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EBITDAとは?EBITDAの計算方法・M&AにおけるEBITDAの利用
EBITDAとは?EBITDAの計算方法・M&AにおけるEBITDAの利用

はじめに

EBITDA(金利・税金・減価償却費控除前利益)とは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの略で、企業の営業成績を評価するために用いられる指標です。

EBITDAは、企業の所有者である株主が、キャッシュフローを生み出す能力を理解し、企業の営業成績を判断するのに役立ちます。EBITDAは、企業の財務の健全性とキャッシュフローを生み出す能力を測定する指標です。

この記事では、EBITDAがなぜM&Aで利用されるのかを含め、EBITDAの基礎について解説していきます。

EBITDAとは

EBITDAは、もともとケーブル・メディア大手テレコム社の元社長兼CEOであるジョン・C・マローン氏が1970年代に開発した経営分析指標です。企業の長期的な収益性を予測し、将来の資金調達に対する返済能力を評価するために開発されました。

EBITDAは、異なる企業間や業界間の貴重な比較材料にもなります。事業を売却したり、新たな投資家を募る場合、EBITDAを計算することで、会社の財務の健全性を確認したり、評価額を決定することが可能です。

数ある利益項目のなかでも、EBITDAがなぜ利用されるのかというと、EBITDAが税金、支払利息、減価償却費などを除外するからです。税金、支払利息、減価償却費などの営業外費用は、事業や業界、地域によって大きく異なるため、ある事業と別の事業を比較することは困難です。これらの項目を除外することで、自社の事業における生の収益を長期にわたって比較したり、同業他社と比較したりすることが簡単にできるようになります。

EBITDAの計算式

EBITDAは、投資家を探している長期的な成長が見込まれる企業にとって有用な指標で、あるビジネスと他のビジネスを比較するための有用な方法でもあります。

通常、国によって金利水準、税率、減価償却方法などが違うため、国際的企業の収益力は一概に比較することはできません。その点、EBITDAは、その違いを最小限に抑えて利益の額を表すことを目的としているため、国際的な企業、あるいは設備投資が多く減価償却負担の高い企業などの実態的な収益力を比較・分析できるのです。

EBITDAの計算式について説明する前に、EBITDAの計算要素を一つずつ確認していきましょう。EBITDAの主な計算要素とは、金利、税金、減価償却費です。

金利

銀行や第三者からの借入金に対する利息など、金利によって発生する事業費用を含みます。税金と同様、支払利息も企業間、業種間で差があります。資本集約的な産業ほど、そうでない産業の企業よりも、損益計算書上の支払利息が多くなる傾向があります。この費用は、営業外費用のセクションにも記載されています。

税金

政府などによって課される税金で、代表的なものとして法人税や消費税などがこれにあたります。国や地域によって異なりますし、年ごと、事業ごとに変化します。これは、多くの場合、業界、場所、会社のサイズに依存するものです。この数値は通常、損益計算書の営業外費用のセクションに記載されています。

減価償却費

会社の固定資産の価値の減少を示す費用です。資産価値の減少を意味する非現金支出費用のため、実際のキャッシュアウトが伴わない費用となります。

支払利息の利率、減価償却の割合などの指標は国や地域の影響をうけるため、企業が主体的にその割合をコントロールしづらい益に影響を与える可能性のある要素を除外するため、営業利益や経常利益などより実体的な収益性を示す指標ともなりえます。

EBITDAの実際の計算例

たとえば、A社の財務情報が次の通りだったとしましょう。

  • 当期純利益:180万円
  • 支払利息:26万円
  • 減価償却費:18万円
  • 支払税金:13万円

当期純利益+税金+減価償却費+支払利息=EBITDA
つまり、180万円+13万円+18万円+26万円=237万円となり、EBITDAは237万円となります。

財務諸表とEBITDA

EBITDAは、所有者、投資家、利害関係者が、他社と比較可能な事業の営業収益性を明確に反映した数値が得られる指標です。そのため、EBITDAはM&A戦略の一環として、どの事業がより魅力的であるかを決定する際に、他の指標よりも優先されることが多い指標となっています。

M&AにおけるEBITDAの利用~EBITDAマージンの計算~

投資家は、企業の基本的な財務の健全性と価値を測る際、しばしば純利益、売上高、キャッシュフローに注目します。しかし、近年では、四半期報告書や決算書において、これらとは別の尺度が重要視されるようになってきました。それがEBITDAです。

EBITDAを使って企業の財務の健全性を分析は、レバレッジド・バイアウト時代の最盛期であった1980年代に広まりました。

この時代、投資家は経営難に陥った企業を財務的に再建することが一般的で、EBITDAは主に、企業が再建に伴う利息を返済する余裕があるかどうかを判断する基準として利用されていたのです。

たとえば、2つの会社を比較する際には、次のようにEBITDAマージンを計算します。EBITDAマージンの計算式は、以下の通りです。

EBITDAマージン=EBITDA÷総収益

企業全体の収益に対するEBITDAの割合を決めることで、このマージンは、ビジネスが単年度でどれだけの営業キャッシュを上げているかを示す指標となります。もし、あなたのビジネスのマージンが他よりも大きければ、プロのバイヤーはあなたのビジネスの成長性をより高く評価する可能性があります。

たとえば、A社のEBITDAが60万円で、総収益が600万円だとします。この結果、EBITDAマージンは10%(60万円÷600万円=0.1)となります。これを、EBITDAが75万円で、総収益が900万円であるB社と比較します。B社のEBITDAマージンは約8%(75万円÷900万円≒0.083…)です。

