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マルチプル(倍率)を利用する類似会社比較分析の実践~マルチプルとは企業評価の一種~
マルチプル(倍率)を利用する類似会社比較分析の実践~マルチプルとは企業評価の一種~

企業の価値はどのように算定したら良いでしょうか。これはたいへん難しい問題です。企業価値評価には様々な手法がありますが、最もよく利用されているのが類似会社比較分析(法)です。類似会社比較分析は、事業内容や事業規模などが類似している(上場)会社群をベンチマーク会社として選定し、選定された会社群の倍率の平均を求め、その平均値を基礎として評価対象とする会社の価値を推定します。公開情報だけで価値を計算できることから、最も広く実務で利用されているのが、この類似会社比較分析です。この記事では、類似会社比較分析の計算式を紹介するのではなく、その基本的な考え方について詳しく解説していきます。

類似会社比較分析(CCA: Comparable company analysis)

類似企業比較分析(CCA: Comparable company analysis)とは、同業種の同規模の他の企業の評価指標を用いて、企業の価値を評価するプロセスです。企業の価値を評価する際にマルチプル(倍率)を利用するので、類似会社比較分析はマルチプルによる企業評価の一種ということになります。

類似企業比較分析は、類似企業がEV/EBITDAのような類似の評価倍率を持つという前提のもとに行われます。たとえば、EV/EBITDA倍率は、EV(Enterprise Value:事業価値)がEBITDAの何倍とされているかを表わす指標です。

類似企業比較分析は、類似する上場企業等の比率を調べ、それをもとに別の事業の価値を導き出す評価手法です。類似企業比較法は、本質的な評価であるDCF(Discounted Cash Flow)分析とは異なり、相対的な評価形式です。基本的な考え方は、「同じような特性を持つ企業は、他のすべてのものが同じである、同様の倍率で取引されるべき」ということです。

類似会社比較分析は、比較的簡単に実行でき、比較対象企業が株式公開されている場合は、データは通常比較的広く入手可能です。また、DCF法のような他の評価方法は、様々な前提条件に左右されるのに対して、類似会社比較分析は、市場が他社の有価証券に効率的に価格を付けていると仮定すれば、合理的な評価範囲を提供するはずです。

こうした要因から、類似会社比較法は、企業価値表における実務上、最も広く使用されている評価手法の一つとなっています。

比較評価としての類似企業比較分析

類似企業比較分析は、相対評価または倍率を用いた評価とも呼ばれます。最もポピュラーな評価手法で、企業を同業他社と比較し、適切な相対取引倍率に基づいてその価値を示すものです。これは、同業他社が主要な事業および財務上の特性、業績要因、リスクを共有しているという前提に基づいています。したがって、類似会社比較法を利用するアナリストや投資家は、主に市場の状態から現在の価値に基づいて、同業他社の中での企業の相対的な位置を判断し、評価額を決定することになります。

たとえば、不動産市場における不動産の評価について考えてみましょう。そもそも、不動産はそれ自体がキャッシュを生み出す資産なので、本質的な価値を持つことを意味します。しかし、多くの場合、不動産の本当の価格を知るためには、最近売りに出された近隣の類似の不動産とその価格を比較する必要があります。たとえば、最近、向かいの同じような大きさの家が1,000万円で売れたとしたら、今、同じ家が半額(500万円)で買えるとは考えにくいでしょう。

これと同じように、上場企業も多かれ少なかれ推定できる本質的な価値を持っており、そのほとんどは同業他社に十分に類似していると考えます。したがって、相対評価の考え方は、企業にも適用することができるのです。

相対評価は、類似資産の価値に基づいているため、同業他社、たとえば、同じ業界/セクター内の企業や類似のビジネスモデルを持つ企業との相対的な評価が必要となります。一般的に、同業他社とは、同一または密接に関連する産業/セクターで事業を行う企業、同じサイズ、品質、さらには成長属性を持つ企業など、直接の競合相手とみなされる企業のことをいいます。最終的には、特定の企業やその業界/セクターに関する知識に基づいて、適切な同業他社を選択しなければなりません。相対評価の概念を理解したところで、相対評価による類似会社比較分析をするための一般的なステップを見てみましょう。

類似会社比較分析を実践する

以下では、実践のための簡単なステップを紹介していきます。

(1) 適切な比較対象企業を探す

これは、上場企業の比率分析を行う上で、最初の、そしておそらく最も難しいステップです。 アナリストが最初にすべきことは、評価しようとする企業を調べ、その事業の詳細な説明や産業分類を得ることです。

次に、データベースを使って、同じ業界で事業を展開し、類似した特性を持つ企業を検索します。  一致度が高ければ高いほど、正確に分析することができます。アナリストは、一般に、以下のような基準に基づいてスクリーニングを実行します。

  • 業種分類
  • 地域
  • 規模(売上、資産、従業員)
  • 成長率
  • マージンおよび収益性

(2)財務情報の収集

評価対象企業に最も関連性があると思われる企業のリストが見つかったら、次はその企業の財務情報を収集する番です。必要な情報は、業界や企業のライフサイクルのステージによって大きく異なります。 成熟した企業であれば、代表的な収益性の指標を見ることになるでしょう。創業間もない段階の企業であれば、売上総利益や収益を見ることもあるでしょう。高価な財務分析ツールを利用できない場合は、年次報告書や四半期報告書から手動でこれらの情報を収集することもできますが、より多くの時間を要することになります。

(3)類似比較分析表の作成

分析する企業に関する関連情報をリストアップします。比較対象企業分析における主な情報は以下の通りです。

  • 会社名
  • 株価
  • 時価総額
  • 純有利子負債
  • 企業価値
  • 売上高
  • EBITDA
  • アナリスト予想

類似企業比較分析の注意点

類似企業比較分析を行う場合には以下の点について注意しましょう。

  • 関連する同業他社を確認する。
  • 主要な基本的指標を確認する。
  • 評価のための適切な倍率を選択する。

類似企業比較分析では、関連する同業他社を適切に選択することが重要です。なぜなら、ターゲット企業の評価において重要な役割を果たすからです。たとえば、ある企業は、事業の性質上、2つの異なる業界で比較される場合があります(例:インターネット小売企業)。同様に、いくつかの異なる産業グループにまたがる事業を所有しているため、比較対象企業を除外または調整する必要がある場合もあります。従って、同業他社の選定は、やや主観的なものとなりがちです。

類似企業比較分析を行う際、アナリストは、過去のパフォーマンス指標、または将来(予測)のパフォーマンス指標のいずれかを選択することができます。一般的には、未来の指標の方が好ましいものの、これには注意が必要です。たとえば、予測されたEBITDAおよび予測されたEarnings/EPSは予測に関連付けられるあらゆる種類の潜在的な落とし穴によって大きく歪んでいる可能性があります。そのため、企業価値評価の予測数値が大きく外れてしまう可能性があります。

