M&Aの基礎知識 2022/06/10

類似会社比較分析の実践~マルチプルによる企業評価の一種~

類似会社比較分析の実践~マルチプルによる企業評価の一種~
                    

企業の価値はどのように算定したら良いでしょうか。これはたいへん難しい問題です。企業価値評価には様々な手法がありますが、最もよく利用されているのが類似会社比較分析(法)です。類似会社比較分析は、事業内容や事業規模などが類似している(上場)会社群をベンチマーク会社として選定し、選定された会社群の倍率の平均を求め、その平均値を基礎として評価対象とする会社の価値を推定します。公開情報だけで価値を計算できることから、最も広く実務で利用されているのが、この類似会社比較分析です。この記事では、類似会社比較分析の計算式を紹介するのではなく、その基本的な考え方について詳しく解説していきます。

類似会社比較分析(CCA: Comparable company analysis)

類似企業比較分析(CCA: Comparable company analysis)とは、同業種の同規模の他の企業の評価指標を用いて、企業の価値を評価するプロセスです。企業の価値を評価する際にマルチプル(倍率)を利用するので、類似会社比較分析はマルチプルによる企業評価の一種ということになります。

類似企業比較分析は、類似企業がEV/EBITDAのような類似の評価倍率を持つという前提のもとに行われます。たとえば、EV/EBITDA倍率は、EV(Enterprise Value:事業価値)がEBITDAの何倍とされているかを表わす指標です。

類似企業比較分析は、類似する上場企業等の比率を調べ、それをもとに別の事業の価値を導き出す評価手法です。類似企業比較法は、本質的な評価であるDCF(Discounted Cash Flow)分析とは異なり、相対的な評価形式です。基本的な考え方は、「同じような特性を持つ企業は、他のすべてのものが同じである、同様の倍率で取引されるべき」ということです。

類似会社比較分析は、比較的簡単に実行でき、比較対象企業が株式公開されている場合は、データは通常比較的広く入手可能です。また、DCF法のような他の評価方法は、様々な前提条件に左右されるのに対して、類似会社比較分析は、市場が他社の有価証券に効率的に価格を付けていると仮定すれば、合理的な評価範囲を提供するはずです。

こうした要因から、類似会社比較法は、企業価値表における実務上、最も広く使用されている評価手法の一つとなっています。

比較評価としての類似企業比較分析

類似企業比較分析は、相対評価または倍率を用いた評価とも呼ばれます。最もポピュラーな評価手法で、企業を同業他社と比較し、適切な相対取引倍率に基づいてその価値を示すものです。これは、同業他社が主要な事業および財務上の特性、業績要因、リスクを共有しているという前提に基づいています。したがって、類似会社比較法を利用するアナリストや投資家は、主に市場の状態から現在の価値に基づいて、同業他社の中での企業の相対的な位置を判断し、評価額を決定することになります。

たとえば、不動産市場における不動産の評価について考えてみましょう。そもそも、不動産はそれ自体がキャッシュを生み出す資産なので、本質的な価値を持つことを意味します。しかし、多くの場合、不動産の本当の価格を知るためには、最近売りに出された近隣の類似の不動産とその価格を比較する必要があります。たとえば、最近、向かいの同じような大きさの家が1,000万円で売れたとしたら、今、同じ家が半額(500万円)で買えるとは考えにくいでしょう。

これと同じように、上場企業も多かれ少なかれ推定できる本質的な価値を持っており、そのほとんどは同業他社に十分に類似していると考えます。したがって、相対評価の考え方は、企業にも適用することができるのです。

相対評価は、類似資産の価値に基づいているため、同業他社、たとえば、同じ業界/セクター内の企業や類似のビジネスモデルを持つ企業との相対的な評価が必要となります。一般的に、同業他社とは、同一または密接に関連する産業/セクターで事業を行う企業、同じサイズ、品質、さらには成長属性を持つ企業など、直接の競合相手とみなされる企業のことをいいます。最終的には、特定の企業やその業界/セクターに関する知識に基づいて、適切な同業他社を選択しなければなりません。相対評価の概念を理解したところで、相対評価による類似会社比較分析をするための一般的なステップを見てみましょう。