このように考えると、B社の方がEBITDAの絶対額は大きいものの、マージンはA社より小さい(10%に対して8%)ということを意味します。このため、両社を比較検討する買い手は、B社よりもA社の方が有望と考えるかもしれません。

つまり、投資家、オーナー、アナリストは、EBITDAマージンを使うことで、総収益に対してどれだけの営業キャッシュが生み出されているかを確認でき、これをベンチマークとして、どちらが財務的に効率的かを判断することができるのです。

おわりに

EBITDAは、金利・税金・減価償却費など、国による政策や税率の違い、経営者の方針の違いなどによって生じる違いを最小限に抑えられる指標です。そのため、事業の正確な収益性を判断することができます。国による違いや経営者の方針による違いをできるだけ排除した収益性を図るものとして重宝されています。M&Aにおいては、国の違いなどを除外するというEBITDAのこの特性を活かしてEBITDAマージンといった指標を計算し、その事業価値を理解するために使われています。M&AではEBITDAについて正しい知識を身に着けることが大切になるでしょう。まずは専門家に相談してみましょう。

 

M&A・事業承継用語
2022/07/31
M&Aグロース
M&Aグロース

M&Aグロースとは、事業を成長させるための経営戦略の一つ。M&Aグロースは自社にない技術やノウハウなどの経営資源を外部調達し、効率的に成長させようとする手法です。これに対し、企業が内部資源を活用して、自助努力(育成等)を行い成長することをオーガニックグロースと呼びます。

M&A・事業承継用語
2022/07/31
事業承継のタイミングはいつが適切か?検討すべき重要なポイント 
事業承継のタイミングはいつが適切か?検討すべき重要なポイント 

事業承継のタイミングを考えるときに検討すべき重要なポイント

中小企業においては経営者の高齢化が問題となっています。経営者が高齢化している結果として、事業の休廃業・解散件数は増加傾向にあり、中小企業・小規模事業者の数は年々減少しているのです。そのような状況のなかで、日本の経済が持続的に成長するためには、企業がこれまで培ってきた、未来に残すべき価値を見極め、事業や経営資源を次世代に引き継ぐことが重要です。その結果として、どのように事業や経営資源を引き継ぐか、すなわち、事業承継が問題となっています。この記事では、事業承継問題のなかでも現経営者を悩ませる難しい問題の1つである事業承継のタイミングについてわかりやすく解説していきます。

事業承継のタイミングを考えるうえでは、以下で説明するポイントを考えるのが大切です。このポイントをきちんとおさえておかないと、事業承継のタイミングを見誤る可能性があるので注意しましょう。

(1)経営の「見える化」が実施されているタイミングか

事業を後継者に円滑に承継するためのプロセスは、経営状況や経営課題、経営資源等を見える化し、現状を正確に把握することから始まる。なぜなら、今どのような経営資源などを保有しているかがわからないと、後継者に何を承継していいかわからないからです。したがって、まずは経営の見える化を実施して、承継すべき経営資源等を明確にしておく必要があります。これができていないうちは、事業承継をするタイミングではないと言えるでしょう。

(2)後継者として会社を任せられる人材がいるタイミングか

後継者として会社を任せられる人材がいるかどうかも、事業承継のタイミングを考えるうえでは重要になります。会社内に後継者として任せられる人材がすでにいて、すでに能力も資質も備わっているのであれば、すぐにでも事業を承継する準備ができるでしょう。

しかし、一般にそうした状況は少なく、後継者がいないというケースは少なくありません。この場合、どうしても会社内で後継者を探す場合には後継者を育成するための時間が必要となります。後継者の育成にはどうしても時間がかかりますし、その人が本当に後継者となってくれるのかどうかもわからないので、後継者育成は不確実性が多いと言えるでしょう。 

したがって、多くの場合、会社内に後継者がいないケースでは、会社外部の人材を後継者として登用したり、M&Aを通じて会社や事業を他社に売却するというケースも考えられます。その場合、後継者の育成は必要ないため、事業承継タイミングまでに必要な期間は短くて済むでしょう。 

このように、会社内の人材に事業を承継するのか、あるいは、会社の外の人材に事業を承継するかに応じて、事業承継のタイミングは異なるので注意しましょう。 

事業承継のタイミングを考えるうえで検討すべき具体的な要素

事業承継のタイミングを考えるうえで検討すべき具体的な要素 

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000273.pdf

上の図は、事業承継のタイミングを考える上で検討すべき具体的な要素について、承継方法別にまとめたものです。まず、親族内事業承継のケースでは、特になしを除いて、後継者を補佐する人材の確保、取引先との関係維持、後継者に経営状況を詳細に伝えること、が事業を引き継ぐ上で苦労した点として挙げられています。親族内事業承継のケースでは、後継者がどれだけ育っているかに応じて、事業を承継すべきタイミングも異なると言えるでしょう。後継者が十分に育っていて、その自覚があるのであれば、すぐにでも事業を引き継ぐことができると言えます。早めに事業を承継しても、その後、現経営者が会長としてとどまり、指導役として事業承継と同時に補佐役に回るということも考えられます。 