さらに、類似企業比較分析を行う場合、様々な一時的費用や非経常的項目(資産の売却、一時的な訴訟費用、リストラ費用など)に対してパフォーマンスを調整したいと思うかもしれません。分析に使用するすべての企業についてクリーンな数字を使用し、リンゴとリンゴを比較するように努めることが重要です。これは、将来の業績指標を用いる場合、非経常的な項目が未知である可能性があるため、特に困難となるでしょう。

おわりに

類似会社比較分析は、上場していない会社の企業価値を推定するときにも利用できるため、広く実務でも活用されている企業価値評価法です。類似会社比較分析を行う際に特に注意したいことは、同業他社の選定です。比較対象として選択する企業をどこにするかによって、企業価値が大きく変化することになります。類似していない企業を選定してしまうと、間違った企業価値評価が行われてしまいます。したがって、同業他社の選定、基本的指標の選定、適切な倍率の選定を慎重に行わなければなりません。計算方法は簡単でも、注意事項を守らないと間違えやすいので注意しましょう。

参考:その他の企業価値評価法については以下でも解説しています。
企業価値評価(Valuation)とは?~評価方法インカム・コスト・マーケットアプローチについて~

M&Aの基礎知識
2022/07/31
M&Aと繰越欠損金~繰越欠損金による節税効果は期待できない?~
M&Aと繰越欠損金~繰越欠損金による節税効果は期待できない?~

はじめに

M&Aの対象会社が繰越欠損金を抱えている場合、繰越欠損金により損失を費用として利益を圧縮できるため、節税効果が期待できると考えるかもしれません。しかしながら繰越欠損金のある会社のM&Aを行う場合、租税回避行為を防止する措置があり、租税回避を意図していなくても制限措置が適用され繰越欠損金等に使用制限がかかるケースがあります。

繰越欠損金ありきのM&Aを防ぐために、会社や事業を引き継ぐことができるかどうかについては明確なルールが定められているのです。原則として、M&Aにより赤字会社が消滅した場合、その会社が持っていた繰越欠損金も消滅したと考えるので、節税効果は期待できません。

買収後の組織再編も含めて、繰越欠損金等に制限がかからないか検討しておく必要があります。この記事では、M&Aと繰越欠損金について説明していきます。

繰越欠損金とは

企業経営をしていても、経営が上手くいかず赤字となるケースは少なくありません。多くの中小企業が赤字経営であると言われており、また、赤字経営でなくとも、経営環境の変化で容易に赤字となってしまう状況に置かれていると言われています。

単年度において赤字となるケースで、課税所得もマイナスとなる場合、この赤字は税務上の欠損金と呼ばれます。税務上の欠損金がある場合、その発生年度の翌期以降で繰越期限切れとなるまでの期間に課税所得が生じた場合には、欠損金の分だけ課税所得を減額することができます。つまり、100万円の欠損金がある場合、翌年度の課税所得を100万円減額することができるのです。翌年度以降に引き継がれる欠損金は繰越欠損金と呼ばれます。繰越欠損金が存在する場合、翌年度以降、その分だけ課税所得を圧縮することができるため、支払わなければならない税額も少なくなります。これが繰越欠損金による節税効果です。

繰越欠損金の節税効果を狙って、あえて赤字企業をM&Aによって買収するということも考えられます。赤字企業を買収すれば繰越欠損金があるため、翌年度以降の節税効果を狙って買収しているのです。しかし、繰越欠損金による節税を期待してM&Aを実施しても、現在では、節税効果は認められなくなっています。法制度の改正が進み、繰越欠損金による節税目的のM&Aが禁止されるようになったからです。

M&Aと繰越欠損金

 従来は、繰越欠損金を利用することで、M&Aを通じて節税が実現しました。しかし、現在では、M&Aを通じて繰越欠損金を利用した節税を行うためには、厳しい要件が課されています。そのため、M&Aを通じて繰越欠損金を利用して節税できると短絡的に考えることはできません。繰越欠損金を有する法人や含み損のある資産を有する法人を買収し、収益性のある事業をその法人に移転したり、収益性のある他の法人と合併したりすることにより、課税所得を圧縮する行為、すなわち繰越欠損金等を利用する目的で他の企業を買収した場合で、一定の事由に該当するときは、繰越欠損金の引継ぎ・使用や資産の譲渡等損失の損金算入を制限する措置が設けられています(法人税法57条の2)

この規定は、一定の事由に該当する場合は、繰越欠損金を損金算入できない(費用とすることができない)という規定です。したがって、単純にM&Aを通じた繰越欠損金を利用した節税はできないと考えておいた方が良いでしょう。

繰越欠損金を節税に利用できるケースについて、以下では説明していきます。

繰越欠損金を利用できるケース

 繰越欠損金による租税回避が目的ではなく、グループ最適化のための組み換えである「適格合併」であれば繰越欠損金を引き継ぐことができます。「合併当事会社の関係」が「法人税法の定める要件」に対して、適格であるようなM&Aを適格合併と呼ぶのです。適格合併に該当するための要件とは、原則としては次のようなものです。

  1.  金銭等の不交付:合併対価は株のみで金銭等が交付されない
  2. 支配関係の継続:合併前からの支配関係が合併後も継続
  3. 従業者の引継:消滅会社の従業員の概ね8割以上を引き継ぎ
  4. 事業の継続性:消滅会社の主要事業が合併後も継続見込み
  5. 事業の関連性:両社の主要事業が相互に関連
  6. 事業規模:両社の売上、従業員数、資本金のいずれかの差が5倍以内
  7. 経営参画:両社の役員のそれぞれ1名以上が合併後も役員

このような要件を満たす場合には、適格合併であると見做されて、繰越欠損金をそのまま引き継ぐことができます。多くの要件を満たさなければならないことからわかるとおり、M&Aを通じて繰越欠損金で節税をするのはかなりハードルが高いといえます。

そして、適格合併であればすべての繰越欠損金を使えるわけではありません。適格合併に該当するとしても、一部、繰越欠損金の利用が制限される場合があります。

おわりに

繰越欠損金は、M&Aにおいて節税目的では利用できないというのが原則です。この制限は、欠損金を有する法人を買収した上でその法人に事業を移し、当該法人が買収前から有していた繰越欠損金を利用して課税所得の圧縮を図るといった租税回避行為を防止する目的で講じられています。赤字企業は、通常、買収額が低く設定されます。そのため、M&Aを利用して赤字企業の買収を繰り返せば節税できたのです。