類似会社比較分析を実践する

以下では、実践のための簡単なステップを紹介していきます。

(1) 適切な比較対象企業を探す

これは、上場企業の比率分析を行う上で、最初の、そしておそらく最も難しいステップです。 アナリストが最初にすべきことは、評価しようとする企業を調べ、その事業の詳細な説明や産業分類を得ることです。

次に、データベースを使って、同じ業界で事業を展開し、類似した特性を持つ企業を検索します。  一致度が高ければ高いほど、正確に分析することができます。アナリストは、一般に、以下のような基準に基づいてスクリーニングを実行します。

  • 業種分類
  • 地域
  • 規模(売上、資産、従業員)
  • 成長率
  • マージンおよび収益性

(2)財務情報の収集

評価対象企業に最も関連性があると思われる企業のリストが見つかったら、次はその企業の財務情報を収集する番です。必要な情報は、業界や企業のライフサイクルのステージによって大きく異なります。 成熟した企業であれば、代表的な収益性の指標を見ることになるでしょう。創業間もない段階の企業であれば、売上総利益や収益を見ることもあるでしょう。高価な財務分析ツールを利用できない場合は、年次報告書や四半期報告書から手動でこれらの情報を収集することもできますが、より多くの時間を要することになります。

(3)類似比較分析表の作成

分析する企業に関する関連情報をリストアップします。比較対象企業分析における主な情報は以下の通りです。

  • 会社名
  • 株価
  • 時価総額
  • 純有利子負債
  • 企業価値
  • 売上高
  • EBITDA
  • アナリスト予想

類似企業比較分析の注意点

類似企業比較分析を行う場合には以下の点について注意しましょう。

  • 関連する同業他社を確認する。
  • 主要な基本的指標を確認する。
  • 評価のための適切な倍率を選択する。

類似企業比較分析では、関連する同業他社を適切に選択することが重要です。なぜなら、ターゲット企業の評価において重要な役割を果たすからです。たとえば、ある企業は、事業の性質上、2つの異なる業界で比較される場合があります(例:インターネット小売企業)。同様に、いくつかの異なる産業グループにまたがる事業を所有しているため、比較対象企業を除外または調整する必要がある場合もあります。従って、同業他社の選定は、やや主観的なものとなりがちです。

類似企業比較分析を行う際、アナリストは、過去のパフォーマンス指標、または将来(予測)のパフォーマンス指標のいずれかを選択することができます。一般的には、未来の指標の方が好ましいものの、これには注意が必要です。たとえば、予測されたEBITDAおよび予測されたEarnings/EPSは予測に関連付けられるあらゆる種類の潜在的な落とし穴によって大きく歪んでいる可能性があります。そのため、企業価値評価の予測数値が大きく外れてしまう可能性があります。

さらに、類似企業比較分析を行う場合、様々な一時的費用や非経常的項目(資産の売却、一時的な訴訟費用、リストラ費用など)に対してパフォーマンスを調整したいと思うかもしれません。分析に使用するすべての企業についてクリーンな数字を使用し、リンゴとリンゴを比較するように努めることが重要です。これは、将来の業績指標を用いる場合、非経常的な項目が未知である可能性があるため、特に困難となるでしょう。

おわりに

類似会社比較分析は、上場していない会社の企業価値を推定するときにも利用できるため、広く実務でも活用されている企業価値評価法です。類似会社比較分析を行う際に特に注意したいことは、同業他社の選定です。比較対象として選択する企業をどこにするかによって、企業価値が大きく変化することになります。類似していない企業を選定してしまうと、間違った企業価値評価が行われてしまいます。したがって、同業他社の選定、基本的指標の選定、適切な倍率の選定を慎重に行わなければなりません。計算方法は簡単でも、注意事項を守らないと間違えやすいので注意しましょう。

