M&Aの基礎知識 2021/12/31

製造業における中小企業のM&Aの特徴・動向と事例3選

製造業における中小企業のM&Aの特徴・動向と事例3選
                    

近年、中小企業においてもM&Aが盛んに行われるようになっています。中小企業においては、特に現経営者の高齢化に伴い、その事業の承継が問題となりがちですが、それを解決する手段としてM&A(事業売却・株式売却)が活用されているのです。この記事では、製造業における中小企業のM&Aの特徴とその事例について詳しく紹介していきます。

製造業における中小企業のM&Aの特徴と動向

多くの製造業を営む中小企業では、販路の拡大が重要な経営課題となっています。会社内にどんなに高い技術や優秀な人材がいても、製造業の場合、それを商品として販売することができなければ売上に繋げることができません。製造業界には、高い技術力を有するものの、資本力や経営能力に乏しい会社もあり、宝の持ち腐れとなってしまうケースも見受けられますが少なくないのです。

特に、製造業の企業において、成長や新規事業の立ち上げには、製造のノウハウ・技術や人材、優良な取引先などが不可欠な要素となります。しかし、ノウハウなどの経営資源を0から自前で習得取得するには膨大な時間かかります。これに加えて、製造業界を取り巻くトレンドや顧客ニーズの変化が近年は早くなっているため、一から経営資源を確保しようとしては、時代の変化に対応することができません。

そのため、近年では、中小企業の多くが多額の資本を有する大企業の傘下に入る(子会社もしくはか関連会社となる)ケースが多くなっています。実際、中小規模の製造業における中小企業経営のの多くが業績不振にあえいでおり、後継者問題にも悩まされています。

自社よりも事業規模が大きい会社とM&Aを行えば、買い手企業の傘下として製造事業を運営することになりますから、買い手企業が有するブランド力や資金、最新設備などの経営資源を活用することで、安定的な経営や事業成長の加速を実現できます。大企業の傘下に入ることで、大企業が持つ販路を自社の販路として活用できるようになるため、売上増を見込んで、M&Aを検討する企業が増えてきています。大企業にとっても、様々な商品を自社の販売経路で販売できるようになることから、中小企業のM&Aを盛んに行うようになっています。

製造業のチーム

製造業におけるM&Aの事例

ここでは、製造業において実際に行われたM&Aのケースを3つ紹介します。

(1)株式会社萬坊が第三者割当増資によってJR九州の子会社となったケース

株式会社萬坊の概要

所在地 佐賀県唐津市
従業員 150名
資本金 2,000万円
事業内容 食料品製造業


ひとつ目に紹介するのは、第三者割当増資によって他社の子会社となったケースです。佐賀県唐津市で活魚料理店の経営と水産物加工品の製造・販売をする企業である株式会社萬坊は、2019年12月にJR九州の子会社となりました。

株式会社萬坊は、もともと、1983年に日本初の海中レストラン「萬坊」を開店した企業で、1985年に料理長が開発した「いかしゅうまい」が大ヒットし、2021年現在、直営7店舗で商品を販売するほか、商社の流通網に乗せて全国へ商品を出荷しています。株式会社萬坊は、九州を代表するお土産品となった「いかしゅうまい」の発祥として、 現在も抜群の人気を誇っており、地域の名産である「呼子のいか」のブランド化に貢献するなど、地域の活性化にも貢献している企業です。

しかしながら、1990年代に始めたフグ養殖業の不振により債務超過に陥り、社長交代を機に不採算事業から撤退するなど、経営改善を進めていました。経営改善によって利益が出ても、債務の返済に回るばかりで、老朽化した工場設備の改修もままならない状態でした。将来に向けた設備投資が不可欠であったものの、投資資金の追加融資の返済計画を練っても、将来的に債務超過に陥る可能性を捨て切れず、当時の社長であった太田氏がM&Aの検討を始めました。その結果、JR九州の子会社となることが、2019年に決定しました。JR九州としても、株式会社萬坊とは、観光・物販の両面で様々な連携が可能で、お土産品の販路開拓や新商品・新業態の開発、地域への送客等の取り組みを通じて、一層の業容の拡大が期待できるM&Aでした。