しかし、現在では、租税回避行為ができないように制度が設計されています。一定の要件を満たさない限り、繰越欠損金を利用することはできません。租税回避の意図がなくても結果として該当してしまうケースがあるので注意が必要です。中小企業にとっては、経営環境が大きく変わり、繰越欠損金が発生しているケースや合併等の組織再編で最適化を図ることを考えているケースもあるでしょう。そのため、繰越欠損金の取扱いについては十分に確認しておくことが大切です。

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M&Aの基礎知識
2022/07/30
M&Aとストックオプション ~売り手・買い手ケースによって取り扱いが異なるので注意~
M&Aとストックオプション ~売り手・買い手ケースによって取り扱いが異なるので注意~

1997年の商法改正によって、ストックオプション制度の活用が日本でも始まりました。労働の対価として、経営者、役員、従業員に対してストックオプションを付与すれば、将来割安な価格で会社の株式を購入する権利を得ることができます。しかし、M&Aによって組織再編が行われれば、ストックオプションの取り扱いも変化します。ストックオプションの権利を付与した企業がM&Aによって消滅してしまうようなケースでは、ストックオプションをどのように取り扱ったら良いのでしょうか。この記事では、そんなM&Aとストックオプションの関係について、基本的な考え方を説明していきます。

ストックオプションとは

ストックオプションとは、株式を購入する権利のことを言います。日本では1997年の商法改正にともなって活用されるようになり、急速に普及しました。ストックオプションは、企業が役員や従業員への労働の対価として、金銭の代わりに将来一定の価格(その時点での株価より割安な価格)で、自社の株式を購入する権利を付与するものです。労働の対価として、将来株式を割安で購入できる権利を与えるのがストックオプションです。ストックオプションには、権利行使期間が定められており、その期間にオプションを行使するとあらかじめ定められた価格で一定数の株式を購入することができます。ただし、払込金額が存在する場合については、払込期日までに払込金額全額の払い込みがなされない場合には、権利行使することができません(会社法第245条、第246条)。

株価が上昇したときに、ストックオプションを行使すると割安で株式を購入でき、それをすぐに売却すれば売却益を得られます。株価が上昇すれば、権利行使価格との差は大きくなり、売却益も大きくなるため、経営者・従業員は懸命に株価が上がるように事業活動に勤しむはずです。こうした狙いから、ストックオプションは、経営者、役員、従業員へのインセンティブとして付与されるケースが多いです。

M&Aとストックオプション(売り手側のケース)

ストックオプションを行使する権利を付与する権利主体は会社です。そのため、組織再編行為が行われた場合、ストックオプションの取り扱い方も変化することになります。

会社法には、株式交換及び株式移転のみならず合併及び会社分割に伴うストックオプションの取扱いについて規定が設けられています。一般に、組織再編時の取扱規定を会社が設ける場合、合併及び会社分割に伴うストックオプションの取扱いについても規定を設けておきます。

譲渡側(売り手側)企業が、ストックオプションを付与している場合、当然ストックオプションの権利を付与する権利主体は譲渡側企業です。しかし、譲渡側企業がM&Aによって消滅する場合、ストックオプションを行使する権利は会社消滅に伴って消滅することになります。つまり、M&Aによって消滅する企業が付与したストックオプションは原則として消滅するのです。

M&Aにおいてストックオプションの取り扱いが問題となるのは、譲渡側(売り手側)企業が株式譲渡・株式移転・株式交換によって完全子会社となる場合です。この場合、会社は消滅するわけではないものの、譲受側(買い手側)企業の一部となるので、ストックオプションを行使する権利を付与する権利主体も譲受側(買い手側)企業に移ります。

こうしたケースでは、一般に、ストックオプションを行使されると株式数に変動が起きて、株式比率も変わってしまうことから、権利主体である会社がストックオプションを買い取るケースがほとんどです。ストックオプションを消滅させようとした場合、ストックオプションの権利保有者は新株予約権買取請求権を行使できます。これは、ストックオプションを公正な価格で買い取ることを企業に請求する権利です。この権利を行使することで、会社が公正な価格でストックオプションを買い取ってくれます。

M&Aによる譲渡が完了するまで、ストックオプションがどうなるかはわかりません。上場企業に勤めている場合、買収を知ったときから、株主や規制当局の承認を得て、最終的に買収が完了するまでには、かなりのタイムラグが生じます。合併や買収の条件が最終決定されるまで、従業員は、自分の株式報酬がどうなるかという長引く疑問に対する答えを得ることができません。

また、合併によって、会社の法人格が消滅するケースでは、ストックオプションの権利も基本的には消滅することになります。ただし、存続会社や新設会社のストックオプションを交付するのが一般的です。このとき、ストックオプションの権利を付与される者の側から、先のケースと同様に、会社が公正な価格でストックオプションを買い取るよう求めることが可能です。

M&Aとストックオプション(買い手側のケース)

売り手側の企業が権利付与したストックオプションを特別な場合を除き、原則として消滅することになります。では、買い手側の企業が権利付与したストックオプションの取り扱いはどうなるのでしょうか。ここからは、買い手側の企業におけるストックオプションの基本的な取り扱いについて説明していきます。

合併によって、買い手側企業が存続会社、売り手側企業が消滅会社となるようなケースでは、会社が消滅することに伴って、ストックオプションも消滅することになります。ただし、合併以外の組織再編行為については、再編相手となる会社のストックオプションを代替交付しない場合、ストックオプションは消滅することなく残存します。この場合、買い手側の企業は、経営者、役員、従業員がストックオプションを行使する権利も基本的に引き継がなければなりません。

したがって、買い手企業は、売り手企業のストックオプションを買い取るか、売り手企業のストックオプションをいったん消滅させて、別のインセンティブを付与しなければなりません。

売り手側の企業が発行したストックオプションを消滅させた際、代替のインセンティブとして、買い手側の企業がストックオプションを発行することも可能です。譲渡側(売手側)企業の発行するストックオプションに権利内容が明記されていなくても、譲受側(買い手側)企業の判断でストックオプションを発行できます。

おわりに

ストックオプションの付与は、労働の対価としての側面があるため、その会社で働く経営者・役員・従業員にとって非常に重要な問題です。M&Aによって、ストックオプションの取り扱い方法は変化するので慎重に取り扱う必要があります。ストックオプションは付与された者の権利ですから、その権利の取り扱いは重要となります。M&Aを行うと、権利主体である組織が再編されることになります。M&A後にストックオプションが存続するのか、それとも消滅するのかどうかを把握してきちんと説明できるようにしなければなりません。

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M&Aの基礎知識
2022/07/30
物流会社による〝スモールM&A〟が増加
物流会社による〝スモールM&A〟が増加