参考:その他の企業価値評価法については以下でも解説しています。
企業価値評価(Valuation)とは?~評価方法インカム・コスト・マーケットアプローチについて~

一覧へ戻る

関連コラム

M&Aにおける優先交渉権とは メリット・デメリットも解説
M&Aにおける優先交渉権とは メリット・デメリットも解説

はじめに

M&A取引は、買い手と売り手の交渉によって成立します。売り手にとっては、できるだけ高い取引価格をつけてくれる買い手に会社や事業を売却することを検討するでしょう。反対にで、買い手にとっては、できるだけ安い取引価格で会社や事業を取得することを検討します。このように、M&A取引は買い手と売り手の交渉によって成立するため、この交渉を行うタイミングが非常に重要な意味を持ちます。

一般に、M&Aにおいて、売り手側が会社や事業を売却しようとすると、複数の買い手が見つかることになります。しかし、それぞれの買い手と交渉に臨んでも、多くの時間がかかり、会社や事業の売却が難しくなるケースがあります。そこで、売り手側は、会社や事業の売却をM&A市場に委ねる前に、あらかじめ特定の買い手に対して優先的にM&A取引に関する情報を提供し、優先的にM&A交渉を行う権利を行うケースがあります。その際に利用されるのが、優先交渉権を付与した契約です。あらかじめ特定の買い手候補となる企業に優先交渉権を付与することで、効率的にM&Aの取引交渉に臨めるようになります。

優先交渉権とは

優先交渉権(Right of First Refusal)とは、第一拒否権、有線拒否権とも呼ばれ、誰よりも早く個人または企業と交渉を行うことができる契約上の権利のことです。M&Aにおいては、売り手と優先的に交渉できる権利のことを意味します。この権利を持つ当事者が取引の締結を辞退した場合、売り手側は、他の買い手候補から自由にオファーを受けることができます。売り手側が買い手側に優先交渉権を与えることで、売り手が売却を考えたときに、買い手に会社や事業について取引の機会があるという確証を与えることができるのです。

M&A取引において、買い手が関心のある会社や事業があっても、現在、売却に出されていないケースでは、売り手が買い手候補に優先交渉権を付与することで、売り手がその会社や事業を売りに出すことを決定した場合、その会社や事業を購入する最初の権利を持つことができるようになります。この契約では、売り手は買い手候補に連絡し、その会社や事業に対する別の申し出を受け入れる前に、M&A取引を行う機会を与えなければなりません。

優先交渉権のメリットとデメリット

M&Aにおける優先交渉権は、買い手側に以下のようなメリットをもたらします。

(1)競争相手がいなくなる

売り手が会社や事業をM&A市場に出したとしても、最初の契約条件に基づき、その会社や事業の取引に関して、優先交渉権を有する買い手が許可するよりも前に、他のオファーを受け入れることはできません。そのため、入札合戦の不安を抱えることなく、本当に価値のある会社・事業を手に入れることができる可能性があります。

(2)価格は事前に交渉されることが多い

契約書に価格条件が含まれていることが多いため、M&A市場に出た場合の価格よりも安い価格で物件を手に入れることができる可能性があります。これは、M&Aの取引価格が市場において着実に上昇している場合に特に有効に機能します。

(3)買収対象を選定する時間を節約できる

買い手にとっては、優先交渉権を契約で締結することで、取引価格を固定しつつ、売り手側との信用力を高めながら、購入に必要な資金を貯める時間ができるため、売り手が売却する準備ができたときに、すぐに購入できるようになります。

他方で、M&Aにおける優先交渉権は、買い手側に以下のようなデメリットをもたらします。

(1)限られた取引期間

一般に、優先交渉権には期限が設定されています。したがって、売り手が会社や事業を売りに出すことを決めたら、買い手候補は迅速に決断し、取引を行うかどうかを選択しなければなりません。基本的には、数日以内に売買契約を締結できるよう準備する必要があります。

