M&Aの基礎知識 2021/12/31

経営権とは~経営権を持っている経営者は自由に会社の意思決定を行える?~

経営権とは~経営権を持っている経営者は自由に会社の意思決定を行える?~
                    

株式会社を経営するのは誰でしょう?一般に、それは経営者であると考えられています。経営者は株式会社を経営する「経営権」を保有しているということです。では、経営権を持っている経営者は自由に会社の意思決定を行えるのでしょうか?実はそうではありません。たとえ経営権を持っている経営者であっても会社の意思決定を自由に行うことができるわけではなく、株式会社の意思決定は最終的に、会社に出資している株主の集まりである株主総会の議決によって決定されます。株式会社という組織は、会社を経営する人と会社の所有する人が分離しているのが特徴です。したがって、経営権を持つ人と会社の所有権を持つ人も分離しています。この記事では、そんなわかりにくい概念である「経営権」について解説していきます。

経営権とは何か?

経営権とは、法律上の用語ではなく、慣用的に用いられている用語です。その意味は、自分が意図したように、会社の意思決定を行える権利のことを言います。会社は誰のものか(所有権は誰が持つのか)と言えば、それはその会社に出資している人(お金を提供している人)、すなわち、株主ということになります。他方で、会社の意思決定を行うのは誰かと言えば、それは、その会社の経営者です。つまり、経営者が「経営権」を執行する権利を持っています。

中小企業においては、会社の所有者と経営が分離していない場合が多い(つまり、会社の出資者と経営権の執行者が分かれていない)ので、会社の所有権者と経営の執行権者が分離していません。会社の所有権と経営権は分離していない状態なのです。

しかし、大企業になると、特に上場企業で顕著ですが、会社の所有権者である株主の数は膨大になります。しかも、株主は、直接会社経営を行うわけではないので、経営権を執行しません。つまり、大企業においては、会社の所有権と経営権が分離しているのです。この場合、会社の所有権は株主が持っていて、会社の経営権は経営者が持っているという状態になっています。

では、会社の経営者が会社の経営権を持っていると言えるのでしょうか。実はそうではありません。なぜなら、企業の経営者は、自分が意図するままに、会社の意思決定を行えるわけではないからです。株式会社の意思決定を行うのは会社経営者に限りません。たとえば、取締役会を構成する取締役、取締役の中から会社を代表する権限を委任されている代表取締役、個別の業務の執行を任せられた執行役員なども会社の意思決定を行えます。経営者は、取締役会や監査役会などの他の組織との協働のなかで、意思決定を下さなければならない仕組みになっているのです。実は、株式会社においては自分で直接これらの役職に就任せずとも、これらの役職の選任・解任権や重要事項の承認権を通じて会社の意思決定を左右できます。株主総会では、通常、取締役、監査役の選任、役員報酬、剰余金の配当など、会社の経営において重要な決定がなされます。

では、こういた役職の選任・解任権や重要事項の承認は、株式会社において誰(どの機関)が行うのでしょうか?それは株主総会です。つまり、株式会社においては、実質的に株主総会が経営権を左右できる構造になっているのです。株主一人一人は経営権を経営者に委任していますが、その執行権の行使の良し悪しを株主総会においてチェックできるようになっているのです。

株主総会における議決権の行使

株主総会の決議は、取締役会のように一人一票の投票で決するわけではありません。株主総会における決議は、議決権が付与された株式の数を基準とする多数決で行い、通常、一株あたり1票の議決権が付与されています。したがって、多くの株式数を持っている方が多くの議決権を持つことになり、会社の意思決定に対する関与度合いを増すことができます。経営者にとっては、自分ないし自分の意図通り議決権を行使してくれる株主が、株主総会の決議を決すに足る数(議決権のある株式のなかに占める割合的数)の株式を保有し、議決権行使することを持って、会社における執行権を支配しているということになります。つまり、株主総会において最も多くの議決権が付与された株式を持っている株主が、会社の実質的な経営権を保有していると考えます。

ただし、議決権が付与された株式を少数しか持っていない少数株主であっても、会社の株主として、株主総会において、株主総会決議不存在・取消訴訟の提起権や、取締役らの違法行為差止請求権(6ヶ月前から引き続き株式を保有している株主)、帳簿閲覧請求権(3パーセント保有株主)など、株主の代理人である経営者を一定程度監督する権限を有しています。株式会社は、一人ひとりの株主が経営者の執行権の行使を牽制できるような仕組みになっているのです。