このM&Aによって、JR九州の販売網を活用して首都圏のスーパーマーケットなど新たな販路を獲得することができ、さらに、増資によって調達した資金を活用して工場設備の改修を行うなど、生産の効率化や販路拡大、経営基盤の安定化に成功しました。

(2)エミック株式会社が日測エンジニアリング株式会社を事業買収したケース

 エミック株式会社の概要

所在地 東京都品川区
従業員数 180名
資本金 9,080万円
事業内容 業務用機械器具製造業


ふたつ目に紹介するのは同業他社から事業を買収したケースです。東京都品川区のエミック株式会社は、複合環境試験装置の製造・販売を主に営む企業です。主な取引先は自動車メーカーと自動車部品メーカーとなっています。自動車は、近年、ガソリン車からEVへと開発のシフトが起きており、それに伴いエンジン周りを中心に部品点数が減っています。その結果、複合環境試験装置は景気変動の影響を受けやすいこともあり、近年は、顧客が持ち込んだサンプルを試験する受託試験事業にも参入するなど、事業の多角化を図るなど成長を続けてきました。

一方で、日測エンジニアリング株式会社は、温度試験に必要な装置(特殊チャンバー)などの製造や受託試験事業を営む企業です。2008年のリーマンショック後に投資に失敗し、業績不振に陥り、2018年に自主再建が困難となったため、事業譲渡の引受先を探していました。

そこで引受先となったのがエミック株式会社です。エミック株式は、2019年7月に日測エンジニアリング株式会社を買収しました。M&A実施により受託試験事業などの規模が拡大し、エミック株式会社の受託試験事業の売上げ、営業利益は約2倍となるなど、買収によるシナジー効果によって経営の安定化にも成功したケースとなっています。

(3)株式会社ユニックスが従業員へ事業を承継したケース

株式会社ユニックスの概要

所在地 大阪府東大阪市
従業員数 12名
資本金 2,200万円
事業内容 プラスチック製品製造業


さいごに紹介するのは従業員への事業承継に成功したケースです。大阪府東大阪市の株式会社ユニックスは、1984年に現会長である苗村昭夫氏が設立した企業で、表面処理加工業を営んでいます。ポリウレタンの表面処理技術を強みに産学連携にも積極的に取り組むなど、研究開発型企業として長年事業展開してきました。実際、独自開発した表面加工技術を強みに国内外に展開し、大阪府より新技術・新製品開発功労賞を受賞しています。

こうした輝かしい実績がある一方で、会長である苗村氏が高齢となったこともあり、事業の承継を検討し始めました。株式会社ユニックスの事業承継のケースがユニークであるのは、従業員アンケートを実施して後継者を決定した点です。全従業員にアンケートを実施して、後継者を抜擢しています。会長が保有していた自社株式は、取引先銀行からアドバイスを受けて、事業承継ファンドが無議決権株式として買い取り、後継者が議決権のある株式の3分の2を保有することで事業承継を行っています。この手続きにより、従業員後継者への事業承継で問題となりがちな後継者の資金問題を解決しています。

また、事業を承継するまでに、およそ3年間の準備期間を設けたことも今回の事業承継が成功した重要な要因です。株式会社ユニックスの後継者に抜擢された町田氏は、中小企業大学校などで事前に経営について学び、2016年、代表権を苗村会長に残したまま社長に就任するなど、実際に経営者となる前の事前準備を十分に行いました。代表権を現オーナーから後継者に委譲することは、後継者が会社の重要事項を決められる立場になり、独り立ちして会社経営を行うことを意味します。したがって、そのための十分な準備期間を後継者に与えることが、非常に重要な意味を持つのです。その結果、2020年に代表権が町田氏に移っても、新体制のもとで事業を展開することができました。

おわりに

製造業における中小企業のM&Aの特徴は、多額の資本を持つ企業の傘下に入って、販路の拡大を目指している点にあります。製造業において、有能な人材の確保や技術力の向上は重要な経営課題ではあるものの、それを製品として販売できなければ売上に繋がりません。その結果、業績が悪化してしまい、再起不能となるケースも少なくありません。その結果、販路拡大のために、多額の資本を持つ企業の傘下に入って、販路を拡大する中小企業が多くあります。そうした事例としてこの記事では3つのM&A事例を紹介してきました。