(2)取引価格の硬直化

これは買い手と売り手の双方にとって長所でもあり、短所でもあります。本来、M&A取引の対象となる会社や事業の価格が下がっている場合、当初の契約条件に基づいて取引を行うことは、過払いになる可能性があります。しかし、だからといって、会社や事業をM&A市場に出してしまえば、手に入らない可能性があるというリスクを負うことになります。

売り手には、優先交渉権に関して特有のメリットとデメリットがあり、それを考慮しながらM&A取引に臨まなければなりません。ここからは、売り手のメリットとデメリットを説明していきましょう。

(1)リスティングが不要になる

優先交渉権を契約で締結すれば、会社や事業の詳細を仲介企業などに掲載することなく売却できる可能性があり、コストを大幅に抑えることができます。

(2)市場における取引価格以上の売却益を得られる可能性がある

買い手が競争の可能性なしにM&A取引を望んでいる場合、市場における取引価格以上の価値で会社や事業を売却できるかもしれません。

買い手にとっての欠点があるように、売り手にとっても欠点があります。

(1)市場を限定してしまう

一般的に、より多くの買い手が参加すればするほど、売り手はより高い価格を得ることができる。最初の選択肢を特定の買い手に与えることによって、あなたは意図せずに取引価格を下げている可能性があります。

(2)固定された契約価格は損かもしれない

契約時に特定の取引価格を設定し、それがその会社や事業の現在の市場価値よりも低くなってしまう場合、損失を被る可能性があります。

(3)融資の問題を引き起こす可能性がある

現在、会社や事業の売却を考えていなくても、一部の事業の継続を考えている場合、優先交渉権が問題となる可能性があります。会社や事業が融資の担保となるため、銀行や投資家は、一般的に優先交渉権を付与する場合、融資を受けることを禁止しています。

おわりに

優先交渉権は、売り手側が買い手側に優先的に交渉できる権利を与えるものです。M&A市場に会社や事業の情報を出せば、買い手は複数見つかるかもしれません。しかし、買い手候補が多くなりすぎれば、誰に売るのが良いかわからなくなってしまうでしょう。したがって、M&A市場に会社や事業の情報を出す前に、買い手候補にあらかじめ優先交渉権を付与することで、効率的に取引を成立させることを望むのです。しかし、優先交渉権を与えてしまえば、本来M&A市場においてもっと高値で取引されることがあった場合でも、優先交渉権を付与した買い手に買い叩かれてしまう可能性があることも理解しておく必要があります。優先交渉権を買い手候補に与えることは、諸刃の剣であることをきちんと理解しておきましょう。

M&A専門家をさがす

M&Aの基礎知識
2022/06/29
不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介
不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介

不動産業とは、大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分類され、不動産の売買、交換、賃貸、管理または不動産の売買、賃借、交換の代理もしくは仲介を行う事業を営むことを言います。近年、不動産業界では業界の再編が進んでおり、その手段としてM&A(Mergers & Acquisitions)が盛んに利用されています。今回は、そんな不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。

不動産業を営む企業のM&A動向

不動産業は、全産業の売上高の 3.3%、法人数の 12.4%(令和2年度)を占める重要な産業の1つです。不動産業に関わる業務内容は幅広く、事業者の規模も大手総合不動産会社から個人経営の中小事業者まで多岐にわたることが特徴となっています。

近年では、不動産専業の事業者だけでなく、異業種でも一部不動産業を営む事業者や新興企業の参入も多くM&Aの買収ニーズもある業界です。不動産業は、不動産という高額な商品を取り扱うという業界特性を持つことから、景気動向に左右される業界となります。景気が良ければ、戸建てやマンションの売れ行きも好調となり、各社の業績も良くなりますが、景気が悪くなれば、不動産が売れずに不調に陥る場合もあります。