大手・中堅物流会社が比較的小規模の運送会社を買収する事例が増えている。3PL事業の拡大などに付随して必要となる〝足回り〟の強化が主な狙いだが、2024年4月から

M&Aニュース
2022/06/08
シナジー効果(synergy)
シナジー効果(synergy)

シナジー効果とは、ヒト・モノ・技術など、様々な2つ以上の要素を組み合わせることによって作用し合って効果や機能が高まることです。端的にいうと、相乗効果のことです。
M&Aは双方の企業間でシナジー効果を発揮し、企業価値を向上させることを期待して行います。
ビジネス上のシナジー効果には、「収益シナジー」・「コスト・シナジー」・「ファイナンシャル・シナジー」などがあります。

関連ページ:M&Aで生じるシナジー効果とは?3種類の代表的シナジー

M&A・事業承継用語
2022/07/31
出口戦略(イグジット・ストラテジー)を策定しよう~M&A・IPOなどを活用した出口戦略について解説!~
出口戦略(イグジット・ストラテジー)を策定しよう~M&A・IPOなどを活用した出口戦略について解説!~

創業者は、相応のリスクを背負って株式会社を設立します。企業経営にリスクはつきものなので、当然、企業経営が上手くいかなくなるというケースもあるでしょう。創業者は様々な理由から事業を撤退しなければならなくなる可能性があります。したがって、撤退によるリスクを最小限にする必要があります。そこでこの記事では、出口戦略(イグジット)についてわかりやすく解説していきます。

出口戦略とは

 出口戦略(exit strategy)とは、事業が大幅な利益を満たした場合、あるいは利益が出なくなった場合に、その事業から撤退するための不測の事態を想定した計画のことを言います。

特に、M&Aという文脈においては、創業者による投資回収戦略です。出口戦略という言葉は、もともとは軍事用語で、困難な戦局から被害最小限で脱出する戦略を意味しています。

創業者は自らの私財を利用して企業を設立します。つまり、創業者による投資によって企業活動は成り立っているのです。その投資を回収しようと思っても、会社経営が上手くいかず、撤退を余儀なくされるケースも少なくありません。あなたの会社がいつ撤退しなければならなくなるかはわからないのです。創業間もない企業は、優れた組織を構築することに集中すべきですが、経営者としては投資を回収する(引き上げる)決断をしなければならないときもあるでしょう。したがって、事前に出口戦略を練っておくことが重要なのです。

以下では、出口戦略として「株式公開」、「M&A」、「ライセンシング」という3つの出口戦略について紹介していきます。

出口戦略としての株式公開(IPO)

 IPO(Initial Public Offering)とは、非上場企業が株式を公開することを意味する言葉です。

上場させたあとに株式を売却し、利益を得る出口戦略です。その言葉が示すように、会社の一部を株式として公開し、公開証券取引所で取引することで、誰もが会社の一部を購入できるようにすることをIPOと呼びます。新興企業が事業拡大を目指す際の出口戦略として採用するケースが多いです。IPO後、経営者(創業者)は事業を売却するか、そのまま会社に残るかを選択することができます。

 経営者は目指すものの1つに株式公開があります。一般に、個人が株式会社を設立するケースでは、創業者が会社の株式を保有しています。会社の経営が上手くいくようになると、その会社の株式が欲しいという投資家も増えるようになるでしょう。投資をしてもらうことで、会社の規模をより大きくすることができます。そのように、より多くの投資家からの投資を受けるためには、株式を公開して誰でも投資できるようにします。この時点で、創業者が株式を売却することで莫大な利益を得られます。この利益は創業者利益とも呼ばれます。

 企業が株式公開をする場合、通常は会社の所有権を手放し、その代わりに成長・拡大するための資金を得ることになります。株式公開の主なメリットは以下のとおりです。

  • 従業員はそのままなので、会社はIPO前とほぼ同じように運営されます。
  • 成長過程にある中小企業にとって、株式公開は、創業者が当初の投資の一部を取り戻すのに役立つことがあります。また、IPOを出口戦略として採用することにはデメリットもあります。
  • IPO後、一定期間は株式を売却できない。
  • 株主からのプレッシャーを受けるようになり短期的に利益を重視する傾向に陥る。

出口戦略としてのM&A(合併と買収)

M&A(合併と買収)を利用して、他の企業によって買収されることは、経営者にとって有益な出口戦略です。事業の評価額を高く設定しておけば、良い買い手を引きつけ、価格交渉をコントロールすることができます。売り手候補先について考えることは、ビジネスのパートナーを見極めることにつながります。ビジネスを拡大し、パートナー企業にとって戦略的な存在になれば、買収のオファーを出してくれるかもしれません。

M&Aの出口戦略の主な利点は、会社が高く評価される可能性が高いということです。

  • 買い手があなたの製品やサービスをすぐに必要としている。
  • 複数の買い手が競り合う可能性があり、事業の価値を高めることができる。
  • 競合他社に売却する場合、第三者に売却する場合よりも高い価格で交渉できる可能性が高い。

外部企業が企業買収を目指す一般的な理由は、その行為によって競合他社よりも優位に立てることです。その優位性は、市場での足がかりを得るのに役立ち、あるいは戦略的に競合を排除することもできるでしょう。

出口戦略としてのライセンシング

企業経営が成功しない場合、予想よりも低い価格で会社を売却せざるを得ないことがあります。この場合、技術の一部をライセンスしたり、知的財産を売却したりして、できるだけ多くの投下資金を回収することが考えられます。

出口戦略

出口戦略の重要性

経営者が出口戦略を策定することは、直感に反しているように思われるかもしれません。たとえば、あなたがEコマースビジネスの経営者で、収益が増加している場合、なぜ会社から撤退したいと思うのでしょうか?

 すぐに会社を売却するつもりがなくても、出口計画を検討することは重要です。例えば、以下のようなリスクに備えなければならないからです。

個人的な健康問題や家族の危機

個人的な健康問題や家族の危機に見舞われることがあるかもしれません。これらの問題は、会社を効果的に運営するための集中力を奪ってしまう可能性があります。出口戦略があれば、会社を円滑に運営することができます。

経済不況

景気後退は会社に大きな影響を与える可能性があり、あなたは会社が不況の影響を受けることを避けたいと思うかもしれません。

予期せぬオファー

大企業があなたの会社の買収を検討することがあります。すぐに会社を売却するつもりがなくても、出口プランを考えておけば、対等な立場で対話ができるはずです。

明確な目標

エグジットプランを明確にすることで、明確な目標を持つことができます。エグジットプランは、経営者の戦略的な意思決定に大きな影響を与えるのです。

おわりに

 多くの起業家や経営者にとって、「エグジット」は一部ネガティブな意味合いも持つ言葉です。しかし、出口戦略とは「準備すること」なのです。出口戦略を立てるということは、将来を見据えることであり、物事がうまくいかなくなったときに、後手に回るのではなく、先手を打つということです。ビジネスが不調に陥るのを待ってから、出口戦略を考えるのではありません。むしろ、事業からスムーズに撤退するために、前もって出口戦略を立てておきましょう。