他方で、役員・従業員に事業を承継するケースでも、特になしを除いて、後継者を補佐する人材の確保、取引先との関係維持、後継者に経営状況を詳細に伝えること、が事業を引き継ぐ上で苦労した点として挙げられています。役員・従業員に事業を承継するタイミングでは、親族内承継と同様に、後継者がどれだけ育っているかが重要です。後継者が育つまでには時間がかかりますし、役員・従業員に承継するケースでは、本人にきちんと後継者候補であることを伝えて、事業承継をするタイミングまできちんと会社に居てもらう必要があります。親族内承継とは異なり、血の繋がりがないので、途中で会社を辞めてしまう可能性もありますから注意しましょう。

社外への承継を考えるケースで検討すべき要素は、後継者探しにどれくらいの時間がかかるかということです。社外に後継者を探すケースでは、後継者候補を探すことそのものは難しくありません。しかし、自身の会社に合った後継者を探すのは大変難しいですし、それを見極めるのは困難を極めるでしょう。

事業承継を検討するタイミングはいつが適切か

2012年に中小企業庁が野村総合研究所に委託して実施されたアンケート調査によれば、事業を後継者に承継するのに「ちょうど良い時期だった」と回答する割合が最も高い年齢層は、40~49歳であるとされています。つまり、後継者が40代のときに事業を承継するのが最も良いという結果が出ています。

この調査は2012年に実施されたものなので、もう少し最新の資料をみてみましょう。2022年に改定された中小企業庁が公表している事業承継ガイドラインでは、以下のように、経営者が概ね60歳のタイミングを目安として事業承継を検討すべきとされています。

後継者教育等の準備に要する期間を考慮し、経営者が概ね60歳に達した頃には事業承継の準備に取りかかることが望ましく、またそのような社会的な認識を醸成することが大切である。他方で、60歳を超えてなお経営に携わっている経営者も多数存在するが、そのような場合は、すぐにでも身近な支援機関に相談し、事業承継に向けた準備に着手すべきです。

このように、事業承継のタイミングとしては、現経営者が60歳、後継者が40代というタイミングが最も事業承継のタイミングとしては適していると考えることができます。 

事業承継を悩む経営者

事業承継のタイミングは、どのような承継方法で誰に事業を承継するのかによって大きく異なります。後継者が育っていないケースでは、後継者に事業を承継したくともできませんから、3年~5年程度の育成期間を設けなければならないと言えるでしょう。他方で、外部に後継者候補を探す場合には、1年~3年程度で後継者候補を見つけることができるでしょう。ただし、会社に適した後継者候補を探し出すのはたいへん困難であると認識しておかなければなりません。事業を承継する前に、経営の見える化もきちんと進めておく必要があります。これをしないで後継者に事業を承継してしまうと、保有していた経営資源がうまく引き継がれず、最悪失われてしまうケースもあるでしょう。経営の見える化と後継者の育成は事業承継の成否を左右する重要な要素です。これらを十分員行うためには十分に余裕を持って事業承継のタイミングを考えなければなりません。

事業承継の準備については、以下をご覧ください。

経営者がハッピーリタイアするための事業承継の準備~60歳になったらまず考えるべきこと~

M&Aの基礎知識
2022/07/30
EBITDA(イービッタ)
EBITDA(イービッタ)

EBITDAとは財務分析上の概念の一つで、Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの頭文字をとった略称。「イービットディーエー」「イービッタ」と読まれます。EBITDAは、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて計算される利益を指します。

国によって会計上の利益である純利益に関係する税率や、借入金利、減価償却費の扱いは異なり、EBITDAはその違いを最小限に抑えて利益の額を表し、の収益力を比較・分析する際の指標として用いられます。

統一された計算式はありませんが、以下が代表的なEBITDAの計算式となります。

EBITDA= 営業利益+減価償却費
EBITDA= 経常利益+支払利息+減価償却費
EBITDA= 税引前当期純利益+特別損益+支払利息+減価償却費
EBITDA= 当期純利益+法人税等+特別損益+支払利息+減価償却費

M&A・事業承継用語
2022/07/31
M&Aにおけるアーンアウト条項(earn out clause)について
M&Aにおけるアーンアウト条項(earn out clause)について

M&Aでは、売り手と買い手が契約の際に「アーンアウト条項(earn out clause)」を締結することがあります。それでは、アーンアウト条項とは一体どういうもので、なぜそのような契約を結ぶのでしょうか。アーンアウト条項の締結はまだまだ日本のM&Aの世界では一般的なものではありませんが、アーンアウト条項を売り手と買い手が締結することによって、M&Aが成立する可能性を高めることができるかもしれません。アーンアウト条項について詳しく解説していきます。

アーンアウト条項とは

アーンアウト条項とは、M&A取引において、買収金額の一部を対象企業の将来の業績に依存する形で合意する条項です。これは、買収完了後一定期間経過後に、対象会社(売り手会社)が合意した財務目標などを達成した場合に、買い手側が買収金額の一部(アーンアウト部分)を支払うという契約です。

アーンアウト条項は、売り手が買い手の支払い意思額よりも高い金額を要求している場合、売り手と買い手の間の価格期待の差を克服し、オーバープライスや過小評価を回避する役割を果たす場合があります。さらに、売り手や経営陣が取引完了後も事業に関与する場合、アーンアウト条項により、売り手やキーパーソンがターゲット事業の業績に将来にわたって積極的に貢献できるようにすることもできます。

M&Aにおいて、特に外部環境等の不確実性が高い状況下では、企業価値算定はたいへん困難を極めます。たとえば、事業のファンダメンタルズは健全であっても、突然発生したコロナパンデミックのような不確実性は、M&Aの契約価格の下落の圧力につながるものです。このような状況では、アーンアウトが評価のギャップを埋めるのに役立ち、その利用が増加する可能性があります。つまり、不確実な状況下において、M&A契約に寄与するのがアーンアウト条項の本質なのです。

