目的で会社売却を行うケースもあります。一般に、これは創業者利益の獲得目的の会社売却と呼ばれます。創業者利益とは、会社の設立に際して株式を引き受けた創業者が、自身が保有する株式を株式市場に売りに出した際に獲得できる、株式の時価と払込額面価額(取得原価)との差額を言います。

創業者は会社が利益を獲得するために事業を展開し、事業が獲得した利益から従業員・サプライヤー・負債・税金などあらゆる支払いを行っています。そのためには、多くの労働時間と知力を捧げなければなりません。創業者は、事業を展開し始めた頃、積極的にリスクをとって事業を成長させようとするでしょう。なぜなら、失うべき会社の価値がまだあまりないからです。創業者がビジネスを成長させたいのであれば、リスクを取ることは重要なことです。しかし、会社が大きくなるにつれて、会社の価値も大きくなります。会社の価値が大きくなると、それを毀損する恐れから経営者が大きなリスクを忌避し、より保守的になる場合もあります。

多くの人が自分のビジネスを持つことを夢見ますが、ひとたびそれが現実となると、その仕事量に圧倒されることになるでしょう。その結果として、燃え尽きてしまうということも少なくありません。多くの経営者は、事業の繁栄のために人生を捧げてきたのですから、その成果を享受するのが当然です。また、ビジネスを売却しても、パートタイムのコンサルタントとして残ることで、趣味を楽しみながら、ビジネスをより身近なところで支援する経営者もいます。年齢を重ねた創業者は誤った戦略の修正に何年も費やしてダメージコントロールするような余裕はもはやないため、会社を失いかねない危険な状況を避けるようになるでしょう。こうした場合、創業者は、常に投資からの撤退(事業からの撤退)を考えているはずです。

それは、会社が悪い状況にあるからではなく、それが個人的に賢明なビジネス上の決断だからです。こうした理由から、創業者利益を獲得するために、会社を売却する場合があります。

売却理由③:「先行き不安」と「業績不振」

会社の将来性に不安を抱えていたり、会社の業績が不振だったりするケースでも、経営者は会社売却・事業売却を検討するでしょう。経営者が会社や事業の売却を考えていないときでも、個人・グループ・他社から魅力的なオファーがある場合もあるかもしれません。

会社の将来性に不安があり、経営者自身の能力や熱意ではどうしようもないケースや、業績不振が続いていて、経営者としての資質が疑わしいときに、経営者は会社から身を引くことを考えた方が良いケースもあります。

不透明な事業環境におかれた会社であればあるほど、経営者は、将来にわたって独力で会社を運営していくことに不安を感じ、資金力がある大手企業の傘下に入ったほうがいいと考えることになります。その方が、会社のためにも会社で働く従業員のためにも良いとの判断のもとで、会社や事業の売却を検討することになるでしょう。

売却理由④:戦略的撤退〜「選択と集中」〜

ある事業の業績不振が続いているケースでは、戦略的にその事業からの撤退を考え、事業売却を検討する経営者もいます。ただし、戦略的撤退は、決して後ろ向きの決断ではなく、業績不振の事業以外の事業に集中し、会社を守るための前向きの決断であると考えるべきです。

この場合、経営者は、選択と集中という戦略のもとで、事業の売却を考えることになります。選択と集中とは、不採算事業を売却して、成長事業に集中して経営資源を投入する戦略のことです。より大きな競争力を持つ新しい経済プレーヤーの出現は、自社のビジネスを脅かす可能性があります。このような場合、競合他社に顧客と市場を奪われるのを待つよりも、その会社が存在し続ける間に売却する方が賢明な選択となる可能性があります。そのため、経営者は選択と集中戦略のもとで戦略的撤退を行うために、会社売却を検討することになるでしょう。

売却理由⑤:「会社の発展」と「社員の将来」を考えて

複数の競合他社が存在する市場において、中小企業や個人事業主の規模は小さく、市場シェアや売上を大きく伸ばすことができないため、事業の将来性が見込めないということがよくあります。