今後の日本は、高齢化社会を迎えるということもあり、人口減少も予想されるなかで、不動産業はその対応を迫られることになるでしょう。その結果、多くの中小企業者同士のM&Aが進んだり、他業界からの新規参入も相次いでいます。商用施設の建設については、新型コロナウイルスの世界的な流行がおさまってきたこともあって、今後、一定の需要が見込まれるものの、戸建てやマンションといった居住施設については、人口減少によって需要が減少することが予想されるため、現在から業界の再編が進んでいます。

不動産業を営む企業のM&A事例

ここからは、最近の不動産業に関するM&A事例を紹介していきましょう。

(1)日本リビング保証による三春情報センターへのM&A事例

2022年6月、住宅のトータルメンテナンス事業、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を手掛けている日本リビング保証は、完全子会社であった横浜ハウス(売上高1億1900万円、営業利益△555万円、純資産△909万円)の全株式を、不動産売買や賃貸の仲介などを手がける三春情報センター(横浜市)に譲渡しました。横浜ハウスは、戸建住宅・マンション・店舗等の全リフォーム工事の請負などを行っている企業です。

もともと、日本リビング保証は2020年7月に横浜ハウスを子会社化していたものの、シナジー効果を十分に得られないと判断し、譲渡に至っています。

(2)ビーロットによる東観不動産のM&A事例

2022年5月、国内外の富裕層・投資家を顧客とした資産運用サービスを手掛ける総合不動産会社であるビーロットは、不動産賃貸業を営む東観不動産(東京都千代田区。売上高1億3100万円、営業利益500万円、純資産8億300万円)の全株式を取得して子会社化しました。

ビーロットは、不動産を保有する企業のM&Aに積極的に取り組んでおり、今回の東観不動産の買収を通じて、不動産管理のノウハウを取得するとともに、保有する不動産のさらなるバリューアップを図るとしています。

(3)キムラタンによる和泉商事のM&A事例

2022年4月、1925 年の創業以来、ベビー・子供アパレル事業を主な事業内容とし、一貫して自社オリジナル企画・デザインによる製品を提供してきたキムラタンは、不動産賃貸業を営む和泉商事(売上高11億3000万円、営業利益2億4900万円、純資産9億4800万円)の全株式を取得し子会社化しました。

キムラタンは、「2021年2月に事業を開始した不動産事業を第2の柱事業として拡大を図ることを目指し、全国に約70の収益物件を所有し、安定収益を計上している和泉商事の全株式を取得することを決定した」と公表しています。

このM&Aによって、キムラタンは、赤字となっているベビー・子供アパレル事業を大幅に縮小し、不動産賃貸業を主事業へと切り替えていくとしています。

(4)日本エスコンによるピカソと優木産業のM&A事例

2021年8月、関西、首都圏を中心に全国で不動産の総合開発事業を展開する日本エスコンは、関西で不動産賃貸事業を展開するピカソ(大阪市。売上高60億7000万円、営業利益18億7000万円、純資産43億9000万円)、優木産業(大阪市。売上高31億円、営業利益7億1300万円、純資産15億9000万円)の2社の全株式を取得し子会社化しました。

ピカソと優木産業の子会社化は、「賃貸事業を強化するとともに安定収益を確保し、収益構造の転換を一気に推進するものである」と公表しています。

このM&Aによって、日本エスコンは、関西圏における不動産賃貸事業の安定収益を確保していくとしています。

(5)三越伊勢丹ホールディングスによるThe Blackstone Group Inc.へのM&A事例

2020年11月、三越伊勢丹ホールディングスの完全子会社である三越伊勢丹が保有する連結子会社の三越伊勢丹不動産の全株式をThe Blackstone Group Inc.とその関連会社が運用または投資アドバイザーを務める特定のファンドが設立した法人であるエチゴ合同会社に譲渡しました。

三越伊勢丹不動産は、自社で所有する物件の賃貸営業やマンションの分譲を中心に事業を展開する一方で、不動産オーナーが所有する物件のサブリース事業・賃貸管理事業、管理組合事業にも取り組んできた企業です。