市場が不透明な時期には、買い手は買収価格の一部を繰り延べ、業績を条件とすることを求める傾向があります。不確実性が高いため、売り手に選択肢がある場合(ない場合もある)、アーンアウトの仕組みを受け入れようとしない可能性があるので注意が必要です。

アーンアウト条項には主に2つの種類があります。

1つ目は、企業の経済指標に基づき、キャッシュフロー、収益、EBIT(金利税引前利益)またはEBITDA(金利税引前減価償却前利益)といった基準を用いるものです。2つ目は、「パフォーマンス・アーンアウト」条項で、IPOを達成するなど、与えられた商業的・事業的目標の達成を条件とするものです。また、アーンアウト条項の中には、買い手に有利なリバース・アーンアウトという特殊なものもあり、契約締結時に合理的に予測できた場合に、会社が合意した目標に到達しない場合に価格を引き下げるというものです。

アーンアウト条項付きで契約が結ばれる理由

なぜM&Aにおいては、アーンアウト条項付きで契約が結ばれるのでしょうか。以下では、アーンアウト条項付きで契約が結ばれる理由を詳しく説明していきます。

(1)価格の期待値の不一致

M&A取引の核となるのは、対象企業の評価と、そこから導かれる対象企業に支払うべき買収価格の決定です。当然のことながら、売り手と買い手は、対象会社の評価と買収価格の決定について異なる考えを持っていることがほとんどです。そんなM&Aの世界において、その調整の役割を担うのがアーンアウト条項なのです。

(2)対象会社の業績に対する評価の違い

通常、企業価値評価は、割引キャッシュフロー法、すなわち、将来予想される不確実なキャッシュフローを割り引くことに基づいて行われます。これらは、将来の収益やキャッシュフローの予測であるため、売り手と買い手で異なる見積もりとなる可能性があります。

さらに、(i)対象会社が経済的躍進の途上にあるケース、(ii)対象会社が特定の人物に依存しているケース、(iii)対象会社の経済的成功が特定の構造的要因に依存しているケース、(iv) 対象会社の経済的成功が買手のグループ会社とのシナジーに基づいてのみ発生するケースなど、不確実性をもたらす要因は様々なので、対象企業の企業価値評価は簡単なものではありません。

たとえば、ベンチャー企業の将来性について考えてみましょう。一般に、ベンチャー企業の将来は未知数です。成功すれば大きく成長するかもしれない一方、もし事業に失敗すれば大きな損失を抱える可能性もあります。たとえ魅力的な事業を行っていても、将来の不確実性が要因となって、なかなかM&Aの成立に結びつかないケースもあるでしょう。このようなときに、アーンアウト条項を用いて契約を結ぶことで、お互いに納得のいく内容で契約しやすくなるのです。現時点における利益ではなく、将来的な成長可能性を考慮してもらえる点は、売り手にとっても大きなメリットになります。

一方、買い手はアーンアウト条項によりリスクを分散できるという効果もあります。アーンアウト条項を用いることで、少なくとも定められた移行期間中、買い手のサポートを確保し、継続と統合の成功に貢献する動機付けとすることができます。しかし、達成すべき基準が現実的であることに注意しなければなりません。そうでなければ、アーンアウトのポジティブな「ニンジン効果」は得られず、達成不可能な目標はやる気を失わせる結果になりかねません。

アーンアウト条項のメリットとデメリット

アーンアウト条項には、買い手と売り手の双方にメリットとデメリットがあります。アーンアウト条項のメリットとデメリットを簡単にまとめておきましょう。

買い手にとってのメリット

事業の対価を全額前払いするのではなく、より長い期間をかけて支払うことができる点です。また、収益が期待ほど高くない場合、買い手はそれほど支払う必要がありません。

売り手にとってのメリット

税金を数年にわたり分散させることができるため、売却に伴う税金の影響を軽減するのに役立つことです。

買い手にとってのデメリット

売り手が長く事業に携わり、収益を上げるための支援を提供したい、あるいはこれまでの経験を活かして自分の思うように事業を運営したいと思う可能性があることです。

売り手のデメリット

将来の収益が高くないため、売却してもそれほど儲からないことにあります。

おわりに

アーンアウト条項とは、対象企業が契約上合意された目標を一定期間内に達成した場合にのみ、買い手が売り手に購入価格以上の金額を追加で支払うことを約束するものです。アーンアウト条項の本質は、売り手と買い手の価格交渉に柔軟性をもたせることにあります。アーンアウト条項を利用することで、買い手は不確実性を低減しながらM&Aに臨むことができるようになり、売り手は、業績に連動して追加的に報酬を受けることができるのです。このように、M&Aにおけるアーンアウト条項を知っていれば、柔軟性を持ったM&A契約を結ぶことが可能となります。

M&Aの基礎知識
2022/07/30
M&Aにおける優先交渉権とは?買い手売り手それぞれのメリット・デメリットも解説
M&Aにおける優先交渉権とは?買い手売り手それぞれのメリット・デメリットも解説

はじめに

M&A取引は、買い手と売り手の交渉によって成立します。売り手にとっては、できるだけ高い取引価格をつけてくれる買い手に会社や事業を売却することを検討するでしょう。反対にで、買い手にとっては、できるだけ安い取引価格で会社や事業を取得することを検討します。このように、M&A取引は買い手と売り手の交渉によって成立するため、この交渉を行うタイミングが非常に重要な意味を持ちます。