経営権は譲渡することもできる

株式会社の経営権を保有しているのは株主総会で、株主総会で最も強い影響力を持っているのは、議決権が付与された株式を最も多く保有している株主であることを説明しました。つまり、会社の経営権は株主が保有する株式と紐付いているのです。議決権を付与された多くの株式を持っている株主が、経営権に対して最も強い影響力を行使できるというわけです。

株式には、株式譲渡自由の原則という「株主がその有する株式について、自由に他人に譲渡することができる原則」があります。株式は自由に譲渡することができるわけです。株式が自由に譲渡できるということは、株式を通じて経営権も自由に譲渡できることがわかります。つまり、会社の経営権を移譲したり、承継したりする場合には、株式を譲渡して経営権を相手に渡せば良いというわけです。しかしながら、多くの日本の中小企業では、経営を安定させるという目的の下で、譲渡制限付き株式という会社の承認が無いと自由に譲渡することができない株式を発行することが慣例となっているためこの点には注意が必要です。

まとめ:経営権とは?

この記事では、実質的に経営権を持っているのは、議決権が付与された株式を最も多く持っている株主であることを説明しました。経営権とは会社の意思決定を行う権利のことを言い、その権利を実質的に持っているのは、経営者ではなく株主総会なのです。経営権と所有権を同一視して考えがちですが、厳密には別のものとなります。例えば、会社を譲渡する際に、所有権としての株式を譲渡したとしても、株式を譲渡をした次の株主から信頼されれば引き続き社長として会社に残り経営を行うことも可能になります。少し分かりづらい概念ではありますが、分別して考えることで経営や承継の可能性も広がリます。専門家と話すときもこの概念を知っていることは役立ちます。有効に活用できるように、留意しておきましょう。

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事業譲渡における消費税の取扱い~課税資産と非課税資産の分類~
事業譲渡における消費税の取扱い~課税資産と非課税資産の分類~

事業譲渡には買い物と同様に消費税がかかる

事業譲渡は、運営している会社の事業の全部、または一部を他の企業に譲渡する取引です。したがって、譲渡の結果、譲渡企業はその対価として金銭などを受け取ることになります。事業譲渡も物品を売買する買い物などと同様に、事業の売買を行うので、そこには当然、消費税がかかります。そこでこのコラムでは、事業譲渡における消費税の取扱いについて、わかりやすく解説していきます。

事業譲渡と営業権(のれんの考え方)

事業譲渡とは、消費税法上、有機的一体となった営業上の財産(物的資産のみならず従業員、営業権を含みます)を譲渡する行為として定義されています。事業譲渡の場合、事業活動に必要となる個々の財産の権利・義務の個別に移転することから、原則的に引き継ぐ資産・負債を”時価”で評価し、原則的に譲渡される資産の価額に対して消費税の課税がなされます。なお、譲渡される資産のすべてが消費税の課税対象になるわけではなく、課税資産のみが課税の対象になります。(課税資産と非課税資産については後述。)

なお、譲渡資産の譲渡価額と取得価額の差額は譲渡損益として計上されます。この譲渡損益は一般的には営業権やのれんと呼ばれ、目に見えないものではありますが課税資産となります。

たとえば、引き継ぐ資産の時価が100万円で、帳簿価額が50万円であった場合、事業譲渡の際に、事業を譲り渡す譲渡企業側に50万円が譲渡利益として計上されます。つまり、譲渡所得も50万円です。この50万円は、消費税法上、営業権とも呼ばれますが、会計上はのれん(暖簾)と呼ばれます。

営業権とは、営業をする権利。すなわち、事業を展開する権利であり、それがのれん(暖簾)と呼ばれているのです。この「のれん(営業権)」は、具体的には、企業の社会的信用により、その営業が他の企業以上の利益を収め得るような無形の財産的価値、すなわち企業の超過収益力を表すものです。

したがって、「のれん(営業権)」には、無形の財産的価値があると考えることができ、その譲渡は、消費税法上、会社の無形の資産(かたちはないが、財産として価値があるもの)の譲渡と見なされて課税対象となるのです。先の例で言えば、のれん(営業権)は50万円でしたから、帳簿価額50万円+のれん50万円に対して現行の消費税率である10%を掛けた額である、10万円が譲受企業が消費税として納めなければならない金額となります。

事業の譲渡価額には、貸借対照表に記載された資産の帳簿価額とは別に、ノウハウやブランド力、人材といった無形資産の価値が「のれん(営業権)」として含まれているというのが消費税額を計算する際のポイントです。のれん(営業権)は消費税が課税される無形資産(課税資産)なのです。