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M&Aの基礎知識
2022/07/30
M&Aをする相手はどうやって探す? M&A案件の探し方を紹介
M&Aをする相手はどうやって探す? M&A案件の探し方を紹介

はじめに

M&Aを考えている経営者でも、どうやって相手を探したら良いのかよくわからないケースは多いです。実際に、事業や会社を買いたいと思っていても、M&A案件がみつからなければ、どんな選択肢があるか経営者は判断できないでしょう。M&A案件の探し方は、時代とともに変化してきました。従来は、仲介会社を介してしか紹介してもらえませんでしたが、現在では、M&Aプラットフォームなどの登場によって自分でもM&A案件を探すことができるようになりました。ただし、仲介会社もプラットフォームも世の中にあるすべての案件情報を有しているわけではありません。そのため、売却ニーズがでてくる(案件化される)のを待つだけではなく、自分たちから声をかけるタッピングなどの方法もあります。このように、M&A案件の探し方は様々です。そこでこの記事では、M&A案件の探し方について詳しく解説していきます。

M&Aの案件の探し方はさまざま

M&A案件を探す方法は様々です。方法によって注意点が異なります。それぞれの方法についてメリット・デメリットを十分に理解しておきましょう。ここでは、近年、中小企業M&Aで一般に採用されている仲介会社で探す方法とプラットフォームを利用して探す方法に分けて解説していきます。

仲介会社で探す

 従来、M&Aの案件を探す際には仲介会社を経由するのが一般的でした。譲り渡し側・譲り受け側のマッチングまで行ってくれるだけではなく、マッチング後の交渉のやり取りも伴奏してくれます。交渉の進め方について専門家のアドバイスを受けながら、M&Aを進めていきたいという会社向きです。

その分、仲介会社に支払わなければならない手数料が高くなる傾向にあります。仲介会社は、案件の発掘からクロージングまで伴走を行いますが、その分手数料が高いことを理解しておきましょう。加えて、仲介会社の手数料には一律の基準がなく、原則として仲介会社の判断に委ねられていることから、仮に同じ M&A が実現したとしても、仲介会社によって手数料は異なりますので注意が必要です。

に依頼すると、M&A仲介会社を紹介してもらうことができる場合もあります。地域で活動する有力なM&A仲介会社が金融機関と密に連携しているケースもあります。金融機関がM&A仲介会社を紹介してくれるため、仲介会社を自分で選定する必要がなくなります。

近年では、中小企業のM&A案件が増えている事情もあって、政府や自治体からM&A成立のために補助金などを利用できる環境が整備されています。上手く利用して手数料が安くなるようにしましょう。

プラットフォームで探す

 中小 M&A においても、オンラインの M&A プラットフォームが急速に普及しています。M&Aプラットフォームは、譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステムに登

録することで、主にマッチングをはじめとする中小 M&Aの手続を低コストで行うことができるサービスです。M&A 専門業者しか接触できなかった中小 M&A の案件情報に直接接触することができるようになるため、よりスピーディなM&A案件の交渉が可能となりました。

 仲介会社と異なり、プラットフォームで探す場合、手数料が安く済む傾向にあります。M&A プラットフォームはあくまで譲り渡し側・譲り受け側のマッチングまでに留まることが一般的であり、マッチング後の基本合意・最終契約締結や、これに関する条件交渉等の具体的な手続きは、原則として、譲り渡し側・譲り受け側の当事者が行うことになります。したがって、実際にM&A取引を進めていく際には、当事者同士で話を進めるか、専門の業者に依頼しなければなりません。M&Aプラットフォームの利用手数料は安くても、実際のM&A案件を進めて行く際に別途専門家費用が必要になります。買い手企業としては、様々な案件を幅広く探したいというときに、M&Aプラットフォームを利用することも検討しましょう。

 M&A プラットフォームにはそれぞれ特徴があるため、どの M&A プラットフォームを使うべきかについても検討が必要です。近年急速にM&Aプラットフォームが普及したため、玉石混交の状態となっています。悪徳な業者も存在しているので、本当に信頼できるかどうか、慎重に判断する必要があります。M&Aプラットフォームは、その特性からインターネットを通じて幅広く買い手を募るため、1つの案件に対して多くの売り手候補や買い手候補が出てくることもあり、M&Aプラットフォームの利用は競争が激しくなるのが一般的です。

大事なポイント: 自分から探しに行くこと!

買い手側にとって、M&Aを成立させるためには、まずは売り手となる企業を探さなければなりません。多くの選択肢のなかから、適切なものを自分で選べるのであれば、M&Aプラットフォームを利用すると良いでしょう。M&Aプラットフォームは、基本的にマッチングのみを対象としているケースが多いため、M&Aのプロセスを進める前に、実際に売り手側の企業担当者と交渉することになるでしょう。この交渉には、ある程度専門的な知識が必要となります。

そうすることができない場合には、M&A仲介会社を利用しましょう。M&A仲介会社であれば、事前にM&A戦略を伝えておくことによって、適切な売り手企業を紹介してくれるでしょう。ただし、仲介会社によって、得意な業界・地域があるので、定評のあるM&A仲介会社を選ぶ必要があることを忘れてはなりません。

M&Aプラットフォームを利用するにせよ、M&A仲介会社を利用するにせよ、事前に自社のM&A戦略を明確にしておく必要があります。M&A案件を紹介して欲しいという旨を伝えただけでは、良い企業とマッチングするのは難しいです。M&A案件はあくまでもマッチングであるので、売り手と買い手双方の条件のすり合わせが必要となります。したがって、買い手側としては、どのような条件のもとで案件を探しているのかを明確にしておかなければなりません。

おわりに

近年の中小企業のM&Aを促進しているのはM&Aプラットフォームの存在です。オンライン上で様々なM&A案件を閲覧できるため、多くの選択肢のなかから最適な売り手を探すことができます。しかし、M&Aプラットフォームはあくまでもマッチングがメインであり、その後の手続きは自社で進めることを前提に考えて置く必要があります。たしかに、M&Aプラットフォームを利用すれば利用手数料は安いものの、その後のM&Aプロセスで手数料がかかるケースも少なくありません。こうしたケースがあることをきちんと認識することが重要です。一方で、M&A仲介会社に依頼すれば、確かに手数料は高いものの、意向に沿ったM&A案件を紹介してくれますし、その後のM&Aプロセスも安心して任せられます。どちらの方法を選ぶにせよ、自社のM&A戦略を事前に明確にしなければなりません。これができていない企業がどんなにM&Aを進めようとしても、なかなかうまくいかないでしょう。この点をきちんと認識してM&A案件を探すことが大切です。