一般に、M&Aにおいて、売り手側が会社や事業を売却しようとすると、複数の買い手が見つかることになります。しかし、それぞれの買い手と交渉に臨んでも、多くの時間がかかり、会社や事業の売却が難しくなるケースがあります。そこで、売り手側は、会社や事業の売却をM&A市場に委ねる前に、あらかじめ特定の買い手に対して優先的にM&A取引に関する情報を提供し、優先的にM&A交渉を行う権利を行うケースがあります。その際に利用されるのが、優先交渉権を付与した契約です。あらかじめ特定の買い手候補となる企業に優先交渉権を付与することで、効率的にM&Aの取引交渉に臨めるようになります。

優先交渉権とは

優先交渉権(Right of First Refusal)とは、第一拒否権、有線拒否権とも呼ばれ、誰よりも早く個人または企業と交渉を行うことができる契約上の権利のことです。M&Aにおいては、売り手と優先的に交渉できる権利のことを意味します。この権利を持つ当事者が取引の締結を辞退した場合、売り手側は、他の買い手候補から自由にオファーを受けることができます。売り手側が買い手側に優先交渉権を与えることで、売り手が売却を考えたときに、買い手に会社や事業について取引の機会があるという確証を与えることができるのです。

M&A取引において、買い手が関心のある会社や事業があっても、現在、売却に出されていないケースでは、売り手が買い手候補に優先交渉権を付与することで、売り手がその会社や事業を売りに出すことを決定した場合、その会社や事業を購入する最初の権利を持つことができるようになります。この契約では、売り手は買い手候補に連絡し、その会社や事業に対する別の申し出を受け入れる前に、M&A取引を行う機会を与えなければなりません。

優先交渉権のメリットとデメリット

M&Aにおける優先交渉権は、買い手側に以下のようなメリットをもたらします。

(1)競争相手がいなくなる

売り手が会社や事業をM&A市場に出したとしても、最初の契約条件に基づき、その会社や事業の取引に関して、優先交渉権を有する買い手が許可するよりも前に、他のオファーを受け入れることはできません。そのため、入札合戦の不安を抱えることなく、本当に価値のある会社・事業を手に入れることができる可能性があります。

(2)価格は事前に交渉されることが多い

契約書に価格条件が含まれていることが多いため、M&A市場に出た場合の価格よりも安い価格で物件を手に入れることができる可能性があります。これは、M&Aの取引価格が市場において着実に上昇している場合に特に有効に機能します。

(3)買収対象を選定する時間を節約できる

買い手にとっては、優先交渉権を契約で締結することで、取引価格を固定しつつ、売り手側との信用力を高めながら、購入に必要な資金を貯める時間ができるため、売り手が売却する準備ができたときに、すぐに購入できるようになります。

他方で、M&Aにおける優先交渉権は、買い手側に以下のようなデメリットをもたらします。

(1)限られた取引期間

一般に、優先交渉権には期限が設定されています。したがって、売り手が会社や事業を売りに出すことを決めたら、買い手候補は迅速に決断し、取引を行うかどうかを選択しなければなりません。基本的には、数日以内に売買契約を締結できるよう準備する必要があります。

(2)取引価格の硬直化

これは買い手と売り手の双方にとって長所でもあり、短所でもあります。本来、M&A取引の対象となる会社や事業の価格が下がっている場合、当初の契約条件に基づいて取引を行うことは、過払いになる可能性があります。しかし、だからといって、会社や事業をM&A市場に出してしまえば、手に入らない可能性があるというリスクを負うことになります。

売り手には、優先交渉権に関して特有のメリットとデメリットがあり、それを考慮しながらM&A取引に臨まなければなりません。ここからは、売り手のメリットとデメリットを説明していきましょう。

(1)リスティングが不要になる

優先交渉権を契約で締結すれば、会社や事業の詳細を仲介企業などに掲載することなく売却できる可能性があり、コストを大幅に抑えることができます。

(2)市場における取引価格以上の売却益を得られる可能性がある

買い手が競争の可能性なしにM&A取引を望んでいる場合、市場における取引価格以上の価値で会社や事業を売却できるかもしれません。

買い手にとっての欠点があるように、売り手にとっても欠点があります。

(1)市場を限定してしまう

一般的に、より多くの買い手が参加すればするほど、売り手はより高い価格を得ることができる。最初の選択肢を特定の買い手に与えることによって、あなたは意図せずに取引価格を下げている可能性があります。

(2)固定された契約価格は損かもしれない

契約時に特定の取引価格を設定し、それがその会社や事業の現在の市場価値よりも低くなってしまう場合、損失を被る可能性があります。

(3)融資の問題を引き起こす可能性がある

現在、会社や事業の売却を考えていなくても、一部の事業の継続を考えている場合、優先交渉権が問題となる可能性があります。会社や事業が融資の担保となるため、銀行や投資家は、一般的に優先交渉権を付与する場合、融資を受けることを禁止しています。