したがって、帳簿価額と譲渡価額の差額である営業権(のれん)の額が大きければ大きい事業譲渡であるケースほど、相対的に消費税の金額は増えることになるので、事業譲渡の際には注意が必要となります。

※のれんについてはこちらのコラムでも詳しく解説しています。

事業譲渡と消費税

譲渡される資産を課税資産と非課税資産に分けて、課税資産に対してだけ消費税が課税される。

さて、ここまでで、事業譲渡と営業権(のれん)の関係性について説明してきました。事業譲渡を行うと、営業権(のれん)という無形の資産の譲渡が行われていると考え、実際の帳簿価額に加えて、そこにも消費税が課税される。つまり、事業の譲渡側において、営業権(のれん)という無形資産に対しても消費税である10%が課されるということになります。事業譲渡における消費税は、結局のところ、「譲渡される資産に対して課されるもの」であることがわかります。

では、営業権(のれん)以外に譲渡される資産に対して、消費税はどのようにかかるのでしょうか。

結論からいうと、消費税法上、譲渡される資産を課税資産と非課税資産に分けて、課税資産に対してだけ消費税が課税されます。事業譲渡で売買した資産には、消費税が課税される資産と非課税の資産の両方が混在しているのが普通です。したがって、まずは、売買対象となった資産を課税資産と非課税資産に分類する必要があります。

消費税が生じる課税資産としては、主に以下の資産が該当します。

  • 土地以外の有形固定資産(建物や機械、車両、備品、船舶など)
  • 無形固定資産(特許権や商標権などの知的財産権、ソフトウェア、漁業権など)
  • 棚卸資産(在庫、仕掛品など)
  • 営業権(のれん)

ここで特に重要なのが有形固定資産です。有形固定資産は基本的に消費税が課税されますが、土地は例外的に非課税となるので注意が必要です。

一方、消費税が生じない非課税資産は、事業譲渡を行っても消費税がかかりません。以下のような資産が非課税資産に該当します。

  • 土地
  • 有価証券(株式や債券、手形など)債権(売掛金や貸付金など)

なぜ上記のような資産が、事業譲渡において非課税資産なのかというと、通常、非課税資産を持っているだけで事業を展開することはできないからです。

課税資産と非課税資産を分類したら、あとは課税資産額(譲渡価額)に現行の消費税率である10%をかけるだけで、納税する消費税の金額を求められます。たとえば、課税資産の譲渡価額が1,000万円の場合、消費税の金額は以下のとおり求めることができます。

  • 消費税額 = 1,000万円 × 10% =100万円

なお、個々の資産について対価の額が明らかでなく、資産を一括して売買価額を決定している場合もあります。たとえば、A事業について、30億円一括で譲る契約を結び、その事業を展開するために必要となる個々の資産・負債の額については契約で決めなかったケースです。この場合、課税資産と非課税資産の時価で按分して消費税額を計算します(この場合、営業権は課税資産に含まれます)。

消費税

おわりに

事業譲渡を行うと、消費税が課されます。消費税の対象となる資産は、消費税法上課税資産と非課税資産に分かれており、課税資産を譲渡した場合にのみ消費税が課税されます。非課税資産には、土地・有価証券(株式や債券、手形など)・債権(売掛金や貸付金など)がありますが、一般に、これだけを譲渡されたとしても事業を行うことはできません。土地や株式・手形だけを持っていたとしても、事業を展開することは通常できないからです。したがって、消費税法では、課税資産を事業の展開に必要なものに限定することで、事業譲渡において適切に消費税額が計算できるようにしているのです。ここには、営業権(のれん)という無形の資産も含まれています。

事業譲渡において消費税額を正確に計算するためには、課税資産と非課税資産をきちんと分けることが非常に重要です。まずは、きちんと何が課税資産で、何が非課税資産なのかを理解するようにしましょう。

M&Aの基礎知識
2022/01/16
後継ぎがいないときにはどうする?後継者を募集する第三者承継のケース
後継ぎがいないときにはどうする?後継者を募集する第三者承継のケース

はじめに

後継ぎがいない場合、事業をたたんで廃業するしかないのでしょうか。経営者としての資質のある後継ぎが親族内、あるいは会社内にもいない場合には、会社外で後継ぎを募集する方法があります。これを第三者承継と言います。社外の第三者(他の企業や創業希望者等)へ株式を譲渡したり、事業を譲渡したりすることで承継するので、親族や社内に適任者がいない場合でも広く後継ぎの候補者を求めることができ、現経営者は会社売却の利益を得られます。事業承継は、事業を次世代に引継ぎ、経営資源を有効活用するという面に加えて、新たな事業の成長に向けた機会(チャンス)とも成り得るものなのです。