このような場合、現実的に考えて、経営者は成長するための競争力を得るために、事業提携や合併などのかたちで会社に競争力をもたらす必要があります。つまり、今後競争力を高めることが難しいということです。もし、大企業の顧客基盤が利用できるようになれば、より大きな仕事ができるようになりますし、資金提供を受ければ、より事業を成長させることができるかもしれません。この場合、経営者は経営権を譲渡して会社を成長させようとするのです。もし、経営者が今後自身で会社を成長させるための戦略上の決断を下すだけの能力、活力が自分にはないと考える場合、最善の方法は、良い買い手を探し、会社を売却することです。つまり、会社の発展や社員の将来を考えて会社を売却することも、経営者は決断しなければならないケースがあるのです。

幸せな社員・会社

まとめ:社長が「会社売却」を真剣に考える理由

経営者であれば、普段の会社経営と同じくらい真剣に会社売却の戦略を立てておかなければなりません。ネガティブなイメージで捉えられがちな会社売却ですが、会社のために会社売却を決断しなければならないケースも多くあります。会社を存続させるために自ら身を引かなければならないケースもあるでしょう。会社売却をネガティブに捉えるのではなく、会社を存続させるための有効な手段として捉えておかなければなりません。

会社を売る場合の相場はどれくらい?企業価値評価算出の方法の解説はこちら

M&Aの基礎知識
2022/05/18
多角化経営の実現のために 〜事業多角化をする理由とM&Aの活用〜
多角化経営の実現のために 〜事業多角化をする理由とM&Aの活用〜

はじめに

企業の収益性を高め、事業リスクを軽減するために、経営の多角化を考える経営者のみなさまは少なくありません。経営の多角化を迅速に実現するためにはM&A(Mergers(合併)and Acquisitions(買収))の活用は欠かせません。この記事では、多角化経営の意義について説明したあと、多角化経営を迅速に実現するための手段としてのM&Aについて詳しく解説していきます。

多角化経営実現の意義

多角化経営とは、企業が提供する製品またはサービスを変更または拡大することによって成長を図る企業戦略のことを言います。一般に、企業は、競合他社に差をつけるために多角化戦略をとる場合があり、これは「攻めの多角化」と呼ばれています。一方、企業は、市場環境の大きなプレッシャーに直面した際に、「守りの多角化」に着手するケースもあります。

ビジネスが誕生してから時間経過する、または参入障壁の低いビジネスモデルなどが原因となり、市場シェアや利益を拡大することが難しくなる場合があります。新しい事業分野への多角化は、収入を大幅に増やす機会を与えるだけでなく、本業が一時的または長期的に急降下した場合に備えて、会社を守ることにつながります。

多角化とは、既存のビジネスを拡大することではありません。多角化の本質は、新たなビジネスチャンスを広げることにあります。たとえば、ある町でダイニング・レストランを経営している場合、隣町に2号店をオープンすることは、「経営の多角化」ではなく「事業の拡大」に過ぎません。企業向けにケータリングを始めたる、料理を提供していない時間帯に料理教室を開くといったことが多角化となります。

経営の多角化を検討する際には、関連する事業にとどまるのか、それとも全く別の市場に進出するのかを決めなければなりません。たとえば、ペットシッターがグルーミングサービスを提供するように、市場内にとどまることで、これまでの人脈やブランド、顧客基盤を活用することができるでしょう。

一方で、ペットシッターが造園業を始めるように、新しい市場に進出すれば、特定の業界の景気後退に対して、他の事業でカバーできるようになり経営としての安定性は高まるでしょう。関連する事業に進出する場合には、既存のリソースを活かすことで軌道に乗せやすくなる反面新しい取り組みが失敗した場合、ブランドが損なわれる可能性があります。他方、全く新しい分野でビジネスを始めると、ゼロからのスタートとなるため、既存事業への影響は少ないかもしれませんが、軌道に乗せるにはより多くの時間と資金が必要となる場合が多くなることに留意しなければなりません。

多角化経営を行う6つの理由

多角化経営を行う理由には、以下のようなものがあります。

(1)競争に打ち勝つ

市場における競争優位に立つための最良の方法は多角化です。たとえば、関連する事業へと製品・サービスのポートフォリオを拡大することによって、競合他社が提供できないものを提供できるようになります。