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M&Aの基礎知識
2022/07/30
【実例有】M&A仲介業者に対する不信感を抱く方へ~M&A取引は信頼できない? 解決のための取組みを紹介 〜
【実例有】M&A仲介業者に対する不信感を抱く方へ~M&A取引は信頼できない? 解決のための取組みを紹介 〜

M&A仲介会社への不信感

中小企業は日本の経済を支える存在です。しかし、中小企業においては、経営者の高齢化問題が指摘されており、事業の継続性を担保するためにも、どのように事業を引き継いでいくかが課題となっています。そこで注目されているのがM&Aです。

M&Aを活用して会社や事業を売却することで会社を存続させることができます。一般に、中小企業はM&A取引を自ら実行するだけのリソースを持っていないため、M&A仲介業者にM&A取引のサポートを依頼するのが一般的です。M&A取引のサポートをM&A仲介業者に依頼をすれば、当然、その報酬を支払わなければなりません。しかし、企業側からM&A仲介業者の報酬(支払側にとっては手数料)の額が妥当であるかどうかはなかなか判断することができません。結果として、報酬を支払う側である中小企業側にM&A仲介会社に対する不信感が生まれてしまっています。

この記事では、M&A仲介会社にM&A取引のサポートを依頼した実際のケースを取り上げながら、日本のM&A業界の構造的な問題点とその解決のための取組みについて解説していきます。

M&A仲介業者は信頼できるのか?妥当であるかどうかを判断する目安

M&A仲介業者は日本企業のM&A取引をサポートする存在です。M&A取引に関する専門知識を有する支援機関として、M&A取引を行おうとする中小企業の意思決定やその後の諸手続の段階において適正なサポートを行い、日本の中小企業のM&A取引を促進する役割が期待されています。

そうした役割が期待されているM&A仲介業者ですが、M&A仲介業者にサポートを依頼する中小企業が、M&A仲介業者の専門的な業務や手数料の妥当性などについて適切に判断することは困難です。このように、M&A仲介業者と中小企業には情報の非対称性が存在しています。M&A仲介業者の手数料には一律の基準がないことから、手数料の金額がいくらとなるかは、基本的に各M&A仲介業者に委ねられています。そのため、たとえM&Aが実現したとしても、M&A仲介業者が異なっていれば、当然発生する手数料の金額も異なります。

M&Aに際して苦労した中小企業経営者の声

出所: 中小企業庁(2020)『「中小M&Aガイドライン」について』p.3 

M&A取引のサポートのためには、M&A取引に関する専門知識に加えて、非定型的な業務が発生することも多く、その報酬額(手数料)は中小企業にとって大きな負担となるでしょう。しかし、ここで重要なのは、報酬(手数料)が高いか低いかではなく、M&A仲介業者の業務内容と手数料の金額が客観的に見合っているか否か、そして依頼者である中小企業やその経営者が納得できるか否かということです。ここを見誤ってはいけません。

中小M&A業界における報酬(手数料)の透明性と公正性を確保することを目的として、2020年3月に『中小M&Aガイドライン』が公表されました。このガイドラインの公表を受けて、M&A仲介業者は報酬の透明性と公平性を確保するための取組みをスタートさせています。特に重要な取組みとしては「レーマン方式」によるM&A取引の報酬体系の客観化の取組みが始まった点です。レーマン方式はM&A取引の売買金額に対して一定の成功報酬(手数料)率を乗じて報酬(手数料)を計算する方式で、あらかじめ報酬体系が決まっていることから、第三者による報酬の検証が可能となっています。中小M&A業界の透明性と公平性の確保の取組みはまだまだ始まったばかりであるものの、中小企業が安心してM&A取引を行える環境の整備は間違いなく進展しています。そこで以下では、M&A仲介業者に対する不信感を軽減するために、『中小M&Aガイドライン』ではどのような取組みが推奨されているのかについて解説していきましょう。

M&A仲介業者に対する不信感の軽減 〜『中小M&Aガイドライン』の策定 〜

M&A仲介業者に対する不信感をM&A業界から払拭することを目的として、2020年3月末日、中小企業庁は『中小M&Aガイドライン』を公表しました。『中小M&Aガイドライン』は、M&A仲介業者をはじめ、M&Aの支援機関の基本姿勢として、事業者の利益の最大化と支援機関同士の連携の重要性を提示したものです。M&A仲介業者に対しては、適正な業務遂行のために、以下のような取組みを行うことを示しています。

①売り手と買い手双方の1者による仲介は「利益相反」となり得る旨明記し、不利益情報(両者から手数料を徴収している等)の開示の徹底等、そのリスクを最小化する措置を講じる

②他のM&A支援機関へのセカンドオピニオンを求めることを許容する契約とする

③契約期間終了後も手数料を取得する契約(テール条項)を限定的な運用とする といった行動指針を策定

さらに、このガイドラインのなかでは、M&A仲介業者の着手金/月額報酬/中間金/成功報酬に関する考え方が示されていて、具体的事例とともに、手数料の金額イメージを示すことで、サポート内容と手数料が見合っているのか、客観的に判断する基準を提示が提示されています。

仲介業者の報酬(手数料)の事例

出所:中小企業庁(2020)「中小M&Aガイドライン」pp.47-49

これによって、中小企業側でもM&A仲介業者の提示する手数料が妥当であるかどうかを判断する目安とできるようになりました。

おわりに

中小企業におけるM&A取引はM&A支援機関のサポートがあってこそ成り立つものです。したがって、中小M&A取引にとってM&A仲介業者は欠かせない存在です。M&A支援機関がいなければ、中小企業における経営の引継ぎは大きく遅れをとることになるでしょう。

しかし、M&A仲介業者となるために免許が必要なわけではありません。M&A仲介業者のなかには悪質な仲介業者も存在しているのも事実です。そして、M&A仲介業者の報酬(手数料)については、中小企業側からみれば、不透明で不公正であると感じられるケースも多く不信感の源泉となっている実情があります。その結果、M&A支援機関の必要性が叫ばれる一方で、その質の担保が求められるようになりました。現在では、中小企業庁が『中小M&Aガイドライン』を公表するなど、中小M&A業界の透明性と公平性を担保する取組みも進められています。

中小企業は、M&A仲介業者の業務内容が具体的に何であるのか、手数料の算定方法と発生時期はどのようになっているか、という点について入念に確認しましょう。そうすることで、M&A仲介業者との情報の非対称性は緩和されるはずです。

M&Aの基礎知識
2022/07/30
会社をたたむ(廃業する)にはいくらかかる? 費用感を解説します。
会社をたたむ(廃業する)にはいくらかかる? 費用感を解説します。