M&Aは、製造業における様々な経営課題を解決するための一つの手段となりうるものです。業績の不振にあえいでいる中小企業経営者の方は、それを解決するための手段の一つとしてM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。M&Aのメリットやデメリットはこちらをご覧ください。

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事業譲渡における消費税の取扱い~課税資産と非課税資産の分類~
事業譲渡における消費税の取扱い~課税資産と非課税資産の分類~

事業譲渡には買い物と同様に消費税がかかる

事業譲渡は、運営している会社の事業の全部、または一部を他の企業に譲渡する取引です。したがって、譲渡の結果、譲渡企業はその対価として金銭などを受け取ることになります。事業譲渡も物品を売買する買い物などと同様に、事業の売買を行うので、そこには当然、消費税がかかります。そこでこのコラムでは、事業譲渡における消費税の取扱いについて、わかりやすく解説していきます。

事業譲渡と営業権(のれんの考え方)

事業譲渡とは、消費税法上、有機的一体となった営業上の財産(物的資産のみならず従業員、営業権を含みます)を譲渡する行為として定義されています。事業譲渡の場合、事業活動に必要となる個々の財産の権利・義務の個別に移転することから、原則的に引き継ぐ資産・負債を”時価”で評価し、原則的に譲渡される資産の価額に対して消費税の課税がなされます。なお、譲渡される資産のすべてが消費税の課税対象になるわけではなく、課税資産のみが課税の対象になります。(課税資産と非課税資産については後述。)

なお、譲渡資産の譲渡価額と取得価額の差額は譲渡損益として計上されます。この譲渡損益は一般的には営業権やのれんと呼ばれ、目に見えないものではありますが課税資産となります。

たとえば、引き継ぐ資産の時価が100万円で、帳簿価額が50万円であった場合、事業譲渡の際に、事業を譲り渡す譲渡企業側に50万円が譲渡利益として計上されます。つまり、譲渡所得も50万円です。この50万円は、消費税法上、営業権とも呼ばれますが、会計上はのれん(暖簾)と呼ばれます。

営業権とは、営業をする権利。すなわち、事業を展開する権利であり、それがのれん(暖簾)と呼ばれているのです。この「のれん(営業権)」は、具体的には、企業の社会的信用により、その営業が他の企業以上の利益を収め得るような無形の財産的価値、すなわち企業の超過収益力を表すものです。

したがって、「のれん(営業権)」には、無形の財産的価値があると考えることができ、その譲渡は、消費税法上、会社の無形の資産(かたちはないが、財産として価値があるもの)の譲渡と見なされて課税対象となるのです。先の例で言えば、のれん(営業権)は50万円でしたから、帳簿価額50万円+のれん50万円に対して現行の消費税率である10%を掛けた額である、10万円が譲受企業が消費税として納めなければならない金額となります。

事業の譲渡価額には、貸借対照表に記載された資産の帳簿価額とは別に、ノウハウやブランド力、人材といった無形資産の価値が「のれん(営業権)」として含まれているというのが消費税額を計算する際のポイントです。のれん(営業権)は消費税が課税される無形資産(課税資産)なのです。

したがって、帳簿価額と譲渡価額の差額である営業権(のれん)の額が大きければ大きい事業譲渡であるケースほど、相対的に消費税の金額は増えることになるので、事業譲渡の際には注意が必要となります。

※のれんについてはこちらのコラムでも詳しく解説しています。

事業譲渡と消費税

譲渡される資産を課税資産と非課税資産に分けて、課税資産に対してだけ消費税が課税される。

さて、ここまでで、事業譲渡と営業権(のれん)の関係性について説明してきました。事業譲渡を行うと、営業権(のれん)という無形の資産の譲渡が行われていると考え、実際の帳簿価額に加えて、そこにも消費税が課税される。つまり、事業の譲渡側において、営業権(のれん)という無形資産に対しても消費税である10%が課されるということになります。事業譲渡における消費税は、結局のところ、「譲渡される資産に対して課されるもの」であることがわかります。