おわりに

優先交渉権は、売り手側が買い手側に優先的に交渉できる権利を与えるものです。M&A市場に会社や事業の情報を出せば、買い手は複数見つかるかもしれません。しかし、買い手候補が多くなりすぎれば、誰に売るのが良いかわからなくなってしまうでしょう。したがって、M&A市場に会社や事業の情報を出す前に、買い手候補にあらかじめ優先交渉権を付与することで、効率的に取引を成立させることを望むのです。しかし、優先交渉権を与えてしまえば、本来M&A市場においてもっと高値で取引されることがあった場合でも、優先交渉権を付与した買い手に買い叩かれてしまう可能性があることも理解しておく必要があります。優先交渉権を買い手候補に与えることは、諸刃の剣であることをきちんと理解しておきましょう。

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M&Aの基礎知識
2022/07/30
介護業界のM&A~業界動向とM&A事例をご紹介~
介護業界のM&A~業界動向とM&A事例をご紹介~

はじめに

高齢者人口が増加している介護業界は、現在、苛烈な市場環境に置かれています。そうした状況のなかで、生き残るための手段としてM&Aが盛んに行われています。このコラムでは、介護業界が置かれている市場環境について説明したのち、実際に行われたM&A事例を紹介していきます。

介護業界の現状と課題

高齢者人口増加にともなって、要介護認定者数は増加の一途を辿っています。高齢者人口が減少に転じるのは、2040年頃とされており、今後も要介護認定者数は増加していくと考えられます。

こうした状況のなかで、介護サービスに対する需要もさらに高まることが予想されます。介護サービスの需要を見込んで多くの会社が介護業界に参入して久しい昨今では、介護サービス業界では苛烈な競争が起こっており、中小事業者にとって厳しい市場環境となっています。

介護業界において、介護事業者の主な収益は介護報酬です。介護報酬とは、事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に対して支払われる報酬のことを言います。

この介護報酬はサービス毎に設定されており、各サービスの基本的なサービス提供に係る費用に加えて、各事業所のサービス提供体制や利用者の状況等に応じて加算・減算される仕組みとなっています。つまり、介護報酬は介護事業者が自由に設定できるものではないため、介護報酬を増やす(売上を増やす)ために、値上げなどを行うことはできません。そのため、介護業界においては、いかにコストを削減するか、あるいは効率的な経営を行うかが重要な意味を持っています。

介護報酬は3年毎に見直されるため、改訂されることで介護報酬が増える可能性ももちろんあります。しかし、こうした事業環境にある以上、大幅な介護報酬の増加は見込めないと言えるでしょう。したがって、介護事業者にはコストの削減が求められます。介護事業者の主なコストは、施設の減価償却費や賃料等の設備関連コストと人件費です。

昨今において、建築費は、資材単価や労務単価の上昇を背景として上昇傾向にあります。さらに、介護サービス従事者の給与については、足元目立った変動は見られないものの、有効求人倍率が上昇していることから、今後賃上げが必要となることも想定され、人材派遣費の増加も懸念されています。

今後、介護報酬が増えれば、事業所様の収入が増加すると考えることもできますが、介護スタッフの給与等も引き上げられる可能性も高まっていることから、必ずしも市場環境が改善されるわけではありません。

介護業界におけるM&A

 市場環境の厳しさに加え、深刻な人手不足や新型コロナウイルス感染症の影響で、介護業界の中小事業者の経営は厳しい状況に置かれています。一方で、高齢者人口の増加によって、今後も市場規模の拡大が見込まれています。

高まる介護需要に対して、介護人材を確保し、規模のメリットを生かすために、大手事業者によるM&Aによって、介護事業の拡大を図る動きが活発化しており、業界の再編が進んでいます。

介護業界において、M&Aによる事業者買収が増加している要因は、そもそも経営者自身が高齢化して、事業承継問題を抱えていることに加え、経営環境の悪化が挙げられます。慢性的かつ深刻な人手不足は、入居者の受け入れ制限や人件費の上昇につながっています。また、コロナ禍において、入居者の感染防止に取り組む必要があることから、コスト増の傾向が強まっており、中小企業が単体では経営を続けるのが難しくなりつつあります。

2022年からは、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となることから、今後も、介護サービスについては中長期の需要が見込まれており、介護業界は今後も規模が大きくなっていく見通しです。こうした状況下において、成長を加速させるためにM&Aを積極的に行う介護サービス事業者が増えています。

M&Aによって会社の売上規模を大きくすることによって、スケールメリットを享受することができるだけはなく、介護サービスに必要不可欠な人材も確保できます。施設の収入になる介護報酬は、国が地域やサービスごとに単価を定めているため、大幅に売上高を増加させることは難しい状況です。そのなかで収益を出すためには、規模を拡大し、コストを削減していくことが重要となります。こうした状況であるからこそ、介護業界においては、大手介護サービス事業者によるM&Aが盛んに行われているのです。

介護

介護業界におけるM&A事例

ここからは、介護業界におけるM&A事例を紹介していきます。

(1)ALSOKによるかんでんジョイライフとかんでんライフサポートのM&A

2022年6月、ALSOKは、関西電力傘下で有料老人ホーム運営など介護事業を手がける、「かんでんジョイライフ」と「かんでんライフサポート」の2社を子会社化することに成功しました。ALSOKは、この子会社化を通じて、主業である警備事業の周辺分野として育成中の介護事業を強化する狙いがあります。

ALSOKは、国や地方公共団体、各種金融機関、一般事業者向けに、多種多様な警備サービスを提供するほか、個人の顧客にもホームセキュリティをはじめ、安全安心と便利を提供する取組みを進めており、さらに、警備事業を起点として周辺分野への事業領域拡大に取組んでいます。