はじめに

東京商工リサーチによると、2021年(1-12月)の「休廃業・解散」企業は、全国で4万4,377件となりました。この数字は、過去に会社廃業数が最多であった前年度の4万9,698件から1割以上減少したかたちです。

2020年と比較して会社を廃業する件数が少なくなった理由は、コロナ禍での政府や自治体、金融機関の強力な資金繰り支援があったためです。2021年の企業倒産は6,030件と1964年以来、57年ぶりの低水準となるなど、会社廃業するまではいかずとも、厳しい状況に置かれていることには変わりありません。支援策が、会社を廃業するかどうかの判断を先送りにし、廃業・休業を考える経営者が減少した可能性は否定できません。

それでは、会社の廃業には、どれくらいのコストがかかるのでしょうか。この記事では、廃業理由について明らかにしたうえで、廃業する際の費用感について解説していきます。

会社を廃業する理由とは

会社の廃業とは、事業活動を停止し、株主総会で解散決議と清算結了を確認したうえで、登記を行うことを意味します。廃業方法には、法的清算と私的整理の2つの方法があり破産法・会社法に則って手続きを行うのが法的清算、特定の支援制度に則って手続きを行うのが私的整理と呼ばれます。

会社をたたむ理由は企業によって異なるのが普通です。企業ごとに置かれた状況は異なるため、それぞれの事情で事業を終了することになるでしょう。少し古いデータとなりますが、中小企業庁が委託して、帝国データバンクが調査したところによれば、廃業することを考えるきっかけとして最も多いのは、経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題であるとされています。次いで、売上の減少が理由として挙げられており、この2つの理由だけで60%以上もの会社が会社を廃業することを考えていることが示されてます。

会社の廃業を考えたきっかけ

出所:中小企業庁委託「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」(2013年12月、(株)帝国データバンク)を参考に筆者作成

廃業を考えるきっかけとしては、経営者の高齢化と売上の減少が多いものの、実際に会社を廃業する理由としてはどのようなものがあるでしょうか。以下の円グラフが、実際に会社をたたんだ理由を示しています。

廃業する理由

出所:中小企業庁委託「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」(2013年12月、(株)帝国データバンク)

この結果が示しているように、経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題は、日本の中小企業が抱える構造的な問題です。高齢化が理由で会社をたたんだり、事業の先行きに対する不安、主要な販売先との取引終了などが会社をたたむ大きな理由となっています。

3. 会社を廃業するときにかかる費用感

会社を廃業するには、各種登記が必要となるため、まずは登記のための費用が必要となります。各種登記に関しては、登記に関する手数料として以下の金額が定められています。

  • 解散登記:3万円
  • 清算人登記:9,000円
  • 清算結了登記:2,000円
  • 官報公告の掲載費用:10行分で約3万5,000円

解散登記と清算人登記は同じタイミングで行うのが普通です。債権者に遅滞なく会社の廃業を伝えるために、官報公告も行わなければなりません。会社をたたむタイミングで債務が有るケースでは、債務の弁済がどうなるのかが問題となります。債権者が異議を申し出る機会を与えるために、通常、清算人が官報で廃業することについて公告を行い、解散通知を行います。官報への解散公告が会社法499条で規定されている趣旨はそのためです。解散公告は2ヶ月以上掲載するのが普通です。この手続を通じて債権者を保護する手続きをとったのち、清算人は債務を確定させることができます。官報への広告は行数によって費用が異なりますが、廃業に関して必要となる公告はおよそ4万円程度に収まるのが一般的です。

これだけをみると、合計で10万円未満となるため、会社をたたむときにかかる費用はそれほどかからないと考えられるかもしれません。しかし、実際には、これ以外にも、債務の弁済のための手続きなどのために、弁護士・司法書士・税理士といった専門家に手続きを任せるのが一般的です。そのため、こうした専門家に対する報酬を支払う必要があります。廃業手続きを行うにあたっては、会社の様々な利害関係者に対して手続きが必要となります。取引先、従業員、自治体などへの対応が必要となりますが、瑕疵なく会社を廃業するための手続きを行うためには、専門家へ依頼しておいたほうが良いでしょう。

通常、廃業の際の手続きは、裁判外で行われる手続きであるため、裁判手続ほど複雑な手続きは必要ありません。裁判外で行なえるようになっている理由は専門家に頼らずとも経営者自身の責任で会社を廃業手続きを行えるようにするためです。とはいうものの、会社の解散のための事務処理に加えて法的な手続きも同時に行わなければならないことから、通常は、弁護士や司法書士などに依頼するケースがほとんどです。大きな会社であればあるほど、利害関係者の数も多くなるためその傾向が強くなります。

特に、廃業するにあたって従業員を解雇しなければならないケースがあります。日本では、従業員を容易に解雇できないように法整備が進んでいるため、廃業するケースでも法的な手続きが必要となります。清算人となる方において従業員の退職や解雇についての対応が可能であるケースもありますが、通常は弁護士に依頼することでスムーズに解雇手続きが進むように手配します。

専門家に対する報酬はそれぞれ異なっているため、おおよその費用感となりますが1件あたり数十万円となるケースが多いです。事務所などを賃貸で借りているケースでは、退去費用を支払う必要がありますし、契約次第で原状復帰のための費用を支払うケースもあるでしょう。従業員への退職金を支払うことも必要となりますし、債務がある場合には、これらの債務をすべて弁済しなければなりません。

このように、廃業のために必要となる登記手続き自体の費用はあまりかかりません。しかし、実際には、登記以外のところで費用はかさむことになるでしょう。会社の規模が大きくなれば、利害関係者の数も多くなるので、その対応のために専門家に依頼するということも多くなるはずです。そうなれば、数百万程度の費用がかかるケースもあると言えるでしょう。

おわりに

会社を廃業するということは、その後の事業活動を恒久的に停止することを意味します。企業の経済活動のためにはお金が必要となることから、株主や債権者に対してまずは会社を廃業することについて説明しなければなりません。廃業のためには通常登記が必要ですが、登記の手続きそのものにはそれほど費用はかからないと言えるでしょう。しかし、実際のところ、株主や債権者に対する手続きは専門的な知識が必要となることも少なくありません。その場合には、専門家に依頼することになりますが、その分、費用がかかります。したがって、会社をたたむ場合にも、数百万円の資金を準備しなければならないと言えるでしょう。

M&Aの基礎知識
2022/07/30
M&Aにおける利益相反問題と解決策 〜M&A仲介業選定時の留意点〜
M&Aにおける利益相反問題と解決策 〜M&A仲介業選定時の留意点〜