このM&Aによって、三越伊勢丹ホールディングスは株式の売却益を得ることとなった。三越伊勢丹ホールディングスの主事業である百貨店事業が不況にあえぐなか、今回の株式売却を通じて赤字を補填して、今後は主事業の強化に取り組むとしています。

おわりに

景気動向に左右されやすい不動産業界は、安定収益をもたらす物件を取得するために、盛んにM&Aが行われている業界です。不動産管理には、不動産管理特有のノウハウが必要となるということもあり、異業種からの参入のために、不動産業を営む企業の買収も盛んに行われています。

M&Aの基礎知識
2022/06/28
ネットショップ(EC)業界の動向とM&A・資本提携の事例
ネットショップ(EC)業界の動向とM&A・資本提携の事例

ネットショップ(electronic commerce: EC)業界では、近年、M&Aが盛んに行われています。EC市場は世界的に拡大傾向にあるものの、多くの企業が参入したことから競争が激化しており、業界の再編が進んでいる業界です。この記事では、ネットショップ(EC)業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。

ネットショップ(ECサイト)業を営む企業のM&A動向

ネットショップ(ECサイト)市場は世界的に拡大成長を続ける業界です。従来、日本国内においては大手モールでの販売が中心であったものの、近年では、SNS等を活用して自社販路を拡大する企業が多数出現するなど、販売経路も複雑化し、業界の構図は刻々と変化しています。

こうした事情を背景として、D2CブランドやECサイトのM&A事例が国内外ともに多く見られるようになりました。新型コロナウイルスの世界的な流行も重なったことで、オンラインショッピングへの対応の必要性が認識されたことも、この傾向にさらに拍車を掛けました。

ネットショップ業界では、サイトの運営に限界を感じる事業者やさらなる効率化による事業の発展・展開を目指す事業者を買収し、自社が持つ広告戦略ノウハウ、物流の効率化ノウハウ等を活かして事業の急拡大を続ける事業者が生まれるなど、競争も激化しています。

特に、ネットショップ市場においては、ECサイトの構築にとどまらず、ECサイトの運用フェーズにおけるマーケティング支援までを一気通貫で行う、垂直統合型のサービスへのニーズが高まっており、ECサイトの構築からマーケティングまでを総合したソリューションを提供する企業も増えてきています。こうしたソリューションを1から構築することは大変難しいことから、M&Aによってこれを実現しようとしています。

ネットショップ(ECサイト)業を営む企業のM&A事例

以下では、ネットショップ業を営む企業のM&A事例を紹介していきましょう。

(1)Cottaと不二製油の資本業務提携

2022年5月、日本最大の製菓製パンのプラットフォームECサイトである「cotta」を運営する株式会社cottaは、不二製油株式会社との間で資本業務提携契約を締結しました。

cottaは、会員数170万人、月間アクセス数約3,500万PV、SNS総フォロワー100万人を抱える日本最大級の製菓製パン材料のECポータルサイトを運営している企業です。一方、不二製油は創業以来、植物性素材を主原料として植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の事業を展開している企業です。

cottaは今回の資本業務提携によって、次の時代に必要な「健康に配慮した食の提案」「環境に配慮した食の提案」を推進することで、両社の中長期的企業価値の向上を実現するとともに、持続可能な社会の発展に貢献するとしています。具体的には、今後益々加速するデジタル社会において消費者との接点を強め、製品開発に活かし、食の多様な価値観に幅広い選択肢を提供し、新たな需要の創造に挑戦すると公表しています。

(2)イルグルムによるボグブロックのM&A事例

2022年4月、広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」や、EC(電子商取引)オープンプラットフォーム「EC-CUBE」など、マーケティングDX支援サービスを提供する株式会社イルグルムは、ボクブロック株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。