この記事では後継ぎとなる候補者を企業外に求める事業承継(第三者承継)について詳しく解説していきます。

後継ぎがいなくても事業は承継できる

経営者の身内に適切な資質を持つ後継ぎがいない場合、現経営者はどのような対応を求められるかというと、事業の承継を検討する際に、まずは後継ぎ候補を経営者の親族内から選ぶケースがほとんどです。仮に親族内に後継ぎ候補が不在であれば、自社の役員や従業員の中から選ぼうとします。しかし、親族内にも社内にも後継ぎ候補がいない、いわゆる後継ぎ不在の企業においては、社外の第三者に後継ぎ候補を求めるほかありません。事業承継に際して、身内や社内に候補者がいないケースでは、選択肢がなく、それが実現できなければ廃業を余儀なくされることになります。

中小企業におけるM&A(第三者承継)は、このような後継ぎ不在の中小企業が社外の第三者による事業承継のために活用されている事業承継手法です。M&Aとは、合併(Merger)と買収(Acquisition)の頭文字で、簡単に言えば、会社そのものを売り買いするという意味があります。しかし、M&Aは、買収(Buyout)や乗っ取り(Takeover)といった敵対的なイメージが強く残っています。しかし、事業承継におけるM&Aにはそのようなことはありません。むしろ、事業を承継するためになくてはならない手段です。

M&Aを活用した後継ぎ募集・事業承継

親族や社内に後継ぎ候補がいないケースには、従業員の雇用維持、取引先の仕事の確保、経営者の老後の生活資金確保等のため、会社そのものを売却し、第三者に経営してもらうことも考えられる選択肢の一つです。第三者への承継の相手方が会社の場合、合併や買収などによる方法で事業を承継しますが、合併や買収を行うには、譲渡価格や条件など相手方との合意を形成することが必要となります。また、第三者への承継では、相手方を探すためには企業価値を高めておく重要があり、企業価値を高めるには多くの時間と労力が必要です。

事業承継に際して事業を社外の後継ぎへ引き継ぐ場合、主に用いられる手法は以下の通りです。

  1. 株式を他の会社に譲渡する方法
  2. 株式を他の個人に譲渡する方法
  3. 事業を他の会社に譲渡する方法
  4. 個人事業主の事業を他の個人事業主に譲渡する方法

このように、社外への引継ぎには、株式譲渡(1、2)と事業譲渡(3、4)という二つの手法が用いられることが一般的です。

M&Aを活用した事業承継は、親族や社内に適任となる後継ぎ候補者がいないケースでも、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社売却の利益を得ることができる等のメリットがあります。

M&Aを活用して第三者に事業を承継する事例は、中小企業における後継ぎ候補者の確保が難くなっていることを背景に受けていることもあって近年増加傾向にあります。第三者承継は、事業承継の方法としては珍しいものではなくなっているのです。

増加傾向の要因は後継ぎ候補者難のほか、中小企業のM&Aを専門に扱う民間仲介業者等が増えてきたことや、国の事業引継ぎ支援センターが全国に設置されたことからM&Aの認知が高まったことも一つとしてあげられます。国の事業引継ぎ支援センターは、事業承継問題の悩みを抱える中小企業経営者からの相談、とりわけ「第三者への会社(事業)の譲渡」についての相談を受け、ケースによっては実際のM&Aの実行支援までを行うことで、円滑な事業のバトンタッチの支援している機関です。こうした機関を活用すれば、スムーズに第三者継承が可能となります。

M&Aによる事業承継をする手順は、以下の図表のようになります。

事業承継の流れの詳細はこちら

 

図表1: M&Aの手続と方法

M&A

(出所: 中小企業庁 事業承継ガイドライン 20問20答)

後継ぎがいないときには、第三者承継を専門家と検討していく

後継ぎ不在等のため、親族や従業員以外の第三者に事業引継ぎを行う場合、まず、M&A支援をしてくれる専門家(仲介、アドバイザー)を選定し、売却条件を検討しなければなりません。M&Aを活用した事業承継を選択する場合、自力で一連の作業を行うことが困難である場合が多いため、専門的なノウハウを有する専門家に相談を行う必要があります。経営者がM&Aの意思決定を行うに当たっては、様々なポイントを検討しなければなりません。しかし、経営者が単独で検討していても、日々の業務への対処等が優先してしまい、なかなか検討が進まないケースも多いです。また、専門的な知見を有しない中で検討を続けることで誤った判断を行う恐れもあります。