では、営業権(のれん)以外に譲渡される資産に対して、消費税はどのようにかかるのでしょうか。

結論からいうと、消費税法上、譲渡される資産を課税資産と非課税資産に分けて、課税資産に対してだけ消費税が課税されます。事業譲渡で売買した資産には、消費税が課税される資産と非課税の資産の両方が混在しているのが普通です。したがって、まずは、売買対象となった資産を課税資産と非課税資産に分類する必要があります。

消費税が生じる課税資産としては、主に以下の資産が該当します。

  • 土地以外の有形固定資産(建物や機械、車両、備品、船舶など)
  • 無形固定資産(特許権や商標権などの知的財産権、ソフトウェア、漁業権など)
  • 棚卸資産(在庫、仕掛品など)
  • 営業権(のれん)

ここで特に重要なのが有形固定資産です。有形固定資産は基本的に消費税が課税されますが、土地は例外的に非課税となるので注意が必要です。

一方、消費税が生じない非課税資産は、事業譲渡を行っても消費税がかかりません。以下のような資産が非課税資産に該当します。

  • 土地
  • 有価証券(株式や債券、手形など)債権(売掛金や貸付金など)

なぜ上記のような資産が、事業譲渡において非課税資産なのかというと、通常、非課税資産を持っているだけで事業を展開することはできないからです。

課税資産と非課税資産を分類したら、あとは課税資産額(譲渡価額)に現行の消費税率である10%をかけるだけで、納税する消費税の金額を求められます。たとえば、課税資産の譲渡価額が1,000万円の場合、消費税の金額は以下のとおり求めることができます。

  • 消費税額 = 1,000万円 × 10% =100万円

なお、個々の資産について対価の額が明らかでなく、資産を一括して売買価額を決定している場合もあります。たとえば、A事業について、30億円一括で譲る契約を結び、その事業を展開するために必要となる個々の資産・負債の額については契約で決めなかったケースです。この場合、課税資産と非課税資産の時価で按分して消費税額を計算します(この場合、営業権は課税資産に含まれます)。

消費税

おわりに

事業譲渡を行うと、消費税が課されます。消費税の対象となる資産は、消費税法上課税資産と非課税資産に分かれており、課税資産を譲渡した場合にのみ消費税が課税されます。非課税資産には、土地・有価証券(株式や債券、手形など)・債権(売掛金や貸付金など)がありますが、一般に、これだけを譲渡されたとしても事業を行うことはできません。土地や株式・手形だけを持っていたとしても、事業を展開することは通常できないからです。したがって、消費税法では、課税資産を事業の展開に必要なものに限定することで、事業譲渡において適切に消費税額が計算できるようにしているのです。ここには、営業権(のれん)という無形の資産も含まれています。

事業譲渡において消費税額を正確に計算するためには、課税資産と非課税資産をきちんと分けることが非常に重要です。まずは、きちんと何が課税資産で、何が非課税資産なのかを理解するようにしましょう。

M&Aの基礎知識
2022/01/16
後継ぎがいないときにはどうする?後継者を募集する第三者承継のケース
後継ぎがいないときにはどうする?後継者を募集する第三者承継のケース

はじめに

後継ぎがいない場合、事業をたたんで廃業するしかないのでしょうか。経営者としての資質のある後継ぎが親族内、あるいは会社内にもいない場合には、会社外で後継ぎを募集する方法があります。これを第三者承継と言います。社外の第三者(他の企業や創業希望者等)へ株式を譲渡したり、事業を譲渡したりすることで承継するので、親族や社内に適任者がいない場合でも広く後継ぎの候補者を求めることができ、現経営者は会社売却の利益を得られます。事業承継は、事業を次世代に引継ぎ、経営資源を有効活用するという面に加えて、新たな事業の成長に向けた機会(チャンス)とも成り得るものなのです。

この記事では後継ぎとなる候補者を企業外に求める事業承継(第三者承継)について詳しく解説していきます。

後継ぎがいなくても事業は承継できる

経営者の身内に適切な資質を持つ後継ぎがいない場合、現経営者はどのような対応を求められるかというと、事業の承継を検討する際に、まずは後継ぎ候補を経営者の親族内から選ぶケースがほとんどです。仮に親族内に後継ぎ候補が不在であれば、自社の役員や従業員の中から選ぼうとします。しかし、親族内にも社内にも後継ぎ候補がいない、いわゆる後継ぎ不在の企業においては、社外の第三者に後継ぎ候補を求めるほかありません。事業承継に際して、身内や社内に候補者がいないケースでは、選択肢がなく、それが実現できなければ廃業を余儀なくされることになります。