(2)利益を安定させる

経営の多角化が成功すれば、事業の成長、ひいては収益も大きく向上します。一般に、一つの事業が成長し続けられる保証はありません。様々な事業へと多角化し、一つの事業が他の事業を補完するという関係をつくることで会社の収益性を向上させることができます。

(3)事業リスクを回避する

企業経営において、限られた経営資源を有効活用するために、全体を俯瞰した上で、どこに経営資源を配分すればよいかを考えなければなりません。事業多角化は、景気後退などのリスクを回避するための積極的な手段となり得る戦略です。1つの事業に注力する場合、事業の根幹を揺るがす変化が起きると、会社もろとも倒れてしまう可能性があります。事業ごとに異なる製品やサービスを提供することで、業界の不況のダメージを軽減できます。経営の多角化によって事業領域を複数もつことで市場の変化にも対応できるようになるということです。事業を複数とすればするほど、経営者の視点から「事業ポートフォリオの最適化(事業の選択と集中による経営資源の最適配分)」を図らなければなりません。事業ポートフォリオの構築は、事業リスクを回避するための重要な手段です。

(4)ブランドイメージの向上

経営の多角化は、ブランドイメージを向上させる方法となり得えます。新たに買収したブランドとの結びつきを強めることで、ブランドイメージを向上させられるかもしれません。知名度のあるブランドを買収すれば、そのブランドイメージを自社に取り込める可能性があります。

(5)経営資源の最適化

事業の成長が鈍化し、環境変化によって将来性が見込まれなくなってしまった場合、経営者はその事業へ投資ができず、会社に余剰資金が発生することになるでしょう。そんなときに、事業を多角化していれば、ある事業の余剰資金を他の事業へ振り向けることができます。余剰キャッシュフローの活用、既存インフラの有効活用、企業レベルの意思決定の改善など、多角化は企業の資源を最適化する方法となり得るのです。

多角的

多角化経営とM&A

多角化経営を行う企業は、2以上の事業の経営資源を組み合わせることで会社の収益性を高めリスクを分散することもできます。中小企業が陥りがちな収益性に関する成長の鈍化と事業リスクへの直面を解決できるのが多角化経営なのです。

多角化経営の実現を目指す場合、既存事業がうまくいっていて、会社に余剰資金がある場合、その余剰資金を使って事業を多角化することもできるかもしれません。しかし、通常、新しい事業を軌道にのせるためには時間がかかります。

しかし、多角化経営を迅速に実現する手段が一つだけあります。それがM&Aの活用です。

たとえば、特定の地域に店舗・工場を建設しようとすれば、土地・建物の購入または賃借、改装等工事、従業員の雇用、取引先開拓など多くの時間とコストを投じなければなりません。しかし、M&Aを行うことで、自社で一から経営資源を投入して、事業を立ち上げずに済みます。買収対象の企業がすでに事業を展開しているため、その経営資源を利用すれば良いからです。さらに、買収を通じて、優秀な人材やノウハウなどを獲得できます。自社で人材育成を行ったり、ノウハウを積み上げたりする時間を短縮できるなど、多角化を迅速に実現するためには、M&Aが不可欠です。

事業を多角化する場合、既存事業と関連する事業に参入するケースと既存事業と関連しない事業へ参入するケースが考えられます。特に、既存事業と関連しない事業へ参入するケースでは、必要となる経営資源を準備するために時間もコストも必要となるケースが多いため、M&Aを活用してすでに事業を展開している会社を買収してくることで、買収企業の経営資源を有効に活用しながら、自社の経営資源と組み合わせることでシナジー効果を得られます。

おわりに

多角化経営を行えば、ビジネスを成長させ、リスクを軽減することができます。M&Aは多角化経営を迅速に実現するための有効な手段です。ただし、経営の多角化は、経営資源を各事業へと分散させることになるため、短期的にはコストの上昇が避けられません。こうした事実をきちんと理解したうえで、多角化経営の意義を考えることが重要です。

M&Aの基礎知識
2022/05/15