専門家の選定にあたっては、信頼できる専門家を探し出すのが重要となります。M&Aを行うにあたっては、「どのような形での承継を望むのか」について、経営者自身の考えを明確にしておく必要があります。 仲介機関に事前に売却条件を伝えた上で、条件に合った相手先を見つけることが最善の方法です。

後継ぎがいないときには第三者承継の検討を

2022年現在、中小企業の休廃業・解散件数は増加傾向であり、2018年は4万6千件と5年前より1万件以上増加しています。このままでは、価値ある中小企業の廃業に歯止めがかからず、地域における雇用や技術も失われてしまいます。そこで活用されているのが第三者承継(M&Aによる事業承継)です。第三者承継は、中小企業の後継ぎ不在に直面した経営者の後継ぎ問題を解決する有力な選択肢として、今日では活発に行われているのです。日本政府も、中小企業による事業承継支援策を行っており、第三者承継は近年では身近なものとなりつつあります。

M&Aの基礎知識
2022/01/11
M&A(買収)に対する4つの誤解:M&Aは敵対的ではない
M&A(買収)に対する4つの誤解:M&Aは敵対的ではない

はじめに

突然ですが「M&A」と聞くと、みなさんどのようなイメージを持たれていますか?

M&Aと言えば、日本では、過去にフジテレビの経営権をめぐるライブドアのニッポン放送買収事件や、ドラマにもなったハゲタカファンドによる日本企業買収ブームなどが取り沙汰され、「乗っ取り」などの乱暴なイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。

M&Aの悪いイメージをあえて言葉にするならば、「ある企業が、望んでいないにも関わらず、お金の力で他の企業を自分のものにしてしまう」といったところでしょうか。

しかし、これは大きな誤解です。M&Aはこのようなネガティブな行為ではなく、実際には、ポジティブに実行されているケースも多いのです。このコラムでは、M&Aに対してよくある誤解を紐解きながら、M&Aがビジネスにとってポジティブにはたらく側面を紹介します。

M&Aに対する4つの誤解

まず、M&Aには様々な手法があります。狭義では、M&Aは「吸収合併」「新設合併」などの企業の合併と、「株式譲渡」「新株引受」「第三者割当増資」「株式交換」などの手段を通じた会社・事業の買収を意味する言葉です。広義では、事業の多角化などを目的とした資本提携(資本参加、合弁会社設立など)を含む、企業の成長戦略を意味する場合もあります。

誤解1: M&Aは敵対的な行為である

M&Aにおいて最もよくある誤解はM&Aが敵対的な行為であるということです。

しかし、日本において、被買収企業の経営陣の意向に反する買収である、敵対的買収はほぼ上場企業などにおいてのみ行われる行為だといってよいでしょう。

なぜならば、日本の未上場企業の3/4以上はその株式に株式譲渡制限を付しています。譲渡制限のついた株式は、その株式を取得するのに会社の承認が必要になります。つまり、実質的な自由な売買が行えないため、敵対的な買収を仕掛けようとしても、会社の承認が得られず買収ができないのです。その背景を考慮すれば、日本における未上場企業のM&Aの大多数が、会社の承認を得て行われる友好的なものであるといって差し支えないでしょう。他方、上場企業の株式には譲渡制限がありませんので敵対的な買収が可能にます。日本の企業の中で上場企業の割合は0.03%と言われています。マスメディアなどで字耳目を集める案件は日本の中のほんの一部の話です。

では、何を目的としてM&Aは行われるのでしょうか?それは、売り手、買い手の双方の会社の成長のために他なりません。お互いの企業の成長のために必要であるからこそ、M&Aは行われるのです。

誤解2: M&Aの投資対効果は悪い

企業は常に事業で売上を上げ続けなければ、倒産してしまいます。顧客に受け入れられるように商品・サービスを提供し、成長していかなければ、厳しい競争環境下で生き残っていくことはできません。しかし、ゼロから新規事業を立ち上げたり、海外での事業展開を進めたりすることは、大きなリスクとコストを負うだけでなく、成果を出すまでにある程度の時間が必要となります。

企業が買収や合併といったM&Aを選択する主な理由の1つは、スピーディにかつ飛躍的な成長ができる可能性が大きいからです。自社の努力だけではかなわないと思われた事業展開や成長戦略も、他の企業の資産を買収・結合することで、実現可能性を模索できるのがM&Aです。