中小企業におけるM&A(第三者承継)は、このような後継ぎ不在の中小企業が社外の第三者による事業承継のために活用されている事業承継手法です。M&Aとは、合併(Merger)と買収(Acquisition)の頭文字で、簡単に言えば、会社そのものを売り買いするという意味があります。しかし、M&Aは、買収(Buyout)や乗っ取り(Takeover)といった敵対的なイメージが強く残っています。しかし、事業承継におけるM&Aにはそのようなことはありません。むしろ、事業を承継するためになくてはならない手段です。

M&Aを活用した後継ぎ募集・事業承継

親族や社内に後継ぎ候補がいないケースには、従業員の雇用維持、取引先の仕事の確保、経営者の老後の生活資金確保等のため、会社そのものを売却し、第三者に経営してもらうことも考えられる選択肢の一つです。第三者への承継の相手方が会社の場合、合併や買収などによる方法で事業を承継しますが、合併や買収を行うには、譲渡価格や条件など相手方との合意を形成することが必要となります。また、第三者への承継では、相手方を探すためには企業価値を高めておく重要があり、企業価値を高めるには多くの時間と労力が必要です。

事業承継に際して事業を社外の後継ぎへ引き継ぐ場合、主に用いられる手法は以下の通りです。

  1. 株式を他の会社に譲渡する方法
  2. 株式を他の個人に譲渡する方法
  3. 事業を他の会社に譲渡する方法
  4. 個人事業主の事業を他の個人事業主に譲渡する方法

このように、社外への引継ぎには、株式譲渡(1、2)と事業譲渡(3、4)という二つの手法が用いられることが一般的です。

M&Aを活用した事業承継は、親族や社内に適任となる後継ぎ候補者がいないケースでも、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社売却の利益を得ることができる等のメリットがあります。

M&Aを活用して第三者に事業を承継する事例は、中小企業における後継ぎ候補者の確保が難くなっていることを背景に受けていることもあって近年増加傾向にあります。第三者承継は、事業承継の方法としては珍しいものではなくなっているのです。

増加傾向の要因は後継ぎ候補者難のほか、中小企業のM&Aを専門に扱う民間仲介業者等が増えてきたことや、国の事業引継ぎ支援センターが全国に設置されたことからM&Aの認知が高まったことも一つとしてあげられます。国の事業引継ぎ支援センターは、事業承継問題の悩みを抱える中小企業経営者からの相談、とりわけ「第三者への会社(事業)の譲渡」についての相談を受け、ケースによっては実際のM&Aの実行支援までを行うことで、円滑な事業のバトンタッチの支援している機関です。こうした機関を活用すれば、スムーズに第三者継承が可能となります。

M&Aによる事業承継をする手順は、以下の図表のようになります。

事業承継の流れの詳細はこちら

 

図表1: M&Aの手続と方法

M&A

(出所: 中小企業庁 事業承継ガイドライン 20問20答)

後継ぎがいないときには、第三者承継を専門家と検討していく

後継ぎ不在等のため、親族や従業員以外の第三者に事業引継ぎを行う場合、まず、M&A支援をしてくれる専門家(仲介、アドバイザー)を選定し、売却条件を検討しなければなりません。M&Aを活用した事業承継を選択する場合、自力で一連の作業を行うことが困難である場合が多いため、専門的なノウハウを有する専門家に相談を行う必要があります。経営者がM&Aの意思決定を行うに当たっては、様々なポイントを検討しなければなりません。しかし、経営者が単独で検討していても、日々の業務への対処等が優先してしまい、なかなか検討が進まないケースも多いです。また、専門的な知見を有しない中で検討を続けることで誤った判断を行う恐れもあります。

専門家の選定にあたっては、信頼できる専門家を探し出すのが重要となります。M&Aを行うにあたっては、「どのような形での承継を望むのか」について、経営者自身の考えを明確にしておく必要があります。 仲介機関に事前に売却条件を伝えた上で、条件に合った相手先を見つけることが最善の方法です。