個人、特に高齢者に対する安全安心を提供するため、2012年にALSOKケア株式会社を設立して介護事業に参入したあと、2014年には株式会社HCM、2015年にはALSOKあんしんケアサポート株式会社、2016年には株式会社ウイズネット、2018年に訪問マッサージの株式会社ケアプラス、2020年に㈱らいふホールディングスを子会社化し、更には同年、三菱商事株式会社と資本業務提携のうえ高齢者生活支援サービス等を行う株式会社日本ケアサプライを持分法適用関連会社化し、介護およびその関連事業を強化しています。

今回のM&Aによって、主に特定施設を中心に高齢者施設・住宅事業を1,200室超規模で展開し、関西4府県(京都、大阪、兵庫、奈良)においてトップクラスを誇る、強固なブランド力を確立するとしています。

「かんでんジョイライフ」と「かんでんライフサポート」が展開する介護事業は、利用者が自分らしい生活を継続できることを重視した、自立者向けを含む高品質な介護サービスを提供し続けてきた特徴があるとしており、今回のM&Aを通じてALSOKに参画することで、介護事業を拡大・強化するのみならず、新たなラインナップ拡充による総合力強化に資するとしています。

(2)SOMPOケアによるネクサスケアのM&A

2022年4月、SOMPOホールディングス(HD)傘下で介護事業を手掛けている「SOMPOケア」は21日、全国で16の介護施設を運営する「ネクサスケア」を完全子会社化することに成功しました。

SOMPOケアは、M&Aを行った2022年4月時点において、約450の介護施設を運営しており、今後も自社施設の新設やM&Aなどによって規模の拡大を狙っています。提供している介護サービスの価格帯がSOMPOケアの施設の水準に近いことから、M&Aを行うことによって、運営面でシナジーを生みやすいと考え、今回のM&Aに至りました。

もともと、ネクサスケアは、東京や仙台、札幌などの主要都市で、9カ所の介護付き有料老人ホームと、7カ所の住宅型有料老人ホームを運営している企業です。従業員はそのままSOMPOケアが引き継ぎ、施設名なども当面は変えずに運営するとしています。SOMPOケアは、自社でも今後5年間で33棟の介護施設を新設する方針を掲げており、規模拡大に積極的だ。また、こうした動きの中でも安定的に人材を確保するため、賃金改定の実施や研修制度の強化にも取り組んでいくとしています。

(3)ニチイ学館による西日本ヘルスケアのM&A

2021年6月、ニチイ学館は、LeTechの介護事業を承継する西日本ヘルスケアを子会社化することに成功しました。

もともと、ニチイ学館は、医療関連事業、介護事業、保育事業、ヘルスケア事業、教育(語学)事業、セラピー事業、グローバル事業を展開している企業でした。一方で、LeTechは、2015年11月に住宅型有料老人ホーム「サンライフ栗東」(滋賀県栗東市)を開設して以来、順調に拡大を続け、滋賀県、京都府及び大阪府に、合計7施設の住宅型有料老人ホーム、グループホーム・小規模多機能型居宅介護及びサービス付き高齢者向け住宅を運営していた企業です。今回のM&Aを通じて、施設利用者や展開地域へのサービス供給を安定化し、グループの中長期的な企業価値向上を図るとしています。

おわりに

介護業界は厳しい市場環境に置かれています。それでもM&Aによって再編が起こっている理由は、市場規模の拡大が今後も見込まれているからです。こうした市場環境においては、介護事業者が、さらに効率化やコスト削減を推し進めるべく、M&Aが盛んに行われるようになっていくはずです。特に中小事業者は、厳しい状況に置かれており、大手事業者とのM&Aによってその傘下に入ることが多くなっていくことでしょう。

その他の業種・業界別の事業承継/M&A(事業買収・売却・提携)の特徴・動向や事例はこちら

業種別M&A動向・事例
2022/07/30
不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介
不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介

不動産業とは、大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分類され、不動産の売買、交換、賃貸、管理または不動産の売買、賃借、交換の代理もしくは仲介を行う事業を営むことを言います。近年、不動産業界では業界の再編が進んでおり、その手段としてM&A(Mergers & Acquisitions)が盛んに利用されています。今回は、そんな不動産業界におけるM&Aの動向と事例を紹介していきます。

不動産業を営む企業のM&A動向

不動産業は、全産業の売上高の 3.3%、法人数の 12.4%(令和2年度)を占める重要な産業の1つです。不動産業に関わる業務内容は幅広く、事業者の規模も大手総合不動産会社から個人経営の中小事業者まで多岐にわたることが特徴となっています。

近年では、不動産専業の事業者だけでなく、異業種でも一部不動産業を営む事業者や新興企業の参入も多くM&Aの買収ニーズもある業界です。不動産業は、不動産という高額な商品を取り扱うという業界特性を持つことから、景気動向に左右される業界となります。景気が良ければ、戸建てやマンションの売れ行きも好調となり、各社の業績も良くなりますが、景気が悪くなれば、不動産が売れずに不調に陥る場合もあります。

今後の日本は、高齢化社会を迎えるということもあり、人口減少も予想されるなかで、不動産業はその対応を迫られることになるでしょう。その結果、多くの中小企業者同士のM&Aが進んだり、他業界からの新規参入も相次いでいます。商用施設の建設については、新型コロナウイルスの世界的な流行がおさまってきたこともあって、今後、一定の需要が見込まれるものの、戸建てやマンションといった居住施設については、人口減少によって需要が減少することが予想されるため、現在から業界の再編が進んでいます。