M&A取引の構造的な問題

中小企業経営者の高齢化が進む日本においては事業の承継が重要な課題として認識されており、事業承継の一つの方法としてM&Aが注目されています。中小企業庁も『M&Aガイドライン』を発表するなど、積極的にM&Aを推進しようとしています。中小企業はM&Aの知識と経験が少ないこと、そして、相手探しが非常に難しいことなどが理由となって、M&A仲介業者に取引のサポートを依頼するのが一般的です。こうした背景から近年ではM&A仲介業者が数多く誕生しています。しかし、M&A仲介業者は、M&A取引を行う当事者企業の買い手側の利益を優先しやすいという構造的な問題を抱えていると言われています。そこでこのコラムでは、M&A仲介業者の利益相反問題について詳しく解説していきます。

利益相反問題とは

M&A仲介業者とは、売り手と買い手をマッチングさせる企業のことを言います。売り手と買い手の両方からM&A助言を委託され、両者の交渉を調整し、M&A実務の遂行をサポートするのが、M&A仲介業者の仕事です。一般に、中小企業の場合は、売り手と買い手の間に同一のM&A仲介業者が介入して、会社や事業の売買を取り持つという実務が行われています。

このとき、M&A仲介業者は、M&A取引の当事者である買い手・売り手の両方から報酬を得ることになります。M&A取引の当事者である買い手・売り手の両方から報酬を受けることは、M&A仲介業者の「両手取引」と呼ばれますが、この両手取引については、以前から、一方の利益の最大化を図るともう一方の利益を毀損するという「利益相反」に該当する可能性があることが指摘されてきました。

たとえば、売り手が買い手に会社の事業を売り渡す場合(事業譲渡)、売り手にとってその代金(譲渡対価)が高い方が望ましいことから、売り手側は譲渡対価をできるだけ高くしたいというインセンティブを持っています。一方で、買い手側は譲渡対価が安い方が望ましいことから、買い手側は譲渡対価をできるだけ安くしたいというインセンティブを持っています。そのため、M&Aの両当事者には利益相反関係が存在すると考えられているのです。このような構造から、M&A仲介業者は、片方の当事者(特に今後のリピーターとなる可能性が買い手側)の利益を優先して取引をまとめるように動く可能性がゼロではないということが指摘されているのです。

連続的に事業に取り組む場合を除き、基本的に売り手にとってM&A取引は一回限りのもので、自分の企業を売却すればそれ以上の取引はありません。しかし、買い手はその後も他の企業や事業を買収する可能性があります。M&A仲介業者にとっては、一回限りのビジネスにしかならない売り手に寄り添うよりも、今後もビジネスの可能性がある買い手に寄り添った方が得になるという偏りが構造的に存在してしまっているのです。

この問題は、M&A仲介業者の利益相反問題と呼ばれ、大きな問題となりました。2020年12月、当時の行政改革・規制改革相であった河野太郎氏から改めてM&A仲介会社の利益相反問題が取り上げられました。M&A仲介業者の利益相反は日本において直ちに違法となるものではないものの、欧米などにおいては、両手取引が利益相反問題に発展する可能性が高いことから行われていません。

利益相反問題のリスクを低減する取り組み:公正な取引に向けて

M&A仲介業者の利益相反問題は河野氏に指摘される前から指摘されていたことではありました。しかし、M&A仲介業者の利益相反問題が改めて注目されるようになったのは、M&A仲介業者の乱立が目立つようになってきたからです。

そもそも、M&A仲介業者となるためには免許等が必要というわけではありません。極端に言えば、M&Aの仲介業者ですと名乗れば誰でもM&A仲介業を行うことができます。近年、中小企業経営者の高齢化問題が取り沙汰されるようになり、その解決策としてM&Aが注目されてきた結果、M&Aの仲介に需要が生まれたために多くのM&A仲介業者が誕生しました。しかし、M&A仲介業者として必要となる能力や資質を欠く事業者もそのなかに混ざるようになってしまったのです。

その結果、本来、M&Aの当事者企業同士が、M&A取引をスムーズに行えるようサポートするのが仕事であるM&A仲介業者によって、M&A取引そのものが阻害されるリスクが高くなりました。そうした事情から、中小企業庁は、2020年3月末日に『中小M&Aガイドライン』を公表し、M&A取引が公正な取引となるように手を打ちました。

このガイドラインによれば、中小企業のM&A取引においては、売り手企業と買い手企業のそれぞれに財務アドバイザーがサポートする形態ではなく、仲介業者が両当時企業をサポートするという形態の方が多く用いられているのが現状で、仲介業者という業態を中小M&Aにおいて不適切であるとすることは現実的ではないとされています。つまり、仲介業者の利益相反は問題であるとの認識を示したうえで、それでも中小M&A取引では、仲介業者に頼らざるを得ない実情が浮き彫りとなったのです。

そこで、中小企業庁は『中小M&Aガイドライン』において、仲介業者は利益相反のリスクを低減すべく以下のような取組みを行うことを推奨することを公表しました。

(1)譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるということ(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨)を、両当事者に伝える。

(2)バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンスといった、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しない。依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。

(3)仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益相反のおそれがあるものと想定される事項について、各当事者に対し、明示的に説明を行う。また、別途、両当事者間における利益相反のおそれがある事項(一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、各当事者に対し、適時に明示的に開示する。

中小企業庁が公表したこのガイドラインによって、M&A仲介業者の利益相反問題が完全に解決するわけではありません。あくまでも、M&A仲介業者が上記の取組みを行うことで利益相反リスクを軽減するというものです。このガイドラインは、法的拘束力を持っているわけではありません。このガイドラインを守るかどうかは、M&A仲介業者に任されていますが、多くのM&A仲介業者がこのガイドラインを遵守することをホームページなどで宣言しています。こうしたことから、中小企業庁によるM&A取引を公正なものとする取組みも一定の成果をあげていると言えるかもしれません。

中小M&Aガイドライン』について(経済産業省)

M&Aにおける利益相反問題と解決策

買い手企業がリピーターとして得意先となりやすいM&A業界において、売り手企業側に不利にならないような対策に努めることがM&A仲介業者には求められています。解決策として中小M&Aガイドラインが定められ以上、このガイドラインを遵守していないM&A仲介業者は市場から淘汰されていく可能性が高くなります。参入障壁の低さから能力や資質に欠けるM&A仲介業者が乱立していた現状も改善してくるかもしれません。今後、このガイドラインをきちんと理解し、両当事者がM&A取引をスムーズに行えるようサポートすることがM&A仲介業者には求められることになるでしょう。

M&Aガイドでは、M&A支援機関登録済みのM&A専門家を検索することができます。仲介業者・専門家選定にお悩みの方は、ぜひご相談ください。

 

M&Aの基礎知識
2022/07/30