後継ぎがいないときには第三者承継の検討を

2022年現在、中小企業の休廃業・解散件数は増加傾向であり、2018年は4万6千件と5年前より1万件以上増加しています。このままでは、価値ある中小企業の廃業に歯止めがかからず、地域における雇用や技術も失われてしまいます。そこで活用されているのが第三者承継(M&Aによる事業承継)です。第三者承継は、中小企業の後継ぎ不在に直面した経営者の後継ぎ問題を解決する有力な選択肢として、今日では活発に行われているのです。日本政府も、中小企業による事業承継支援策を行っており、第三者承継は近年では身近なものとなりつつあります。

M&Aの基礎知識
2022/01/11
M&A(買収)に対する4つの誤解:M&Aは敵対的ではない
M&A(買収)に対する4つの誤解:M&Aは敵対的ではない

はじめに

突然ですが「M&A」と聞くと、みなさんどのようなイメージを持たれていますか?

M&Aと言えば、日本では、過去にフジテレビの経営権をめぐるライブドアのニッポン放送買収事件や、ドラマにもなったハゲタカファンドによる日本企業買収ブームなどが取り沙汰され、「乗っ取り」などの乱暴なイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。

M&Aの悪いイメージをあえて言葉にするならば、「ある企業が、望んでいないにも関わらず、お金の力で他の企業を自分のものにしてしまう」といったところでしょうか。

しかし、これは大きな誤解です。M&Aはこのようなネガティブな行為ではなく、実際には、ポジティブに実行されているケースも多いのです。このコラムでは、M&Aに対してよくある誤解を紐解きながら、M&Aがビジネスにとってポジティブにはたらく側面を紹介します。

M&Aに対する4つの誤解

まず、M&Aには様々な手法があります。狭義では、M&Aは「吸収合併」「新設合併」などの企業の合併と、「株式譲渡」「新株引受」「第三者割当増資」「株式交換」などの手段を通じた会社・事業の買収を意味する言葉です。広義では、事業の多角化などを目的とした資本提携(資本参加、合弁会社設立など)を含む、企業の成長戦略を意味する場合もあります。

誤解1: M&Aは敵対的な行為である

M&Aにおいて最もよくある誤解はM&Aが敵対的な行為であるということです。

しかし、日本において、被買収企業の経営陣の意向に反する買収である、敵対的買収はほぼ上場企業などにおいてのみ行われる行為だといってよいでしょう。

なぜならば、日本の未上場企業の3/4以上はその株式に株式譲渡制限を付しています。譲渡制限のついた株式は、その株式を取得するのに会社の承認が必要になります。つまり、実質的な自由な売買が行えないため、敵対的な買収を仕掛けようとしても、会社の承認が得られず買収ができないのです。その背景を考慮すれば、日本における未上場企業のM&Aの大多数が、会社の承認を得て行われる友好的なものであるといって差し支えないでしょう。他方、上場企業の株式には譲渡制限がありませんので敵対的な買収が可能にます。日本の企業の中で上場企業の割合は0.03%と言われています。マスメディアなどで字耳目を集める案件は日本の中のほんの一部の話です。

では、何を目的としてM&Aは行われるのでしょうか?それは、売り手、買い手の双方の会社の成長のために他なりません。お互いの企業の成長のために必要であるからこそ、M&Aは行われるのです。

誤解2: M&Aの投資対効果は悪い

企業は常に事業で売上を上げ続けなければ、倒産してしまいます。顧客に受け入れられるように商品・サービスを提供し、成長していかなければ、厳しい競争環境下で生き残っていくことはできません。しかし、ゼロから新規事業を立ち上げたり、海外での事業展開を進めたりすることは、大きなリスクとコストを負うだけでなく、成果を出すまでにある程度の時間が必要となります。

企業が買収や合併といったM&Aを選択する主な理由の1つは、スピーディにかつ飛躍的な成長ができる可能性が大きいからです。自社の努力だけではかなわないと思われた事業展開や成長戦略も、他の企業の資産を買収・結合することで、実現可能性を模索できるのがM&Aです。