不動産業を営む企業のM&A事例

ここからは、最近の不動産業に関するM&A事例を紹介していきましょう。

(1)日本リビング保証による三春情報センターへのM&A事例

2022年6月、住宅のトータルメンテナンス事業、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を手掛けている日本リビング保証は、完全子会社であった横浜ハウス(売上高1億1900万円、営業利益△555万円、純資産△909万円)の全株式を、不動産売買や賃貸の仲介などを手がける三春情報センター(横浜市)に譲渡しました。横浜ハウスは、戸建住宅・マンション・店舗等の全リフォーム工事の請負などを行っている企業です。

もともと、日本リビング保証は2020年7月に横浜ハウスを子会社化していたものの、シナジー効果を十分に得られないと判断し、譲渡に至っています。

(2)ビーロットによる東観不動産のM&A事例

2022年5月、国内外の富裕層・投資家を顧客とした資産運用サービスを手掛ける総合不動産会社であるビーロットは、不動産賃貸業を営む東観不動産(東京都千代田区。売上高1億3100万円、営業利益500万円、純資産8億300万円)の全株式を取得して子会社化しました。

ビーロットは、不動産を保有する企業のM&Aに積極的に取り組んでおり、今回の東観不動産の買収を通じて、不動産管理のノウハウを取得するとともに、保有する不動産のさらなるバリューアップを図るとしています。

(3)キムラタンによる和泉商事のM&A事例

2022年4月、1925 年の創業以来、ベビー・子供アパレル事業を主な事業内容とし、一貫して自社オリジナル企画・デザインによる製品を提供してきたキムラタンは、不動産賃貸業を営む和泉商事(売上高11億3000万円、営業利益2億4900万円、純資産9億4800万円)の全株式を取得し子会社化しました。

キムラタンは、「2021年2月に事業を開始した不動産事業を第2の柱事業として拡大を図ることを目指し、全国に約70の収益物件を所有し、安定収益を計上している和泉商事の全株式を取得することを決定した」と公表しています。

このM&Aによって、キムラタンは、赤字となっているベビー・子供アパレル事業を大幅に縮小し、不動産賃貸業を主事業へと切り替えていくとしています。

(4)日本エスコンによるピカソと優木産業のM&A事例

2021年8月、関西、首都圏を中心に全国で不動産の総合開発事業を展開する日本エスコンは、関西で不動産賃貸事業を展開するピカソ(大阪市。売上高60億7000万円、営業利益18億7000万円、純資産43億9000万円)、優木産業(大阪市。売上高31億円、営業利益7億1300万円、純資産15億9000万円)の2社の全株式を取得し子会社化しました。

ピカソと優木産業の子会社化は、「賃貸事業を強化するとともに安定収益を確保し、収益構造の転換を一気に推進するものである」と公表しています。

このM&Aによって、日本エスコンは、関西圏における不動産賃貸事業の安定収益を確保していくとしています。

(5)三越伊勢丹ホールディングスによるThe Blackstone Group Inc.へのM&A事例

2020年11月、三越伊勢丹ホールディングスの完全子会社である三越伊勢丹が保有する連結子会社の三越伊勢丹不動産の全株式をThe Blackstone Group Inc.とその関連会社が運用または投資アドバイザーを務める特定のファンドが設立した法人であるエチゴ合同会社に譲渡しました。

三越伊勢丹不動産は、自社で所有する物件の賃貸営業やマンションの分譲を中心に事業を展開する一方で、不動産オーナーが所有する物件のサブリース事業・賃貸管理事業、管理組合事業にも取り組んできた企業です。

このM&Aによって、三越伊勢丹ホールディングスは株式の売却益を得ることとなった。三越伊勢丹ホールディングスの主事業である百貨店事業が不況にあえぐなか、今回の株式売却を通じて赤字を補填して、今後は主事業の強化に取り組むとしています。

おわりに

景気動向に左右されやすい不動産業界は、安定収益をもたらす物件を取得するために、盛んにM&Aが行われている業界です。不動産管理には、不動産管理特有のノウハウが必要となるということもあり、異業種からの参入のために、不動産業を営む企業の買収も盛んに行われています。

各業界別M&Aの一覧はこちら

業種別M&A動向・事例
2022/07/30
株式譲渡
株式譲渡

株式譲渡とは、M&Aにおける手法のひとつで、売り手企業の既存株主が既存の発行済株式を買い手企業または個人に譲渡し、経営権を移行する方法です。買い手企業はその対価として現金を支払います。
会社が持っている債権債務、契約関係等はまるごと全て引き継がれます。既存顧客や従業員が理解して、事業継続ができる状態であれば、対外的には株主が変更の他に大きな変更はありません。
株式譲渡は、続きが比較的簡単なことから中小企業のM&Aにおいても多く利用されます。
株式の過半数もしくは(特別決議が可能となる)3分の2以上を売却し、経営権を譲渡する方法としても用いられます。

関連ページ:M&A(エムアンドエー)とは? M&A実行の流れと利害関係者・手法別のメリット・デメリットを徹底解説

https://ma-guide.jp/column/ma_stakeholder_scheme/

M&A・事業承継用語
2022/07/31
タームシート(term sheet)
タームシート(term sheet)

M&A交渉にあたり、期間や金額、各条件を記し簡潔にまとめた条件提示書。売り手・買い手企業双方が、タームシートで契約内容の骨子を合意することにより、契約交渉を効果的に進められるとされています。一般的に契約書の締結前に作成されます。

M&A・事業承継用語
2022/07/31