ボグブロックは、EC-CUBEをベースとしたECサイト制作や、ECサイトをメディア化しファンマーケティングを推進するためのクラウドサービス「Media EC FANTAS(ファンタス)」の提供しており、EC-CUBEインテグレートパートナー最上位のプラチナパートナーとして、独自性の高いECサイトの構築から運用支援に至るまで幅広く事業を展開している企業です。

イングルムは、ECサイトの構築から運用支援に至るまで幅広く展開するボクブロックを子会社化することで、ECサイト構築からマーケティング支援までを垂直統合型で提供する新たなソリューションを展開し、事業領域の更なる拡大を目指しています。

(3)ファーストトレードとパラダイムシフトの業務提携

2022年3月、2011年の創業以来、EC事業者向けのシステム・サービスを開発・提供しているファーストトレード株式会社は、IT領域に特化したM&Aアドバイザリー事業ならびに事業開発を手がけてきた株式会社パラダイムシフトと業務提携契約を締結しました。

ファーストトレードは、仕入れ・ロジ・販促まで一貫して支援を受けられるEC事業サポートシステム「CiLEL」を自社開発し、これまでに5,000社以上のEC事業者支援を手がけ、企業間取引のDX支援を進めており、今回の業務提携を通じて、ファーストトレードが支援中のEC事業者に対して、M&Aによるさらなる事業成長の機会と、事業の売却という選択肢を提供するとしています。

(4)ケイティケイによるイコリスのM&A事例

2022年3月、2020年に創業したスタートアップ企業で、アルゴリズム解析・データ分析・デザイン・広告運用等、デジタルマーケティングを活用したEC事業を展開しているケイティケイ株式会社は、サプリメントの開発・販売を行う株式会社イコリスの全株式を取得して子会社化しました。

今回の子会社化を通じて、イコリスが現在展開しているEC事業については、ケイティケイの調達力と信用力を活かして、現状のサプリメントから商品ラインナップを拡充し、さらなる成長を加速していくとしています。また、また、資本提携を機に、ケイティケイ内に専門部署「デジタルマーケティング本部」を設立しました。

(5)メディアドゥによるSupadü LimitedのM&A事例

2022年1月、デジタルコンテンツの流通・配信を手掛ける株式会社メディアドゥは、連結子会社であったNet Galley, LLCの英国現地法人であるNetGalley UK Ltd.を通じて、欧州・北米を中心に出版に係るEコマースソリューションなどを提供するSupadü Limitedの全株式を取得し、子会社化しました。

Supadüは、欧米大手出版社の殆どを含む約250社の顧客を抱え、27の異なる言語と20の国をカバーし、あらゆる規模の出版社へサービスを提供している企業です。Supadüのメタデータ管理プラットフォーム「Supafolio」を利用することで、書誌情報と連携した自社書籍(紙と電子)の直売が可能なwebサイトを容易に安価で構築し、物流機能を利用できます。Supadüは、高度な検索機能やレコメンド機能によるリッチなユーザー体験、流通パートナーとの連携機能など統合的なEコマースソリューションを出版社に提供しています。

メディアドゥは、今回のM&Aを通じて、海外ビジネスの強化並びに国内と欧米の出版業界のDX推進支援を加速させる等、グローバルに出版業界を支援するPublishing Service Platformの構築を目指すとしています。

ネットショップ

EC業界のM&Aの動向と事例

ネットショップ(EC)業界は、業界再編が激化している業界です。これまで、ECサイトを構築する事業者が買収したり、買収されたりしていました。しかし、近年は、ECサイトの構築だけではなく、ECサイトの構築からマーケティングソリューションの提供まで一貫したサービスの提供を目指してM&Aが盛んに行われるようになっています。こうしたソリューションを提供できる事業者が、資本力のある事業者によって買収されているのが最近の業界のトレンドとなっています。単にECサイトを構築できるだけでは生き残れなくなっているのが、ネットショップ業界の現状であると理解しておきましょう。

 

M&A専門家をさがす

M&Aの基礎知識
2022/06/29