投資対効果については、あらゆる可能性を漏れなく考えられているでしょうか。

もちろん、M&Aは闇雲に行うものではなく、戦略的に行っていくことが必要になります。専門家とともに二人三脚でおこなっていくことが必要になりますが、M&Aについてのセカンドオピニオンサービスのみを提供している専門家もいます。このような、第三者の意見を聞くことで新しい視点を得られますので、効果が低いという先入観のもと検討をやめてしまうのは、早合点かもしれません。

誤解3: 業績不振の会社や事業が買収の対象となる

会社や事業を譲渡しようとする売り手側には、事業は堅調でも、後継者がいない、別の事業にチャレンジしたい…など譲渡したいさまざまな理由があります。

また、売り手側の譲渡したいという希望がいますぐ明らかでなくても、表面的にはわかりませんが実はいつか譲渡しようと考えていることがあります。買い手側の会社がどんな会社か、どんな条件か、など譲渡にかかわる事項について具体的な話がもちこまれたり、絵姿がみえてきたときに、譲渡を本格的に考えるというケースもあります。

合併や買収は、業界を革新し新しい技術やスキルを導入して、事業をさらに発展させる絶好の機会です。業績不振の会社や事業が買収されるというわけではなく、買い手にとって将来に見込みのある会社や事業だからこそM&A対象となります。また、仮に足元の業績が赤字でも買い手とのシナジーによって業績の改善や成長性への寄与が見込めるのであれば、それはその買い手にとっては素晴らしい案件ともなります。買収後のシナジーを如何に見出せるかによって売り手の魅力度は大きく変わります。ある買い手にとっては魅力に欠ける売り手でも、別の買い手にとっては宝の山のこともあります。自社にマッチする売り手を探すことが肝要です。

誤解4: 買収した会社や事業に勤める従業員は引き継げない

買収や合併が成功すると、2つの企業のスキルや技術が1つになります。ライセンス契約やサードパーティーの存在、スタッフの流出などにより、必ずしもそうなるとは限りませんが、特に株式譲渡の場合、売り手側の事業のリソースは従業員を含め基本的には買い手側に引き継がれます。

買収された会社や事業に勤める従業員は買収した企業が今後も成長するための大きな原動力です。従業員がより良いサービスを提供したり、革新的な製品を開発したりすることで、企業は成長していくことができます。

買収されたことで、環境が変わり退職を希望する従業員もいるかもしれませんが、待遇の維持や改善、キャリアプランなどのフォローをしっかりと行うことで継続して勤務を続けてもらえる可能性は十分にあります。

M&Aは乗っ取りではない

M&Aは敵対的ではなく企業の成長につながる有効な手段

合併や買収の目的は、それぞれの企業の弱点を補い、強みを強化すること、業界内の競合や脅威を取り除くこと、あるいは短期間で飛躍的な成長を遂げることなど、多岐にわたります。 適切な企業間のM&Aは、譲渡企業・譲受け企業の各関係者に大きなメリットをもたらすものです。たとえば、「後継者問題の解決」や「業界再編に備えた経営基盤の強化」、「事業領域の拡大」などの経営者が抱える課題解決の実現にM&Aは有効な手段と言えるでしょう。M&Aは企業の「存続と発展」を飛躍的に実現させるための戦略ツールなのです。

M&Aの影響は業界全体に及びます。たとえば、合併した企業の市場シェアが高ければ高いほど、業界への影響も大きくなります。これは、業界内の他の企業が、合併または買収されたビジネスに遅れを取らないように、サービスを革新し、改善しなければならないので、全体的に有益であるからです。このようなインパクトのある出来事によって、業界の競争環境は大きく揺らぎ、活性化する可能性があるのです。つまり、M&Aは企業単位のみならず業界全体の活性化につながるポジティブな行為なのです。 

おわりに

現在、国内でのM&A件数は毎年増加傾向にあり、大企業だけでなく中小企業でも活発に行われるようになってきています。中小企業において、M&Aは事業承継の有効な手段として位置付けられるなど、近年では、日本でもM&Aに対するネガティブなイメージは払拭されつつあります。M&Aは企業を成長させるための有効な手段として位置付けられます。M&Aを行うことで、買収側も買収される側も、それぞれの事業を成長させられる可能性があるのです。

経営戦略のひとつとして、検討してみてはいかがでしょうか。


ティールバンク株式会社はM&Aソーシング支援サービスを提供しています。お気軽にご相談ください。

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2022/01/10