投資対効果については、あらゆる可能性を漏れなく考えられているでしょうか。

もちろん、M&Aは闇雲に行うものではなく、戦略的に行っていくことが必要になります。専門家とともに二人三脚でおこなっていくことが必要になりますが、M&Aについてのセカンドオピニオンサービスのみを提供している専門家もいます。このような、第三者の意見を聞くことで新しい視点を得られますので、効果が低いという先入観のもと検討をやめてしまうのは、早合点かもしれません。

誤解3: 業績不振の会社や事業が買収の対象となる

会社や事業を譲渡しようとする売り手側には、事業は堅調でも、後継者がいない、別の事業にチャレンジしたい…など譲渡したいさまざまな理由があります。

また、売り手側の譲渡したいという希望がいますぐ明らかでなくても、表面的にはわかりませんが実はいつか譲渡しようと考えていることがあります。買い手側の会社がどんな会社か、どんな条件か、など譲渡にかかわる事項について具体的な話がもちこまれたり、絵姿がみえてきたときに、譲渡を本格的に考えるというケースもあります。

合併や買収は、業界を革新し新しい技術やスキルを導入して、事業をさらに発展させる絶好の機会です。業績不振の会社や事業が買収されるというわけではなく、買い手にとって将来に見込みのある会社や事業だからこそM&A対象となります。また、仮に足元の業績が赤字でも買い手とのシナジーによって業績の改善や成長性への寄与が見込めるのであれば、それはその買い手にとっては素晴らしい案件ともなります。買収後のシナジーを如何に見出せるかによって売り手の魅力度は大きく変わります。ある買い手にとっては魅力に欠ける売り手でも、別の買い手にとっては宝の山のこともあります。自社にマッチする売り手を探すことが肝要です。

誤解4: 買収した会社や事業に勤める従業員は引き継げない

買収や合併が成功すると、2つの企業のスキルや技術が1つになります。ライセンス契約やサードパーティーの存在、スタッフの流出などにより、必ずしもそうなるとは限りませんが、特に株式譲渡の場合、売り手側の事業のリソースは従業員を含め基本的には買い手側に引き継がれます。

買収された会社や事業に勤める従業員は買収した企業が今後も成長するための大きな原動力です。従業員がより良いサービスを提供したり、革新的な製品を開発したりすることで、企業は成長していくことができます。

買収されたことで、環境が変わり退職を希望する従業員もいるかもしれませんが、待遇の維持や改善、キャリアプランなどのフォローをしっかりと行うことで継続して勤務を続けてもらえる可能性は十分にあります。

M&Aは乗っ取りではない

M&Aは敵対的ではなく企業の成長につながる有効な手段

合併や買収の目的は、それぞれの企業の弱点を補い、強みを強化すること、業界内の競合や脅威を取り除くこと、あるいは短期間で飛躍的な成長を遂げることなど、多岐にわたります。 適切な企業間のM&Aは、譲渡企業・譲受け企業の各関係者に大きなメリットをもたらすものです。たとえば、「後継者問題の解決」や「業界再編に備えた経営基盤の強化」、「事業領域の拡大」などの経営者が抱える課題解決の実現にM&Aは有効な手段と言えるでしょう。M&Aは企業の「存続と発展」を飛躍的に実現させるための戦略ツールなのです。

M&Aの影響は業界全体に及びます。たとえば、合併した企業の市場シェアが高ければ高いほど、業界への影響も大きくなります。これは、業界内の他の企業が、合併または買収されたビジネスに遅れを取らないように、サービスを革新し、改善しなければならないので、全体的に有益であるからです。このようなインパクトのある出来事によって、業界の競争環境は大きく揺らぎ、活性化する可能性があるのです。つまり、M&Aは企業単位のみならず業界全体の活性化につながるポジティブな行為なのです。 

おわりに

現在、国内でのM&A件数は毎年増加傾向にあり、大企業だけでなく中小企業でも活発に行われるようになってきています。中小企業において、M&Aは事業承継の有効な手段として位置付けられるなど、近年では、日本でもM&Aに対するネガティブなイメージは払拭されつつあります。M&Aは企業を成長させるための有効な手段として位置付けられます。M&Aを行うことで、買収側も買収される側も、それぞれの事業を成長させられる可能性があるのです。

経営戦略のひとつとして、検討してみてはいかがでしょうか。


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M&Aの基礎知識
2022/01/10